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他の兄妹の場合! 晴瑠と亜紀

とあるビルの屋上。

麻衣たち四人組が、豆つぶ程度の大きさに見える距離。

建物の天辺(てっぺん)の看板の影から顔を出して、少女はそれを見ていた。



「へえ、『組んでる』んだ、ふうん………友達同士かな」


息を呑みながら言ったふうだったので、少なからず驚いているようだ。


「なあ―――亜紀(あき)、本当に兄と妹なのか?」


「身長から推測して、そんな感じ。だとは思うけれど………あいつらシラフだね、狂った妹じゃない」


「じゃあ………」


少し気が抜けた。

あの好戦的な連中ではないらしいとわかり、ほっとした口調になったのは否めない。

だが、妹の亜紀(あき)


「でも近づいて戦闘になることもあり得る」


と静かに言い、いまだに警戒はしているようだ。


「ねえ、にぃ」


「ん?」


晴瑠(はる)にぃは、あの『敵』が言っていた通りにするんだろう?さっきやっつけたやつ」


「ああ、この騒ぎの震源であるという可能性は高い………震源ねえ、いや、爆心地と表現した方がいいかもしれないな―――目的地はあっちだ」


俺はラーメン屋から出てきたあの四人組が向かったのとは違う方角を指差す。


「ていうかもう降りろよ、そこ、危ないだろ」


「ふふん、なんだよにィ、怖いの?にぃなら怖いだろうねー」


亜紀は得意げに看板の上に登り、立つ。

なんなら踊ろうかといわんばかりに。

ビル風が二人の服を叩く。

こいつは爆発を覚えてから、落下の心配がないので調子に乗っているのだ。

………あぁ、やっぱりついに踊り出した。


「あっ、敵発見」


「なんだって?」


踊っていた亜紀がぴたりと止まって、遠くかすんだ景色に手を伸ばす。

手をかざすのでなく、人差し指を伸ばす姿勢だ。

もう片方の手で支え、ピストルを構えるような姿勢を取る。

良く見ると、彼女がのしかかっている、足場であるフォント形状の看板はヨシザキ生命と書いてあった。

生命保険が今どうなっているのか、ちゃんと払われるのか、見当はつかないが。




「ばぁん」


亜紀が小さくつぶやくと、遠くの住宅街で爆発が起きた。

小さすぎて炎の色は見えない。

灰色の(ちり)が広がる。


「ばん、ばぁん」


もう何カ所か、彼女はよくみれば左目を閉じつつ、つぶやいていた………すると水滴が落ちて弾けた程度の可愛らしい爆発が連続して発生する。

ここからはそう見えるだけ。

現場では、十分な威力だろうなと思いつつ――。

俺は双眼鏡を取り出して、今しがた粉塵が舞った地点を目で探る。

耳を澄ます。

少し間をおいて、爆発音が風の音の中に紛れて、一応は届いた。


「攻撃したのか」


「うん、外しちゃったけどね、攻撃………。近づかれるのも嫌だし」


「………」


「そもそも、にぃが言いだしたんでしょ、作戦会議するからって」


「ああ、その議題だった『次の行き先』も決めた。どうせどこに居たって爆破される危険はあるんだ。だったらもう行こう………それはいいとして」


「いいとして?」


「今の敵………、倒したのか?」


「たぶん二キロくらいあるし、直撃はしなかったよ」


「え、じゃあなんで攻撃したんだよ」


「狂ってるタイプの妹だったからでしょ、動きが明らかにそれだったし、『単独』だったし。近くを崩してびっくりさせてルートを変えさせたの」


「ふうん………」


二キロ先を爆破できるという、妹の成長ぶりにも驚いたが、慎重さにも恐れ入る。

先程倒した相手にも、苦戦はしたので慎重にならなければ。

とにかく戦えばいいというものではない。

近づいて二対一になったら………。


「そうだな、近づいて二体一は嫌だ。………俺が死ぬ」


という可能性がある。


「そんな簡単にいかないって、頑張るよ、アタシ。ていうか四対二でしょ、さっきの子たちにぶつかるとすれば」


「どちらにしろ勘弁だろ、それにもう死んでる奴だっているんじゃないのか………見たくないが。探してまで見ようとは思えないが」


しかしどうだろう、今後、そういう事態になった時のために耐性として、ワクチンとして、あらかじめ死体を見ておくというのも大切かも知れない。


「嫌だねぇ………」


呟く、晴瑠。

嫌だが不可避な気はする。


「んじゃあ、いきますか、本当はもうちょっと練習したいけどね………そう、狙撃爆破には誤差が、まだあるからさ………練習していい?」


「練習?そんなので上手くなるのか」


「うーん………」


亜紀は何とも言い難い、台詞を考えているような仕草を取る。


「努力は結果に結び付くとか、そういうことを偉い人も言っているし」


「狙撃なら普段からコールオブデューティやってるだろ」


「ええ?あれはゲームだし」


「ふん………なんにせよ、目的地にもう少し近づこう。奴が言い残したことを信用するなら、『妹』はそこに集まってきているらしいからな」


「ターゲットはいっぱいいるわけだね―――晴瑠(はる)にぃ、じゃあ背中に乗って」


看板から飛び降り、背中を向ける妹。


「また飛ぶから。爆発で」


「………」


また、あれやるのか。

苦手なんだよなー。

と言いながらも、その小さい肩を掴む。


「なんでそんなこと言うの、移動しなきゃでしょ、妹に失礼だとオモワナインデスカー」


「いやぁなに、妹に肩車………じゃねえ、おんぶされるのも妙だし――――」


もっと言うなら、


「爆発で飛ぶのにも慣れてないからよ」


「わたしだって今日が初めてだよ。まあ、ジェットコースターか何かに乗った気で、まったりとした気分で、どうぞ」


「………」


ジェットコースターは、まったりできないだろ。

次のビルに飛び移り、風に瞼をしかめ、強張らせながら、俺は思った。


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