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それでもゲームは遊びじゃない  作者: 有栖
第1幕 お義姉さまはFPS廃人
3/3

#3

ゲーム研究会、という名前は聞いたことはあるだろうか。

自由な校風の大学ならばかなりメジャーなサークル名だろう。

普通ならその名の通りゲームについて研究するのだと思うが...えっ?ゲー研は大抵遊んでるだけって?

はい、間違いないです。


ゲーム研究会と書かれたドアの前に立つ。

ここはただのゲーム研究会ではない。

ゲームについて研究しているのは間違いないのだが、歴史だとかシステムとかそういうものを研究しているのではない。

研究しているもの、それは"どうすればゲームに勝つことができるか"。


「すいません、会長に呼ばれてきたんですが...」


ドアを開けて声を掛けた。

中を確認すると、パソコンの前で虚ろな目をしている男性がいた。

目にはくっきりとクマができ、徹夜している感じが顔からにじみ出ている。


河野(こうの)先輩、会長は何処にいるか知ってますか?」


「副会長と一緒に隣の部屋。」


「ありがとうございます。」


ゲーム研究会、略してゲー研の部室はただの研究会にしては異様に広く、そして無駄に設備が整っている。

ゲームハードは何でもござれ、4つの棚にぎっしりと詰まったゲームソフト。11万~24万するゲーミングパソコン4台。テレビ2台。冷暖房、冷蔵庫、寝袋完備。

しかも、部室を実質二室も使っているという贅沢ぶりだ。

これは会長のコネによるものらしいが...詳しくは知らない。


引き返して隣の部屋に移動すると、閉めきった部屋の中で会長と副会長がいた。


「おお~う!黒崎くんいらっしゃい!昨日の試合見てるよ!」


まず副会長が声を掛けてくる。

名前は福原祐三(ふくはらゆうぞう)というらしい。丸眼鏡を掛けた見るからに怪しそうな少し背の低い男性だ。

服装や顔はよくいる理系のそれなのだが、服を着ていると何故か体育会系の選手みたいにがたいがいい。

本人はただの脂肪だと言っているが、ただのデブ...太り気味の男性ではないことを疑わせる。

特徴はその無駄に暑苦しく、鬱陶しいところだ。最近慣れてきたが、あまり相手にしたくない先輩第2位にランクインしている。


「昨日の試合ですか?」


「そうだよー。昨日行われたCFの試合さー。いやーやっぱり黒崎くんの力は素晴らしいな!」


CFというのは、舞に脅迫...勧められて今やっているFPSの名前である。

正式名称をクロスフィールドといい、かなりその道では有名FPSだ。


「きょ、恐縮です...」


「ぶっちぎりのスコア!単騎で3人を無双するこの強さ!うーん、素晴らしい。黒崎くん、やっぱり研究会に...」


ここでドゴォと効果音が鳴りそうな勢いで福原先輩の鳩尾に拳が入る。

かなり痛かったのか、そのまま呻いて倒れこんだ。


「研究会には入らない、そういう約束だっただろう。何回も言わせるな。」


ゲーム研究会の会長、天城都貴子(あまぎときこ)は福原先輩を見下ろして冷淡に吐き捨てた。

ロシア人のクォーターらしい彼女は少し色素の薄い髪をしていて目が青い。

顔も整っていて身長も高く、モデル体型の一見完璧な美少女ではあるのだが、口調が荒く、目つきも悪くて怖い。睨まれたら石化しそう。

また、かなりコネを持っており、どうやら大学の理事長の甥らしい。

金と権力と美貌でこの大学を蹂躙しているその姿は女帝と称されている。

あまり相手にしたくない先輩第1位に堂々のランクイン。


「冗談なんです...すいません...何でもしますから...」


「ん?もう一回言って?」


「何でもしますので!!!許してください!!!」


清々しいほどまでの土下座。それでいいのか。


「クリスタル2000個」


「え?」


「今からクリスタル2000個掘ってこい。あとで倉庫に入れておけ。」


「...はい。」


福原先輩は顔を俯かせてトボトボとパソコンの前へ行き、ゲームという名の作業を始めた。

クリスタルというのはMMORPGのアイテムのことだろう。それを2000個取ってきて納品しろとの命令だ。


「さて、黒崎くん。よく来てくれた。」


「どうも...」


「メンバーではないとはいえ、ここは君の場所だ。そんなに緊張しなくてもいい。」


緊張してるのはお前のせいだ!とツッコミたくなるがそんなことはできない。

天城先輩の気迫に押されているのと、今から何が始まるのか気が気でないからだ。

結構この先輩には短い間に色々されたからなぁ...


「早速用件に入ろう。君の昨日のCFの試合を見させてもらった。」


先程福原先輩にも言われたことだ。

昨夜に色々なチーム、専門用語で言うとクランというのだが、それらと対戦をした。2人はそのことを言っているのだろう。

...というか、CFをしているなんて2人には何も言っていないはずなのだが。どこから情報が漏れた。


「素晴らしいの一言に尽きる。始めて一ヶ月も満たないのにこの強さ。さすがと言わざるえないよ。」


「...恐縮です。」


昨夜の試合は全て圧勝に終わった。しかも、スコアは俺がぶっちぎり上位で。

全ての試合において通算1回しか死んでいないという脅威の戦績だ。

そりゃ、チート紛いのものを使っているんだから当然なのだが...


