青の世界 -2
小屋に戻ってリーエルたちが準備をしている。ステージの上に用意がされていく。少し離れたところにマオ、私、ハオの順で座っていた。
曲が奏でられる。
なんだか心が洗われるような気がした。私は目を閉じて聞いていた。なんだか優しい気持ちに慣れた。その次にカノンが流れる。その時、妙な音がした。いや、妙な感覚といったほうがいいのかも知れない。私は窓の方を見た。真っ赤な夕焼けに変わっている。私と同じようにハオも窓を見て固まっていた。そしてハオが言う。
「ここは青の世界。夕方なんて訪れないいつも蒼天の世界。
もし、この青の世界が赤く染まる時。それは赤の女王が介入している証拠。
ただ、空はまだ真っ赤じゃない。ということはこの世界に赤の女王は来ていない」
その時、頭の中に声が響いた。
「外よ」
どこかで聞いたことがある優しい女性の声だった。マオが一気に立ち上がって外に出る。
ハオもそれに続く。外にいたのは、アニマート、クラーヴェそしてトランプ兵1体だった。
マオが話す。
「ちくしょう。赤の時間にされてこの戦いか」
赤の時間。そういえば思い出していた。赤の女王の兵士たちは1.2倍の強さになる。
人数は同じ、強さも同じ。ただ、相手のほうが私たちより1.2倍強くなっている。
ハオが話す。
「僕らの『アリス』絶対私の後ろから離れないで下さいね」
私はその真剣なハオの表情にコクリと頷くことしか出来なかった。
ハオは私に話してすぐに前を向いた。アニマートたちを見ている。私はその後ろ姿を見ていたハオの後ろ姿がすごく安心できる。ハオは小さな声で私とマオに話してきた。
「先にトランプ兵を倒す。そして、それからマオとアリスでクラーヴェを相手して欲しい。
私はアニマートの攻撃を防ぎ続ける。マオとアリスがクラーヴェを倒したら手伝って欲しい。アニマートを倒すのに」
ハオは力強く頷いた。背中越しだけれどその力強さが伝わってきた。でも、私には解っていた。誰よりも危険なところを選んでいるのはハオだった。マオが話し出す。
「その役目は俺がやる。ハオだけが危険な役回りなんかは俺が許さない」
だが、ハオはこう言って来た。
「この作戦はマオを信頼しているからこそ出来るんだ。マオならアリスを守りながらトランプ兵とクラーヴェを倒せるはずだ。
信頼しているからこそこの役目を任せたいんだ。それにアニマートの攻撃は見えない攻撃。守り抜くにはこれしかないんだ。解って欲しい」
ハオが切実に言ってきた。私はハオの背中に抱きついてこう言った。
「ハオ様。死なないで下さいね」
ハオは優しく言って来た。
「もちろん。僕らの『アリス』の命令であれば。では行きますよ」
そう言ってハオはまっすぐアニマートめがけて走っていった。マオも走る。マオはトランプ兵に向かって剣を一閃した。トランプ兵の胴はなぎ払われて、体が薄くなっていく。いつもならそのまま動きが止まるのにまだトランプ兵は動いてきた。
アニマートの声がする。
「あ、言い忘れていましたけれどね。その二人。ちょ、ちょっと催眠術をかけさせてもらってますよ~
だから、ちょっとやそっとの攻撃じゃ痛みすら感じないですからね。
ま、不必要な自我なんかも~一緒に~消さしてもらいましたけれどね~
返ってその方がクラーヴェなんかは強かったりするかもよ」
前と同じくゆるいカンジで話してくる。けれど、その内容はゆるいものでもなかった。
私は目の前のクラーヴェを見る。確かに目がうつろなままだ。何かぶつぶつ言っているが聞き取れなかった。マオが話す。
「悲しいぜ。こんな姿になって。早く倒してやるから次の世界ではもっとましなナイトになるんだな」
