第19話 遺跡の謎
ゴーレム部屋を自慢の脚力で走り抜け、通路の罠である落とし穴を飛び越えたその後、遺跡を奥へ奥へと進む事20分少々。
あれから大した罠も出ず、モンスターもスケルトンや2メートルより少し下くらいのゴーレムが通路を巡回しているだけで、特に大きな事は起きていない。
だが、とある事が判明した。どうやら、この遺跡内は壁を削っても崩れる事がない。
通路を曲がった時、ゴーレムとばったり遭遇したのだが、咄嗟にコーディーは爆弾を使用してしまった。
ゴーレムは簡単に倒せたのだが、遺跡内に傷が付いたかもしれないと焦ったものの、壁は一切傷を負っていなかった。
試しに壁に短剣を突き立ててみたが壁は削れない。
その後爆弾も投げてみた所、壁の破壊が不可能だと判明した。
破壊不能のオブジェクトとして設定されているのだろう。お陰で爆弾を遠慮せずに使えるという、コーディー的には大変助かる結果だ。
そうして、時折遭遇するモンスターを爆弾とポーション等で対処し、遺跡を進んでいると気になる物を発見した。
「壁画ですね……」
途中からモンスターすら出なくなったのだが、そうすると現れたのが、通路の壁に描かれている壁画だ。
松明の明かりで照らされているので、描かれているのが何かのモンスターだと分かった。
しかも、ゲームなどに興味を持っている者にはそのモンスターに見覚えがある事だろう。
「グリフォンでしょうか……?」
コーディーも壁画に描かれているモンスターの事を知っていた。
ギリシャ神話で語られており、獅子の胴体に鷲の顔と翼を持つ怪物で、獅子の4倍以上の大きさなどと言われている。
それがグリフォンという存在だ。
何故グリフォンが壁画に描かれているのか。そんな疑問がコーディーの頭の中を巡る。
壁画を見ながら通路を進んでいると人に崇められているグリフォンの絵や、獣などと戦っているグリフォン、山とグリフォンの絵など色々描かれていた。
「ふむ……もしかすると……グリフォンを幻獣の正体だと仮定するならば、これは過去に起きた話を描いているという事……」
呟く事で入ってくる情報を整理して、歩みを続ける。
壁画が【ミリアド・ワールド・オンライン】のストーリーに関係していると考え、前に宿の温泉で教えてもらった情報と統合してみた。
獣やモンスターを退治し、人々により崇められていたグリフォン。
人の言葉を理解していたと言われていたグリフォンは、人々から有害なモンスターではなく、自分達を守ってくれる頼りになるモンスターだと認識された。
グリフォンは温泉や遺跡の壁画にも描かれていた山脈を住処にしていたと言われている。
グリフォンを神のように崇拝していた人々だが、グリフォンは突如姿を消した。
混乱をした人々だったが姿を隠した理由を考え、自分達が神に頼り切っていたと思った彼らは自分達の力を示すた為、冒険者ギルドを立ち上げた。
今、コーディーは知り得ている情報はこんな感じだ。
「幻獣が姿を消した理由はまだ空白ですね」
後々この空白の部分がストーリーに大きく関係してきそうだと思いながら、コーディーは遺跡を進んだ。
壁画のある通路を抜け、ここに来て2つ目の部屋へ到達した。
「この遺跡には部屋が少ないのですね」
ボソリとコーディーは呟く。
部屋を見回すと広さは前のゴーレム部屋よりもっと広く、前方に向かって左右に少しボロい石柱がそびえ立っていた。
そして奥に両開きの扉が見えたが、その扉の脇に1体だけだがゴーレムが存在しているのが確認できる。
「目測で6メートル以上はありますね……」
扉の横に立つ無骨な岩のゴーレムは、コーディーの目測で6メートルはあった。
これは戦闘になりそうだと、容易に想像ができる。
