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それでもゲームは遊びじゃない  作者: 有栖
第1幕 お義姉さまはFPS廃人
1/3

#1

俺は硝煙が立ち込める戦場にいた。

ピンと張り詰めた緊張感。少したりともミスは許されない。

頼れるのは、近くにいる仲間と手にもっている銃だけ。

しかし、ここには戦場になければならないものが決定的に欠けている。

それは自分と仲間が今にでも命を奪われるかもしれないという恐怖だ。

そうここは本物ではなく、架空の戦場なのだ。

銃で撃たれたら現実では存在しないアバターが倒れ、電子の海へと消える。

これは命のやりとりなんてしないただのゲームなのだ。


このゲームはただのオンラインFPS。

FPSとはファーストパーソン・シューティングゲームの略で、一人称視点で銃を使ってPvPやPvEをするゲームだ。

ゲームは着々と進化を続け、SFチックなロボットに乗り込んで銃撃戦をしたり、無重力の室内でレーザーを撃ちあったりと非現実的なものが出始めている。

しかしこのゲームは実銃やテロリストvsカウンターテロリストなどというリアルな世界観を使っている古典的なゲームだ。

昔と今とで変わっているものと言えば、ユーザーインターフェースの向上やグラフィックぐらいだろう。

だがこれらの類のゲームは未だに根強い人気を誇っている。何故ならば、プレイヤーの力量が直に現れるからだ。

同じ条件の中で戦い、己の技を競う。それに最適なのが昔から続くこのゲームであったわけだ。

今では企業に雇われたプロのFPSゲーマーまでいる。一種のスポーツとして世界中に認識されているのだ。


俺はPCの前で手汗が滲んだ手でマウスをじっと握り、画面を凝視している。

時刻はもうすぐ日付が変わるぐらいだ。明日は朝から大学なのだが、今はそんなことを気にしている余裕はない。

画面には俺以外にも2人の仲間が居る。

俺を含めた3人は拠点の一つを制圧するために、そこに繋がる通路で待ち伏せている。


これらのゲームでチーム戦をする場合によく使われるのは、爆破戦と呼ばれるルールだ。

テロリストチームは複数ある拠点に爆弾を仕掛けて爆発させることが目的。

逆にカウンターテロリストチームはそれらの拠点をテロリストチームから守ることが目的となる。

単純に攻める側、守る側と言ったほうがわかりやすいだろうか。

俺達のチームは攻める側、テロリストチームとなっている。

今回の作戦としては敵の配置を探りつつ、守りの薄い場所を探してそこへ一気に奇襲を掛けるというものだ。

メンバーは5対5。守る側、カウンターテロリストチームは各拠点にある程度人員を割いて守るのがセオリーだ。

ただ、今回のマップはA拠点とB拠点の広さがまるで違い、A拠点に多めに人員を配置する必要がある。

広めのAをがっちり守るのか、それともBに来ると読んでAを少なめにするのか。

そこは両者の読み合いである。


B拠点に繋がる通路でじっと待つ俺はまだかまだかと仲間からの連絡を待つ。

仲間とはボイスチャットでつながっているので、わざわざ手打ちしなくても音声でコミュニケーションをとることができる。


「Aサイトで陽動完了。2人いる。中央にも1人いると思う。あと2人は分からない。」


チームの紅一点であり、リーダーの"マイ"の報告がヘッドホンを通して伝わってくる。

報告の内容は、Aを陽動して敵数を探りに行った結果、A拠点に2人をAにもBにも行ける中間地点の中央に1人を確認したということだ。

ということは、B拠点に2人いる可能性があるということだ。勿論、A拠点に1人居て見逃しているだけという可能性もある。

しかし、B拠点に2人いた場合はあまり状況はよくない。

基本待っている方が照準が付けやすく有利なFPSにおいて、B拠点のような狭い場所で待たれるというのは攻めこむ側としてはかなり不利なのだ。

中央からも増援が来ると考えて、3対3で同数。勝てる確率は一気に下がる。

また、その点を分かっている守り側も、ただ待つだけなく攻めこむという選択肢も有効な作戦の一つだ。

先程A拠点にもB拠点にも行ける中間と言ったが、そこからもB拠点に繋がる通路にいくことができる。

そこから挟み撃ちにされてしまえば、テロリスト側は全く攻め込めていないのに多大な損害を被ることになる。


「どうする、一旦ここを離れるか?」


B拠点に繋がる通路で待機している仲間の一人、ハンドルネーム"フロー"が言う。

一旦ここから離れて体制を立て直すのは作戦の一つだ。

しかし、この爆破戦には制限時間が決められており、制限時間を超すと無条件でテロリストチームの敗北となる。つまり、時間を掛ければ掛けるほど不利なのだ。

また、立て直している間にカウンターテロリストチームが拠点に繋がる通路を制圧し、テロリストチームに待ちぶせしつつ打ってかかってくる状況もかなり厳しい。

ここの判断が勝敗に直結してくるのは明白だ。

と後々考えたら思うのだが、そのときの俺は今にでもB拠点から出てきそうな敵を恐れて、報告を聞き流しながらただ入り口をただ凝視していた。