そう言ってマオは剣を構えて大きく突きにいった。だが、クラーヴェはよけもせずに突進してきた。マオは剣があたるポイントを外されて体勢を崩す。クラーヴェはそのまま右手の短銃を私に向けてきた。絶対によける。私はクラーヴェをずっと見ていた。引き金を引く瞬間を。だが、その瞬間マオが体勢を直して剣を振り下ろした。クラーヴェはマオを見もせずに左手の剣で受け止める。
強い。
アニマートの声が聞こえてきた。
「ん~強いよ~。クラーヴェは。もともとセンスはいいんだからね。ただちょこっとね~自己陶酔しすぎるというか、傷つくことを恐れすぎちゃっていてダメだったんだよね~
だ・か・らさ恐怖心を取り除いたらいいカンジになるんじゃないのかな~
って、思ったらこれまたビンゴってカンジでね。今は目の前の『アリス』を倒すことにだけしかもう考えてないから。大変だよ思うよ」
語尾を延ばしながら話すアニマートがこの緊張感を奪った。だが、その視線の先をみて緊張感が走った。ハオが膝を突いている状態。良く見ると腕も脚も頬も受け切れなかったのか切られた後がある。私は胸が痛くてハオの方に向かいそうになった。ハオが大きな声で言う。
「僕らの『アリス』大丈夫です。かすり傷ですから」
そう言ってハオは立ち上がった。早く助けに行かなきゃ。私はクラーヴェを見た。
クラーヴェは私を狙っている。私がおとりになり右手と左手の攻撃を防ぎきればいいんだ。
私は大きく息を吸った。そして、小さく、本当に小さく声に出した。
「ハオ様、すぐに助けにいきますから」
私は短銃を構えている右手の下にもぐりこむような形で走り出した。撃たれるかも知れない。けれど、早く行かなきゃ。ハオを助けたい。私は猛ダッシュで走りぬけた。クラーヴェの剣が私に向かって伸びてくる。屈みながら剣で受け流した。クラーヴェの体勢が崩れる。
「マオ、今よ」
マオは飛び上がりながら上から剣を振り下ろしたマオが言う。
「ここまで自我なくなっちゃ、もう俺には何も出来ない。後は安らかに眠るがいいさ」
肩口から胸くらいまで剣がめり込んでいる。だが、その状態なのにクラーヴェは咆哮しながら動き出した。
「まだ動けるのか」
マオは剣を離して距離を取った。マオが言う。
「アリス、剣を俺に投げてくれ」
私はマオに剣を投げた。マオはその剣でクラーヴェの足首を切りつけた。度、浜辺でマオが短剣を投げつけた場所だ。
傷が広がる。
だが、まだクラーヴェの動きは止まらない。短銃を私に向けてきた。引き金を引く。私はその動きを見て右後ろに飛んだ。剣も届かないはず。だがクラーヴェは突進して進んでくる。間に合わない。
「いや~」
誰かの声。すごい声がした。クラーヴェの顔面から一刀両断をしている。そこにいたのはリーエルだった。手には剣を持っている。リーエルが肩で息をしている。勇気を振り絞ったんだね。リーエルが走り寄ってきた。
「アリス。ありがとう。私もボーンになれたよ」
そう言ってリーエルが抱きついてきた。リーエルの肩が震えているのが解る。拍手がいきなりした。アニマートだ。アニマートが話し出す。
「いや~まさかボーンがもう一人覚醒しちゃうなんて。これは予想外だね。
しかもあの状態のクラーヴェがやられちゃったりして。これピンチだったり。
なんてね。とりあえず、今日はこの辺でさいなら~」
そう言ってアニマートは消えていった。空は赤から青に戻っていく。私はハオの元に走った。
「ハオ様大丈夫ですか?」
ハオは剣で体を支えている。私が近づくとハオは笑顔でこう言って来た。
「すみません。僕らの『アリス』に心配させてしまいまして。でも、私は大丈夫です。
少し休めばすぐに治りますから」
ハオが無理をしているのがわかる。服の上から血が滲んできているのがわかる。
