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第9話  森での出会い

コーディーの笑みを見ました。

SAN値チェックです。1d6で振ってください。

 【ツヴァイト】から出て右手側にある、森フィールドの入り口にコーディーは到着した。

 道中、彼以外にもプレイヤーが森のある方向へ進んでいるのを見かけている。大体の人が2人から5人くらいのパーティーを組んでいるので、ソロは無謀だろうか? などと考えてしまうのは仕方ない。

 まあ、コーディー以外にもソロで森へ入るプレイヤーが居るので、案外行けるかもしれないのだが。


 実際の所、単独のプレイヤーは採取だけを行いに来ているので、戦闘を行いつつ採取を行おうと考えているコーディーは結構無謀だ。

 生産職でソロという目立ち易い存在のコーディーだが、こういう場所では職業を見た目でしか判断できない。しかも、ここに来る人は生産職プレイヤーが多いので、あまり目立つ事はないだろう。そこに関しては問題ない。

 そう、目の前に存在する森フィールドは採取物が多く、モンスターは比較的弱い。しかし、生産職には苦戦を強いられる事、間違い無しの場所だ。


 コーディーがこれから行う採取クエストは、森フィールドの少し奥地の方に存在する木の根本に生えている植物の採取だ。

 その木は森の大半を占めている木とは違い葉が青いので、分かりやすいとは思うが、森は自然のトラップがあるのでコーディーにも少しきついと思われる。

 彼は回避特化を目指してはいても、その技術はまだ拙い物だ。


 しかも木々が邪魔できちんと空間把握を行わなければ、モンスターに距離を詰められ直撃を貰うだろう。

 スキルやステータスだけを頼りにしているプレイヤーにも少し厳しい。さて、コーディーはどうなるのか。

 彼はその場で軽く体を動かしてから、森フィールドへ足を踏み入れた。


 平原とは違い、立ち入る者を拒むかのような草叢。辺りを明るく照らしていた太陽の光が遮られ薄暗くなっている森は、侵入者に道を迷わせこの地に飲み込まんとするほどの恐ろしさを感じる。

 心の弱い者はこの雰囲気だけでも怯えてしまうだろう。だが、コーディーは全く気にならないようで、寧ろ楽しそうに笑みを浮かべている。

 その笑みが森の力を借りて、より一層恐ろしい。


 浮かべている笑みは怪しさを感じさせる方だった。他にもプレイヤーが居るはずなのに視界には木々のみで、草を踏みしめる音しか耳に入らない。

 ソロで挑む者には一人である事を明確に感じさせ、孤独を恐れてしまった者は発狂でもしてしまいそうだ。

 クリスマスや正月などの目出度い日の夜間、叫びながら外を走り回る行為をこの森でやってもらえれば、演出の一つとして良いかもしれない。


「奥地に遺跡があればよいですが……これだけ広いと調べ回る事は難しそうだ」


 声を出す事によって寂しさを紛らわしているのか、はたまた自身を励ましているのか。

 既に遺跡が移動している可能性を考えず、奥へ奥へと歩いていく。ゲームだから遺跡が移動してもおかしくはないのだ。

 コーディーはあまり変わる事のない景色に、プロモーションビデオの映像を思い浮かべる。


 多くの木々が生えている樹海の奥地に、ひっそりと存在する遺跡。砂漠のど真ん中に圧倒的存在感を放って建っている巨大なピラミッド。

 空中庭園の街は正直そこまで惹かれないコーディーだが、面白そうだとは思う。

 脳内で再生していた映像をそこで停止した。


(さて、プレイヤーかモンスターか……)


