ふにょんとぱにょん
「お昼、鍋にしよう」
地球温暖化というより単に気候が亜熱帯化しているだけな気がしてならないというか、最近のゲリラ豪雨というのも結局、東南アジアのスコールではないのか?いやまぁ、湿度が段違いなのであれだけれども、と思ってならない、環境って結局、『人間にとっての』という形容詞がつくと思っている系女子である所の私がふと思い立ってそう口にした所、睨むように『なんでよ』と言われた。
「そのきついおめめが素敵よ、はにー」
『あ』に濁点がつく感じで睨まれた。
どきどきする。
「……こんなに暑いのに鍋とかどんだけ被虐体質なのよ」
更に睨まれた結果、胸の奥がどきどきした。
「そこそこ程々に」
この胸の高鳴りが聞こえないように、と胸元を抑える。ふにょんとした。
ぷにょんではなく、ふにょんである。
比較的(おもに眼前に立つ子と比べて)その辺りがふくよかな私。もう少しすらっとした方が私的に嬉しいのだけれど、今更どうしようもない。
あぁでもダイエットしたら少しは減るかもしれない。結局脂肪なわけだし……というわけで鍋である。熱中症にならないように気をつけつつもがまん大会がしたい。
というわけで、『したい』といえば肢体と思い浮かぶ系の女子である所の私は眼前の女の子に目を向けた。均整のとれた素敵な肢体である。リビングデッドも避けて通るぐらいの肢体である。ほっそりとした足。これは私にとっての環境的な意味で素晴らしいという意味のホットパンツから伸びたおみあし。あしである。長い。かもしかなんて目じゃないよ。あ、目といえばきついおめめ。端正な顔立ちに良く似合った感じの切れ長。大変グッドです。あと、お持ちなおもちは控えめだけれど、きっとぱにょんという感じで反発しそうなくらいに弾力がありそうで是非触ってみたいと思わなくもないのである。いいや、思う。思います。だから、―――
「視線が不潔」
「視線が!?」
「思考が不憫でも良い」
酷いものいいもあったものである。
などなどどうでも良い会話をしながらいつのまにか家の付近。なんだかんだと付き合いの良い子である。逃げ場がないだけかもしれないけれども。ともあれ、神様、こんな私とこの人を合わせてくれてありがとう。60億だか70億だかしらないけれど、1/70億の確率を当ててくれた運の良さ。いいえ、これは運命よ。うんうんというわけで、家に連れ込んだ。
―――
暑い。
部屋を閉め切って冷房も付けず、なんでこう被虐自慢みたいになっているのかは分かっているのだけれども、それにしても暑い。
ぽたぽたと流れる汗がシャツを透けさせているのは眼福なので良いのだけれど。良いのだけれど!あ、ちょっぴりフローラルなか・ほ・り。やっぱり素敵ね、この子は、と目を向ければ死んだイカのような目で鍋を眺めていた。
ぐつぐつ、ぐつぐつとさっきから煩いわよ!と言いたくなるけれど、でも鍋さんのおかげで彼女のブラが透けているので私大満足。あぁ、シャツがぴちっと張り付いた鎖骨が麗しい。剥きたい。剥いて食べたい。じゅるり、とよだれが出て来る。
「……暑い」
「心頭滅却すればなんとやら」
「邪な思念が伝わってきているんだけど。主にその視線から」
あ、そのおめめ、ぞくぞくする。
「死ねば良いのに……」
「一緒に地獄に落ちましょう」
「やだ」
ぐつぐつ、ぐつぐつ。
なお、鍋に投下されたのは豚である。若い身空の女子二人が夏場に私室で二人っきりで豚鍋。冬なら猪が良かったです。炬燵に足をつっこんでやいのやいのやりながら食べたかったです。まぁ、それはそれで冬にやれば良いのでまぁ良しとします。
「……で、もう食べて良いの?」
死んだイカの目をしながらも視線は豚に。あぁ、この被虐体質系の私にとってとっても良い視線。それを向ける先が私だったら良いのにとか言いたくなる感じの視線がす・て・き。ハァハァと息が荒くなる。暑いからじゃないよ。犬と違うのよ、私。
