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第17話 強化される錬金術師

 アトリエを購入した日から現実の世界で2日が過ぎた。

 ゲーム内時間では4日の間、コーディーはずっと錬成や調合、アトリエの改装などを行っていた。

 アトリエで調合も出来るのだから、態々作業場へ行かずとも良くなり生産に没頭している。


 この日もコーディーは錬成の様子を見にアトリエを訪れていた。

 と言うより、アトリエに篭りっきりでログインもログアウトもアトリエで行っている。

 情報は掲示板と公式ホームページを見る事で得ているが、それだけでは流石に少ない。

 アトリエの改装も錬成で作り出した物を使うので、アトリエのある空間から出る必要がないという徹底ぶり。


 客観的に見ると、そこまでしてアトリエから出たくないのかと言える。

 彼がこうして篭っている間に多くのプレイヤーは第3の街に向かい、新たに参入してきたプレイヤーはここ、第2の街【ツヴァイト】まで来れるほど力を付けてきていた。


 しかし、ただ生産を行っているだけではなく色々と危険な物を作り出しているのだから、言うならば今は準備期間だ。

 その準備期間ももう終わり、先程ログインしたばかりのコーディーは今日で第2の街を去り、第3の街へ行こうと計画している。

 その為にはやり残した事が一つだけ存在し、彼はそのやり残し――遺跡の調査を行う為ストレージに様々なアイテムを入れていた。


 ストレージの中を整理して、アイテムの確認をする。

 錬金釜の様子を見るが、もう少し時間が掛かりそうだ。遺跡調査が終わった頃には出来るだろう。

 これが完成すれば、コーディーの新たな戦力になるのだが、如何せん完成するかどうかが分からない。


 今作っている物はゴーレムである。

 正確にはゴーレムの身体と言った所か。劣化版賢者の石を《鑑定眼》で見た所、こう記されていた。


 『劣化版賢者の石』

 賢者の石の劣化版。

 一定レベルのボスモンスターの血液から生み出される。

 ゴーレムやキマイラの核とする事が可能。


 《鑑定眼》により知る事が出来た一番下に記されている事。

 これによりゴーレムとキマイラの存在が確定した。そうなれば錬金術師として作りたくなるのが当たり前だ。

 ゴーレムやキマイラの核なのだから、その身体を作ればいいと考えたコーディーは色々と試行錯誤をして今に至る。

 作成物のジャンル選びに投入する鉱石、だが、それだけでは失敗続き。


 その後、MPを材料に出来る事を知り、どれほどの量MPを使用すればいいか何度も実験を繰り返した。

 成功して欲しいという思いを胸に抱き、コーディーはアトリエを後にする。


 アトリエから少し離れると視界が切り替わり、街の中央付近から少し離れた場所へと転移した。

 それを認識した後、コーディーは最終確認とばかりに装備とストレージの中身を見る。


「さて、行きましょう」


 生産や現実リアルでの疲れを微かに感じる自らへ、鼓舞する様に呟いた後、彼は【ツヴァイト】の南門から出て、太陽が照りつける平原を颯爽と移動し森フィールドへ向かった。

 ステータスがAGIに偏っているだけあって足はかなり早く、風を切って進み早々に森フィールドに到着する。

 コーディーの装備は白衣や片眼鏡こそ変わっていないものの、陰は薄いメイン武器である短剣の強化がされており、その他にも投擲用に投げナイフの作成がされていた。


 錬成で作成した投げナイフは、ただのナイフではなく当てた対象に毒や麻痺の状態異常を与える効果を持っている。

 それに、ようやくポイズンポーションとパラライズポーションの強化に成功し、ポイズンポーションなら毒になる確率が42%、パラライズポーションなら麻痺になる確率が43%とかなりの強化具合。

 前に素材が足りないと思っていたコーディーの予想は当たっており、足りなかった物はポイズンポーションの場合だとブラックヴァイパーの血液が必要だった。


 つまりは、ポイズンポーションにはブラックヴァイパーの毒に血液を、パラライズポーションならクイーンビーの麻痺毒と体液を混ぜ合わせ熱したり、"魔力草"を加えたりをして作る事が出来る。

 数もかなり用意したので、そう簡単に無くなる心配はない。コーディーは森へと足を踏み入れた。


 木々を縫うように移動し、道中で遭遇するモンスターは最早、彼の相手ではない。

 爆弾や状態異常ポーションなどで即殺をして、奥へ奥へと彼は突き進んだ。

 そうして少しするとコーディーはユニコーンの出現する領域まで到着した。


 ここまで来ると森の最奥まではもうすぐ。コーディーは《索敵》スキルを使い辺りを警戒しつつ、少し速度を落として森を進んだ。

 奥へ進むほど薄暗さが増していき、木々も増えている。加えてモンスターが突如出現する場合があるので、危険度は高い。

 コーディーは油断なく森を進んでいると木々の隙間から何やら先に建物がある事に気がついた。


 しかし、それと同時に1匹のユニコーンが自分を睨みつけている事にも気がつく。


(ユニコーンが1匹ですか……仕方ありません……殺りましょう)


