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爆妹会議だ。

「炎の虎っていうのはね、それがルパニィの能力なんだよ――-――虎かぁ、まあ、こっちの世界では虎に近いのだろうねえ。ルパニィの世界の動物を模したものなんだけれど。あれに乗って戦うから、爆騎(ミルッチ―ド)とも呼ばれているんだ、イデアの王妹は」


ベンチに腰掛けたサングラスをかけた男が、淡々と言う。

語る。


「ああ、でも言語が違うからこの言い方じゃあしっくりこないよね。世界観の変更で言語の問題は解決しているけれど、だから異世界人とも話せることは話せるけれど、固有名詞までは駄目か。『爆炎の獣に乗る者』とか、そんな意味だよ………ううん、対応する言葉がこれでいいかは微妙だけれど」


男は気だるげに語る。

厄介だ、と心底理解している風に。


麻衣は聞きながらも、城の方を見る。

と言ってもさっきの赤い城は、一番高い塔すらもここからでは見えない。

そういえば城にしては決して高層な建築ではなかったように思う。

低く、重厚で――-――そう、『爆発に強そう』な城なのだ。

遅まきながら、丁度いい表現を思いついた気になった。

サングラスの男は麻衣がよそ見しているのに気づきはしたようで、しかし特に何も言わない。

話が重要なのはわかる。

しかし今、あの王妹が本当に追ってこないという保証はないので、人の話を聞くような心境にはなれなかった。

城自体が、あまり高さはなく、そしてその城から必死で逃げて、まず見つからないだろうと思った手ごろな商店街の休憩スペースに逃げ込んだのだった。

ベンチと、妙に巨大な時計がある。


晴瑠と亜紀はいまだに息を切らしていた。

今になってやっと(にじ)んできた汗が頬を伝って下がっていく。

私たちは生き残った。


疲れたのもそうだが、状況もわからない。

ラーメン屋から出てきた四人、そしてこのサングラス男と席を共にして作戦会議のようなことをやっている。

と、理解した。

いや、理解はできない。

一旦、退()いたからには、次の戦いのことを考えるのは避けられないことだが、これは何の集まりなのだ。

唯一つ言えることは、先程まで爆発で死ぬかと思っていたが、今これから誰かに質問をできる時間くらいはあると言うことだ。

それと、さらに言えばサングラス男の隣――いや、両隣りに。



「ん、彼女らは、私のボディガードさ」

視線に気づいて注釈してきた。

サングラス男の回りには、女子が四人いる。

なんとなくだが姉妹が二組で四人なのである、という風に身長から察しはつけた。

彼女らは一歩下がった態度で、気配が薄い。

黒い髪は影を思わせるように目元を隠している。


「………よろしくね」


などと言ってはみたものの、小さく礼をするだけだった。

少なくとも進んで会話に参加することはないだろう。言われずともこのサングラス男の手下――-――手下と言うのもおかしいが、部下のような印象は受けていた。

全員で9人。

この場に妹は………亜紀と、ラーメン屋から出てきたうちの二人と、そしてこのサングラスの男のSPらしきうち、二人か。

合計5人の妹による超妹会議だ。

「おのれ、ハーレムか………主人公っぽいことをしやがって」

香田が呟いたので麻衣が羽虫を見るような眼で(さげす)んだ。


サングラスの男が言うには。

「彼女らの名前は教えてはやれない。信頼ができるとだけ言っておく。こっちも隠れて動いているのでね」

「はあ………」


「で、だ――-――城の内部のことだが、君たち。中に入った二人は、見たんだっけ?」

話が晴瑠と亜紀に振られる

「………まあ、見ましたけど」

おそらく年上だと思われるので敬語を使うが、このサングラス男のことは知らない。

ラーメン屋から出てきたときにはいなかったはずだが、この香田と九里坂の仲間なのだろうか。



「あ、あんたたちさあ――-――」

耐えきれず亜紀が話そうとするが、晴瑠が被せて制した。

「助けてくれてありがとう、本当に感謝してるぞ、うちの愚妹も」

続ける。

「で………もう少しわかりやすく教えてくれないか。そっちのサングラスの人、あんたはどうやら『王妹』のことを知っているみたいだが――-――あんたも戦ったのか、あいつと?」

「戦った?いや、そういう間柄ではないが………」

サングラス男の言葉選びの(いとま)、亜紀がわずかに反応する。

「なぁに、あの白ドレスと知り合い、仲間なの、あんたまさか――-――敵側?」

「やめろ亜紀」

(とが)める晴瑠だが、彼も彼で不安だった。

このグラサン、何がというわけではないが、胡散臭(うさんくさ)い。

「仲間か………ううむ。どうやら勘違いをされてしまうようだね、私じゃあちょっと誤解を生んでしまうかな、コウダくんとクリサカくん………君たちの方がいいか」

「僕………ら、ですか」

「うん、そう。同じ日本人同士でしょ」

晴瑠と亜紀は顔を見合わせ、疑問がまた増えたというような表情をする。

「じゃ、じゃあ………」

香田がたどたどしく説明を始める。

「ええと、このサングラスさんは――-――」

「ちょっと待ち、あんたが香田?」

晴瑠が挟むように質問。

「ん、そうだ。で、妹の麻衣」

「麻衣か………俺は晴瑠。こいつは亜紀」

炎の虎と渡り合っていた――-――渡り合えていたかどうかは微妙なところだが、戦っていた妹のことを名を知れて腹が満たされたような妙な気になった晴瑠。

もう一人………。

クリサカ?

「九里坂と、凛だ。だが今はそれよりも、この人の話を聞いた方がいい。続けるぞ、このサングラスさんは、どうも城の王妃………じゃなかった、王妹の事を知っていて、そして彼女をこの世界から、取り除きたいと考えているらしい」

………。

「そんなことができるのか」

晴瑠が半信半疑で香田に聞き返す。

「できる」

答えたのはサングラス男の方で………言いきった。

どうやらこの男が長々と――-――まるでこの男が中心のように会議をしている理由はその辺りにあるらしい。



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