青の世界 -1
~青の世界~
いきなりバカンスに来たみたいだった。コバルトブルーの青い海。透き通るような空。心地よい太陽。眼下に白い砂浜が広がっていた。私はテンションがあがっていた。
砂浜を走ってみたい。
崖の上あたりから私はその砂浜を見ていた。どうやったらあの砂浜にいけるのだろう。
私は反対側を見た。緑豊かな森のようだ。でも細いけれど道がある。私は道を下に向かって歩いていった。
道を歩いてすぐに声が聞こえてきた。なにやら口論になっている。
「もう時間がないのよ」
女性の声がする。更に聞こえてきた。
「わかっているけれど、こんな綺麗な場所なのよ。砂浜に行きたいって思うじゃない」
そう言った女性はそのまま下におりていった。また、一人、さらに一人。初めに言っていた人がうなだれている。茶色の髪がまっすぐで型近くでそろえられていた。きりりとした顔立ちは端正な美人な人という印象があった。
私は声をかけた。
「はじめまして」
その時、そのきりりとした女性が私の方を見上げてきて話して来た。
「すみません。いきなりこんな所を見せてしまって」
そう言って、きりりとした彼女は大きな荷物を奥の建物に入れようとしていた。私は「手伝いますよ」と言った。四角の箱じゃない。なんだか変わった形のものが多かった。非常に重いもの、小さなもの。色々だった。運び終わったらきりりとした彼女が話しかけてきてくれた。
「ありがとう。名前も知らないのに手伝ってもらって。
私はリーエル。宜しくね」
リーエルはそう言ってきた。
「私はアリス。ねえ、リーエル。
この荷物は何なの?」
私は自分で運んでいたけれど、何かがわからなかった。リーエルが話してくれた。
「これは楽器よ。オーケストラの一員。今日は練習に来たの。
でも、みんなあの砂浜をみて走って行っちゃった。
まだまだいっぱい練習しないといけないのに」
音楽。私にはない才能私は抑えられない衝動からお願いをしてみた。
「ねえ、私カノンが好きなの。演奏して欲しいって言ったらダメかな?」
カノンには思い出がある。昔良くお願いをしたことがあった。もう今はその人とは別々の道を歩んでいるけれど、やっぱり思い出の曲。リーエルは周りをみていた。何を見ているのだろう。私はリーエルを見ていた。リーエルがはなしてきた。
「あ、あそこにピアノがある。ピアノでもいい?」
私は大きく頷いた。思い出のカノンもピアノだった。私はリーエルが奏でるカノンを聴いていた。目を閉じてみる。色んな想いが思い出せた。リーエルがカノンを弾き終わった。
「どうだった?」
私はリーエルのその言葉に拍手し「良かったよ」と伝えた。リーエルが話してくる。
「なんかこう気分転換もいいのかも。
って、思った。ここずっと課題曲をしていたからな~
やっぱりこうリフレッシュするって大事なのかもね」
リーエルはそう言って遠くをみていた。多分、さっき浜辺に向かった人たちのことを思っているんだろう。私はリーエルに向かっていった。
「ねえ、せっかくなんだから私たちも浜辺に行こうよ。
あんなに綺麗な海なんだよ。それに今日という日はもう二度と来てくれないんだもの。
確かに練習も大事かも知れない。でも、気分転換もしなきゃね。
閉め切った部屋にずっといたら空気が淀んじゃうもの」
私の言葉にリーエルはコクリと頷いた。一旦決めたら私もリーエルも早かった。そのまま坂を降りて浜辺に向かった。青い海。澄み切った空。私はテンションがあがっていた。
でも、浜辺にはそんな気分になれないものがあった。
浜辺。
白い綺麗なその浜辺にトランプ兵が2体と黒い長い髪の男性がいた。赤い服を着た黒髪の男性。まっすぐなその髪が肩位まで伸びていた。黒髪の男性がこちらを向いて話して来た。
「ようやく来たね。『アリス』待ちわびたよ。
私は赤の女王のナイト。名は『グラーヴェ』
