赤い城の王妹
城に入って中を見回す。
敵を探さないと――――その敵がいるならばだが、最優先で視界に入れようとする。
城の玄関なんて言い方をしたが、二階までは吹きぬけている、立派なエントランスホールだ。
「………」
城の内部、これもまた綺麗なものだ。
陰りのない、ほこりをかぶる前の壁石の反射光。
水の流れる音がする。
みれば左右のお国、水を利用したインテリアとしての滝がある。
こまかい装飾の趣味はわからなかったが、つい最近建造されたとわかる。
おっと、いまは調度品の目踏みをしている場合ではない。
だが、さしあたって戦闘にもつれ込むことはないようだ――-――誰もいない。
敵からの攻撃の恐れは、ない?
………いや、流石にこの、開けた空間に誰もいないということはないだろう。
奥に階段があり、その先に扉、左右にも通路がある。
「………」
「気を抜くな、亜紀」
「晴瑠にぃこそ………」
誰かが隠れている可能性もあるが、気配がない――-――。
いや、自分に気配を感じるようなスキルはないのだが、入ってきた玄関から響く、緩やかな風以外の音を拾えていないことは確かである。
晴瑠が階段状のとびらに注意を向けていることを確認し、亜紀はほかをあたる。
場を、床を見る。
床が黒い。
濡れた貝を敷きつめたようなそれは、いい気持はせず、なんとなく息を止めて匂いを体内に入れないようにする。
今度は目で、視覚のみで確認。
床を軽く足踏み、そして蹴ってみる。
靴の中身に返ってきた感触が硬い。
素材、鉱物自体が――――頑丈そうだ。
「これは果たして、爆発で―――」
「うん?何か言ったか?」
「んーん」
「壊すって意味?」
「そうじゃなくって………ああ、そういう意味か。壊そうにもダメだなあ、丈夫そうだなあってこと」
と言ったら兄も納得したらしい―――ゆっくりと、前に進む。
思い至ったことがあって、私は足元から顔を上げ、振り返る。
さっき爆発で開けた、玄関こと城の正門?を見る。
爆発で開いた。
ドアが稼働したのは確かだが、爆発で壊れてはいなかった。
目を少し細めて観察したが、やはり傷一つついていない様子だ。
「………ここでは、いくら暴れても平気そうだね」
「すぐに崩れられても困るけどな」
天井には照明があった。
もちろん良く知る蛍光灯などではなかったが、ガラスに近いものだろうか。
奥の扉が軋み、開く。
それは、その服装は突然現れた照明のように眩しかったので、晴瑠と亜紀の二人は警戒する。
入ってきたのは女の子だったので、その身構えて不正解ということはないだろう。
やれやれ、また『妹』か。
「こんにちは」
この城の主とおもわれる、お姫様の自己紹介の瞬間、亜紀が爆発で飛び――――兄の前に出る。
そして言う。
「はじめまして。あんた誰?ええと――-――まあ、お姫様でいいんですよね」
ドレスは光のように白い。
「お姫様であそばせ?」
「少し違いますね、王妹です。名前はルパニィ」
彼女は言う。
兄と二人きりの時よりも、やや礼儀正しく
言いはしたが、聞き慣れない、っていうか初めて聞く言葉だった。
「おうまい?」
「王の妹、爆発を統べるものです。こちらの世界には、今までなかった概念だと聞きます」
「………」
やはり元凶だったか。しかし、いきなりこの城の王さまの妹が出てくるとは思わなかった。
もっと回りくどいものだと――-――。
亜紀は晴瑠の方をちらりと見る。
黙って聞いていたが、口を開いた。
「俺は兄で、晴瑠。こっちは妹の亜紀」
などと呑気にのたまうので、呆れてしまう。
この胡散臭いオンナは侵略者だ。
被害が出ている。
そこそこ整った見た目だが、礼儀や挨拶なんてちゃんちゃらおかしい。
かといって、亜紀はそこまで破壊された町に思い入れがあるわけでもなかった。
純粋に、この王妹とやらが、なにか――――。
「楽しいでしょう?」
王妹が、ふとつぶやく。
その意味がわからなかったが、続ける王妹。
「爆発ができるようになって――-――今までできなかったのにできるようになって、どんな気持ちですか?」