第24話 極悪非道の錬金術師
もっと酷いことさせないと……。
教会。それは本来であれば、非常事態にNPC達が集まるための建物となっていた。
しかし、コーディー達が見た教会はNPCではなく、モンスター達が集まるための建物へと変わっていた。
「皆さん、逃げてください! 時間は私が稼ぎます!」
前に助けたNPCから教会は避難場所として教えられていたが、来てみればモンスターハウスになっていた。
しかも、教会の奥には何やら巨大な木のモンスターが居るではないか。
辺りへ植物の根のような物を張って、その根から時間と共にモンスターが生み出されていた。
だが、ここに居たのはモンスター達だけではない。コーディー達以外のプレイヤーが既にモンスター達と戦っていた。
しかし、時間と共にどんどん生み出されるモンスター達と、モンスターを生み出しながらも蔦で攻撃をしてくる巨木のモンスターに、苦戦を強いられている。
このままではジリ貧だろう。
「ハルさん、ナナミさん、早くNPCの皆さんを安全な場所まで連れて行ってください!」
コーディーが普段上げないような大声でハルとナナミへ伝える。
その間もコーディーは教会の入り口からモンスター達が出てこないように、必死に戦っていた。
しかし、1人で捌ききれる数はたかが知れている。
それに、アイテムの使用だって制限があるのだ。
この場で、他のプレイヤーやNPC達が近くにいる現状では、毒と麻痺の煙玉は使えない。周りに被害があるからだ。
爆弾だってもう数が少ない。このイベントで使い切ってしまうだろう。
フォレストウルフやレッドボア、ドリルディアーなどのモンスター達を次々と倒しているコーディー。
「私も一緒に戦う!」
「ハル、NPCの皆を見殺しにする気!?」
「で、でも……!」
コーディーを心配するハルの腕を掴み、無理やり教会から離れようとするナナミ。
「まだ、コーディーが!?」
叫ぶハルを無理やり引っ張ってナナミはNPC達を連れ教会から離れていった。
(これ、ゲームなのですが……)
無粋な事を思ったコーディーだが、口に出さなかっただけ褒められる事だ。
彼女らは完全に雰囲気に飲まれていたのだろう。それほどまでにリアリティのあるイベントなのだ。
「……とにかく、これで自由に動けますね」
コーディーは一言呟き、教会の入口からプレイヤー達も居る奥の方まで一気に駆けた。
教会の中央付近まで差し掛かった所で、近くにいるフォレストウルフの顎を本気で蹴り上げる。天井に届きそうになると言えそうなほど、浮き上がったフォレストウルフ。
戦闘音で周りのプレイヤーには聞こえなかっただろうが、かなり良い音が鳴り響いていた。
フォレストウルフも鳴き声を上げる余裕のないほど、強烈な蹴り上げがコーディーの足から繰り出されたのだ。
その彼は青いビー玉のような物を手に持っており、そのアイテムは嘗て遺跡で使用した"テレポートマテリア"というアイテムに酷使していた。
テレポートマテリアは紫色で今、コーディーが持っているのは色違いの青色と言った所だ。
その青いビー玉を彼は頭上に浮かんでいるフォレストウルフへと投擲した。
「よし、成功ですね」
小さく呟いたコーディーの声は誰も拾えていない。
もし、いつもの静かな教会であれば、彼の声は頭上から聞こえていたであろう。
そう、コーディーは今、先程までフォレストウルフが居た空中に浮かんでいた。
そして、宙に浮かんでいたはずのフォレストウルフは、先程までコーディーが居た教会の中央付近の地上に倒れている。
蹴りが予想以上に効いたのだろう。脳震盪を起こし気絶している。
この様な事まで【ミリアド・ワールド・オンライン】はシステムに組み込んでいた。
コーディーが投げたのはテレポートマテリアの下位互換のアイテムで、"チェンジマテリア"という名のアイテムだ。
テレポートマテリアが投げた場所まで移動なのに対し、チェンジマテリアは当てた相手と自分の位置を変えるという物。
テレポートマテリアよりはレア度が低いが、チェンジマテリアも十分貴重なアイテムだ。
そのアイテムを使い宙に移動したコーディーは遥か高くから、地上全体を見渡す。
そして、プレイヤー達へ麻痺煙玉を、その後方には毒煙玉をばらまいた。
そう、モンスター、プレイヤー問わず全てを対象にして、彼はアイテムを使用したのだ。
「なに! 何だこれは!?」
「クソ! 麻痺になっちまった!」
「木のモンスターなのに、こんなことすんのかよ!?」
10人近くいるプレイヤー達が阿鼻叫喚を表現する。
モンスターの攻撃だと勘違いしたのだ。そもそも、プレイヤーからの攻撃だと咄嗟に気づくことは出来ない。
動揺する彼らに向け、コーディーは追加で"モンスター誘引ポーション"を投擲した。
「今の音は何だ!?」
全身甲冑のプレイヤーがガラスの割れたような音に気がついた。しかし、そんな音に気を向けている場合ではない。
直後、彼らにモンスター達が襲い掛かってきたのだ。
「なっ! クソっ!」
誰よりも早く襲い掛かってくるモンスター達に気がついた全身甲冑のプレイヤーは、麻痺で動かしづらくなっている身体を必死に動かそうとするが、次々と迫りくるモンスター達に対処できない。
そもそも、この辺りには火山フィールドしか存在しない。故にストレージの中に麻痺を解除するアイテムがないのだ。
森フィールドには麻痺を与えてくる蜂系のモンスターは居るが、【ドリット】の街では必要が無いと考えていたのだろう。
先程より活発に動いているモンスター達に、麻痺になっている彼らのHPゲージがどんどん減っていく。
その時、全身甲冑のプレイヤーはあることに気がついた。
迫り来るモンスター達に動けなくなったり倒れていく個体もいる事が確認できたのだ。
視界の悪い黄色の煙の中からでもよく見てみれば、モンスター達も煙の影響を受けているのだと彼は気づく事が出来た。
(このまま、麻痺が治るまで耐えきれば!)
