仮免サキュバス~淫魔の本能に目覚めたボクは、男に戻る方法を探す~
とりあえず、林哲也先生の『みだLOVE』を見て、サキュバス系のTSを書きたくなった後悔はない
ここは2078年、地球。
今から15年前、世界の水面下で未曽有の危機が迫っていた。
地球を含む5つの異世界が急接近し、多次元衝突を起こす寸前だったのだ。
そうした次元衝突による時空崩壊を回避するために、多次元融合が為され、地球をベースに多次元の惑星が融合した。
地球の大きさが五倍となり、新たな大陸や土地が増えた。
それに伴い、異次元の現地人も同一次元に存在するようになった。
エルフやドワーフ、ハーフリンクなどの亜人
犬耳や猫耳、または獣顔の人種である獣人
人とは近しい姿をしているが神々しい姿と天輪を頭に頂く神人
そして禍々しい特徴を持ち、人々に畏怖を与える魔人
各国の首脳が多次元衝突による危機を事前に説明し、またこれから起こり得る混乱を告知したが、多くの地球人は、エイプリルフールだと疑いカレンダーを確認したりした。
そして、行われた運命の日――某掲示板やSNSは、現れた二次元の存在に歓喜した。
それから現在までの間、様々な問題を抱えながら他種族による戦争などの発生などが怒らないように各国が調和したために、平和は保たれていた。
そんな中、ボク。保住・博人は、16歳の誕生日の朝を迎え、大いに混乱に巻き込まれていた。
「な、ない! 消えてる! なくなっている!」
16歳の誕生日の朝、朝の起きてトイレに向かったボクは、大事なものが無くなっていることに気が付き慌てて、トイレから飛び出す。
大事な物は、この16年間共にあった大事な男性のシンボルとも言える、アレだ。
落とした記憶もないし、切り落とした記憶もない。
そんな慌てたボクの様子を見に来た父さんと母さんが困ったように尋ねてくる。
「博人ちゃん、どうしたの?」
「母さん、ボクのあれがないんだ!」
「あー、博人、ついに来てしまったのか。とりあえず、落ち着いて話そう」
普段は、仕事であまり家にいない父さんがそんなことを言いながら、ボクをリビングのソファーに座らせるように招く。
「さて、何から話すべきだろうか」
「お父さん。それは私が博人ちゃんに話すわ」
そう言って、何時までも若々しい母さんが立ち上る。
黒目、黒髪の近所でも評判の美魔女とも呼び声の高い母だが、その姿が少しだけ変化し始める。
腰の尾骶骨当たりから黒くて細い、尖端がハートのような形の尻尾が現れ、頭に捩じれた角が現れた。
「え、ええっ!? ま、魔人!?」
「そうよ。実はお母さん、魔人だったの」
そう言って、ウィンクする母。今まで隠されていた事実に驚き、頭が真っ白になる。
そんな母は、尻尾を振りながら、ボクの父さんの腕に抱き付くのだ。
「実は、博人ちゃんは地球人のお父さんと魔人のお母さんとのハーフだったんですよー」
「え、えええっ!?」
ちょっと待っておかしい。だって僕は、16歳だ。だけど多次元融合が為されたのは15年前。どう考えても時間が合わないと考えているボクの前で父さんが説明してくれる。
「多次元衝突の危機は聞いたことがあるだろ。その前にその予兆としてそれぞれの世界のいたるところで次元の歪が生まれた。俺は二十年前その歪を通って魔人たちの異世界に転移したんだ。その先で多次元衝突の危機を回避し、母さんと恋仲になり、お前が生まれた」
おおぅ、確かに多次元衝突の危機の回避には裏で誰かが活躍したとかいう話がまことしやかに話されているが、それがうちの父さんだったなんて。
「今まで隠していたのは悪かった。そして、それを隠していたのは、お前のためなんだ」
「ボクのため?」
「ああ、異種族同士の子どもがどのような存在になるのか、それは知らないことが多い。また、世界で数少ないハーフであるためにどのような能力を持っているのか、その危険性も分からない。または非合法な組織にも狙われる可能性がある」
「だから、私は日本の戸籍を取得してお父さんと一緒に日本人としての仮の身分で暮らしていたわ」
「そして俺は、魔人の異次元で得た能力でお前を狙う悪い奴らや他種族間戦争を引き起こそうとするテロリストたちと戦っていたのだ!」
