火花を散らすのは妹だけで十分だよ
地面と、商店街のシャッターが振動で音を立てていた。
爆撃は遠い。
鳩首協議はまだ続いている。
「納得が………」
九里坂が口を開いて、妙なことを言った。
「もう少し、聞いていいか」
納得がいかない、というふうに―――ああ、そういいたかったのか。
それまで押し黙っていた九里坂が口を開く。
「あんた、サングラスさん、異世界の人なんだろ、あの王妹の、ルパニィとやらのなんなんだ」
「………ん、関係者さ」
「関係者?」
声が裏返る。
「やっぱりその王妹の誘導、とやらは参加できない………凛もだ。駄目だ………信用できない。王妹とグルになってる可能性がある」
「………つまり地球を侵略しに来たと?」
「そうだ。誘導して………その先で何をするかわからない」
「なるほどごもっともだが――-――敵の情報を教えてやったじゃないか。炎の虎を事前に知っていたからこその、対応ができた。そしてカリヴァが来るまで粘れば助かる、ということも」
「………」
確かに、知らなければ心の準備も何もなく、落ち着いて戦うことも困難だっただろう。
「どの道、君たちだけでは止められないよ、侵略」
サングラスが何でもないことのように言って――-――それが引き金となったか、九里坂が怒った。
「もういい!」
「だが!王妹を連れ去ればイデアは崩壊し、間違いなくこの世界の侵略は中断になる。それどころではなくなる………王族、中心部は混乱………そのあとどうなるかは知らないが」
「そのあとどうなるかは知らないだぁ?」
九里坂はうなだれる。
だが、諦めたわけではないようだった。
「………サングラスさん、あんたさ、もしかしたらルパニィの『兄』なんじゃあないのか………?」
え………。
そんな馬鹿な、と思いはしたが、思いのほか空気が重くなったので戸惑う。
特に、サングラスのボディガードだという四人。
あまりにも静かだったが完全に――-――そう、異質な無になった。
暗い森林の中、猛獣が隠れている茂みを思わせた。
僕はそれにただならぬものを感じる。
どういうことだ。
そういえば名前を明かせない、とか言っていた気がするが、身分を隠しているのはつまり………隠している理由、やましいことが?。
「………『今』は違う」
「今は違う?何だ、どうなってるんだ、理屈が」
「もう少し昔話に付き合ってもらうことになりそうだね………できるだけ必要な情報だけにしないと、何時まで長くなるかわかんないのに………」
サングラスさんはその、サングラスを外す。
瞳の色は、青空のような――-――水色。
もちろん初めて見る色で、僕らは驚きを隠せない。
「ルパニィとは違う色だろ。血はつながっていない」
サングラスを外したサングラスさんは言って――-――ややこしい言い方だな、オイ。
彼はすぐにかけ直してもどる。
ボディガードの中で一番背の高い女性が、サングラスさんに耳打ちをする。
知らない言語だった。
サングラスさんはそれを聞いて、首を振る………「いい、いい」
「ああ、悪いね、喋りすぎるとみんな怒っちゃうんで――-――だが、信用してもらうためには仕方がない。このボディガードもね、今はこの世界用のウィッグ、カツラをつけてるけれど、もうちょっと目立つ色の髪なんだよ」
「じゃあ爆発界のことを話すかな」
彼は言う。
「ルパニィの故郷の話。私の故郷ではない場所の話。さあて、私の目的はね――-――連鎖を断ち切ることなんだよ。爆発の連鎖を」