第1話 ミリアド・ワールド・オンライン
不自然な点や気になった事などあれば、教えてくださると助かります。
※勘違いにより主人公の戦闘スタイルを回避盾としていましたが、回避特化に修正しました。
今まで世の中に出ているVRゲームは、どうもゲームチックなものばかりだった。
ヴァーチャルリアリティが使用されたゲームで、その世界に入ることが出来るようになったのだから、モンスターや街で生活をするノンプレイヤーキャラクターこと、NPCなどがリアルに生きているのだろうと夢に見ていただろう。
だが実際にヘッドギアを装着してゲーム世界へ入れば、NPCは設定された言葉を口にし、機械のように動いていた。
ヴァーチャルリアリティと言えど、やっぱり無理なのだと思われて次第にVRゲームも熱が冷め始めてきた頃。
所詮機械的な動作しか行われない"ゲーム"でしかないという、そんな常識を破るVRMMORPG【ミリアド・ワールド・オンライン】通称"MWO"が満を持して登場した。
『これがもう一つの世界』安っぽいが、どこか惹かれるキャッチコピーのそのゲーム"MWO"は、まるで人と変わらないNPCがゲーム世界で生活をしていた。
プレイヤーは冒険者となり、MWOの世界の住人と交流をしたり、仮初の身体を駆使してスポーツをしたり世界を見て回ったり、物を作ったりと出来る事は様々。
そんなMWOを手に入れた男、森脇広大はヘッドギアを装着し、ゲーム世界へダイブした。
彼を迎えるのはモノクロの床に、吸い込まれそうな青色をした空。
「おぉ……」
思わず感嘆の息を吐いてしまうのも無理ないだろう。
ここはMWOのキャラクターメイクをする為の空間だ。この空間を見て彼と同じようになる者は多い。広大はそういう者達より、人一倍驚いていた。
VRゲームというのはありふれているのだが、広大は生を受けてから今に至るまでの24年、VRゲームに関わることなど無かった。
彼はこの次代には珍しい、もっぱらのレトロゲーマーであり、コントローラーを操作してキャラを操るゲームばかりをプレイしていた。
知らない者はいないとさえ言われている有名ゲーム"最後のファンタジー"や"竜のクエスト"は未だに続編が出ており、今やVRの技術を使用して主人公を演じることが出来ている。
しかし、広大はそれら有名ゲームの、過去作である物ばかりをプレイしていた。
何故、彼がVRゲームをしないのか。その理由は単純明快だ。
惹かれないから。
ただそれだけだ。どんなに面白そうでも有名でも、惹かれないのであれば手に取ろうとは思わない。
更に広大は、どうも古い物が好きという趣向があった。レトロゲーム然り、遺跡のような文化財然り。
そして、それらを好きな理由は"惹かれる"からだ。
では、何故そんな彼が今まで避けてきたVRゲームをするのか。
それも単純に惹かれたから。だが、それだけではない。
【ミリアド・ワールド・オンライン】のプロモーションビデオを偶然見かけた時、広大はゲーム内の光景を目にしたのだ。
それは今までのゲームをギュッと詰めたような、歴史を感じさせる物。
中世のような古い街並みや、未だかつて見たことがない空中庭園のような街。
砂漠の真ん中に存在し、これでもかと言うほどの威圧感を放つピラミッドに、樹海の奥地でひっそりと佇んでいる遺跡。
そして多種多様な種族に職業やスキル。剣士や魔法使いに魔物を召喚して操る召喚士。
武器も数多く存在し、自身が望むゲームが遂にやって来たと広大は感動で打ち震えた。
そして極めつけは今までVRゲームに何故か存在しなかった職業、錬金術師。
ゲーム内で錬金術師とはポーションの作成に大きく関わる。
しかし他ゲームで存在する職業に"錬金術師"は存在せず、代わりとばかりに"薬師"という職業が存在した。
錬金術師はポーション以外にもアイテムを作成したり、はては武具を錬成出来るのだが武具は鍛冶師が、アイテムは錬成というスキルを取得する事で生産職が作成する。
故に錬金術師は廃れてしまった。
長くなってしまったがつまりは、錬金術師に森脇広大は憧れを抱いていた。
嘗て存在していたとされる職業が、只々かっこいいと感じたのだ。
なので、広大はキャラクタークリエイトで職業を錬金術師にした。
目の前に表示されている半透明なウィンドウを操作して性別の男を選択し、種族を人族に髪型を白髪の肩に掛かるほどにメイクした。
本来であればナビゲーションを務めるAIが存在するのだが、事前設定で排除してある。
操作方法は予め調べていたので、AIにぐだぐだと説明されてはゲーム開始に遅れが生じる。仕事の所為で他より開始が数日遅れてしまったのだが、代わりに情報は集めておいたので、遅れは直ぐにでも取り戻せるだろう。