「そして君の所属するチームも強い。かなり腕のある熟練したプレイヤー達だ。特にクランマスターのあのスナイプの正確さ!スナイパーライフルに関してだけはプロゲーマー並みの腕前だ!」


クランマスターとは舞のことである。

かなり上手く信頼に値する腕前というのは知っているが、この人にこうまで言わせるとは。

さっきから褒めてばかりだが、普段の天城先輩の論評はかなりキツイ。

有名プレイヤーを「あいつは一部からちやほやされてるだけ。基本がなってないからすぐにボロが出る。初心者部屋からやり直せ。」とバッサリ切り捨てたりするのをよく見る。


「勿論二ヶ月後に開かれる大会にエントリーするのだろう?」


「ええ、まぁ。マスターはそう言っていますけど。」


「なら話は早い。ゲーム研究会は君を全面的に応援することにした。」


そう来るか。

こちらとしては舞にやらされているだけなので、そこまで本気でやろうとは思っていなかったのだが...

何だか面倒そうな事態になってきているような...?


「そこでだ。私達は今"君が勝ち続ける為に必要な情報"を持っている。」


「勝ち続ける為に必要な情報?」


「そう。君の能力は確かに高い。だが致命的に足りないものがあるが故、今後負ける可能性が出てくる。それは何だと思う?」


致命的に足りないもの。

思い当たる節は山ほどあるのだが、その中一番致命的でありそうなもの。

答えは自明だった。

そうでなければ、わざわざ"あんなノート"を大学に持ってきたりはしない。


「...知識と経験。」


「その通り。どれだけ素の撃ち合いが上手かろうが、致命的に知識と経験が足りない。始めて一ヶ月なら仕方ないことなのだが、それが露呈してしまえば、上位のクラン相手だと負ける可能性が十分出てくる。」


昨夜戦った相手はあくまで中堅クランだ。

大会を目指すというなら、必然的に上位のクランと戦わなければいけない。

上位であるということは、相応の知識と経験を積んでいるはずなのだ。

それらに勝つためにはその差を何とかしなければならない、ということなのだろう。


「それを何とかしてくれる代わりに、というわけですか。」


「そうだ。君の大会での活躍を研究会の実績ということにしてもらう。有名ゲームでメンバーが良い成績を収めたとあれば、研究会の評価は鰻のぼりだからな。」


要するに"絶対にバレないチート"を使って勝ち、勝った理由は研究会の研究成果によるものだ、と主張するわけか。

だが、この会長は俺の能力を完全には理解していない。

加速をただ単に異常に動体視力が良いだけと俺が誤魔化したからだ。

なので、自分の異常性を暴露されることはないと思うが...何か悪い予感がしてならない。


「勿論、ただでというわけではないよ?」


「ですが、お断り...」


「決勝トーナメントに出場すれば、今後1年間で履修した全ての講義の単位を保証しよう。」


「やります!やらせてください!」





-------------------------------------------------



ばたばたばた。

俺は急いで家に帰ると、舞の部屋へとなだれこんだ。


「ん?どうしたの黒崎。妹はやらないけど。」


舞はまるで今起きたような風貌で答えた。

寝癖で跳ねまくったロングの髪。黒のタンクトップにジーンズのショーパンという極めていつも格好だ。

妹はやらないという発言もかなりツッコミを入れたくなるのだが、今はそれどころではない。


「大会、俺も出ることにしたんでよろしく。」


「どういう風の吹き回しかな?こちらとしては構わないけど。」


自分の単位の為、とは言えるはずがない。

とにかくこんなに美味しい話はない。やるからには本気でやらなければいけない。


「じゃあ今日からもうこれまでよりもっっっと本気でやるからね。私は善戦だとか惜敗って言葉は大嫌いなのよ。やるからには徹底的にやるから!」


「ああ。よろしく頼む。」


「でもその前に...」


「その前に?」


そう言ってふと思い出した。


「黒崎、今日の晩御飯担当でしょ?何も買ってきてないじゃない。」


「すまん、忘れてた。」


研究会であの話を聞いてから、家に帰ることしか頭に無かった。

熱くなると他のことは頭にはいらないこの癖。昔から直そうと思っているのだが、少しも直らないな。


「葵ちゃんは受験生なんだから、もっとしっかりしなさいよ!彼氏として!」


「いや、お前こそ姉としてちゃんとしろよ。」


妹に頼りっきりのお前が言うなとツッコミを入れる。

本当にこの人は自分の立場を分かっていないな。


「私は...姉だからいいのよ。姉だから。」


「いや、駄目だろ...」


「とにかく!飯の用意!不味いもの作ったら殺すからね!」


「はいはい。」


ここは当番を忘れていた自分が全面的に悪いので、大人しく引き下がった。

全くもって厄介な人だ。

葵も葵で、なんやかんや舞を甘やかしすぎてるんだよな。

いや、今はそんなことを考えてる場合ではない。

明日の未来、そして自分の単位のため、頑張らなくては。

舞の居ない所で小さくガッツポーズをし、足早と夕飯の買い出しに出掛けた。

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