第22話 イベント専用換金アイテム
「おや?」
コーディーは自身を囲んでいた大勢のプレイヤー達から離れ、1人で街中を歩いていると彼の目の前に突如としてウィンドウが表示された。
どうやらウィンドウには今回のイベントのルールについて書かれているようだ。
戦闘を得意としている者は街に侵入しているモンスターの駆逐及び、ボスモンスターの討伐。
戦闘が得意ではない者はNPCを危険から守り、怪我人の手当などを行う謂わばサポート役をする。
そして、活躍に応じポイントが与えられイベント終了後、ポイントが多かった上位10名には豪華な報償が。
それ以外のプレイヤーにもポイントに応じ、とあるアイテムが付与される。
要約するとこうなる。
イベントは決められた時間が経過するか、街から危険を排除すれば終了するらしい。
この文章に目を通したコーディーは微かな違和感を覚えた。
だが、それが何なのかはっきりした事はまだ分からない。
彼はメニューを表示すると、そこにアイテムやマップなどいつもの項目が存在する他、約1時間半の制限時間と現在の所持ポイントが表示されているウィンドウが存在する事を確認する。
(何か引っかかりますが、今はこのイベントをどうにかしましょう)
コーディーは自身が既に注目の的である事を理解しており、一度注目を浴びてしまったのだから二度も三度も同じだと考えた。
それならばこのイベントで上位入賞を目指しても良いかもしれないと彼は思い、全速力で街を駆け出す。
フェイクウルフを倒した事により、既に彼は100ポイントを手に入れている。
100ポイントがどれほど大きいか分からないが、大半のプレイヤーより前に立っているのは確実だろう。
ならばこのままポイントを集めて後ろとの差を付ける為、コーディーは道すがらすれ違うモンスターに次々とポーションをぶつけて屠っていく。
モンスターの数は多いが強くはないようだ。
街に入り込んでいるモンスター達は始まりの街付近に居たゴブリンや、ドリルのように渦巻状の角を生やしている鹿のモンスター――ドリルディアーなどの弱いモンスターから、始まりの街の非公式ボスモンスターであるブラックヴァイパーもいる。
他にも赤い体毛を持った猪であるレッドボアや【ツヴァイト】の森フィールドに居たフォレストウルフに蜂形モンスターのアーミービ―とクイーンビー、緑色の幼虫グリーンラーヴァや、鉱山フィールドに居たスケルトンも存在している。
最早【ドリット】はモンスターの街と化していた。
コーディーが見た事のないモンスターも居るので、それらがこの街付近のモンスターだろう。
(流石に数が多いですね)
弱いモンスターに一々アイテムを使っていては勿体無いと思い、コーディーは短剣や格闘術を使って次々とモンスターを倒していく。
格闘と言っても経験がない素人だ。更に体術のスキルを持っていない為ダメージ量が低いのだがAGIは移動速度を上げる、つまりは脚力を上げている事と同義なのでダメージこそ低いが、吹き飛ばすだけであれば十分であった。
移動速度に影響するAGIはこのような効果も発揮するのだ。気づいた者はどれほど居るのだろうか。
「ひぃぃぃいいい!!」
「だ、誰かたすけてくれぇぇ!」
叫び声は街中で至る所から聞こえるが、今聞こえた声は比較的近いとこから聞こえてきた。
今、自身が進んでいる大通りを曲がった所からだろうと判断して、コーディーはモンスター達を縫うように駆け抜ける。
すると、様々な種類のモンスターに囲まれて身動きが取れないNPCを数人発見した。
(このままではNPCが危険ですね)
モンスターに囲まれているNPC達が今にも襲われそうだが、ちまちまと倒して助けに入っては遅すぎる。
長考してる時間はない。ここは一か八かに賭けるしか無いだろう。
そう結論を出して、コーディーはストレージから爆弾を取り出した。
「まあ、運営がNPCをそう安々と危険に晒すとは思いませんし、大丈夫でしょう」
敢えて口に出す事により、自身を落ち着かせる。
絶対に大丈夫だと自身に思わせ、コーディーは爆弾を前方のモンスター達へ投擲した。
そして鳴り響く爆音。モンスター達が居た場所を爆煙が包み込んだ。
発動していた《索敵》で爆煙の中にモンスターかNPCか分からないが、何者かが居ることは判明している。
視界に映る半透明のウィンドウによって分かるのだ。
中央に3人とその後方に数体のモンスターが囲むように立っている。
モンスター達が動かないのは様子見の為か。はたまた、この状況で無駄に動かずに現状把握に務める為だろうか。
だが、動かないのであれば丁度いいと、コーディーは行動を開始した。
ウィンドウにより位置の把握は出来るので彼は前方の爆煙の中へ突っ込み、煙がコーディーを包み込む。
