緑の世界 -2
広場の中に進むとビショップが私たちに寄ってきた。ビショップ。赤い法衣に纏い、杖をもっている男性。ビショップなんていうから結構年齢がいった人なのかと思ったら若い男性だった。目鼻立ちがはっきりして濃い顔の男性。
ビショップが話して来た。
「わざわざ狩りだされてきたと思えばボーンの『アリス』だけですか。
面白くないですね~
実に面白くない。あなたを弄っても面白くなんてないんです。
早く「アイツ」を呼んでもらえませんか?
あの忌まわしい『ハオ』をね」
ビショップはそう言って杖の先にある球体で私の頬をたたいてきた。横でイズミールが震えている。
横のトランプ兵がビショップに何かを話している。耳を澄ましてみた。
「ラルゴ様。いいのですかハオを呼んで。
先にこの女だけでも倒しておいた方がいいのでは」
そう言ってトランプ兵はイズミールを指しながら話していた。どうしてイズミールを先にと私は思った。ビショップは、ラルゴと呼ばれた男は言って来た。
「ああ、確かにまだ覚醒していないが、こいつもボーンになる可能性があるからな。
だが大丈夫だろう。何も出来やしない。
強い意志がない限りボーンにすらなれないからな」
ラルゴと呼ばれたこのビショップは嘲笑してきた。その時緑の壁が光って大きな音がした。
風が吹く。
緑の壁が吹き飛び、そこからハオが現れた。ハオはすぐに私とイズミールの間に立ちはだかる。ハオの背中が大きく見えた。いたるところ傷だらけだ。あんな棘だらけの壁を突っ切ってきたのだから。背中越しにハオが話して来た。
「僕らの『アリス』遅くなりました。
そして、もう一つ。言うことがあります。全力で逃げて下さい。
今の私ではこのビショップ、ラルゴの相手をするので精一杯です。
今の『アリス』ではボーン2体を相手にするなんて出来ませんから」
ハオはそう言ってきた。
私の返事の前にラルゴが話して来た。手をたたきながら。
「おや、意外とハオが早く出てきましたね。
待っていましたよ。あなたの目の前でこの『アリス』を消し去ってあげようと思っていたのですから」
そう言ってラルゴは指を鳴らした。その時前の通路をふさぐ形でトランプ兵が現れた。
後ろの通路にもトランプ兵が現れた。相手は、ビショップとボーンが4体。
どう考えても勝てない。
相手はビショップの「3」とボーンの「4」
こっちはハオの「3」と私の「1」
イズミールがもしボーンに覚醒したとしてもプラス「1」なだけ。
全然足りない。
ラルゴの嘲笑だけが響き渡る。ハオが私に言って来た。
「諦めないで下さい。諦めたその瞬間から道は閉ざされますから。
そして、信じて下さい。私を」
私はハオの声に頷くことしか出来なかった。ハオは私とイズミールを庇うように立ちながら剣を抜いた。私も剣を抜いた。
ハオはラルゴの攻撃を受けながらトランプ兵の攻撃も受けていた。
私はトランプ兵一人を相手するだけで精一杯だった。後ろからトランプ兵が来る。槍が向けられていた。やられる。ラルゴの嘲笑だけが聞こえていた。
鈍い音がした。
目の前ではハオがラルゴと戦っている。それは変わらない。ただ、違うのがラルゴの表情。そして、私がまだ生きているということ。ゆっくりと私は後ろを見た。
そこには黒い鎧を着た人が槍を受け止めていた。
一瞬ビックリした。顔はハオにそっくり。ただ、違うのはハオが顔の右側がその金髪でかくれているのに対して、その黒い鎧の人は右側が隠れていた。黒い鎧の人が一閃。
トランプ兵は消えていった。ラルゴが言う。
「どうしてこんなところにマオがいるんだ。お前は白の女王のナイトだろう」
マオ。
黒の鎧の人はそう言われていた。ハオにそっくりなマオ。私は二人を見ていた。ハオが言う。
「マオ、助けに来てくれたのか」
だがハオと呼ばれた人は違っていた。
「別にこんなボーンを助けにきたわけじゃない。