 コーディーは口角を上げ不敵な笑みを浮かべると、素早くナイフを投擲した。

 それに少し遅れてユニコーンが動き出す。コーディーが一度に投げたナイフは計6本。

 左右の指の間に3本ずつ挟み、瞬時に投擲している。


 《投擲》スキルも相まって投擲精度に乱れがなく、コーディーへ突っ込んでくるユニコーンへと正確に放たれていた。

 しかし、ユニコーンはそのナイフを軽々と避けて見せる。そして、かなり離れていた距離を一気に縮め、コーディーへと突進をしてきた。

 全長約2メートルの身体を生かした突進は、コーディーへ大きな衝撃を与える。


 直後、周囲へ爆発音が連続的に響いた。

 そしてユニコーンとコーディーの居る辺りは煙で覆われ、その煙からコーディーが吹き飛ばされるように飛び出て地面を転がる。


「ッフフフ……所詮はモンスターですね」


 そう口にして体勢を立ち直したコーディーはストレージから低級ポーションを5本取り出すと、一気に頭から掛けた。

 本来低級ポーションを使うとクールタイムが発生し、次に使うまでに時間が掛かるのだが、コーディーは一度に纏めて使用するという事をやってみせた。

 この事はあまり知られておらず、『ポーションは1本ずつしか使用できない』というゲームの固定概念に囚われてしまっており、思い付く者が多くない。


 思いついて実行したプレイヤーはこの事を掲示板に書かず、広がるまでは自分だけが知っているみたいな優越感に浸っている。

 一度に纏めてポーションを使用するという小技はクールタイムも纏めてしまうというデメリットも、きちんと存在するのでそこまで便利ではない。

 まあ、この小技は徐々に広がりつつあるので、もうじき多くの者が知る事となるだろう。


 低級ポーションの纏め掛けで小瓶の中を空にした後、コーディーは煙の中へ空の小瓶を投擲した。

 きちんと空になった小瓶も使用するという、このもったいない精神は流石だろう。

 パリンッという小瓶の割れた高音の後に、ユニコーンのいななきがコーディーの耳に入った。


「まったく煩いですね。モンスターと言えど所詮は馬ですか」


 突進で受けたダメージはポーションにより完全に回復している。

 本来であればこのまま追撃を加えた方が良いのだが、コーディーはつまらない物を見るような視線を前方の煙へ向けている。

 彼にしてみればボスモンスターのユニコーンは最早、そこらに沢山いる雑魚モンスターと同じだと認識しているのだろう。


 現にユニコーンは煙の中から動けずに居る。その原因は突進前に使用した爆弾とは別に、毒煙玉と麻痺煙玉を爆煙の中へ落としたからだ。

 2種の煙玉による煙の色は内側に抑えられており、外から見ると灰色の煙にしか見えない。

 そう、ユニコーンはコーディーへ突進した時点で負けは、ほぼ確定していた。

 まだ状態異常にならなければ活路はあったのだが、コーディーの《鑑定眼》にはユニコーンが状態異常になっているという事が見えている


 彼の目的はユニコーンの後方に存在する謎の建造物なので、ユニコーンには早々に退場をしてもらおう。

 コーディーはストレージから爆弾を手に出現させると、野球選手さながらに投擲をした。

 鈍い音がしたと思えば次の瞬間には爆発音。その音はユニコーンに、最後の鳴き声さえも上げさせないと言っているようだ。

 動かない物に投擲物を当てる事は今のコーディーにとって、道端の草を摘む事と同義。


 容易すぎて詰まらない事だ。徐々に2種の煙玉の紫と黄色の煙が現れてきており、その中から1つの光球こうきゅうがコーディーの身体へ入り込んだ。

 ボスモンスターであるユニコーンを簡単に倒してしまったコーディー。

 一応言っておこう。彼は生産職である。


「はぁ……」


 小さく溜息を吐き、彼は歩みを進めた。

 そうして先へ進むと次第に見えてきたのは石柱だった。

 奥の建造物へ導くように左右へ並ぶ石柱は、間を通ろうとする者へ圧迫感を与えそうだ。


 コーディーは木々を抜け、開かれたその空間へ入るとまず石柱へと視線を向けた。


「これは……ほぉ……いいですね」


 先程ユニコーンへ吐いた息とは違い、こちらは感嘆の溜息だ。

 ついさっきまでの戦闘を最早忘れているだろう。


 それほどまでにコーディーはこの場所に意識を吸い込まれていた。

 左右に立つ石柱の間を抜け、奥に存在する建造物へと一歩一歩踏みしめるように歩く。


 ここは遺跡なのだ。


 【ミリアド・ワールド・オンライン】の公式プロモーションビデオで見た遺跡と似ている。

 思い焦がれた遺跡に漸く訪れる事が出来た。感動がコーディーの胸中を占め、心からの笑みを彼は浮かべている。

 その笑みはコーディーというキャラクターにとても合った、美しい笑みだった。


 クールな表情がよりえるギャップ萌えを演出しており、誰も見せる事が出来ないのが悔やまれるほど。

 大層楽しそうに遺跡の入り口へと足を進めていき、コーディーは遂に遺跡内部へと入っていった。

閑話挟みたい。

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