2-1.成人
あたしが物心ついたのは、3歳になったころだ。
あたしは魔族の両親のもとに生まれた。リラと名付けられた。リラ・セッツシュナイダーだ。
ちなみに父はルグ・セッツシュナイダー、母はニナ・セッツシュナイダーだ。
この名前の付け方、何か意味があるのだろうか。やけに長い名前というか名字だ。こちらの人々は(魔族は?)、名字が長い。名字が長い方が偉そうとか。
まさかね。
ここは魔族達の国シド、魔族の王が統べている。
両親は魔族の国で貴族として暮らしており、あたしはそこの一人娘として生まれた。
実は産声を上げた時から記憶がある。いや、前世の記憶からと言うべきか。下の世話は恥ずかしすぎるとか、幼い子供の振りとかしなきゃいけないとか、――そんなことは全くなかった。薄い靄がかかったような感覚で、意識も鮮明ではなかった。自分の思い通りにいかないというよりも、あたしではあるが、どこか他人事のように眺めているような感じだった。
そして3年が過ぎ、3歳の誕生日。あたしの意識はいきなりはっきりした。それまではどこか夢を見ていたようなのが、スイッチを入れたようにクリアになった。
両親は目を瞬かせるあたしを訝しげに見ていたが、その瞳が理性を宿しているのに気付くと、喜びだした。
……いやいやいや、ちょっと待て。3歳で物心つくのはおかしい。それは早すぎないか?
普通幼稚園年長さんとか、小学生低学年とかじゃないか?
勿論こちらに幼稚園も小学校もない。つまり5、6歳で物心つくのではないかということが言いたかったのだ。
てゆーか理性って。
…うん。もっとおかしいのは他にあった。
あたしが、魔族と呼ばれる人型の種族であることは、あのへんな所で、女神様のような人に願った――というか、無理やりされたわけであるが、それはいい。
美醜についても問題なく、かわいすぎることもなく、不細工すぎることもない。その判断は、あたしを見る相手の好き嫌いに左右されるだろう。このあたりは、エルフの容姿が敷居が高い、と言っていたからであろうと想像がつく。
そしてその外見。
髪は父親譲りのピンクがかった黒、瞳はピンク。肌は小麦色で、極めつけに耳が少し尖っている。
この髪の毛、「ピンクがかった黒」と表現するだけあって実に不思議な色合いで、ほとんど黒といっていいのだが、光があたると表面がうっすらとピンク色をしているのである。
ちなみに母親は、私や父親よりも薄い髪色――黒の要素が全くない薄いピンクで、華奢な体型と相まって受ける印象が儚げである。
この尖った耳や浅黒い肌って、もしやダークエルフというやつなのでは、と思ったが、この世界ではエルフはいるがダークエルフはいないらしい。このエルフのダーク版はたまたまのようだ。
ここまではいい。髪の色も、瞳の色も、前の世界ではあり得ない色であったものの、センスの良い感じになっているし。
問題は。
身長165センチ。
…外見上は全くの成人であった。いや、運動能力も、最近めきめきと向上してきていた。関係ないけど。なくはないか。
というか何故!!?
早すぎるって。
いやぁ靄がかかった意識のなかで、あれぇ?とかちょっと思ってたよ?
歩けるようになるのやけに早いなーとか。
どんどん目線が高くなるなーとか。
でもほら、意識はっきりしてないから、時間の感覚もあやふやなのかな、って。
あー…。
今の身長、3歳にして前世の身長より10センチ高いんですけど。
何気にショック。
…魔族にとって、物心がつくこと、つまり肉体的にも精神的にも成熟し成人する、ということらしい……。
いやそもそも、人間であった前世の常識が通用するわけがないのだ。この世界のヒト族は16歳で成人するので、同じ人間でも日本とは違った。
それに、人族と違い、魔族は人族よりずっと早熟であり、さらに長寿であるそうだ。ゆえに子供が少ない。魔族の人口自体が少ないわけではないのにかかわらず、だ。
そして、魔族の成人時期には個体差がある。早いものでは3歳から、遅くても10歳には大人になるそうだ。その中でも、あたしは早熟――3歳の誕生日を迎えると同時に成人なので、魔族の中でも早熟であると言えるだろう。
「やっぱりリラちゃんは、うちの子ね~」
「うむ、この子はどこか他の子と違った」
3歳の誕生日に成人となったあたしを、両親がべた褒めする。
…どこの親も同じだな。
◎リラ・セッツシュナイダー
実年齢:3歳
見た目年齢:16歳
精神年齢:19歳