第15話 ユニコーン討伐と新たな相性スキル
ヒャッハァー!
次でやっと《錬成》が登場だ!
「おらぁ!」
「そっち行ったぞ!」
「任せろ!」
【ツヴァイト】の南門から出て右手側にある森フィールドの奥地、そこでは今ユニコーンと戦っている1つのパーティーが居た。
前衛3人に後衛が2人のバランス良い組み合わせで、基本戦術は盾役がモンスターを抑えている間に2人の前衛で攻撃、後衛もタイミングを見て支援と攻撃をしている。
普通ではあるが、堅実な攻め方でユニコーンは徐々に押され気味になっていた。このまま何事もなければ、ユニコーンを倒せるだろう。
そう、何事もなければ……。
「アーツ発動! ハディール!」
モンスターのヘイト――モンスターからプレイヤーへの攻撃優先度を決める数値――を集める為《盾術》のアーツ《ハディール》を使用した盾役のプレイヤー。
すると、近くの草叢からフォレストウルフが複数匹飛び出してきた。
そして、《ハディール》によりユニコーン及び、フォレストウルフのヘイトが集まった盾役のプレイヤーへモンスター達は一気に襲い掛かる。
「フォレストウルフ程度、俺の盾にかかれば……!」
そう言い放った次の瞬間、盾役の男に群がったフォレストウルフは突如として爆ぜた。
その周囲で爆発に混じり紫色の煙と黄色の煙が現れ、プレイヤー達の阿鼻叫喚が辺りに響き渡る。
「何だこれは!? どうなっている!」
「か、身体が、動か……な、い」
「……かゆい……うま……」
謎の爆発に動揺し、追撃するように身体の自由を奪われるプレイヤー達。
それはモンスター達も同様で、複数体のフォレストウルフは既に居なくなっており、ユニコーンは立ったまま動いていない。
運良く動けたのは5人の内、騎士然とした装備を纏っている男性プレイヤー1人のみ。
砂煙に紫色、黄色の煙の中で聞こえる、仲間の呻き声がする方へ男は移動する。
若干1名巫山戯ている者がいるので、そのプレイヤーだけ無視して男は仲間の位置の把握に努めた。
そこへ突如として雨が降る。男はその現象に今度は何が起きるんだ!? と視界の悪い中を警戒を強めた。
しかし、何も起きる様子はない。
それなら今の内にと男は仲間の元へ移動をする。
だが、安心したのも束の間。視界の悪い中、何とフォレストウルフやクイーンビーの配下である"アーミービー"、蟷螂型の体長2メートルもあるモンスター"ギガマンティス"までが突如として襲い掛かってきた。
「な、何でいきなり!?」
咄嗟に盾を構え初撃は耐えたが、側面から背後から次々と襲い来る攻撃に、彼は膝を突く。
そうして辛いながらも1体多数戦を繰り広げていると、次第に煙は晴れていき、周辺に大量のモンスター達が居る事が確認できた。
それは、今戦っているモンスターの数とは比べ物にならない程。
最早1人でどうにか出来る数を超えているモンスターの大群に、彼は激昂する。
「何がどうなってんだよ!!」
その叫びは無残にも男に襲いかかる、大量のモンスター達に埋もれてしまう。
ここまで順調だったはずなのに、一体何が起きたのか。男達はあと少しでユニコーンを倒せ、気分良く5人で街に帰るはずだった。
それが一瞬でこのような不幸に見舞われ、死に戻る。
「ク……ソ、が……」
そう呟いた男が最後にモンスター達の隙間から見えたのは自分同様、仲間たちが襲われている光景だった。
「クハハハハハッッ!!」
そして、彼が消え行く寸前、笑い声の様な物が耳に入る。イベントか、はたまた幻聴か、そんな考えを抱いたまま彼は消えていった。
薄暗い森の奥地からプレイヤーが居なく――いや、正確には、先程まで戦闘をしていた5人のプレイヤーが居なくなった。
そう、まだプレイヤーがこの周辺に1人だけ存在している。
「本当に出来るとは思いませんでしたね……しかも戦闘中だったとは、私は運が良い」
そう呟いたのは、白髪白衣のモノクルと呼ばれる片眼鏡をした男性プレイヤー。
プレイヤー名をコーディーと言い、ただの実験目的で他プレイヤーをPKする外道だ。
本来PK――プレイヤーキルはゲームの設定上出来る事ではない。しかし、それは正々堂々としたPK方法だった場合だ。