 自身の草を踏む音ではない音が聞こえたコーディーは足を止め、即座に両手へポーションを取り出した。

 右手にポイズンポーションを3個、左手にパラライズポーションを3個。それらを指の間に挟み構える。

 視界には人の陰すら伺えない。音の正体を大方分かってはいたが、できればプレイヤーであれば楽だ、と思ってしまうのは仕方がない。

 小さかったガサガサと草を揺らす音が次第に大きくなり、それはコーディーに向かって飛びかかって来た。


「残念」


 一言呟き、後方に少し飛ぶ事で容易に突進を回避する。

 いくら姿が見えないとは言え、音で判断は可能なのだ。それに、回避特化を目指している者がこの程度を避ける事が出来ないのであれば、それは夢のまた夢となってしまう。


 避けると同時に、持っていたパラライズポーションを手から離していたコーディー。

 小瓶の割れた音が耳に入り、目の前を何かが通り過ぎたと思ったらドサリ、と低い音を立てて地面へ何者かが倒れた。

 その方向へ視線を向け、ピクピクと身体を震わせている狼が目に入る。体色が深緑でフォレストウルフと呼ばれる狼型のモンスターだ。

 体色の所為で森の緑に同化し非常に見つけにくいのだが、頭が悪く隠れたり音を殺したりという事をしない。


 お陰で先程のように接近を簡単に察知できる。

 素早いだけのゴブリンとまで言われており、森フィールドでは最弱のレッテルを貼られている可哀想なモンスターだ。

 しかも単独で行動する個体ばかりなので、冷静に対処すれば苦労する事はない。

 だが、偶に群れで行動している時もあり、その場合は結構厄介だ。


「フォレストウルフでしたか……」


 そう言葉を発したコーディーは、ポイズンポーションを飲ませながら呟いている。傍から見ると恐ろしい事この上ない。

 野生の本能で危険を察知したのは、パラライズポーションで麻痺をした後だ。後悔という言葉は恐怖に上書きされ失意の中、意識を失っていく感覚に更なる恐怖を覚え、そして今、光へと変わった。


「そう言えば、モンスターから取れた素材が有り余っていましたね……」


 彼は道具屋でポーションは売っていたものの、モンスターの素材だけは売っていなかった。

 錬成に使うだろうとずっと取っていたのだが、アトリエを購入できなければ素材も意味がない。

 今まで貯めに貯めた素材を売るべきか、取っておいてアトリエをかなり後で購入するべきか。

 葛藤したのは一瞬で、アトリエを購入できなければ素材も意味が無いと判断し、街へ戻ったら今までの素材を売ってしまおうと決めた。


(しかし、レアドロップが……)


 そんなに数を持っていないレアドロップ――モンスターを倒すと得られる物の中で希少価値の高い物――は高額で売れるのだが、貴重なので売るのをつい躊躇ってしまう。

 コーディーは再度葛藤をしながら森を進み始めた。


 森を歩く事20分程だろうか、彼は運良くモンスターと出会わずに進めたのだが未だに葛藤をしている。

 だがようやく売る事を決意しようとしたその時、女性の叫び声が目の前(・・・)から聞こえた。


 ぼーっとしながら移動していたせいで全く気が付かなかったのだが、2人の女性プレイヤーがモンスターに襲われている現場に出くわしてしまったようだ。

 そして、叫び声が耳に入りせっかくの決意に水が差され、揺らぐ事となった。

 そうなった瞬間、幽鬼の様にコーディーの姿が掻き消える。刹那、ガラスが割れた様な高音が周囲に響き渡った。


「い、一体何が……」


 地に倒れていた耳の尖っている女性プレイヤーが呟いた。その視界には白髪の男が白衣を翻し、フォレストウルフを何度も踏みつけている。

 もちろん、コーディーだ。そして彼の足元に数体のフォレストウルフが横たわり、ピクピクと痙攣をしていた。


「あ、あの……」


 複数のフォレストウルフと戦っていた、少し背の低い女性プレイヤーがコーディーへ声をかける。


「ん? おっと、貴方達の狩っていたモンスターに攻撃をしてしまい申し訳ありません。少し気が立っていたので、つい割って入ってしまいました」


 フォレストウルフから足を離し、2人のプレイヤーへ謝罪を告げた。


「手をお貸しします」


 そう言って倒れている女性プレイヤーに手を差し出した。彼女はその手を掴み、立ち上がると口を開く。


「あの、危ない所を助けて頂き、ありがとうございました」


「その前に倒れているフォレストウルフを先に始末しませんか?」


 コーディーはフォレストウルフ達に手を向けて告げる。今は麻痺で動けないだけなので自己紹介は後、と言う事に成り2人の女性プレイヤーは同意をして周りの狼を片付け始めた。


「私達が倒してしまっても良かったのでしょうか?」


 全部で5体居たフォレストウルフを始末した後、耳の尖っている女性プレイヤーはコーディーへ聞いた。


(エルフでしょうか?)