まさか、うちの父さん世界救った英雄でさらに現在進行形でハリウッドのアクション映画の主人公みたいなことやっているらしい。
もう話がついていけずお腹いっぱいのボクに対してお母さんがトドメの一撃を差して来る。
「でね。男の子で生まれたからお父さんの地球人としての性質を受け継いでるんだろうなぁ。と思ったら、博人ちゃん、16歳になった今日、魔人の資質が出てきて驚いたわ」
「その、母さん。この魔人の資質って何?」
「魔人って一括りで言っても色んな人たちがいるでしょ? 魔人たちの統率者である魔王様の闘魔人、吸血鬼や鬼みたいに異形だったり肌の色が違う一部を持つ鬼魔人、獣や異形の一部を持つ獣魔人、それとお母さんのような淫魔人が」
「それじゃあ、母さんってサキュバス?」
「正解! ああ、勘違いしないでね! 私はお父さん一筋の純愛よ。キャッ」
嬉しそうに小さな悲鳴を上げる母。何時までも若々しくていいね、と遠い目をするが、それどころじゃない。
「それじゃあ、僕は、サキュバスになっちゃったの!?」
「うーん。それもちょっと違うかなぁ。例えば、闘魔人の父親と淫魔人の母親の間に子供が生まれた場合、どちらかの魔人になるんだけど、時折、16歳になると淫魔の資質が表に出る子がいるのよ。そういう子は、淫魔になっちゃうんだけど……」
だけど、と言葉を濁す母さんに対して父さんが引き継ぐ。
「普通は性別は変わらない。だから、博人の場合は、本来はインキュバスになっていた可能性があるんだが……多分だけど、地球人としての資質は非常に柔軟なんだと思うんだ。それこそ性別すら変わるレベルで」
「そ、そんな、じゃあ、ボクこのまま女の子として生きるの?」
「わからない。とりあえず、異種族のハーフなんてのは例が少ない。だから、力に慣れない」
そう言って真剣な表情でしっかりと見つめてくる父さん。
「ボ、ボク、な、何とか頑張ってみる」
「そうだ。その意気だ! 愛しのエルフのカオルゥちゃんと付き合うために!」
「なんで父さんがボクの好きな人知ってるんだよぉぉッ!」
同じクラスの異種族のエルフのカオルゥちゃんを好きなの隠していたのに!
そう言って抗議の声を上げるが、母さんは、あらあらと嬉しそうに微笑みサキュバスの尻尾が揺れている。
「でも博人ちゃん、気を付けてね。淫魔の本能は自分だけじゃないわ。他人を魅了するチャームなんかが無意識に発動するわ。それに、体だって徐々に変化すると思うわ」
男の子としてのシンボルが無くなったがこれからは体つきや骨格、体臭、味覚、感情のふり幅など徐々に女性的な変化、サキュバス的な欲求が襲ってくるはずだ。
「だから、自分を大事に、そして他の人に隙を与えちゃ駄目よ。勿論、博人ちゃんがサキュバスとして自由奔放に生きていくなら、お母さん応援しちゃう!」
「あー、一度は夢見たなぁ。『娘にパパと結婚するんだ』って一言言われたい!」
「誰がするか! はっ、しまった学校が!」
ボクは時計を確認すれば、もう登校までの余裕がない。
慌てて学校の支度を整え、朝食のトーストを一気に食べる。
着替える服は、勿論学校の男子制服だし、下着なども男子の物だ。
「母さん、行ってきます!」
「いってらっしゃい! 帰ってきたら女のものの服を買いに行きましょうね! 母さん娘とショッピングが夢だったの!」
「ボクは、娘じゃないし! 絶対にしない!」
出かける間際まで母さんとそんなやり取りをして学校に向かった。
慌てて家を飛び出し、学校に向かって歩ていく。
ただ男性のシンボルが消失しただけで女の子になったという自覚はまだ薄い。そもそも何かの悪い冗談だと思う一方、多次元融合によって魔法という物も加わったのだ。
こんな不思議なこともあるだろう、という思いも浮かぶ。
そもそも淫魔の資質が現れて女の子になって男に戻れる保証はどこにもない。淫魔の資質だけがなりを顰めてそのまま女の子の人生の可能性も、そうしたらカオルゥちゃんと付き合えない。
「ハァ、ボクはどうしたら……」
「ねぇ、どうしたの。ハクトくん」
「ぴゃっ!? カ、カオルゥちゃん!?」
登校中に話しかけられ驚いたボクが降り返った先には、新緑色のさらさらとした長い髪の毛にぴょこんと揺れる長い耳、そして白磁のように白くて美しい肌、全部のパーツが芸術品のようなエルフの女の子・カオルゥちゃんが話しかけてきた。