俺はただここでビショップを狩りに来ただけだ。こんな序盤でビショップが狩れるなんてそうないからな」
だが、そう言って黒い鎧に身を包んだマオは私の近くにいたトランプ兵を一閃して倒していく。さらに一人。マオは3人のトランプ兵を倒していた。
「さあ、後はラルゴ、お前を倒すだけだな」
マオは吐き捨てるように言って剣を構えた。ラルゴは苦悶の表情になる。こっちはナイト二人に私。ポイントでいうと「3」+「3」+「1」で「7」だ。
相手はビショップとボーン2人。ポイントは「5」だ。
どう足掻いたってラルゴは勝てない。ラルゴは手にしていた杖を地面にたたきつけた。
「危ない」
そう言ってハオが私の所に走って私とイズミールを抱え込むようにして、ラルゴに背を向けた。瞬間、ものすごい閃光があたりを包む。目がくらむ。
あたりを見渡したら、ラルゴもトランプ兵もいなくなっていた。
「逃がしたか」
マオがそう言って剣を鞘に戻した。ハオが可愛いカッコをしているのに、マオは同じ顔なのに黒い鎧に身を包んでいる。不思議だった。ハオがマオに話しかける。
「助けに来てくれてありがとう。白の女王の命令なのでしょうか?」
ハオの話にマオは首を横に振っただけだった。私はきょとんとしていた。
ハオが私に向かって話してくれた。
「すみません。僕らの『アリス』紹介が遅れました。私の弟の『マオ』です」
そう言ってマオを見るとこっちすら見てくれなかった。そして、マオはこう言った。
「ああ、かつては兄弟だったな」
そう言ってマオは横を向いた。ハオが言う。
「弟は恥ずかしがり屋なのです。すみません。でも今回は私の力だけでは僕らの『アリス』を守れなかったのも事実。今度はちゃんと私の手で助けて見せますから」
そう言ってハオは頭を下げた。私はハオに頭を下げられる度になんともいえない気分になる。そういうのを求めているわけじゃないのに。私が何も言えずにいたらマオが話して来た。
「こんなどうしようもないやつ庇ったって仕方ないぜ。
どうせ守るのならもっと色気のあるお姫様がいいよな~」
そう言ってマオは私を見てくる。何よ、ハオと同じ顔なのにこの態度。
私は気がついたらマオに向かって話していた。
「何よ、その態度。私のどこが色気がないっていうの。
それに私はあんたなんかに守ってもらいたくないわよ。
私はハオに守ってもらうんだから」
そう言ってハオの腕にしがみついてみた。多分、こういう何かがはじけた時じゃない限りハオの腕になんてしがみつけない。ちょっと計画的かも知れないけれど私はハオの腕にしがみついてみた。マオが話してくる。
「ああ、そういう態度を取るところが色気がねぇんだよ。
色気ってのはガキにはねぇんだよ。
大人の余裕っていうやつ。それがねぇからダメだって言ってんだよ。
それにさっき守ったのは誰だ?俺だろ?」
マオはそう言って反り返りながら上から私を見下ろしてきた。むかつく。私はマオに向かってこう言った。
「あんたさっき言ってたわよね。守りに来たんじゃない。ビショップを狩りに来たって。
そのついでだったんでしょう。
なのに、肝心のビショップは逃がしちゃうし。サイテーね。
私のハオ様ならそんな失敗しないわよ」
私は思いっきり舌を出して言った。ハオが困ったように私に言って来た。
「僕らの『アリス』マオは身をもって助けてくれたんだよ。
あのビショップの閃光の時、マオは襲い掛かってきたボーン2体を倒してくれた。
ボーンの奥に逃げていくビショップに追いつけなかったけれどね。
だから感謝を」
そして、ハオはそのままマオに向かっていった。
「マオもだ。女性に、それに『アリス』にその言い方はないだろう。
ちゃんと謝りなさい」
ハオに言われたマオは私の顔も見ずに
「スミマセンデシタ」
って、感情がまったく入っていない言い方をしてきた。
なんだか腹がたってきた。けれど、ここでさらにマオに怒るとハオに悪い。私はマオに向かって同じように