俺はまだ経験の浅い初心者なのだ。


「いいえ、まだそこで待機よ。1人殺ってAに敵を引くから、合図したら突入して。」


「了解!」


「おっけ、じゃあ俺はBの奴らと合流する。」


このチームの司令塔であるマイは凄腕のスナイパーでもある。

彼女が1人殺ると宣言したのだ。チームメンバーは安心して待機することができる、それぐらいの信頼感はあった。

その通信から約6秒後、マイがカウンターテロリスト側の1人をスナイパーライフルで倒したというログが流れる。


「行って!」


マイが合図をする。

俺はすぐさま歩き出し、通路の出口を目指した。


「俺が投げる!先行け!」


「はい!」


メンバーの一人、"ミル"が投げたのはフラッシュバンという特殊な手榴弾だ。

フラッシュバンは強烈な光と音で敵の視覚と聴覚を一時的に奪う。

それらは爆発源を見ずに別の方向を向いていればその効果を軽減できるので、俺は習った通りに後ろを向きながらB拠点の中へと入る。

俺はフラッシュバンを避け、B拠点の中で待ち伏せていた敵の位置を懸命に探る。

刹那、俺の目の前の光景が超スローとなり、全てのものが減速した。

だが、俺の意識だけは減速しない。

今見える光景から、できるだけ多くの情報を引き出すのだ。

自分の位置。障害物の位置。そして、敵の位置。


「見つけた...!」


俺は心の中でそう叫び、半身を木箱に隠した敵の姿を目視する。

スローで動く俺の手をゆっくりと動かし、銃の照準を隠れている敵の頭を向ける。

敵は今フラッシュバンの効果を喰らって少なからず反応は遅れているはずだ。

焦るな、焦るな俺。

俺は緊張感に押しつぶされそうになりながらも、クリックを2回し、銃を発砲した。

それはまるでWebサイトのリンクをダブルクリックするかのような軽快な動きだった。

しかし、マズルフラッシュとともに敵の頭から血のエフェクト出て、敵は地面にゆっくりと倒れる。

画面の右上に自分の名前と倒した敵の名前が表示される。判定はヘッドショット。

ヘッドショットは敵に通常の4倍のダメージを与える。

敵のHPは基本的に100。そして俺の持っているAK-47というアサルトライフルの威力は34だ。

装甲や距離減衰ダメージはによって減少するのだが、1発のダメージは100をゆうに超える。

つまり、頭に当たった時点で即死ということだ。

1発当たった時点で敵を倒せるということはとても大きなアドバンテージだ。

しかし、頭を狙うのは至難の技であり、今も多くのプレイヤーが少しでも命中率をあげるために練習を重ねている。


1人を倒した俺の頭に次の思考が巡ってくる。

まだ敵がいるかもしれない。

少し前進した後に、右を振り向くと自分に照準を向けて待ち伏せているもう一人の敵が姿を現す。

自分に照準を向けているということは、いつ撃たれてもおかしくない状態だ。


「くっ!」


反応して敵の頭に照準を動かす。

しかし、次の瞬間。スローで動く世界の中、俺は敵の銃口からマズルフラッシュが見えた。

既に撃たれている。だが、頭に当たらない限りは死ぬまでに余裕ができる。

自分が持っているAK-47を胴体に当てて敵を倒すためには、最大4発の銃弾を当てなければならない。

何故ならば、装甲や距離減衰によってダメージは減少するからだ。

まだ、勝機はある。敵の頭に銃弾を当てればいいのだ。

...考える前に手が動いていた。スローで動く世界の中、俺は正確に敵の頭に銃弾を撃ち込んだ。

さっきの敵と同じように血が出るエフェクトが出て、敵は倒れる。


「なんとか...なった...!」


集中力が切れた俺の世界は、スローから本来の速度に戻った。

本当はここで油断は禁物なのだが、こういうゲームはまだ慣れていないのだ。

自分のHPを見ると、24という文字が見えた。少し遅れていれば危なかった。

元の速度に戻ると、仲間が俺を賞賛する声が聞こえた。

味方の援護があったとはいえ、初心者がたった1人で2人の待ちぶせを看破したのだ。


「後の敵は俺達に任せろ。爆弾を見張りを頼む。」


「わ、分かりました!」


フロウは爆弾を手慣れた手つきで設置すると、中央にいる増援に対して手榴弾を投げて牽制する。

他の2人、ミルとアレスは中央の敵にフラッシュバンを投げ、1人を連携して処理した。


「凄い...!」


これで人数は5対2。事実上の勝ち確だ。

この3人とリーダーのマイはベテランで、しかもかなりの腕前。

このチームは真剣に大会で優勝を狙っている。俺はそこにスカウトされたのだ。

スカウトされた理由は言うまでもないだろうか。


ここから俺達はほぼストレートでラウンドを勝ち越して行き、敵チームに無事に勝利した。

敵チーム自体は中堅のチームでそれほど強くはないのだが、この一戦で異様なAIM力(照準を正確かつ迅速に合わせる力のこと)を持った期待の新人として注目されるようになったのだった。






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