返事が遅かった所為だろうか。彼女が菜箸で豚をとる。つままれた豚がポン酢を通過して彼女のお口に侵入していく。豚に侵される彼女の口腔。あぁ、卑猥だ。ぶひぶひ叫ぶ豚が彼女の麗しのお口に入って行くなんて、そんな……いやんいやんとやっていたら、彼女がもごもごと口を動かした。
「うごきがきもいよ」
「口に入れたまま喋らないの」
「ん」
もぐもぐと口を動かす。豚の肉が彼女の歯で分断されている。無理やり口を割って入ろうとしていた豚が彼女に切り刻まれているのだ。酷い。酷いわ。そういうのは私だけにしてくれれば良いのに!と考えながら菜箸を手に豚を捕まえる。ついでに野菜も捕まえる。お野菜大事。私、実はベジタリアンじゃなかったの。分かってた。
「暑い……」
「鍋にしようっていったのあんたじゃん」
その言葉と同時に彼女の髪がはらりと目を覆う。邪魔とばかりに髪を掻きあげ、耳の後ろへと。結果、うなじが見えました。
「ごくり」
「はやくたべないと無くなるよ」
はーい、と答えて豚を食べる。まぁ、豚である。豚は豚であって豚なのである。自己の遺伝子を紡ぐという生物の本能からすれば、人間に飼われるというのは意外と生物として良いものなのかもしれない。あぁ、私も飼って欲しい。
「……脱いで良い?」
「駄目」
もぐもぐ、もぐもぐ。
「汗がきもちわるいんだけど」
「駄目」
もぐもぐ、もぐもぐ。
暑くてシャツをひらひらしている所にちらっとみえるおへそが素敵。それにしても汗でぴっちり身体のラインが出ているのって卑猥よね、と思う。夏場に男子がブラウスから下着が透けているのを見てひゃっほーと喜んでいるのも分かるというものである。でも、それを見せるのは私だけにして欲しいのです。えぇ。
うんうんと納得していれば豚が食道を通過してストマックへダイブ。
続いてお野菜~と箸で野菜をつまむ。肉を食べる時は肉だけで良いじゃんという思想もあるみたいだけれど、似非ベジタリアンな私はベジタブルも食べるのです。
ひょい、ひょろん、ぽちゃん、ぴちゃ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
服にポン酢が……。
「なにしてんのよ……今日の当番私なのに」
汗だくの彼女がハァとため息をつきながら私の隣へと。あ、なんかこう彼女の匂いが素敵。ぴちっと皮膚に張り付いた白と肌色のコラボレーションが目の毒よぉ、とやっていたら、ほら染みになる前に脱げ、と私のシャツをひっぱる。
「や、やめて。そういうことはまだ早いと思うの!」
「うるさいよ」
毟り。
毟り。
兎の毛が毟られるように毟られる私。駄目、駄目よと反抗したい所だけれど、あばれるとテーブルの上のお鍋がひっくり返りそうなので仕方なのよ。仕方ないの。これは仕方のない行為なのよ。だから、脱がされても良いの。仕方ないから!
ぼろん。
「このメロン……」
私の汗だくシャツを手にしながら、いらぁと吐き捨てるような声が聞こえた。
ともあれ、上半身ブラだけという格好にされた私。ちょっとした解放感と涼しさを感じる。
「わたしはじゆうよー」
つい解放感に叫んでしまった。
「死ねばいいのに……」
「一緒に地獄―――」
「やだ」
言い終わる前に断られた。悲しい。
「……着替えても汗だくだしそのまま食べれば」
「それは駄目。お食事中に下着なんて駄目よ」
「そういう所きちんとしてるくせに、なんで普段は変態なの?お姉ちゃん」
「変態……あ、そのおめめ、ぞくぞくする」
「……………しねばいいのに」
―――
着替えて食事の続き。汗だくになって体重が水分量だけ減った私達は……私達姉妹は一緒にシャワーをあびました。それが計画だったのです。
やっぱり、妹はぱにょんだったのです。
了