第12話 時間を掛けた準備
説明会です。
ハル達が説明役として便利!
※ステータスに《索敵》の入れ忘れを修正。
ゲーム内時間で1週間が過ぎた頃、コーディーは鉱山へと来ていた。
【ツヴァイト】の森フィールドの反対側にある鉱山で、彼は一心不乱につるはしを使い鉱石を掘り出している。
彼が使用しているつるはしはゲーム内時間で1日1回、鉱山へ入る際に無料で1つ貰え、壊れればリアルマネーで購入しなければならない。
力のSTRが高ければ鉱石の手に入りやすさが、器用さであるDEXが高ければつるはしを巧みに扱いつるはしの耐久値が下がりにくくなる。
コーディーの場合はSTRが人族の初期値である10で、レベルが4上がって25になった事によりDEXが50へとなった。
故につるはしの耐久値は下がりにくく鉱石の手に入る速度は遅い。
しかし、新たに手に入った"攻めの薬草"から作成した"アタックポーション"で少しだけ鉱石の採掘速度は上がっている。
『アタックポーション』
お茶の味がする。上手に作成できたので、味に奥深さが増している。
使用すると5分間、与ダメージが5%上昇する。
クールタイムは30分。
与ダメージとなっているが、これを使用すれば少しだけ、本当に少しだけだが鉱石が手に入りやすくなっている。
鉱石採掘は満腹度の減少速度が早く、合間合間に食事休憩を取らなければいけない。
だが、悠長に食事など取っていられない理由がある。鉱山は壁に掛けられているカンテラの明かりのみが頼りなのだが、カンテラだけでは薄暗く奥がよく見えない為、いつモンスターが襲ってくるか分からない。
コーディーが居るのは鉱山の奥地なので、入り口からの明かりは届いていない。
もちろん、採掘をしている場所であってもモンスターは現れるので、本来であれば単独で鉱山に訪れる者は居ないと言っても過言ではない。
鉱石採掘の中でもモンスターは襲ってくるのだ。鉱山全体がモンスターのポップ――モンスターが現れること――場所なので、突如背後から襲われる事もある。
それに咄嗟に対処しなければいけないので、単独で訪れるプレイヤーはまず居ない訳だ。
しかし、咄嗟に対処する方法ができないと言う事ではない。その対処方法は《索敵》のスキルを所持していた場合である。
コーディーは既に錬金術師ギルドのランクをEに上げており、いつでもアトリエを購入できるクエストを受ける事が可能だ。
しかし、彼はまだ受けていない。いや受ける事が出来ないと言った方が的確だろう。
なにせアトリエを購入可能になるクエストは森フィールドのボスモンスター、ユニコーンを倒さなければいけないのだから。
そのユニコーンを倒せばユニコーンの血液が素材をとして手に入る。それを納品してクエストはクリアだ。
嘗てコーディーはユニコーンを間近で見て、一筋縄では行かない事は理解していた。
ユニコーンを見た日から数回ほど森フィールドにてユニコーンを発見する事は出来ているのだが、その全てユニコーンの方が先にこちらを見つけていた。
しかも、ユニコーンに近づかれているとは一度も気がついておらず、それからEランクに上がったものの相手に勝てる見込みが全く湧かない。
そうして、思いついたのが新たなアイテムにスキルの獲得だ。
で、先日1階の冒険者ギルドで手に入れる事ができた《索敵》のレベル上げにここまで来ているという訳である。
どこからモンスター襲ってくるのか分からないので、《索敵》のレベルがゴリゴリ上っていくのはコーディとしても正直嬉しいのだが、初めはかなり攻撃を貰っていた。
その所為で一度死に戻りをしてしまい、デスペナルティを受けないという貴重な回数が残り1回になってしまったが、必要な経費だと割り切った。
(背後にポップしましたか)
不意に現れたモンスターを察知したコーディーは、つるはしをストレージへ仕舞い、腰に携えている短剣を引き抜き、回転する要領で振り抜いた。
この短剣、前に知り合ったドワーフのハルとエルフのナナミに教えてもらった鍛冶師の女性プレイヤーに、片眼鏡をオーダーメイドする際、一緒にと購入した物である。
そのプレイヤーは既に店を構えており、店売りの物ではあったがコーディーとしては十分過ぎる短剣だった。シンプルながら、STRが30も上がる。
初期装備の短剣は5なので、比較すると差が一目瞭然だ。
その短剣を振り抜き、彼の背後に居た骨に襤褸の装備を纏ったモンスター――スケルトンは一瞬で光へと変わる。
スケルトンはここでは、全く珍しくない雑魚モンスターだ。雑魚と言っても戦闘に慣れていなければ、1対1でも苦戦を強いられるだろう。
しかも戦闘が長引けば長引くほどスケルトンは強化されていくモンスターであり、一度馬鹿なプレイヤーが鉱山から大量のスケルトンを後ろに引きつけトレインしてきた時は、軽く騒ぎになった。
スケルトンは相手の動きを時間が経つに連れて学んでいくのだ。その所為で街の近くまで引き寄せられたスケルトン達は異様に動きが滑らかだった。
スケルトンは全部で15体ほど居て、倍以上のプレイヤーで圧倒できたが、鉱山の雑魚モンスターと言われている相手に倍以上でなければ勝てなかったのだ。
しかも、残りが少なくなってきたスケルトンは、数で押さなければ攻撃を何度も防がれるほど強くなっていた。
コーディーは生産職だが、敢えてその戦いに参加していたりする。
不意にそんな事を思い出したコーディー。
(そろそろ、掲示板に書き込みをしても良い頃でしょうか……)