「な、なんでもないよ!」
「うーん。そう? 元気無さそうだったから」
「その、心配してくれてありがとう」
ううっ、朝からカオルゥちゃんと話せてよかった。と心の中で涙していると、カオルゥちゃんがずいっとボクに近づいてくる。
「すんすん……ハクトくん、匂い変わった? なんか、果物の甘い臭いがちょっとする」
「えっ!? そんな匂いが」
「うーん。あくまでたとえ。エルフは獣人たちには及ばないけど、緑の匂いや果物の匂いに敏感だから」
「そうなんだ」
いきなりボクの匂いを嗅がれて、驚き、逆に近づいたためにカオルゥちゃんの若草のような香りに心臓が跳ねるかと思うと、いきなりドクンと心臓が脈打つ。
「どうしたの、ハクトくん、顔真っ赤だよ!」
「え、あっ、その……」
ああ、これは淫魔の本能だと直感で分かった。なんとか抑えようとするが、カオルゥちゃんの目の前で僕の体は変化を始める。
「えっ、ハクトくん、目の瞳孔が
淫魔の本能を抑えこむために体に力を込めているが、一部変化しているようだ。
カオルゥちゃんの瞳に移るボクの瞳孔は縦長に細くなっていた。
「ハクトくん、しっかりしてどこが苦しいの!」
「カオルゥちゃん、ボクもうだめ……」
どこかに異性は、男性は居ないか、と体が求める。
だが、そうした男を探そうとする自分を拒絶するように強く強く目を瞑り、外界を拒絶するように待つ。
そして、しばらくして徐々に淫魔の本能が落ち着いていき、スマフォ裏の鏡面を使って目を確認すれば、元に戻っている。
「ごめんね。カオルゥちゃん」
「ハクトくん、魔人だったの?」
「その……深い訳があるんだ」
その後、ボクは、学校を遅刻するのを覚悟してカオルゥちゃんにボクの事情を説明する。
地球人と魔人のハーフで淫魔の本能に目覚めてしまったこと。そして、男の子に戻りたいこと。
「その、今日なったばかりでどうすればいいのか分からないんだ。とりあえず、女の子になったことを隠して学校に行くつもり」
「そうだったんだ。だけど、色々と大変じゃない?」
「う、うん。多分、心が折れそう」
もうたった一回の淫魔の本能で心が折れそうになる。
それに対して、カオルゥちゃんはボクの手を握ってくれる。
「大丈夫! ハクトくんが淫魔ってことバレたくないなら手伝うし、男の子のまま生活したいならそれをフォローするよ! それに性別を元に戻したいならエルフの伝手で調べてあげる!」
「ありがとう。カオルゥちゃん……」
両手をにぎってくれる彼女に感動するが、その時、普段とは別の感情があった。
(あれ? あんなにカオルゥちゃんと触れ合えているのに心に動揺が少ない。むしろ穏やかな海のような揺らめき方だ)
そんな困惑を他所にカオルゥちゃんが自主的に協力してくれることになり、とりあえず、今日は遅刻しながら学校に向かった。
そして、二限目が始まる時に二人で遅れて教室に入れば、後ろの席から悪友の瀬野・陽太が声を掛けてくる。
「よう、カオルゥちゃんと遅刻しながら登校して何があったんだ」
「なにもないよ!」
「なにもない訳ないだろ!」
「うるさいなぁ。ちょっと朝に一緒になってトラブルになっただけだよ!」
「本当かぁ? 博人、妖しいぜ」
ボクより逞しい陽太が肩を組むように圧し掛かってくると、陽太の男臭い匂いにクラっとする。
再び淫魔の胸の高まりが始まるが、この高鳴り方をボクは知っている。
昨日までカオルゥちゃんに感じていた気持ちだ。
他人を好きと言う気持ち、それも異性に対しての感情だ。
それと男だったボクが、悪友の陽太に感じているなんて、考えたくなくてその腕を振り払う!
「お、おい。本当にどうしたんだ?」
「う、うるさい。ちょっと、少し一人で考えさせてくれ!」
そう言って机に突っ伏して熱の帯びた顔に触れて淫魔の本能を抑えこもうとする。
二度目だから抑えこめているのか、少しだけ落ち着いて対処できたが、瞳の変化を隠すために、俯く。
本当に、ボクってどうなるの!?
淫魔としての本能を抑えられるのか、それとも女の子として淫魔として生きるのか、男の子に戻れるのは、16歳の誕生日から始まる仮免サキュバスの生活は、この時より始まる。
またもややってしまった即興短編。深夜のテンションで投稿する。