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第14話 偶然の産物

 鉱山で手に入れた爆裂鉱石を使い作成できた爆弾を上手く使えば、プレイヤーにもダメージを与えられる事が判明した次の日、コーディーは個室の作業場でポーションの強化を行っていた。

 クイーンビーの麻痺毒でパラライズポーションを、ブラックヴァイパーの猛毒でポイズンポーションの強化をしたいのだが、未だに成功はしない。

 しかし、結構完成に近づきつつはある。今日で完成させるべくコーディーは生産を始めた。


 生産という物には器用さであるDEX値が高ければ高いほど、作業のミスをカバーできる。

 つまり、雑に作ったとしてもDEXによって補正され、きちんとアイテムが作成されるという事だ。

 DEX値が低いとリアル器用さが必要不可欠になる。器用な者なら別にいいが、そこまで器用ではない者はDEX値をかなり高くしているだろう。

 といってもあまりに適当すぎると、どんなにDEXが高くても作成は失敗する。


 コーディーの場合は素早さであるAGIを高くしている事から、器用な方だと推測できるだろう。実際彼はかなり手先が器用だ。

 DEX値が高くてもゲーム内の身体を上手く動かしたりできる、という事はない。力のSTRや素早さのAGIの場合はまた別である。

 STRが高ければ、重い物でも軽々と持てるようにも成り、AGIが高ければ早く動く事が可能だ。

 このように実際にゲームの身体に影響を及ぼす物もある。


 実はDEXによってミスがカバーされるというのは、明かされていなかった事だ。ゲームだからといって、何でもかんでも教えてもらえる訳ではない。

 この隠し要素もゲームをより楽しむ為の物なので、文句を言う者はそうそういないだろう。

 そして、調合を初めて3時間が経過した。


「また失敗……」


 フラスコ内の液体が消えアイテム化する。ストレージから詳細を見ると、少し毒になる確率は上がっているものの、失敗には変わりなかった。


「一体何が悪いのでしょう……?」


 個室故にブツブツ呟いても、何か言ってくる者は居ない。素材はまだ十分残っているのだが、このままではまた全てを無駄にしてしまいそうだ。

 パラライズポーションの麻痺になる確率、ポイズンポーションの毒になる確率は2つとも25%までは上がっている。

 初めは共に10%だったのだ。25%でも十分に高いと言える。


 そして成功していなくて25%なのだ。成功すればどれほど上がるのか。

 それを考えるだけで、笑みが浮かびそうだが、こう何度も失敗していると逆にイライラの方が増してくる。


「はぁ……これで最後にしましょうか」


 最後にもう1度調合をしたら、この日は調合をやめようと決め、手を動かす。

 まずフラスコに入っているクイーンビーの麻痺毒を熱した。この麻痺毒は沸点が低く、40度くらいで泡が浮かんでくる。

 完全に沸騰してしまうと、どうやら質が落ちるらしい。


 なので、沸騰する寸前を見極め、熱から離さなければいけない。何も分からない状態から1つ1つ試さなくてはいけないのだが、これが思いの外楽しいとコーディーは感じている。

 他の錬金術師のプレイヤーも彼と同じ気持ちなのだろう。


 熱された麻痺毒にMPを回復できる"低級マジックポーション"の素材となる"魔力草まりょくそう"をすり潰し、その淡い紫色の液体を麻痺毒に溶かす。

 少しずつ少しずつ加え溶かしていき、魔力草1つ分を溶かし終えると再度熱する。麻痺毒の色は変わらず、少し濃い黄色だ。


 先程までは約40度で沸騰していた麻痺毒だが、魔力草を加えると沸点が60度まで上がる。これを見た時コーディーは、水に塩を入れると沸点が上がる事を思い出した。

 塩は不揮発性物質、簡単に言うと気化しにくい物質なので、それが混ざった塩水は沸点が上がるという仕組みなのだが、子供だってプレイできるゲームに一々科学に知識を盛り込んでいたら、勉強にはいいだろうが生産が面倒で生産職を選択した子供が離れていきそうだ。


 だから、そこまで深く考えなくても良いだろう。

 話は戻るが魔力草を加えた麻痺毒は、温度が70度まで上がると色が変わり"無意味な液体"という名前のアイテムになって失敗となる。


 なので、《鑑定眼》を使ってしっかりと温度を確認しなければいけない。個室の作業場限定で《鑑定眼》は液体の温度を確認できる。

 これは個室で試してみなければ分からない事だ。生産職向けの掲示板には当たり前のように記されていたがコーディーは見ておらず、知るのが少し遅れてしまった。

 という事があったのを蛇足だが付け足しておく。


「ここからですね」


 コーディーはそう呟く事で、此処から先が未だに何も出来ずに居るのだと自身に告げた。

 そうする事で自覚させ、新たな道を開けと脳に刺激を与えているのだ。

 今まで様々なアイテムや素材を入れたり、このままパラライズポーションと合わせたりとしてきたが、尽く失敗している。


「ここで爆裂鉱石の欠片入れたら、どうなるのでしょう……?」


 ふと思いついた組み合わせ。爆弾以外に使用していなかった爆裂鉱石をポーションに使うという考えは、頭の中から全く離れず結果、コーディーはストレージから爆裂鉱石を取り出した。