『アリス』君はこれからこの私と決闘をするのだよ。
このお嬢ちゃんたちをかけてね」
そう言って大きな身振りでクラーヴェが指差した。その先には、リーエルと出逢った時に先に浜辺に降りていった女の子たちが縄で縛られていた。クラーヴェが話してくる。
「『アリス』君に選択権はないんだよ。
だが、私も赤の女王のナイトだ。ボーンであるアリス相手に全力で戦うなんてことはしたくない。左手一本で戦ってあげようじゃないか。
なんたって私はナイトだからね。フェアな戦いが好きなんだよ」
そうクラーヴェは額に手のひらを当てて陶酔している。気持ちが悪い。こいつナルシストだ。しかも筋金入りの。私はクラーヴェに向かって話した。
「フェアな戦いって言うわりには人質をとってしか戦えないのね。
赤の女王のナイトってそういう風にしなきゃ戦えないの?」
私は話した。クラーヴェはナイト。私はボーン。例えクラーヴェが左手一本で戦ったとしても勝てるとも限らない。それにまだトランプ兵も2体いる。それなら人質だけでも解放したい。私はリーエルに向かって軽く頷いた。リーエルが心配そうに私を見ている。クラーヴェが話して来た。
「はは、どうやら『アリス』は彼女たちが心配でしょうがないみたいだね。
安心したまえ。関係ないものには手を出したりはしない。
そんなに彼女たちが心配なのなら、先に開放してあげよう。
なんたって私は赤の女王のナイトなんだから」
クラーヴェはそう言って人質の縄を剣で切り裂いた。彼女たちが走ってくる。リーエルが抱きしめていた。クラーヴェが私を見て話してくる。
「さぁ、『アリス』もう憂いはなくなっただろう。
では、はじめようではないか。気高く美しい決闘を」
そう言ってクラーヴェは剣を左手に持ち替えて右手は腰の後ろに持っていった。クラーヴェが剣を突き刺してくる。私は剣を抜き、つぶやいた。
「ハオ様、助けて」
その時黒い影が動いた風が吹いた。クラーヴェの剣をハオが剣で受けていた。ハオが話す
「お呼びですか、僕らの『アリス』」
私はハオに抱きつきそうになった。ハオは絶対に助けに来てくれる。私はそう思っていた。
ハオがクラーヴェに向かって話す。
「赤の女王のナイトも落ちたものだ。
左利きなのに、左手で戦うというなんて。しかも、右手に何を隠しているんですか?」
ハオがそう言うとクラーヴェは後ろに下がった。クラーヴェの右手には短銃が握られていた。クラーヴェが話す。
「何を言っているのでしょう。
これはたまたまですよ。そうたまたま。
赤の女王のナイトである私がそんな汚いマネすると思いますか。
そう、私はナイトなのですからね。そして勝たないといけない」
そう言ってクラーヴェは指を鳴らした。トランプ兵がリーエルたちにやりを向けている。クラーヴェが話して来た。
「さあ、ハオ。決闘をしようではないか。
正々堂々としたね。ハオは私に切り付けてきてもいいよ。
これは正々堂々とした決闘なのだからね。私とハオとの間は。
もちろん、他で何が起きているのかなんて私には関係のないことなのですから」
クラーヴェが笑いながら話してくる。この人最低だ。自己陶酔型のナルシスト。
そして、絶対勝てる勝負しかしない。クラーヴェ。こいつにだけは負けたくない。
私はハオに向かって言った。
「ハオ様。あの2体のトランプ兵を倒してきて。ここは私が戦うから」
ハオは首を横に振った。そして話してくる。
「出来ません。クラーヴェは堕ちたとはいえナイトです」
私はハオに言った。
「私だってずっと守られているだけじゃいや。
それにこいつだけには負けたくないから」
そう言って私の中で何かが光った。ハオはゆっくり頷いてトランプ兵に向かって走っていった。クラーヴェに向かって私は言った。
「あんたの相手は私がしてあげるよ。
ナルシストさん。でも、あんた自分の顔をちゃんと見たことある?