キャラクタークリエイトではアクセサリーや服装は選べない為、初めは皆同じような冒険者然とした革系の装備になる。
黙々とウィンドウを操作しつつ、内心では白衣と片眼鏡が欲しかったのだが、と呟いた広大。
過去を解き明かす研究者という職にも憧れを抱いており、既に【ミリアド・ワールド・オンライン】内でどのようなロールをするか決めていた。
職業"錬金術師"の白髪に白衣、片眼鏡という研究者ロールを、つまり研究者の演技をすると既に決めており、早く白衣だけでも手に入れたいと急くように手を動かす。
ウィンドウを操り身長を現実と同じ約170センチ、そして"コーディー"という名前を入力し、淡い水色をした画面をスライドして次に進める。
キャラクターを作り終えた次はとても重要になる、スキル選択とステータスの振り分けだ。
スキルは職業を決めた時にその職にあったスキルを取得できるが、それとは別に所持スキルを含め、合計で5つまで選択できる。
ゲーム内でスタートダッシュを決めたい人は課金を行い、ステータス振り分けやスキル選択を有利にできる。
だが広大こと、ゲーム内ネーム、コーディーはそれを行わなかった。
ただでさえVRゲームをする為のゲームハードであるヘッドギアが高額なのだ。
それなのに低額ではない課金をするのは、ゲーム廃人ぐらいだろう。
課金兵ではないコーディーは課金に関する事を思い出すが、直ぐに思考の隅に追いやりスキルの選択に移る。
錬金術師の職業を選択した為、既に《錬金術》と《調合》を所持している。この時点で既に手に入っているスキルの事を"職業スキル"と言い、その職を選択していないと一部例外を除き、手にする事が出来ない。
その例外が課金である。課金は事前選択方式であり、このモノクロの床と青空の世界に訪れる前、つまりはゲームをする前に現実の方でパソコンにより選択する。
ヘッドギアをパソコンと繋ぎ、設定時に課金をカードなどを使って予めしておくのだ。
少々不便だがゲーム中は興奮状態に陥ることも多いので、課金により身が滅ぶのを避ける為、課金は現実で行う方式を取っている。
コーディーは黙々とスキルを選択していく。
選んだスキルは《投擲》《採取》《鑑定眼》だ。投擲は文字通り物を投げるスキルで、"特定のアイテム"を投げる事が出来る。採取は物を拾った時に補正が掛かるスキルだ。
スキルのレベルが上がるに連れて、拾った物の個数が増えたり質が上がったりする。そして鑑定眼は全プレイヤーが持つ、普通の鑑定の上位互換であり、生産職には必須と言われるスキルだ。
鑑定眼を持たないプレイヤーが薬草を鑑定した時と、鑑定眼持ちが鑑定をした場合とは情報の多さが異なる他、特殊なアイテムの鑑定が可能となる。
とにかくこれでスキル選択は終了した。
淡々と操作を行っているコーディーだが、内心では早くゲーム内に入りたい、街並みを見たい、と興奮気味だ。
最後のキャラクタークリエイトに入る。ステータスの振り分けだ。
MWOの世界では種族ごとに初期ステータスが異なる。コーディーの選んだ人族なら可もなく不可もないステータスとなる。
STR・VIT・AGI・DEX・INTがステータスの項目であり、STRは物を持つこと及び力、VITはキャラクターの防御力に影響といった感じだ。
これらが平均値10である人族は、ステータスの振り分け次第でどんな職にも向くような種族になる。
しかし、人族の特化型と他種族の特化型とを比べると初期値が平均である人族は多少劣る。
生産職、鍛冶師を選択する者はドワーフを選択する事が多いし、魔法特化の者はエルフや妖精族を選択する事が多い。
悪役ロールには悪魔族だったり、正義を謳う者は逆の天使族だったり、人族の職業"騎士"だったりと楽しみ方は千差万別。
その中でコーディーは自分が思い描く研究者というのを体現する為、人族を選択し容姿を冷たい印象を他人に与えそうな物にした。
そして戦う生産職を彼は目指す為、ステータスの振り分けはボーナスポイントが25ある内の20を素早さに影響するAGIに振り分け、残りの5を器用さに関わるDEXに振った。
戦う生産職なのに何故、彼は力に振らなかったのか。そこで先程選択したスキル"投擲"が生きる。
コーディーは回避特化という文字通り、攻撃を回避する事に特化した戦闘スタイルを取って、投擲でモンスターの体力を減らしつつ素早さに頼ってヒットアンドアウェイを、と考えているのだ。
生産職なので別に進んで戦う必要はないと思うが、彼は彼なりの楽しみ方というものを既に考えているようで、これには誰にも口出しはできまい。
こうしてキャラクタークリエイトを終えたコーディーは、メニュー表示などの簡単なチュートリアルを終え、【ミリアド・ワールド・オンライン】の世界へ降り立った。