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妹は世界中にいる。

「そんなこんなで、僕たちはここにたどり着いたというわけです」

「はぁ………」


女店員さんは返答した。

この人、若干残念そうにしているのはなんでだろう。

主人公がどうこう、と聞こえたが、僕自身も自分のあの発言はどうかと思う。

僕と同じ発想の人はそうそういないだろうなあ。


まあ、それはさておき、今は今の状況だ。

あの厄介な妹たちは僕の妹が退治し、気絶させた――-――と言いたいが、大半の子ははどこかに飛んで行った。

爆発で飛んで行った。

気分が変わりやすい子供のように。


「そうですか、南高校の辺りも、つまりこんな感じなんですね」


「こんな感じですね」


辺り一面、ひどい有様である。

戦争後のスーパーマーケットはこうなるのだろうか。

まあ戦争よりはいくらかマシだと思うけど。

駐車場が使えてないので、車が倉庫近くに数台しか見当たらない。

来る人が少ないことはなんとなく察し、この女店員さんにかける言葉を、選んだほうがいいなと感じた。

あまり暗くならない話題。

話題。

話題………ううむ。


「これ、警察とか―――何してるんですかね、ハハハ………自衛隊も」

変にへらへらしていたら、馬鹿にしているように思われるだろうか。

いや、でもここはもう、笑って頑張ろうよ。

しんみりしたら負けだと思った。

俺は猿のように笑っていたかもしれない。


彼女はぼそりと言う。


「いい天気。晴れてよかったですね」


天気の話題か。

圧倒的にあたり障りない話題で返して来ましたよ、この人。

距離置かれてる?

置いてるのは僕か、僕の方か。

まあ雑談している状況でもないが。

かといってこれからどうすればいいのか、見当はつかない。

どこかに行けば、展開はあるだろうけれど。


「ああ―――そりゃまあ、そうですね、降ってきたら店も濡れますし」


しどろもどろになった。

学校では現代文と、あと敬語もカリキュラムに入れた方がいいんじゃあないかな。

年上………主にそう、働いている人と話すと、僕はいつも言葉遣いに自信がない。

子供のように黙りこくってしまうのだ。

まあ、実際子供のようなものだが。


有名な小説や古典よりも、手っ取り早く役に立つような気がするのだが………よく使う敬語。

あとは昔、いとこの兄ちゃんが「領収書の書き方は学校で教えるべき」とか何とか言っていたことを思い出す。

ちょっと話が違うか。

重要な書類だと思うと、書く量が少なくてもミスするものらしい。


「お兄ちゃん、終わったから行くよ?」


見ると我が妹は、澄ました顔をしながら、ランドセルの隙間からスナック菓子の一部を覗かせていた。


「ばっ………何やってんだ!」

「ちゃんとお金は払ったよ、『色々」、買いそろえたよ。『色々』」

「ああ、そう………?」

「まあ、もらったものも結構あるけれど」


紙袋をさっと出すと、菓子パンやペットボトルの飲み物を中心に、食糧セットを形成していた。

………もらった?


「ウチの店員が助けられたようなんでね」


マチダさんと呼ばれた、背の高く、少し怖そうな女の人は言う。


「いいよ、その子はヒーローだから。サービスしとく」


と言って、にっと笑った。


「ヒロインだよ」


と妹は返して、ありがとう、と言い。

身を翻して、小さな背中、というか赤いランドセルを見せて歩きだした。

「ありがとう、ございます………」

あの静かな女店員も、頭を下げた。


「本当に何から何まですいません………じゃあ、行くんで」

厳密には食糧だけだが、今はこれがすべてに近い。

「バイバイー」

やはり最後は締まらない。

朗らかになろうとすると、こうなってしまう。





お店が見えなくなるくらいまで歩き続けてから、妹に尋ねる。


「妹、そろそろ説明しろよ」


「うん?なあに、お兄ちゃん」


「今日の朝から何が起きてんのか、説明してくれって話だ」


それ以外何があるってんだよ。

多くは語らない妹だが、こいつは警察や自衛隊よりも、今日からの世界について理解が進んでいると僕に感じさせる何かがある。

何を知っているんだ。

何故知っているんだ。


「妹たちによる『爆発ゲーム』だよ」


「………爆発、ゲーム?」


「言っても信じてもらえないと思ったし、どうしても説明が長くなるから今まで黙ってたの。簡単に言うとだけどね………世界中の妹に指令が下ったの………天啓、とも言うけれど。大いなる命令だよ」


そんなことを言われても、しっくりと来ない。

実態が伝わってこない。


「それで、さっきの子は、あんなのになったのか?」


飛行しながら爆発を起こしていた少女を思い出す。


「何とか倒せたけれどね………つまり、血縁上『妹』になっている女の子は皆、能力を手に入れるのよ。爆発や破壊に関係するチカラ………」


「妹だけ?じゃ、じゃあ」


僕には何もできないのか。

戦えないのか?

それどころか僕のクラスの男子も………。

ていうかすべての『妹』に爆発能力だって?

なんて目茶苦茶な。


「おい、世界に『妹』って何十万人いるんだ?」


「ん、知らないけれど………」


「いもうと、いもうと………よく考えたら人口が七十億くらいなわけだから、妹も『億』を超えるな」


妹モノのゲームに詳しいと音に聞く、クラスメイトの尾宅田(おたくだ)くんでさえ、そんな計算を試みたことはないだろう。


「でも、指令に耐えきれなかったり、妹としての力が弱いとか色々な要素で、暴走して町を破壊する子もいるの」


「そ、そうなのか」


なんか笑えてきた。

妹としての力ってなに?