 爆裂鉱石単体(・・)では火を近づけ過ぎなければ何も起きない。爆裂鉱石を少し砕いて、その欠片を擦り潰したコーディーはサラサラと麻痺毒の入ったフラスコに入れた。

 そして中の液体を軽く混ぜた時、なんとアイテムが出来上がった。それをストレージから出して《鑑定眼》で調べる。


 『麻痺煙玉』

 衝撃を与える事で麻痺の効果を持つ煙が広がる。

 煙を吸う、または浴びた者は30%の確率で麻痺になる。

 この煙は使用者であっても効果を及ぼすので、十分に注意が必要。


 ゲームならではの作成法だが、何度も見ていると最早慣れたものである。

 そして、パラライズポーションやポイズンポーションを強化するには、何か足りない物があるのだとコーディーは考えた。

 ポーションの強化ではなくなったが、出来たアイテムは結構便利な物だ。


 しかも、一番下の《鑑定眼》でしか見る事の出来ない場所には何やら興味深い事が書かれている。

 これを見たコーディーは1つ試したい事ができてしまった。それを早速実験しに行きたいが、麻痺煙玉が出来たのであれば、毒も製作可能だろう。

 そう考え、素早く手を動かして"毒煙玉"を作成した。


 更に《調合》スキルのアーツ《大量生産》を使用して、作成数を指定し多くの麻痺煙玉と毒煙玉を作り上げた。

 そうして、調合を終えた後は作業場を後にして、冒険者ギルドに向かう。コーディーの足取りは軽快だ。

 太陽が照りつける街中を早歩きで移動し、冒険者ギルドのウエスタンドアを開けると1階には見向きもせず、2階へと上がる。


 そう、調合後にする事は既に決めており、それをクリアするとようやく、漸くアトリエが購入可能になるのだ。

 階段を上がりきると視界が切り替わり、2階のギルドホールへと到着するやいなや錬金術師ギルドへと一直線で向かう。

 そして、コーディーは受付の男性へ声をかけた。


「クエストを表示」


「畏まりました。現在のランクはEです」


 現在、錬金術師ギルドのランクはEになっており、とあるクエストが受ける事が可能となっている。

 目の前に表示されるウィンドウを操作してクエストを選択した。すると無表情な受付の男が抑揚のない声で喋りだす。


「特殊クエスト『劣化版賢者の石を作成』を受諾しました。口頭での説明は必要でしょうか」


 これが、アトリエを購入可能になる為にクリアしなければいけないクエストだ。

 コーディーは男からの言葉に必要だと返す。


「それでは、説明させていただきます。当クエストはツヴァイトの街の外れに存在する森フィールドのボス、ユニコーンからドロップする"ユニコーンの血液"の納品がクリア条件となります」


 森フィールドのボス、ユニコーン。前にハルとナナミと共に行動した時に見た、白色の馬に似たモンスターだ。

 掲示板でも強敵として度々上げられているほどで、生産職がよく訪れる森フィールドのボスとしてはありえないほど強い。

 単純に金銭を稼ぐだけなら、鉱山で手に入れた鉱石を売ればそれなりに儲かる。


 だが、戦闘職のプレイヤーもユニコーンを倒しによく向かっている。その理由はクエストだ。

 錬金術師がアトリエを購入するにはユニコーンの血液が必要。


 純粋な戦闘職で苦戦するのであれば、生産職にユニコーンを倒すのはまず不可能。そこで、登場するのが戦闘職へ依頼をすること。

 生産職の中には既に自分の店を持っているプレイヤーだって居る。そういうプレイヤーは最前線顔負けの金銭を持っている事だろう。

 だから、金を積んで依頼を出せばいい。


 しかし、受けてくれるか、受けてもらえてもユニコーンを倒せるのか、倒すまでにどれだけ時間がかかるのか。そういう理由から直接依頼があったりもする。

 そう、コーディーのように進んで討伐しようとする者は居ないのだ。


 だが、彼が、あのコーディーが強敵相手に策もなく吶喊とっかんする事はまずありえない。

 まあ、彼であれば状態異常で、じわじわとなぶり殺しに出来るだろうが。しかも、爆弾だって大量に存在する。

 やろうと思えばユニコーン相手でも勝てるかもしれないが、今回は少しズルをする気だ。


 受付の男性から説明を聞き終えたコーディーは最終確認とばかりにストレージを開く。

 作成したばかりの2種の煙玉、そして各種ポーションに爆弾。コーディーは脳内で簡単にシミュレーションを行った。


「フフフッ……」


 抑えきれなかった邪悪な笑みがこぼれ、足早にギルドを出た彼は森フィールドへと走る。

 現実世界で今日は祝日だ。更にこの時間帯であれば、ユニコーンを狩っている他プレイヤーが居てもおかしくないだろう。

 道中すれ違うモンスターを、コーディーは自慢の足で距離を離し風を切る。

 白衣が風でなびき、いつもより不気味な笑みが彼をより一段と邪悪に彩った。

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