鉱山の壁に背を預け、彼は内心で呟く。
丁度採掘の手を止めたので、ステータスを表示し満腹度を確認する。
コーディー
職業 錬金術師
Lv25
HP 100/100%
MP 100/100%
STR 10
VIT 10
AGI 91
DEX 50
INT 10
満腹度 39/100%
スキル
《錬金術 Lv1》《調合 Lv25》↑2UP《投擲 Lv22》↑2UP《採取 Lv23》↑3UP《鑑定眼 Lv19》↑1UP《索敵 Lv12》
満腹度が既に半分を切っていた。
(食事にしましょうか)
コーディーは短剣を仕舞い、ストレージから兵糧丸を2つ取り出し、口に入れる。
一粒で満腹度が30%回復するがその分、非常に苦く美味しいとは絶対に言えない。
しかし、時間の短縮にはなり、改良のお陰でよりお茶の味がするディフェンスポーションで流した。
現在、ディフェンスポーションを飲んでもクールタイム中なので効果はないが、お茶として飲む事は出来る。
贅沢な使い方だろう。
質も良く、お茶の味に深みが増しているこのディフェンスポーションを売れば、金銭もかなり手に入るのだが、コーディーは自分の為に作成しているので売るという行為はしない。
「はぁ~……落ち着きます」
お茶として使用するディフェンスポーション用に湯呑みが欲しいと思いつつ、フラスコを傾ける。
コーディーは暇な時間に街を歩いて好みに合う湯呑みを探しているのだが、これが中々見つからない。
また今度湯呑みを探そうと考えている時、彼の耳に数人の足音が入った。
(こんな時にスケルトンの集団ですか……)
折角お茶を飲んでほっこりしている時に運が悪いものだ。右手に短剣を構え、左手に未だ改良できていないポイズンポーションを出す。
ブラックヴァイパーの毒は大量にストレージ内へ入っているが、未だにポイズンポーション強化には成功していない。
それでも、スケルトンの骨を溶かす程度の事は可能だ。
足音が聞こえたのは入口の方向である左側からだ。《索敵》では敵か味方の判断ができない。
なので、何かが近づいているという事が分かるのみ。
左側の通路に身体向けつつ、背後にも気を配り構えていると、近づいてきた集団から2つ重なった声が届いた。
「あれ、コーディー?」
「あれ、コーディさん?」
その集団がプレイヤーで、しかも知り合いと気づいた彼は、戦闘体勢を解いた。
カンテラの明かりが集団を照らし、その姿を鮮明にする。そして声の主が、その集団と共に行動をしていたハルとナナミだと気づいた。
コーディーの目の前には5人の女性プレイヤーが立っており、初対面の3人は前にハルとナナミから聞いた知り合いのプレイヤーと思われる。
「おや、ハルさんとナナミさん。こんな所で会うとは奇遇ですね」
【ミリアド・ワールド・オンライン】の大型アップデートにより、【ツヴァイト】の北門が開かれ第3の街へ行けるようになっているので、多くのプレイヤーはそっちに行っている。
だから、彼女達もそうだとコーディーは思っていた。
故に、こんな場所で数少ない知り合いに会うとは思っていなかったのだ。そんなコーディーにハルが言葉を返してくる。
「コーディーこそ、ドリットの街に行っているものだと思ってたよ」
「残念ながら、やり残した事があるのでね」
2人が話していると、女性5人パーティーのリーダーと思しき、炎のように真っ赤な鎧を纏ったプレイヤーが割って入ってきた。
カンテラの明かりに照らされて、鎧が燃えているようにも見える。
「ハル、この人は?」
「コーディーはね職業が錬金術師でね、前に話したと思うけど、森フィールドで助けてもらったんだよ!」
少し興奮しているのか、早口でハルが説明をする。
「生産職だったのか。おっと、自己紹介が遅れたね。私はフレア、ハルとナナミが世話になったようだね。ありがとう」
そう言ってフレアがコーディーに右手を差し出してくる。
その手を取って、コーディーも言葉を返した。
「お気になさらず。同じプレイヤーなのですから、助け合うのが基本ですよ」
心にも思っていない事を言い、彼はフレアの鎧に素早く《鑑定眼》を使用した。
身体をジロジロと見られているとは思われたくないのだ。
(炎龍の鎧ですか。このフレアという方は、既にドリットのボスモンスターまで倒しているんですね)
第3の街【ドリット】には《偽装》のスキルを持ち、弱いモンスターに姿を変えてくる厄介なモンスターがいるという情報のほか、火山フィールドにドラゴンが存在すると掲示板で話題になっている。
まだアップデートがされてゲーム内時間では4日しか経過していない。
それなのに倒しているのだから、前線組であると容易に推測できてしまう。
その時、コーディーの目の前にウィンドウが表示され、休憩をするようにという警告画面が現れた。
これを無視すると強制ログアウトをさせられてしまう。
「すみません。ログアウト警告が出てきたので、私はここで失礼させていただきます」
「そうですか、タイミングが悪かったようですね。また機会があればお会いしましょう」
凛々しい声でフレアは言葉を返してきた。
コーディーは5人に一言告げて、洞窟を出ていく。
「うぅ~もっと早く来ていれば……」
後ろからハルが弱々しい声で呟く。
が、コーディーの耳には入っていない。なぜなら、彼は移動しながら掲示板に何やら書き込んでいるからだ。
鉱山で手に入った物で、爆発物を作れるようになっていたコーディーは不敵な笑みを浮かべながら洞窟を出て行き、街へ戻った。