しかし、石柱があるのでゴーレムには行動がしづらそうだ。
高さは10メートルくらいはあると思われる巨大な部屋をコーディーは進み、ゆっくりと扉の方へ近づく。
扉との距離が残り1メートルくらいの所で、コーディーは地を駆けた。
それと同時に……いや、少しだけ早くゴーレムの目が光り片腕をコーディーの方へと伸ばしてきた。
「無理でしたか……」
扉を押し開けようとしたがビクともせず、それを理解すると直ぐ様後方へ宙返りをし、ゴーレムの腕を回避した。
白衣が翻り、躍動感を表現する。後方へただ飛ぶだけで良かったのだが、無駄に宙返りをしたのを見るとまだテンションは高いようだ。
少し目に掛かった白髪を指で払い、動きだしたゴーレムへ視線を向けた。
「本格的に動き出しましたね」
地鳴りが部屋全体へ響き、それがゴーレムの起動を行ったばかりだと表現する。
「先手必勝です!」
相手が動き出すのを待つわけがない。コーディーは爆弾を大量に投げ放った。
ここで惜しんでは、紙装甲である自分に勝ち目はないと判断し、素早く決着をつける気である。
爆弾がゴーレムの各部へ打つかり、爆発により砂煙が舞い上がった。
「やったか!?」
この場面で、ついその言葉をコーディーは口に出してしまった。
「あ、口が勝手に……」
片手を口にやって、しまった! と感想を抱く。
この状況で必ず言わなくてはいけない言葉なのだろうか。
この言葉は生存フラグと言われる、有名で回収率の高いフラグの1つである。
フラグ通り爆弾では倒れなかったようで、砂煙の中からゴーレムの腕が伸びてきた。
そして、コーディーへと拳が振り下ろされる。
視界を埋め尽くす巨大な腕。
絶体絶命だと思われたその時、コーディーは腕を水平に振った。
次の瞬間、彼の居た所に拳が打ち下ろされる。
床は破壊不可能のオブジェクトなので壊れてないが、砂煙が舞い上がっていた。
防御力は完全に装備やアイテム頼りのコーディーに、巨大ゴーレムの一撃は耐えきれない。
最前線のプレイヤーであってもせいぜい一発が限度だろう。
(間一髪ですね……)
しかし、コーディーは無事だった。
先程までいた場所にコーディーは存在していない。そして今、彼は部屋の右側にある石柱の後ろで息を潜めている。
(貴重なアイテムを使ってしまうとは、非常に勿体無いですが仕方ありませんね)
コーディーの視線の先には紫色のガラスの破片があった。
それは粉々に砕ける前、紫色のビー玉だったが今やただのガラス片だ。
名前を"テレポートマテリア"と言い、鉱山で手に入った貴重鉱石を使って作る事ができたレアアイテムだった。
そのアイテムは素材が貴重なだけあり、非常に便利である。
テレポートマテリアが割れた場所へ使用者を転移させるという効果を持っており、コーディーはこの効果によりゴーレムの攻撃を間一髪で避けてみせた。
しかし、テレポートマテリアは残り数個しか持っておらず、素材もまた集めないと作る事が出来ない。
決して無駄遣いできるアイテムではなかった。
いきなりコーディーが消えた事で、ゴーレムが何も出来ないでいる。
ゴーレムは辺りを見やるが、コーディーの姿を確認できない。隙ありではあるが、このまま出るわけにも行かず動けずに居た。
(さて、どうしましょうか)
爆弾を使ったのに傷を一切負っている様子がない。
《鑑定眼》を使用してみるが、何も情報は読み取れなかった。
(このままでは……でも、おかしいですね)
コーディーの持つ爆弾は道中のゴーレムを容易に屠っていた。
しかし、このゴーレムには歯が立たない。今はまだ勝てないほど強力なゴーレムであれば、道中にもっと強いモンスターを配置していてもおかしくはないだろう。
だが、現状でここまで来る事が出来た。