「スミマセンデシタ」
って、心を込めずに言った。
妙な空気が流れるその時、何か違和感があった。
「きゃ~」
イズミールが後ろで叫んでいる。イズミールは手にタロットカードを持っていた。手にしていたカードは「死神」のカード。正位置だった。
イズミールが話す。
「死神のカードはそれ自体は悪い意味というものではないの。
全ての始まりは純粋なもの。
そして終わりもまた純粋。
今の世界をリセットして新しい世界に行く。
けれどそれには痛みが伴うこと。
そう、何かが終わるということは自然なこと。
死神のカードにはちゃんとその先に登る太陽が照らされているの。
その先に行くために不要なものは捨てないとダメ。
捨てられなかったら先には進めずただ終わるだけなの。
でも、このカード。光が、太陽がなくなっているの。
つまり、この先に光はないということを暗示している。
今までカードが変わったことなんてなかった」
イズミールは震えていた。私はイズミールに言った。
「未来なんてわからないもの
一歩踏み出してみないとその先の景色は見えないもの」
そう言ってイズミールに手を差し伸べたイズミールが私の手を取る。その時、『死神』のタロットカードが動き出した。ハオが話し出す。
「危ない。これはビショップの魔法だ」
そう『死神』のカードから赤黒い闇が広がり緑の世界はどんどん赤く、黒く染まっていった。緑の地面がぐらっとゆれる。倒れそうになった。
「危ない」
そう言ってハオが私を支えてくれた。私たちはそのままぐるりと赤黒い世界に飲み込まれていった。
降り立ったところはコロッセオのようなところだった。色んな観客の声がいる。
何を言っているのかもわからない。ただ、叫んでいるだけ。私は怖くなった。けれど、私を包み込むようにハオがいる。
「おいおい、なんだここは?」
マオが私とハオの前に立ちはだかる。まるで私たち二人を守っているみたい。そう言えば私はマオの後姿を良く見ている。
ハオが耳元に囁く。
「僕らの『アリス』ここはさっきと同じ広場のはずです。
今の世界はビショップの、ラルゴの幻覚です。
このどこかにラルゴがいるはず。
目を閉じて探して欲しい。多分これから起こることを考えるとアリスにしか出来ないことなんです。本当ならばこんなお願いをしたくはないのですが、僕らの『アリス』が真の『アリス』になるには必要なことなのかも知れません。お願いできますか?」
耳元でハオに囁かれた。私は体全体がまるで心臓になったようにドキドキしていた。多分、私の耳は高確率で真っ赤のはずだ。いや、耳だけじゃない顔も真っ赤かも知れない。私はハオに向かってコクリと頷いた。大きな声が広がる。
「さあ、みなさん。今宵はナイト二人による争奪戦です。
戦ってもらうのはこの少女、イズミールという少女をかけて二人のナイトが戦うのです」
そう言ってコロッセオの上の方にラルゴがイズミールを掲げた。ハオが話し出す。
「あそこにはラルゴもイズミールもいない。
僕らの『アリス』目で見るものだけを信じないで下さい。けれど、最後まで自分だけで進まないで下さい。『アリス』は一人じゃないですから」
ハオがまっすぐ私を見て話していた。ハオの話しの内容はわからなかった。けれど私はコクリと頷いていた。マオが話し出す。
「おい、おっさん。なんでそんなやつを賭けて戦わないといけないんだ。
俺はそんなヤツ八つ裂きにされてもどうでもいいぞ。見知らぬ他人だからな」
マオはそう言って剣を抜いて周りを見ている。ラルゴが大きな声で話してくる。声が響いてどこから声が出ているのかが解らない。私は目を閉じた。ラルゴはこう言っていた。
「おや、そこにいるのは兄に勝つこともできない負け犬のマオじゃないですか。
ちょうどいい。そこにいるハオと戦ってどちらが強いナイトか試してみようじゃないですか?