 金色の腰まである髪に簡単に折れそうに見える細い身体、そして耳を見て種族を推測したコーディー。

 エルフは人気種族の1つで、魔法に関しては妖精族に並ぶ程と言われている。

 コーディーはエルフの女性プレイヤーに言葉を返した。


「私が割って入ったのですから気にする事はありませんよ」


「そうですか。良かったです」


 彼女はホッと息を吐く。そして今度は背の低い女性プレイヤーが口を開いた。


「あのさあのさ、折角だし自己紹介でもしない?」


 先程と打って変わって、彼女は明るそうに話す。

 小さな体の割に大きな斧を背負っているその姿は、頼もしそうにも見えること間違い無しだ。


「あたしから行くね! 名前はハル、種族はドワーフで職業は細工師だよ! よろしくね」


 ドワーフとは人族と比べ背が少しばかり低い。子供のようにも見えるが、見た目で判断する事なかれ。これはゲームなのだから。

 ドワーフは手先がとても器用な種族で、ステータスはSTRとDEXが高いがその分AGIとINTが低い。

 ハルは身体を大きく見せようとしているのか、少しつま先立ちをして手を上げている。

 この行為がより子供のようにも見えるが、コーディーは何も言わない。


「次は私かな。名前はナナミです。種族はエルフで料理人をしてます」


 人気種族のエルフ、そのステータスはINTが高くDEXも僅かに高いがSTRとVITが低い。

 魔力に影響をするINTが高ければ高いほど、魔法の威力と魔法防御力、状態異常に関する抵抗力が上がる。

 言い終わるとナナミは最後に一礼をした。


「最後は私ですね。名はコーディー、職業は錬金術師を選択しています。種族は見ての通り人族です。それと、先程は戦闘に割って入ってしまい、申し訳ありません」


 コーディーは自身に非があると一度謝ったのだが、再度謝罪を述べた。

 すると、ハルが軽そうな感じで言葉を返してくる。


「良いって良いって、正直あのままだったら私達が死に戻りしていたんだからさ。助けてもらったのに頭を下げられたら、こっちが困るよ」


 敢えてこのように話す事で、本当に気にしていないと思わせる彼女なりの気の使い方だった。

 対してナナミの方は礼儀正しく、それでいて硬い口調で話す。


「先程は助けて頂き、本当にありがとうございました。それだけでなく、経験値やドロップ品まで分けてもらい――」


「硬いってナナミン! もっとフレンドリーな感じで話そうよ!」


「ちょっとハル! 助けてもらったのに、それは流石に失礼だよ!」


 ナナミが話している途中でハルが割って入り、片や軽く、片や丁寧にとお互いに意見を述べる。

 2人の様子を見て、コーディーは生産職の繋がりが手に入りそうだと考えていた。

 なので、2人が話している所へ割って入る。


「そこまで丁寧ですとこちらも接しづらくなってしまいます。ですから、ハルさんのようにして頂けると私としては助かります」


 内心ではハルの職業が細工師であるから、何が何でも繋がりを持っておきたいと考えていたりする。

 細工師とは木工や彫金などに従事する職業だ。木工か金細工か、はたまた皮細工なのかどれを得意としているかは分からないが、もし浅く広くをしているのであれば片眼鏡も作成可能かもしれない。

 それ故にここで「はい、さよなら」となっては困る。


 コーディーはその後も2人を説得した結果、口調はそれぞれの自由にするという結論になった。


「あ、そうだ! コーディーさんはさ――」


「呼び捨てでいいですよ」


「分かった、そうさせてもらうよ。でさ、コーディーがもし良かったらなんだけど、私達と今だけパーティーを組んでもらえないかな?」


 ナナミに呼び捨てを許したコーディーはパーティーを組まないかと誘われ、狙い通りと内心で笑みを浮かべた。もちろん、いつもの怪しさ溢れる笑みだ。

 顔に出ていれば2人に怯えられる事は確定だろう。薄暗い森の中という事も相まって、正気度がごっそりと減ってしまっていたかもしれない。


「パーティですか……」


 少し悩むふりをして、言葉を続けた。


「女性2人をここで放っておくのは、男の格が落ちますよね。その誘い受けさせてもらいます」


「やった! よろしくね!」


「短い間ですがよろしくお願いします。コーディーさん」


 ハルはジャンプする事で喜びを表現している。その所為で女性にしては短い灰色の髪が揺れ、心なしか髪の毛の喜んでいるように見えてしまう。

 そんな彼女に対し、ナナミは深々と頭を下げた。

 男の格がどうとか言ったコーディーだが、得る物が無かったり少なければ誘いを断っていただろう。

 ハルとナナミはコーディーの事を優しく頼もしい男性だと思っている。

 

 しかし本当の彼は打算的な男であり、狂気を纏っている錬金術師だ。

 それをコーディーは気づかせないし、気づかれたとしてもそれは片眼鏡を作ってもらった後になるだろう。

 ハルとナナミはパーティー申請を出すとコーディーは了承をして、森を進み始めた。


「私達は運が良かったです!」


 ハルの言葉にはコーディーに助けてもらったという意味が含まれている。


「私も運が良いですよ。貴方達のような方と行動を共にできるのですから」


 そう言ったコーディーの言葉には生産職との繋がりが出来て、と言う意味が含まれていた。

 彼に誉められたと勘違いをしたハルとナナミは、少し顔を赤くしたのだった。

錬金術師にINTを振ってないのは違和感があると言う意見をもらいましたので、INTに関して説明を書きました。

INTは魔法に影響するので知識とかは関係ないと描写しました。


錬金術師は魔法を使いませんので、INTはなくて大丈夫だと考えているのですが、どうなんでしょう?

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