そして、少し冷静になって考えもう一度、部屋全体を《鑑定眼》を使い確認してみた。
(これは……)
すると、部屋の中で1つだけ読み取れる物があった。
それは今、コーディーは隠れている石柱。
ボロくなっている石柱は何と破壊可能オブジェクトだと、ご丁寧に記されていた。
道中で《鑑定眼》を使用する事はあったが、壁画にも部屋にも床にもこんな事は表示されなかったのだ。
しかし、この事が判明すればもう、答えは導き出されたようなものである。
「さて、パパット片付けてしまいましょう」
石柱から姿を出したコーディーは、ゴーレムに聞こえるよう言い放った。
すると、姿を視認したゴーレムは機械的に豪腕によるパンチを繰り出してくる。
コーディーの背後には先程まで隠れていた石柱。
なんの躊躇いも無くゴーレムはコーディへと拳を放った。
しかし、来る事が分かっていれば自慢のAGIにより避ける事は可能だ。
攻撃の範囲外へ走り、振り抜かれる拳を避ける。
ゴーレムの拳は石柱の根本を見事に打ち抜き、衝撃によって石柱がゴーレムに倒れ込んだ。
轟音が鳴り響き、砂煙が舞う。
しかし、巨大なゴーレムの姿を覆うほどではないので、次の行動を確認できる。
こうして、次の石柱、そしてまた次のという風にコーディーはゴーレムへ石柱をぶつけていく。
次第に動きが鈍くなっていくゴーレムだが、コーディーに操られるように石柱を自ら壊し、自身へぶつけていった
そして、遂にその時が訪れる。
「そろそろですね」
身体である岩がボロボロと崩れていき、胴体の中央部に赤く光る何かを見た。
それが、ゴーレムの核となる"劣化版賢者の石"だと判明するやいなや、コーディーは投げナイフを核へ投擲する。
動きの鈍くなったゴーレムの核へナイフは突き刺さり、パリンッと赤い宝石は粉々に割れて砕けた。
粉々に砕け散っていく宝石の赤く光り、戦いの終焉を彩る。
そして、まだ興奮冷めやらぬのか、コーディーは白衣を思いっきり翻して扉へと向かった。
ゴーレムが核を失った事にただの石像となり、核の力で形を保っていたが、核を失った事により石の身体はガラガラと崩れていく。
それを後ろに、コーディーが扉へ手を当て開けようとした時、扉は重い音を響かせ独りでに開いた。
まるで、勝者を歓迎するようだとコーディーは内心で呟き、扉の奥へと視線を向ける。
部屋の中央には台座があった。そして、そこには何やら草臥れた宝箱が置いてある。
「ここにも壁画がありますね……」
8畳程の空間には通路にもあった絵が壁に描かれていた。
左右正面、どれもがグリフォンによって指輪のような物を渡す絵。
それを確認後、コーディーは部屋へ入っていき台座へと上がり、そこにある宝箱を開けた。
ここにきて罠は無いだろうと考え、躊躇なく開けた宝箱の中には翡翠色をした指輪が入っている。
それを手に取り《鑑定眼》で指輪を見てみた。
「……思いの指輪、ですか」
名前しか分からなかったが、このような場所へあるのだから、必ず必要になる。
そして、ストーリーに関係あるかもしれないと考えて、指輪をコーディーはストレージへと仕舞った。
再度部屋を見回し、今までの壁画と少し相違点と思しき物を発見する。
(絵のタッチが少し違うような……)
そんな感想を抱いたが、勘違いかもしれないとあまり気にすること無く、後は何もないと判断し部屋を出ていった。
「幻獣グリフォンについて、情報を集めた方が良さそうですね」
開かれたままの扉を出ると、視界が一瞬で切り替わった。
最早慣れた転移であると認識したコーディーは辺りを見回してここが森の入口だと分かり、疲れを吐き出すように一つ大きな息を吐いた。
次は多分掲示板回。