それとも、やはり兄には、ハオには勝てなくて戦う前に尻尾を巻いて逃げ出すんでしょうか?」
ラルゴの声の後、いたるところから「負け犬」コールが響く。どんどんマオの表情が変わっていく。マオが叫ぶ。
「あ~、誰が負け犬だ。
俺がこいつに劣るとでもいうのか」
そう言ってマオはハオに剣を向けた。何、乗せられているのよ。あの馬鹿。私はあの馬鹿に馬鹿マオに言わなきゃ。そう思って口を開こうとしたらハオが私の唇にハオの人差し指を当ててきた。
え?
ビックリしているとハオが言って来た。
「大丈夫、マオは落ち着いていますよ。アリス。この隙にラルゴの場所を」
そう言って、ハオも剣を抜いた。ハオはマオに向かって叫ぶ。
「落ち着け、マオ」
だが、マオは剣を地面に軽く切りつけ土をハオに向けて切りつける。
目潰し。
ハオは「マオは落ち着いている」と言っていたけれどそうと思えなかった。マオは力いっぱいハオに切りつけてきている。ハオは防戦一方だ。マオは距離をとったと思ったらまた地面の土を巻き上げている。私はその拮抗している二人の戦いにへなへなと座り込んでしまった。下の土が冷たい。いや、ハオがいうようにこれが幻覚なら下は土じゃない。芝生のはず。私は地面に触れてみた。
撫でるように。何度も。
目を閉じる。
触れる感触が変わってきた。
ちくちくしてくる。
芝生の感触。初めは指先からだった。けれど今は座っている体全体で感じてきている。あれほどうるさかった歓声も聞こえない。風の音が聞こえる。木々を揺らす音。そして、聞こえるのはハオとマオの戦っている音。剣と剣がぶつかり合っている。どこかで違う声が聞こえる。
呪文のようだ。聞き取れないが何かをつぶやいている声が聞こえる。私は目を開けた。
世界はうっすらと違って見える。コロシアムがあるように見えるが透き通った黒い世界。
その奥にはっきりと芝生が見える。
マオは地面を切りつけているように見えたが、芝生の上の部分だけを刈り取っているだけだ。そして、その芝の一部が飛び交っている。しかもゆっくりと。私は目を凝らした。奥のほうにラルゴがいる。杖を地面に突き刺し、目を閉じて瞑想をしている。
私はイズミールを探した。イズミールは私のすぐ近くで目を閉じて耳をふさいでいた。
私はイズミールに近づいて、肩に触れた。イズミールが震えているのがわかる。そっと抱きしめた。
イズミールは耳をふさぐのをやめてゆっくりと私を見てくれた。私はイズミールに話した。
「目を閉じたって世界はかわってくれない。目を開けた時に世界がよくなっていることなんて少ないもの。
だったら目を閉じずに世界を見ていた。それがどんな世界であったとしても。
目を開けた世界がイヤだったら自分から変えていけばいいんだもの。
踏み出すことって勇気がいること。
でも、踏み出さない限り世界は変わってはくれない」
イズミールはゆっくりと頷いた。その時、イズミールの中で何かが光った気がした。
イズミールの腰に剣が現れる。私の前の世界で知った。
ボーンの自覚。
そう、戦おうって思ったときに現れてくれたん私はイズミールの手を取ってラルゴの方を向いた。ラルゴはまだ呪文のようなものを唱えている。私はラルゴの方にゆっくりと向かった。様子見のため私一人で行った。
近づくとラルゴの目は閉じられている。今なら大丈夫かも知れない。心臓がドキドキする。剣を構えて近づいたとき、ラルゴの目が一気に開いた。
「私も舐められたものですね。ボーン2体に遅れをとるとでもおもっているのでしょうか?力の差というものを見せてあげましょう」
そう言って杖の先にある水晶が光った。風が吹く。私は体制を崩して倒れてしまった。
だが、倒れて正解だったのかも知れない。後ろの木々が切り倒されていっている。
「おや、運もいいのですね。流石は『アリス』と言ったところなのでしょうか?