その顔で良く自己陶酔なんて出来るよね」
クラーヴェが私に向かって言って来た。
「くっ、くっ、くっ。私も舐められたものですね。
ボーンが私に勝てるとでも思っているのですか。
いいでしょう。アリス。あなたと決闘してあげましょう。
では行きますよ」
そう言ってクラーヴェはいきなり短銃をこっちに向けてきた。避けなきゃ。私は左クラーヴェの死角に入るように左に飛んだ。だが、銃は撃ってこずに、剣を振りかざしてきた。
鈍い音がした。クラーヴェの剣を受け止めていたのは黒い鎧に身を包んだマオだった。
マオは私の方を向かずクラーヴェに向かって話し出した。
「幸先いい。今度はナイトか。
しかも同じナイト同士だけれど、クラーヴェに負ける気はしねぇしな」
マオはそう言って剣を構えた。クラーヴェはわなわなと震えている。クラーヴェは言い放った。
「トランプ兵の皆さん。もう我慢しなくていいです。
そんな人質一突きするがいい」
だが、そこにはすでにハオがトランプ兵を倒し終わっていた。マオが言う。
「おい、クラーヴェ。お前の好きな正々堂々の勝負してやるよ。
ハオ、そして、使えない『アリス』手を出すなよ」
私はすぐにマオに言い返した。
「使えないってどういうことよ」
マオは私の方を振り向いて言って来た。
「使えないから、使えないんだよ。
身の丈のわきまえずナイトに突っかかっていって。
この俺様が助けなかったら今頃『アリス』は切り裂かれていたな。
助けてくれてありがとうございます。マオ様。
って、言ってみな」
マオは私に向かって話して来た。私は言い返す。
「別に助けてなんて言ってないし。あんなの避けれるもん。
それに、助けてもらうのならハオ様がいい。あんたなんかよりもね」
私は思いっきり舌を出してマオに向かって言った。その時クラーヴェが動き出した。そして叫ぶ。
「ここまで私を無視した報いです。さあ、受けるがいい」
そう言ってクラーヴェは右手に持っていた短銃をマオに向けた。
瞬間。
マオは一歩踏み込んで剣をなぎ払った。短銃が宙を飛ぶ。マオが話した。
「クラーヴェ。確かに不意打ちくらいじゃないと攻撃できないかもな。
だが、お前も赤の女王のナイトなんだったら剣でかかって来たらどうだ」
そう言ってマオは剣の向きを変えて剣の平でクラーヴェの顔をはたいた。クラーヴェが倒れる。
「この私に向かって何を」
クラーヴェは起きながらそう言ってきた。鼻からは血が出ている。クラーヴェは血を拭い大きく目を見開いている。マオが言う。
「おい、まさか自分の血を見たことがないとでもいうのか?」
そう言ってマオは更に剣の平でクラーヴェのおなかあたりをなぎ払った。クラーヴェはうずくまっている。ハオが私の近くにやってきた。ハオが言う。
「マオは卑怯なマネをするやつが許せないのです。
本当なら一瞬で勝負がついていてもおかしくないのですが、それだと何も変えられない。
だからマオはあんなことをしているのです。
スミマセン」
ハオは頭を下げてきた。何も変えられない。私は意味がよくわからなかった。けれど、そんなことよりハオが頭を下げていることがイヤだった。私はハオに伝えた。
「ハオ様が謝らないで。あの馬鹿がそうしたいだけでしょう。
だったらいいわ。私もあのクラーヴェはむかついていたもの」
そう言ってマオを見た。確かにマオは一見ひどいことをしているように見える。でも、クラーヴェが起き上がって構えてからじゃないと攻撃をしていない。倒れている時には起き上がるのを待っているのだ。でも、すでにクラーヴェの顔は腫れあがってきている。クラーヴェが話す。
「今日はこのくらいにしておいてあげますよ」
そう言って、いきなり走り出した。私たちとは反対方向に。マオが腰から短剣を取り出して投げつけた。クラーヴェの右足首にあたる。マオが言う。
「ここに来て逃げるのか。それでいいのか赤の女王のナイトは」
