1-1.回顧
そこはどこまでも白い場所だった。
白い、といっても、今の自分に視覚があるのかさえわからないが。
あたしは、なぜ自分がこんなところにいるのか、わかっていた。
――死後の世界、と呼ばれるところだろう。
自分がなくなる瞬間を、まざまざと思い返すことができる。
あたしは、体が弱く入退院を繰り返していた。
学校にも満足に行けず、友達だって作れずにいるあたしを、両親や兄達は憐れんでいたけれども、家族はあたしのことがわかっていなかったんじゃないかと思う。
あたし、結構したたかだったよ?
だって、あたしかなり我が儘言ってたもん。
まあ、ほとんど寝たきりのあたしが可哀そうで、できることはしてやりたい、っていう気持ちだったんだろうけど。
あの漫画が読みたい、と言えばすぐ持って来てくれたし。
テレビゲームしたい、というお願いには、こっそりゲーム機を持ち込み、個人に1ヶついているテレビに繋いで、看護師さんが来ない時間を見計らってやらせてくれたし。
あの看護師さんがいつ来るかわからない状況でゲームをするのは、すっごく楽しかった。
まあテレビゲームは、あたしの興味がパソコンに移ってからはそれがパソコンでやるゲームに切り替わっていったのだけど。
もちろん携帯型ゲーム機もおねだりした。
そういう意味では、あたしは恵まれていた。
3人兄弟の末っ子、上は2人とも男で、あたしだけ女の子。
両親からも、上の兄達からも、めちゃくちゃ甘やかされて育った。
あたしが体弱いっていうなら、余計だよね。
そういう状況をわかって我が儘言っていたんだ。
確かに、友達が出来ないのは寂しかった。外で走り回れないのだって、辛かった。なんで自分だけ、って思ったことだってある。
でもねぇ、同じ我が儘でも、それは言っちゃいけないでしょ。
だって家族に、すごく愛情もらっていたんだもん。
お母さんやお父さん、2人のお兄ちゃんの事、すごく好きだったんだもん。
だから笑っていた。
あたしの我が儘を聞いたら、あたしが喜ぶ。あたしが喜ぶと、みんな笑顔になる。
だから、泣かないでほしいな。
あたしが死んだからって、みんなには笑ってほしい。あたし、人のために死ねたんだよ?
こんな、何の役にも立たない、ただただ何もしないで死んでいくだけの、あたしが。
久しぶりに調子がいいから、と散歩に出かけて遭遇したのは、道路の真ん中で遊ぶ小さい男の子と、それに向かって走る一台のトラック。
これって何かのフラグが立ってるんじゃね?と心のどこかで呑気に考えている自分がいたが、逆に体はとっさに男の子に向かう。
こんな時、日々寝たきりの、運動不足もいいとこのこの体が恨めしい。
間に合わないか、と思ったけど、火事場の馬鹿力を発揮したらしく、男の子を突き飛ばし、トラックの餌食になるのを防げた。
その代りに自分に迫るトラック。
そんな時でも、この野郎寝るなよ!とトラックの運転手にキレたあたしは、やっぱりおかしいかも。
あたしはそのまま、今まで感じたことのない衝撃を受け、意識がなくなった。
……そして今に至る。