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妹と往く、崩壊した町

歩いていて、やけに静かだなと思った。

九里坂と凛ちゃんの背丈の差を観察しながら、後ろに付いて歩くのは飽きなかった。

あれくらいの歳の差の兄妹を眺めるのは、実にほほえましい。

僕はと言えば、麻衣とは、正直に言えば話さない………いや、あまり口を利かなかった気がする………。

こんな状況になるまでは。



人が現れない。

まあ、『あいつら』………妹たちのこともあるし、堂々と出歩かないのもわかるが、

理由はわかってきた。

そうか、つまり。


僕たちを遠目から見れば―――見たとしても、小学生程度の女の子が、つまり妹らしき人間が二人いるということになる。

男はこの際あまり重要ではない。

危険性は、という意味で。

つまり、奴ら―――『妹』である可能性があり、迂闊に近づくとひどいことになる。

………そして、実際妹なんだよな。

さっき、建物の陰でちらりと見えたのは、そういう人たちだったのか。

一般人………?

いや、常に警戒しておいた方がいい。

あいつらかも。

しかし、あいつらは今まで、真っ先に襲いかかってきた気がする。

好戦的なふうに性格が変化して………ううむ。


一般人もそろそろこの現象に気づいた頃だ。

つまり、迂闊に危険人物集団に近付けないというわけだな。

とほほ…こりゃ聞きこみすら簡単にはできないな。

この現象を………現象と言っていいのかわからないが、正体を付きとめたいのだが。


「香田」

前を行く九里坂がふと、訪ねてきた。

「なぁに?」

「お前はどうして電車に乗ってきたんだ」

「ん」

どうして来たか。

まあ、至極当然な疑問だった。

「いや、なんとなく………」

「なんとなくだと!」

「いやいや。いや、そうじゃないけど………何が起きてるのか知りたかったから、かな、正体を知りたい。ていうか―――麻衣がやったんだけど」

前もって仕組んだわけでもないのに、考えていたこととリンクした。

「うん」

麻衣は補足した。

「電車が走ってること自体が変だったから、様子見に」

「ああ、そうか――-――そりゃあ変だな。もしかして運転席の前を爆破してるところ、見られていたのか」

そうだ。

確かに運転席の前には小さな火花のようなフラッシュがきらめいていた。

攻撃用ではない、小石を払いのける用の、低火力の爆発。

あれはそういうことだったか、今から思えば。

得心がいった。


レールや敷き詰められた歩きにくい茶色の石の上を過ぎ、町に出ようとした。

僕たちは線路を降りようとしたが、フェンスがあって、その先には、数メートルの高さの段差があった。

線路の下を潜る車道らしい。

「ひかえめにお願い、目立ちたくない」

「うん」

僕たちは爆破を使ってフェンスを飛び越える。

ちょっとうるさい棒高跳びみたいな競技だ………いや、動きだ。

描写をしようとすればするほどに滑稽だが。


そろそろ妹の肩から力が抜けているんじゃないだろうか。

爆発を扱うのに慣れてきたような気がする。

いや、爆発に対して特に身構えもしなくなったのは、僕の方か。



「九里坂く…九里坂。これからどうする………僕は探そうと思うんだけど、この元凶を」

彼は振り向き、そして少し間をおいて答えた。

答えたというよりも、口に出して確認した。

「元凶………」

そうか元凶か、と呟く。

「そういう言い方もあるな――-――確かに、元凶か原因はあるはずだ。うん………原因はわかるか、お前、心当たりは?」

「いや、今のところ付いていないんだが………麻衣、お前、妹が、と言っていたよな」

「うん」

「詳しく教えてくれよ、妹が、爆発を使うのか?」

「うん」

「ということは、姉は………?たとえばお姉ちゃんがいたら」

「ううん、姉は関係ない。完全に無害だよ」

爆発しない。

「………なんで?」

「なんでって言われても………そういう指令が下ったから」

「指令ってのはそもそも何なんだ」


「凛にもそういうものがあったらしい。よくわからないが………」

と、九里坂が言う。

「そういうルールになったの。動かされた。」

「だ………誰に?」

「………」

「誰に言われたんだよ」

「よくわからない」

「え」

「ちょうど、そう………」

「凛も見たよ」

凛ちゃんがこっちを見て言った。

「そう、ぼんやりとしていたの。相手は………いなかった。どこからか声が聞こえて」

「えー………」

「うん、部屋と話をしているような、言葉にするとすれば―――そんな感じ」

朝になったら、私は爆発を使えるようになっていたというわけ」

なっていたというわけ、って。

何をそんな。

それで説明した気になっているのか。

しかしこれ以上無理に説明をさせても、話は進むのかわからない。

わからないが………ううむ、もう雑談のような気持ちでいいか。

「今できることって何だ」


「うん、多分、なぜそうなったかはあまり、重要じゃあないよ、お兄ちゃん。過去のことよりも未来を生きるんだよ!」

麻衣がなんだか元気になった。

説明に頭を悩ませていたので、さっさと話題を変えるのは………変えられて、若干嬉しいのだろう。

「ルールになったのなら」

違う世界と化した町を見ながら、

「仕方ないな」

諦めたように言う。


「人が二本足で歩くように。または………犬が吠えるように、タマが家の柱を引っ掻いて爪を砥ぐように―――妹は爆発するの」

………意味わかんねえよ。

と、言いかけた気持ちだが、もうこれ以上聞いても得られることは果たして………。

どうやら妹たち自身も理解が薄いらしい。

………夢、か。


「どうするの、ていうか、どこに向かって歩いてるの」

コンビニが少し離れたところに見えたが、この方向だと少しずつ飲食街から離れてしまう。

「………いや、歩くしかないじゃないか。バスも、自転車さえも、走れるとは思えないし」

「元凶はわからないがとりあえず人が多い所に行けば分かるかもしれないとしか」

「はは、こんなとこにいないで東京に行けばいいんじゃないか」

「ああ………いや、やっぱり怖いな。人口密度が高ければそれこそ被害が多くて………今頃は地獄絵図じゃないか?」

「秋葉原とか特にそうだよな。妹カフェとかあるらしいし」

「ああ………いや、しかしどうだろう、秋葉原って、実際妹は多いのか?」

「ううん………男が多い。うん、むしろ」

「そんな気がする。俺もそう思う」

「どう思う、麻衣」

「うーん…私、秋葉原は行ったことない」

「そうだな、俺もだ」

「何の話だっけ」

「移動するか………」

今も歩いているけれど。


地の底から聞こえるような揺れが、また響いた。

通りのラーメン屋の看板が揺れた。

店内が、少し目に入った。

店主らしき格好の男性、暗いのでほとんど影だったが………カウンターで動いていた。

カウンターというよりも中か。厨房。

住民は家の中に避難しているようだ。

出歩くよりはマシだ。

皆さん避難してくれ。


もう一度足元が揺れる。

さっきとは少し違う位置のような気がした

地響きは、地の底から聞こえるというのは表現として間違っていた。

むしろ、地の表面でしか暴れていないはずなのだ、やつらは。


方向としてはここから少し東か………。

「いや、西か」

この辺りはあまり来たことがないので、歩いていても自信がなかった。

あっちにはなにがあったかな。

何か大きな建物………。

はて。

「お兄ちゃん………」

「ああ」

とりあえずは人助けをしていくか。


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