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どうなったんだ、僕の妹はどこだ!

爆炎で囲まれた部屋。

燃え盛る立方体。

それに包まれた王妹を目にして、叫ぶ。

サングラスの従者の一人、ニヴェンが叫ぶ。

「ルパニィ様が!」

「あの現地人、いったい何を使って―――道具を?まさか高性能の爆薬のようなものを………」

「―――いや、そんなものを用意できたようには思えない、軍人でもないのに―――」

サングラスは双眼鏡を覗き込みながら、冷静に解説する。

「なにか―――この世界の物理現象だろうか、詳しくは知らないがね」

静かに言葉を紡ぐサングラス。

従者たちはただ、黙って彼を見た。

喉まで出かかった抗議を尻目に、男は爆炎の戦いを見つめる。

「しかし、まあ―――………なんというか」



「お、おい………!」

言ってから、僕は言葉を続けることができなかった。

あの化け物のような戦闘力を持つ異世界の王妹、ルパニィについに一泡吹かせることができた。

小麦粉を使った粉塵爆発。

世界中で実際に大きな事故を起こし、相応の死傷者も出している。

原因が小麦粉とは限らない、主に炭鉱で起こるという、危険な現象である。

しかし。

粉塵爆発は………や、やりすぎでは?

足止めはすべきだが。

相手は女の子なんだ(僕の妹もだが)、何もそこまでしなくても、という想いが沸く。




「戦っている相手のことくらい、大体わかるよ、お兄ちゃん………強い敵にしか、こんな手は使わない………!」

麻衣は兄に目を向けることもなく、独り言のように呟く。

「爆発のエキスパートだね、本当に………強すぎ」

力なく息を吐くと、保っていた爆壁が解かれた。




爆壁の中から、火達磨になった焼死体でも出てくるのではないか、と僕は想像しないでもなかった。

あの爆炎の部屋、麻衣の張った対爆発用の壁が空から消えた時に、中から現れたのは―――炎だったのだ。

炎の、ヒト型のそれは、外気に触れると飛散した。

炎が剥がれていく。

剥がれた炎の中から、白いドレスを纏った、金髪の少女が現れた。

その肌は白かった。



「しかし、まあ―――………なんというか、流石はルパニィ、私の元、妹だった存在………だな」

サングラスは呟いた。



「………まさか!」

「む、無傷………!」

そんな、こんな、どうやって―――。



「爆炎で鎧を張りました」

爆発の戦いで王妹が負けることは許されない。

粉塵爆発によって異常膨張する、軌道の読み切れない大爆発に対抗するだけの威力の鎧を発生させる。

それでいて、敵の爆壁には絶対に触れないようにするという綱渡りのような爆炎操作。

粉塵爆発が自らの身体を焼く前に、酸素を燃やし、使ってしまうという意図もあった。

爆妹の頂点の、意地だった。




「もう、きッつい、や………」

予想外の爆発を完全に防がれた。

麻衣は疲労から来る笑みを浮かべる。

ただただ、疲れ切った、という、表情が弛緩しただけの顔のまま、麻衣は一足先に、地面に降り立った。

攻撃が来るまえに、壁になるものを探そうとした。

視界の端には橋が映る―――昼間に、兄とともに電車で通った橋だ。

建物のように、身を隠せる遮蔽物はなかった。

すぐに走ろうとする。

しかし、爆歩がうまく出せない。

空っぽの、留め具が外れてぺたぺたと揺れるランドセルだけを背負い、かろうじて、砂の上を歩いていく。

「『秘密兵器』は使っちゃったから………次の作戦は今から考えるしかないなぁ………」

その小さな背中、表情からは、今までの不敵さが失われている。

爆発に体力のようなものを使うとするならば、それをすべて使い果たしたのだと、だれの目からも、一目で理解できた。


自然落下しながら、王妹ルパニィは、両手を地にかざす。

「今度こそ」

闇夜に浮かぶ太陽のような、炎の虎が再び出現した。

爆炎の虎に、跨る王妹。

狂喜していた。

「今度こそ―――、終わり!」

王族の定めとして、領地を、新しい世界を手に入れるためにこの世界にやってきたはずだった。

しかし、このために来たのではないか。

異世界の、一人の素晴らしく狂っている妹に出会うという、そして倒す―――それだけのために、私は生まれてきたのではないか。

この妹に出会うために生まれてきたのではないか。

そんなことを考えてしまう自分がいた。


虎は着地し、今度こそ敵に向かって跳躍し、捕まえようとした。

燃え盛る大木のような脚を深く曲げる。

どぽん―――と、闇に飲まれた。

「あッ………?」

虎が地面に、飲み込まれる。

着地した地面が下がった。

王妹は意図しないその感触に混乱した。

「足場が―――下がる?」

下がるというよりも、足場が不安定なのか。

階段を一段踏み外したような感触………に近いと感じた。

砂か、礫岩(れきがん)の影響?

次の異常は、虎だった。

虎に異常が現れた。

野生の熊よりも大きいのではと思われる炎の虎が、強酸でもかけられたかのようにじゅわりと、煙を上げて溶けていく。

「なッ―――?」

白い煙が上がり―――周りを埋め尽くしていく。

白い煙―――また『マイ』の攻撃か?

今度は何をした―――何故、虎が、溶かされて、下に下がる?

削られる、呑まれる。

とっさに炎の虎の維持をしようとした、力を割いた王妹は、それに集中してしまい、肩まで地面に浸かった。

「うっ………!これは」

自身も虎も、地面に沈んだところで、ついに、それが地面ではないことに気付く。

炎を継ぎ足しても継ぎ足しても、虎が回復しない原因がついに判明した。

足場など、最初からなかった。

「み、『水』………!」

大量の水の中で、脚がくずれたものをばたつかせ、もがき苦しみながら消滅へ向かう炎の虎。

もはや原形を留めていなかった。




僕らはついに妹たちに追いついたが、眼前に広がっていたのは予想外の光景だった。

「なんだ、どうなったんだ、僕の妹はどこだ!」

「『川』だ!あの王妹め、『川』に落ちやがった!」

「水蒸気がひどい………白い煙で見えないぞ!」



目的地まで150メートル。

進路、西にずれたまま



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