妹のせいで商売あがったり
ショッピングセンターの女店員である砂原は赤くなり始めた空の水平線を眺めている。
ぼうっとしていた。
時間がなんだろう………いや、時間は何時だろう、と周囲を見回してみても、建物の時計はもうガレキの下のどこかにあるはずだ。
この店はもはや柱は残しているものの、どこかの古代文明の遺跡のように、中途半端な外壁に囲まれているだけだった。
風雨をしのげるかな………風は、横から来る風は防げるが、天井はないので雨は防げないだろう。
そう思うと、今日、晴れているのが運のいい事のように感じられる。
大参事は起きているのに。
あの女の子………麻衣ちゃんという小学生に命を救われてから、特に何事もなく、ひび割れたベンチに腰掛けて過ごしている。
ベンチには値札が張ってあり、割安商品と宣伝してありはするものの、あの崩れた天井にやられた爪痕が残るので、もはや売り物にはならないだろう。
電話も通じないから本社と連絡が取れず、その商品の管理はもう、この店舗で独自の判断をすべき時だが。
高校生の男の子も………あの主人公とやらも、もう行ってしまった。
あの兄妹は無事かな。
二、三回、女の子が遠く、轟音とともに飛び跳ねるの目撃はしたが、あとは何事もなかった。
店は閉店。
『妹たち』によって屋根が崩され、商売上がったりになってしまったわけだが、それでも数人の店員でここを、夜も交代で見張るつもりでいる。
まだ潰れていない商品もある。
「例えば」
と独り言を言いながら、生きているレジの機械を通して清算が済んだ、ペットボトルの水を紙コップに注ぐ。
喉に通すと、水とはこんなに美味しい………いや、ありがたいものだったのか、と思い知る。
災害時においては甘露である。
私はもっとこう………紅茶花伝とかが好きだったのだが、不思議と今は飲む気が起きなかった。
離れた場所に、金色の光の鳥が降り立った。
光の鳥は見間違いだったのかもしれないが―――――ああ、近づいてくる、あの子も『妹』なのかと思った。
参った………どうしよう、こちらに来る。
私は以前、コンビニの店員もやっていて、まあ、客商売が得意ではないけれど、多くの時間、そこで触れているのだろう………それは間違いなかった。なんていうと、また町田さんに、上司にどやされる。
私なんてまだ素人同然だ。
若造である。
まだまだ。
ガレキに降り立ち、歩いてくるその少女が日本人でないことは、遠目にもわかった。
色が違う。
昼間のこともあったし、命の危険も感じないではなかったが、怖くはなかった。
怖いといえば崩壊した町が怖かったし、これ以上怖くはならないだろうと思うと、人間、安心はしないまでも安定はしてしまうのだろう。
それに、あの兄妹に救われた時点で、十分に長生きしたような気はしたのだ。
ええと、なんだっけ。
客商売に慣れていると驕っている私、そんな話だったか。
とにかく、働いていると、それこそ色んなお客様が来られるのだなと思った。
そうこう考えている間に、少女はベンチに座っている私の前にたどり着いた。
………いや、勤務中だ。
お客様として扱おう、お相手しよう。
女の子は、蜂蜜のかかったトーストのような色をした髪を揺らしていた。
瞳の色は夕焼けと大差なかった。
さて………何人だろう。
高校にいた頃、私は英語が得意ではなかった。
あの時はそれでもあまり悔しさは感じなかったが、今この時になって、もうちょっと勉強しておくんだったな、なんていう素直な想いが沸いた。
女の子は紙を差し出す。
紙、というには小さい、手ごろな………そう、メモだった。
「これください」
私はメモを目に通す。
なんてことはない、お客様もよく使っている、買い物のメモだった。
少女は幼かった。
はじめてのおつかいかな?
そう、あたりをつけた。