そんな事を考えた全身甲冑のプレイヤー。
しかし、コーディーがこの程度で攻撃の手を休める訳がない。
全身甲冑のプレイヤー達がモンスターに襲われている間に、コーディーは周りのモンスター達の身動きを封じた。
彼はパラライズポーションの雨で動けなくしたモンスターへ近づき、何という事か徐に爆弾を飲み込ませ始める。
そして、コーディーは足に力を込め、麻痺により膝を折って動けなくなっているモンスター目掛け全力でサッカーボールシュートを繰り出した。
「キャイン!?」
可愛らしい声を上げたのはフォレストウルフだ。口には爆弾を咥えている。
となると、当然鳴いた衝撃で爆弾は爆発。
そして、フォレストウルフは爆発をした直後に、全身甲冑の男へと打つかるともう一度爆発した。
全身甲冑のプレイヤーからすると、突如として飛来してくる謎の物体を視認直後に、爆発を浴びると言った感じか。
「ぐわぁああ!」
叫び声を上げた彼は痛覚設定をオフにしていないのだろう。
その彼が感じている痛み以上の物を、爆発と共に消えていったフォレストウルフは感じた事だ。
フォレストウルフには爆弾を1つ無理矢理に飲み込ませており、そして、もう1つ爆弾を咥えさせていた。
1回目の爆発で咥えている爆弾が、体内の爆弾へ爆発をさせる程の衝撃が与えて、2度目の爆発を起こす。
鬼畜の所業だが、既に彼はこのようなことを実験がてら森フィールドで何度も行っていた。
どうやら、体内に入った爆弾もモンスターの攻撃と認識されるようで、それによりプレイヤーへ攻撃が当たるようになる。
このような事を行うとは、極悪非道である。
使えるものは全て使う所だけは褒められるかもしれない。
しかし、モンスターに対しここまで非情になれるのは恐ろしいものだ。
「良いですね……もの凄く、良いですね……」
ボスモンスターも状態異常にはなったものの、既に自由に動けるようになっていた。それ故、巨木のモンスターは蔦で麻痺をしているプレイヤー達に次々と攻撃を加えている。
パラライズポーションの雨によってにモンスターを動けなくしたコーディーは、次々とモンスターを使い捨ての道具に変えていく。
まあ、変えるというより、爆弾を飲み込ませるだけなのだが。
ある程度の衝撃を与えれば、モンスターは爆発する。なので、この方法はPKにはもってこいだった。
そうして、モンスターの力を借りPKをし続けること数分で全てのプレイヤー達を葬ったコーディー。
巨木のモンスターの助けもあり、協力した形になっている。
その巨木のモンスターは既にHPがあまり残っていない。
まともに戦えば厄介な相手だろうが、コーディーは遠距離から投擲ばかりをして残りHPを減らして、簡単に倒してしまった。
見せ場が全くなかった。強敵なのだろうが、敵ながら可愛そうだ。
麻痺煙玉とパラライズポーションが効くことは確認できていた。
なので、少しすれば麻痺は治るものの、治ったらすぐに麻痺にさせて、投げナイフと残り少ない爆弾でダメージを貰わずに倒してしまった。
「全く、詰まらない相手でしたね」
巨木のモンスターの名前すら知らずに倒してしまい、鑑定くらいはすればよかったとコーディーは少しだけ後悔をした。
教会に居た、残りのモンスターも処理し終えたコーディーは、メニューを開く。
すると、ポイントが3万を超えた事と、イベント終了までの残り時間が20分を切っている事を確認する。
「これほどポイントが多ければ上位に入れるかもしれませんね」
そう呟いた後、ストレージを確認してみたがモンスターからは何も手に入っていないようだ。
「やはり何も手に入ってませんか。まあいいでしょう。後は、イベント終了まで適当に行動してましょうか」
自分以外誰も居なくなった教会をコーディーは出ていった。