そして煙の中でNPCを見つけたコーディーは声を掛けた。
「助けに来ました。騒がないで静かにしてください」
「っ! わ、分かった」
NPCに爆弾の影響がないのを確認したコーディーは安堵の息を吐く。
そして、モンスター達が徐々に動き始めているのを索敵ウィンドウから確認した。
「モンスター達が動き始めました。ここから逃げますので、私に着いてきてください。いいですか?」
3人のNPCが小さく返事をしたのを聞いて、コーディーはモンスター達とは反対へと進み始める。
爆煙が消えるより早く彼はNPCを救出し辺りを確認した後、自身の後ろへ匿った。現状、前方にしかモンスターが居ないようだ。
煙が消えた事によりモンスター達が姿を見せ、それを見たNPC達が小さく悲鳴を上げる。
怯える声を聞いたコーディーは3人を安心させるように声を掛けた。
「安心してください。貴方達は私が命に変えても守ります」
歯が浮くようなセリフを言えるのは一重にゲームだからだろう。
現実であったなら絶対に言えない。
助けた女性NPCである1人の心臓に、鉛玉が打ち込まれた音が幻聴として聞こえる。
コーディーは前方のモンスター達を見ているので確認できないが、確実に恋する乙女の表情を浮かべていた。
モンスターに襲われるあと一歩の所を、容姿だけはクール系イケメンであるコーディーに助けてもらったのだ。
単純な者は惚れるだろう。
「あ、あの、お名前をお聞きしてもいいですか?」
コーディーに惚れてしまった女性は彼に名前を聞いた。
「こんな時に聞くことではないと思うのですが、まあ良いでしょう。私の名前はコーディーと申します。以後お見知りおきを」
そう口にした後、彼は前方のモンスター達に向け毒煙玉と麻痺煙玉を投擲し、ポイズンポーションとパラライズポーションの雨を降らせた。
小瓶がモンスター達の上空で割れ、破片と共に毒と麻痺の状態異常を与える雨が、紫と黄色の色を持つ煙の中へ降り注がれる。
コーディーはストレージから取り出した投げナイフを指の間に挟み、油断なく前方へ視線を向けている。
そんなコーディーに後方から乙女の熱い視線が向けられていた。
(女性は視線に敏感とは言いますが、男の私でも案外気付く物なんですね……)
後ろから向けられる視線にむず痒い何かを覚え、微かに身を震わせるコーディー。
早々とここから去りたい気分になった。そして十数秒後、モンスター達を殲滅し終えた事を確認した彼はNPC達を連れて移動を開始した。
ここでNPC達を放っておくと、またモンスターに襲われそうなので彼は安全な場所まで送る為、辺りを警戒しつつ歩く。
「あの、一体何が起きたのでしょうか?」
男性NPCの1人がコーディーに聞いた。
その問いに大量のモンスターが街に侵入してきている事を説明する。
そして、コーディーは非常事態時の避難場所を聞いた。
「非常事態時には冒険者ギルドか宿泊施設、教会などの大きな建物へ集まるように言われております」
それを聞いたコーディーは、ここから一番近いだろう冒険者ギルドと宿屋がある中央広場へと向かった。
途中モンスターに見つかったが、これをコーディーは冷静に対処し直ぐに無力化する。
そうして、プレイヤーも多く集まっている広場へと到着すると3人のNPC達を広場にいる他のプレイヤー達に任せた。
「コーディー様、助けて頂きありがとうございました」
「本当に助かりました」
2人の男性NPCにお礼を言われる。
年の瀬は20くらいだろと思しき女性NPCもお礼を言い、そして何かを渡された。
「コーディー様。これをお受け取りください」
そう言われ女性NPCに渡されたのは水色をした1枚のメダル。
【ミリアド・ワールド・オンライン】の通貨はシルバーと言い、ゲームなので買い物はウィンドウにて行われる。
故に銅貨や銀貨といった物は見たことがない。
コーディーはそのメダルを受取り、このメダルは何なのだろうと思い《鑑定眼》で情報を見る。
『願いのメダル』
換金用アイテム。
持ち主の安全を願う思いが込められている。
イベント終了後、ポイントに換金できる。
どうやらイベント終了後に何かを購入できるようだ。
その為のポイントに変える事が出来るアイテムだと分かった。
「これは、私の故郷で幸運のお守りとして伝わっていた物です。貴方に幸運があらんこと願っております」
女性NPCはそう言い、冒険者ギルドへと小走りで向かった。
願われた幸運はイベント終了後にポイントとなるので、皮肉なものだ。
運営も意地の悪いことをするな、とコーディーは感想を抱く。
「さて、良いことを知れたのでポイントもメダルも集めに行きましょう」
彼は他人の思いを踏みにじるべく、打算的な行動を開始した。
全てはイベントの為に。