彼の場合、少しばかり特殊な方法でPKを可能にした。今回の場合、ユニコーンが現れる場所まで向かった所、戦闘中だったのを確認後、この森で手に入った薬草で作成した"解毒ポーション"とポイズンポーション、パラライズポーションを使いフォレストウルフを捕まえる。
そして、拷問染みた方法で言う事を聞かせた後、自由と引き換えに爆弾をプレイヤー達に投げてこいと命令。
高度なAIで感情を持っているフォレストウルフは恐怖によりコーディーの言う事を聞き、突撃する。
頭の悪いフォレストウルフでも、これくらいは可能だろう。それに失敗すれば死ぬのは決定なのだから、死ぬ気で行動する。
フォレストウルフが突撃後、コーディーは毒煙玉と麻痺煙玉を投げ込み、2つの実験を同時に行った。
それは、モンスターにアイテムを使用させての攻撃と、新たに作成した2種の煙玉による実験。
それは見事に成功し、爆弾と2種の煙玉でフォレストウルフ及びプレイヤーへダメージを与え、その後、追加でモンスター誘引ポーションの雨を降らせ、周辺から大量のモンスターをおびき寄せる。
暴走したモンスター達はプレイヤーという餌に食いつき、これでプレイヤーのキルに成功。
これが、今回コーディーが行った実験とPKだ。前々からモンスターの拷問、もとい各種ポーションよる調教の練習は行っていた。
それが上手く生かされたMPK――モンスタープレイヤーキラーというモンスター利用したPKと、単純にコーディーがアイテムを使用してプレイヤーを倒すPKがなされた。
とても良い結果となりコーディーは大層ご満悦だ。その様子が今、分かりやすく現れている。
現在彼は、ポイズンポーションとパラライズポーションによる雨を降らせている。高笑いをしながら。
これほど彼のテンションが高くなっているのは、久しぶりかもしれない。
初めてブラックヴァイパーを倒した時並の興奮度だ。
木の枝に立って、次々とポイズンポーションにパラライズポーション、モンスター誘引ポーションを投擲し小瓶同士が割れ、ポーションの雨と小瓶の破片による雨が降る。
ついでとばかりに2種の煙玉も投下し始めた。
そうして興奮が収まってきた頃には大量のモンスターや傷ついていたユニコーンは愚か、新たに出現したユニコーンまで倒していたようだ。
急に恥ずかしくなったのか、ゴホンッと一度咳き込み地面へ降り立つ。
実は時折、自身が投擲した2種の煙玉の影響を受けるというドジをしていた。
それは直ぐ様、解毒ポーションや低級ポーションを使用して死に戻りしないようにしていたので、無事だったが。
(いつかユニコーンと正面から戦ってみるのも楽しいかもしれませんね)
そんな事を考えつつコーディーは街へ戻って行く。
(そういえば、最近は短剣を脅し以外に使っていないような……)
かなり早い速度でユニコーンの血液を手に入れたコーディーは【ツヴァイト】の街へ帰還した。
ストレージを見ると、気分が高揚していた間に結構な数のモンスターを倒したのか、素材が大量に手に入っているようだ。
しかも、見た事のない素材まである。
(ユニコーン以外にも血液が沢山手に入っていますね……)
今までは森フィールドのモンスターを倒しても、血液の類は一度たりとも手に入っていなかった。
それ以前に血液は子供も目にする場合もあるので、大丈夫なのか。そんな事を考えてしまう。
まあ、それは今はいいとして、血液という素材が急にストレージ内に入っているのを見て、コーディーは疑問符を浮かべる。
もしかして何かしらの隠し要素が? と思った彼は「ログ表示」と呟いた。
そうすると、【職業と採取スキルの相性及び、血液取得の条件をクリアした事により、以降は通常モンスターからも血液がドロップするように成りました】というログが流れていたのだと判明した。
テンションが上っていたので音声に気が付かなかったようだ。それほどまでにコーディーは高笑いを上げていた。
(なるほど、これは……もしかすると調合でも使えるかも知れませんね)
もしかすると状態異常系のポーションの強化に使えるかもしれない、とコーディーは考える。
早速試してみたい気持ちに駆られるが、今はクエストの報告が先だろう。
眩しい日差しの中、コーディーは冒険者ギルドの2階にある錬金術師ギルドへと向かった。
実はポーションを飲めば、少しだけ満腹度が回復するよ!
プロット上では、コーディーがユニコーンと戦う筈だったんよ。
でも、これはこれでいいかもしれない。