だが、その運もどこまで続くのでしょうね」
そう言ってラルゴは杖を振るってきた。旋風がやってくる。剣で防げるのか。私は怖くて剣で受け止めるなんて出来そうにない。
逃げなきゃ。
なのに足が動いてくれない。
「きゃ~」
私は気がついたら叫んでいた。
旋風の前にものすごいスピードで何かがやってきた。鈍い音がした。そこにはハオが剣で防いでくれていた。ハオは後ろ向きに言って来た。
「遅くなりました。もう大丈夫です。終わりましたから」
そう言ってハオはゆっくりと私の方を向いて笑っていた。ラルゴが言う。
「何が終わったというんですか?あなたの相手は、、、」
だが、ラルゴの言葉は途中で消えていった。ラルゴは背中から一突きされていた。ラルゴが言う。
「一体これは?」
ラルゴの後ろにはマオが居た。マオが言う。
「言っただろう。俺はビショップを狩りに来たんだってな。
こんな序盤でビショップが狩れるなんて滅多にないからな」
ラルゴが言う。
「お前は理性を失ってハオと戦っていたはずじゃ・・・」
ラルゴはそう言いながらどんどん薄く消えて行っていく。マオが言う。
「あんな子供だましで踊らされるかって。俺を誰だと思っているんだ。
白の女王のナイトだぞ」
その言葉を聞き終える前にラルゴは完全に消えていった。私はマオに向かって話した。
「てっきり私は踊らされて本気でハオ様に攻撃をしているのかと思ったわ。
あれは演技だったのね」
マオは少し照れくさそうに「あぁ」とだけ言った。ハオが話してくる。
「僕らの『アリス』実はマオは洗脳されて踊らされていたのですよ。
だから攻撃もすべて本気だった。そう『アリス』の悲鳴を聞くまではね。
『アリス』の悲鳴で我に返ったみたいです」
にこやかに話すハオにマオが怒る。
「いや、そんなことはない。俺がこんなやつの悲鳴で我にかえると思うのか。
ありえない。絶対にありえない」
そう言って、マオはそっぽを向いて、私を見ようとしなくなった。マオは更に言う。
「もう、良いだろう。俺は用事が済んだから先にこの世界を出ているからな」
マオはそう言うと空間の一部が歪みだし、その中にマオは消えていっ一体何だったのだろう。私がきょとんとしていたらハオが言って来た。
「多分、マオは恥ずかしかったのでしょう。
ああ見えて照れ屋ですから。弟の非礼許してあげてください」
深々と頭を下げるハオに私はまたなんだか悲しくなった。
「あぁ!!」
イズミールの声がいきなりしてビックリした。私が振り向くとイズミールが話して来た。
「見て。『死神』のカードの光が戻っている。よかった」
そのカードには確かに光が戻っていた。ハオがイズミールに話す。
「元々カードは変わっていなかったのですよ。ラルゴの幻覚の始まりだったのです。
でも、タロットカードは人生の道しるべになってくれるかも知れません。
けれど、タロットカードは手を引いていってはくれません。
歩くのは自分の足なのです。そして選ぶのも。
イズミールは気がついたのではないですか?」
ハオは優しく話してくる。確かにそうだ。選ぶのは自分。最後は自分が選ぶしかないんだ。私はハオの言葉に何度も頷いていた。イズミールはタロットカードをしまってこう言った。
「そうですね。私も自分で決めていかないといけないですものね」
そう言った時、イズミールの近くの空間が歪みだした。私はハオの方を向いた。ハオが話す。
「この場所は入り口も出口もない迷路なんです。自分の中で答えを見つけたときにだけ出口が現れる。今イズミールの目の前には出口が現れました。ほら、『アリス』の前にも現れているんじゃないですか?」
私は目の前の空間を見た。白い花で作られたアーチが見える。でも、その先は何も見えない真っ暗だ。踏み出さなきゃ何も変わらない。ハオが私に話して来た。
「大丈夫ですよ。僕らの『アリス』ならきっと」
私はその言葉に背中を押された。一歩前に足を踏み出す。何かが一瞬体を通り抜ける。
その瞬間に世界は変わった。そこは青い海。青い空。そう青の世界だった。