「だから、さっきお兄ちゃんを攻撃してきた子のこと、恨まないであげてね」


「………いや、まあそんなこともあったか。そんな気にしてないけど………あの子はもう、攻撃しないのか?置いてきちまったけど」


「うん、浄化したから、落ち着くって言うか………とにかくもう大丈夫なはず」


「浄化って………」


ていうか。


「元凶はなんだよ!止めにいこうぜ」


景色を見渡すが、当然、この騒ぎを起こしたボスなんて見当たらない。

看板は曲がり、電柱は傾き、街路樹に寄りかかっているものもある。

見晴らしだけは昨日よりも良くなっているが、嬉しくない。

僕は戦えないのかよ。

なんだよ、ちくしょう。

爆発合戦は男としてやってみたいもの………かどうかは微妙だが、妹に戦いを任せて隠れるのは、無性に腹が立った。

厳密に言えば、剣を携えてやりあう方が格好はいいし、人気が出そうだけど。


「元凶………元凶か。そういうものもあるのかな………?」


妹はぼんやりと呟く。


「そりゃあるだろ………ていうかさ、どこに行けばいいんだ。町の外に行くにしたって、あまり行けないしな………」


親に心配かけるのも、なんなのである。

ていうか、遠くに行けば何かがあるというわけでもないが。


「そうだ、お前今日小学校行ってないんだろ」


純粋な疑問、思いつき。

そのまま口にしてみる。


「そっち行こうぜ」


「えー………」


「えーって………友達だっているだろ、ほら、ユキちゃんだったけ、なんとかちゃん」


「いるけれど………」


「?」


気が進まない風である。

僕はともかく、俺の妹は友人関係で上手くいっていない感じはない、リア充だと思うのだが。

それでも会いたくない日というのはあるのだろうか。

俺にはわからんが、小学生の時か。

俺はどうだったかな。

何か、俺の不注意が原因で友達と険悪な仲になったことはあるが。

とか、幼い日の、それこそ誰でも一つは持っているであろう苦い失敗譚を回想シーンとして流してみようかと思っていたが。


高校生の人影を見つけた。

高校生、というか………ウチの高校の制服を着た、女子だった。


「アレ………佐藤さんだ」


「えっ?」


「あそこに女子がいるだろ、クラスメイトだよ」


妹に説明すると、急に表情が険しくなった。

佐藤さんを睨む………というほどではないが、注視する。

なんだ?

佐藤さんは春に、俺の席のすぐ近くにいた女子で、誰にでも親切な、女性らしい女子である。

女性らしい女子、というのも間違った日本語に聞こえるが、ニュアンスを汲みとって頂ければ幸いである。

学校の成績も良かったと思う。

クラス日誌の各教科成績トップ5に、よく名前を乗せるほどの才媛ぶりを発揮している女子だった。

妹は警戒している。

なんだよ、なんなんですかぁ?

もしかして俺と仲良い女子かと思って、妬いてるんですかねぇ………?

なんてね。

僕は彼女みたいな魅力的なヒトから親しくはされていません。

彼女はクラスで、誰にでも優しい。

しかしオトコと極端に親しくはしていないような気がします。

そういうところが多くの男子にとって堪らない。

少なくとも俺はそう思う。

………彼女の前だと、僕ではなく『俺』になりたい。

そう思うときもある。


「あの―――、佐藤さん!」


呼んでみた。

クラスメイトと会えるだけでも、こんなに嬉しいのだ。

なんとも不思議なものだ。

視界の端で、妹がものすごい勢いで首を回し、俺を凝視した。

それには特に気にせずに続ける。


「佐藤さん!」


佐藤さんはこちらに振り向く。


「僕………ボク、ボク。オレオレ、香田だよ。助かってよかった。佐藤さんも学校は休み?―――こんな状況じゃあ、行っても仕方ないからな」


「ああ、香田くんかぁ………うふふ、香田くんいいなあ、幸せだよ?」


「え………?」


何を言っているのか、よくわからない。

佐藤さんの整った顔は、笑っていた。

異常なほどに。

しっかりと笑っていた。

笑顔の女子は可愛いものだろうが、しかし俺の知っている佐藤さんは、モナリザの肖像のように、よく見れば微笑んでいるといった柔らかさがあり、毛並みの良い、元気な犬のように野生だった。

そう、動物でも持ち得るような笑顔だった。

それを少し離れた席から眺めるのは心地よかった。


今の彼女は。

今日の彼女は。


「香田くぅうううん………!」


俺に向かって、猿のような笑顔を向け、手を翳す佐藤さん。

俺はそのとき、

首筋を氷が舐めた。

そんな寒気を覚え―――。


「お兄ちゃん!」


妹が俺の前に飛び出す。

『爆発の衝突』が巻き起こり、俺は眼を細めて身体をすくませる。


「ぐわっ………!さ、佐藤さん?なにが、」


なんだ?何が起こっている?


「あはははは!香田くん、爆発だよ!楽しいから爆発しよう!ば、ばくあつ、爆圧!

ふふふふふ、大丈夫、恐くないよ!」


佐藤さんは壊れた機械のように嗤う。

ケタケタと。

醜い蟲のように。


爆破の振動は、ガレキを揺らし。

アスファルトに新たな亀裂が入っていく。


「お兄ちゃんどいて!私がやる!」


「ま、麻衣………?なんで、でも佐藤さんが」


「離れて!」


妹は、佐藤さんと対峙して、言う。


「新しいのが来たってことだよ―――こいつ!この女も『妹』だ!」


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