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 夕闇の中、風が吹き渡る。小路を歩く人は、今や誰一人としていない。皆、己の家へと帰っていったのだろう。

 うすら寒さを増したその場所で、惟幸はその場に蹲り、泣きそうになるのを堪えている。その横では、盛朝が困ったように頭を掻いていた。

「……だから、僕は……」

「帰れる可能性があっても、帰ろうとしない、か……」

「うん……」

 惟幸は頷き、そしておずおずと顔を上げた。

「ごめんね、盛朝。僕が我儘を言わなければ、盛朝もさっさと邸に戻れるのに……」

 すると、盛朝は笑った。笑って、惟幸の背中をパン! と叩く。

「何言ってんだ。俺はお前の従者だからな。お前のいる場所が俺の職場であって、別に俺自身がお邸に戻りたいわけじゃねぇんだ。だから、お前に考えがあって戻らねぇって言うなら、俺はそれでも構わねぇ」

「盛朝……」

 惟幸の顔が、少しだけホッとしたように緩む。それに微笑み返してから、盛朝は顔をキッと引き締めた。

「言っとくけど、俺は今のままで良いと言っているわけじゃねぇからな。今お前がやっている事は、問題を先送りにして、逃げているって事に変わりはねぇ。……りつの事を諦めてお邸に戻るか、それとも、それ以外の方法を見付けるか。人生ってのは、方違えするみてぇに、嫌な事を避け続けるわけにはいかねぇんだ。……俺の言っている事、わかるよな?」

「……うん……」

 そう、返事をして。惟幸はまた俯いた。


――惟幸様!


「……っ!?」

 不意に、背中に悪寒を覚え、惟幸はガバリと身を起こした。これまでの消沈ぶりからは想像もできぬ勢いに、盛朝は目を見開く。

「惟幸? どうした?」

「今……りつの声が聞こえた気がして……」

 そう言う惟幸の声は、震えている。カチカチと、歯が鳴った。尋常ではないその様子に、盛朝は眉をひそめる。

「りつの? ……りつが帰ってから、もう随分経つぞ。まだ声が聞こえる場所にいるわけが……」

「けど、聞こえたんだ!」

 言ってから、惟幸はヒュッと息を吸った。立ち上がり、呼吸を整えて。努めて冷静に話そうとはしているが、顔色が悪い。

「……りつに、何かあったのかもしれない」

 盛朝の顔にも、緊張が宿り始めた。だが、険しい顔をしながらも、惟幸を安心させるため、希望的観測を口にする。

「けど……りつには明藤を憑けたじゃねぇか。明藤が憑いてりゃ、ちょっとやそっとの災難なんて……」

「そうなんだけど……でも、何だかもの凄く嫌な予感がするんだ。……明藤じゃ対処しきれない、何かが起こったのかも……」

「な……」

 流石に、盛朝も絶句した。そうこうしているうちに、遂に落ち着いている事ができなくなったのだろう。

「りつ……りつっ!」

 りつの名を呼び、惟幸が駆け出した。盛朝が制止する手も、間に合わない。

「惟幸っ!」

 盛朝が呼ぶ声は、惟幸の耳に届かない。あっという間に、黄昏の闇の中へと消えていく。盛朝は、「くそっ!」と毒づいた。

「無事でいてくれよ、りつ!」

 そう、呟き。そして盛朝も、惟幸を追って駆け出した。

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