リーエルが話して来た。
「包帯なら少しありますよ」
小屋に戻って私はハオの傷に包帯をまいた。確かに深い傷はなかった。けれど腕や足だけじゃない。いたるところに傷がいっぱいあった。もう少し早くハオを助けにいければ。
私はそう思っていた。マオがハオに向かって話して来た。
「その、なんだ、大丈夫か?ハオ」
こういう時マオは素直になかなかなれない。ハオと同じ顔をしているのになんでこんなにも性格が違うのだろう。私はこの二人を見ていると思う。ハオが言う。
「マオに心配されるなんてなんだか不思議な感じですね。大丈夫ですよ。僕らの『アリス』が止血してくれましたから」
そう言ってハオは立ち上がろうとした。私はそのハオを止めた。
「ハオ様。まだゆっくり休んでください。膝を貸しますから」
そう言って、ハオのあまたを膝に乗せた。
「いいな。膝枕って」
マオがぼそっとつぶやいた。私がマオに向かっていった。
「何、マオ。膝枕してほしいの?ならお願いしてごらんなさい」
そうするとマオが言って来た。
「ふん。色気のない『アリス』の膝なんていらないな。もっとこう色っぽい人の膝なら眠りにつけると思うけれどな。ま、もうこの世界も大丈夫そうだから俺は先に行くわ」
そう言ってマオは空間を歪ませて消えていった。リーエルが近寄ってきて耳元にこう囁いてきた。
「あのマオって人。『アリス』のこと好きなんじゃないの?多分妬いていたんだよ思うよ」
私は首を横に振った。私の膝の上でいつのまにか眠っているハオを見て、私はハオが私にとって特別だって思っていた。そう、この時は。
次の日。
気がついたら日が変わっていた。どうやら私もいつのまにか眠っていたみたいだった。
そして、膝にいたはずのハオはいなくて、私は布団の中でゆっくり眠っていた。いつの間に布団に入っていたのだろう。
「おはよう」
リーエルが声をかけてきた。どうしてか笑っている。リーエルが続けて話して来た。
「昨日はあの後アリスも寝ちゃったの。ハオ様はアリスが寝た時に膝から落ちて起きてたわよ。それからアリスを布団にまで運んでくれたのよ。覚えてないよね」
リーエルにそう言われたけれど覚えていなかった。私はハオを探した。ハオはいつもと同じように笑顔だった。
「ハオ様、おはようございます」
なんだか恥ずかしかった。膝の上でハオを眠らせたいって思っていたのにいつのまにかハオを膝から落としているは、私は寝ているは最悪だった。でも、ハオは違った。
「僕らの『アリス』昨日はスミマセンでした。『アリス』の膝の上で眠ってしまいましたから」
ハオは頭を下げる。そして、顔を近づけて耳元でこう囁かれた。
「でも、『アリス』の膝で眠れて少し胸が高鳴りました」
私は一瞬で顔が真っ赤になったのがわかったハオにそんなこと言われるなんて。
私は恥ずかしくて、ごまかしたくてこう言った。
「次の世界に行かなきゃ。うん、行かなきゃね」
そう言って今来たところをまっすぐに戻って歩き始めた。リーエルが私の見て話して来た。
「アリス、何かあったの?」
私はまた思い出してしまった。リーエルに向かって話す。
「何でもないから。うん、何でも。私もう少ししたらまた違う世界に行くから」
そう言ったらリーエルが抱きついてきたリーエルが言う。
「また、会いましょう。同じ盤の上にいるんだから」
私も言う。
「そうだよね。またどこかの世界で。では、私行くね」
そう言った視界の先にハオがいたのが見えた。顔が赤くなるのが解る。ハオが優しく笑って手を振ってくれている。私も手を振った。そして目の前の空間が歪み歩き始めた。
また違う世界。降り立った世界は綺麗な色をしていた。この色はそう。
「シアン」だ。