そう言ってマオは首を振りながら剣を握りなおした。もう向けているのは剣の平じゃない。剣先だ。マオが言う。
「次の世界で会うときはもう少しましになっていろよな」
そう言って剣を向けたとき、マオとクラーヴェの間に砂嵐が巻き起こった。ハオが私の前で盾のように守ってくれている。ハオが言う。
「僕らの『アリス』気をつけてください。次の敵は強いです」
そう言ってハオは上を見た。そこには赤い三角帽子。白地に赤の水玉の服をきた、とんがった靴を履いた人が宙に浮いていた。なんだかピエロみたい。ハオが言う。
「彼の名はアニマート。赤の女王のビショップです。そして魔法遣いでもあります。
遠くから攻撃をしてきますから、『アリス』は私の後ろから前には出ないで下さい。
『アリス』は私が守りますから。絶対に」
同じくマオも上を見上げている。ビショップなら強さは「3」だ。しかも前のラルゴのイメージがある。マオとハオの二人のナイトがいるのなら勝てるのではと思っていた。
だが、二人とも真剣な表情だった。宙に浮かんでいるアニマートが話す。
「どうも、どうもすみませんね~
ってか、そのウチのナイト。そんなでもナイトなんでやられたら
ちょ~っと困るというか、一応戦力なんでね。
だから、ちょちょっと掻っ攫いにきました。
また、あなたたちの相手は、特に『アリス』の相手はしてあげますからね~
では、さいなら~」
なんだかすごい軽いノリで話された。でも、砂嵐が消えたと同時にクラーヴェも消えていた。ハオが話してくる。
「あのアニマートは何を考えているのかわかりません。
けれど、魔力だけならかなり強いです。特に遠くのものも攻撃できる能力は危険です。
どこから攻撃が来るのか解らないから神経を研ぎ澄まさないといけない。
能力以上にやっかいな相手なんです」
そう言ってハオは剣を納めた。マオもやってくる。
「あ~、逃げられちゃったな。でも、クラーヴェにとってはそのほうが良かったのかもな。
アニマートに根性たたきなおしてもらってもうちょっとましなナイトになってもらわないと。ナイトの品格が落ちちまう」
マオはそう言いながら剣を納めた。私はマオに言った。
「ってか、マオがナイトっていうのですでに品格落ちていますけれどね」
そう言うとマオが私に言って来た。
「そうでかい口を叩くなら守られずに戦ってみな。今日も助けられていたのは誰だ?」
そう言ってマオは私の鼻をつんってつついてきた。だが、私が言い換えそうとしたらハオがマオに話して来た。
「でも、マオが来てくれてよかった。感謝するよ。だが、いいのか。
白の女王を守らなくて」
ハオがそういうから私は黙ってみた。マオは話し出す。
「大丈夫さ。白の女王には護衛が二人ついているからな。
だから今の俺は遊撃ってわけ。好きに動いて相手を刈り取っているのさ」
マオは胸を張って威張りながらそう言ってきた。ハオは更にマオに話す。
「そうですか。どこに行ってもいいのにどうしてこの世界にわざわざ来たのですか?
マオがこの前降り立った場所からかなり離れた世界だとここは思いますが」
ハオはくすっと笑いながらそう言った。マオが言う。
「いや、その、たまたまだよ。そう偶然、偶然降り立ったらこの世界だったんだよ。
別に『アリス』を追いかけてきたわけじゃないからな」
そう言ってマオは腕を組んであさってのほうを向いた。その時声がした。
「あの~」
リーエルがこっちに来て話しかけてきた。続けてリーエルが話す。
「助けてくれてありがとうございます。私たちに出来ることって言えば音楽を奏でることしか出来ませんけれど、もし良かったら演奏する予定の曲を聞いて欲しいんです。
まだまだ練習中の曲ですけれどね。それと、『アリス』のためにみんなでカノンを弾くよ」
私は嬉しくて飛び上がってしまった。マオが言う。
「子供か」
でも、そんな言葉なんてどうでも良かった。カノンがまた聴けるんだ。私はテンションがあがっていた。




