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黒の世界

~黒の世界~


飲み込まれたその先はまっくらだった目を閉じても開けても景色が変わらないその景色。

誰かが泣いていた。声を殺して泣いているのが解る。泣き声に近づいていく。


そこに泣いていたのはかつての私。

小学校中学年くらい、3年いや、4年生の時の私かも知れない。

かつての私が話して来た。


「お姉ちゃんは『いつか』って『いつ』来るのか知ってる?」


なんだか不思議なことを質問された。かつての私が話し続けてくる。


「みんな遊んでいるの。でも、私だけ勉強ばっかりさせられているの。塾に行かされて、自由がないの。でも大人はみんな言うの。『今の頑張りはいつか報われるから』って。でも、いつかっていつ来るの?明日なの?明後日なの?」


私は胸が痛くなった。今を犠牲にしたっていい事なんてない。それが未来が見えていないならなおさらだ。

未来が見えない努力はただの苦痛なだけ。そして、その未来が見えないと不安に押しつぶされそうになる。

私はかつての私に聞いてみた。


「将来、何になりたいの?その夢に向かって頑張ることは出来るかな?」


私は自分でいいながら思っていた。自分の夢。一体なんだったんだろう。

かつての私が話してくる。


「みんなが笑顔になれるようにしたい。そんな仕事がいいな~」


私はその言葉を聞いて思わずかつての自分を抱きしめた。そしてかつての私に伝えた。


「大丈夫だから。きっとなれるよ。そのなりたい自分に。諦めなければ。立ち止まったらそこで夢は終わってしまう。大丈夫。一人じゃないからね」


かつての私はこくりと頷いて私を抱きしめ返してくれた。そしてこう私に告げてきた。


「お姉ちゃんも一人じゃないんだよね。お姉ちゃんも頑張るなら私も頑張るね」


そう言って、かつての私は、私の中に消えていった。なんだか優しくなれた気がした。



どこかで声がしている。私の声だ。

暗闇がはれてそこに高校時代の私が写っていた。

そこには友達で可愛いカンジの女の子がいた。その子はいつもマイペースで、でもどこか勝手だった。いや、自分勝手なだけだったのかも知れない。

目の前でその女の子と私が口論をしている。

口論の理由はわからない。声が聞こえてこないからだ。でも、高校時代の私が怒っているのが良くわかる。

多分、許せないことをこの可愛いカンジの女の子がしたのだ。

どこかの記憶で覚えている。でも、思い出せない。いや、思い出したくないだけなのかも知れない。

ただ、覚えているのは、私は悪くなかったということだけだった。

友達が集まってくる。

落ち着くように話しているのだろうか、高校時代の私とその可愛いカンジの女の子の間に入ってくる。

可愛いカンジの女の子が頭をさげてきた。でも、高校時代の私は納得をしていない。

多分、本質が伝わっていないから納得をしていなかったのだろう。

無声映画を見ているみたいなカンジで私はその風景を見ていた。

素直に自分の思いを言えなかった。いや、伝わって欲しいって思っていた。

今だからわかるのかも知れない。話すことの大事さって。

でも、あの頃の私にはそれが精一杯の出来ることだったのかも。

高校時代の私は走っていった。屋上だった。

その時、私も屋上にいた。高校時代の私は泣いていた。泣きながらこう言って来た。


「あんたも私が悪いって思っているのか?」


私は首を横にふった。高校時代の私がさらに言う。


「許せないんだ。可愛いからってなんでも我侭が通るって思っているのが。どれだけ人が我慢をしていると思っているんだ。どれだけ言いたいことを言わずにいると思っているんだ」


私はかつての、高校時代の私を見ながら思っていた。

怒りに身を任せてもいいことはない。ラキシスがライが消えていった時私は悲しさだけがあった。いや、心のどこかで怒っていたのかも知れない。でも、それじゃラキシスもライも笑ってくれそうにない。

許せないことなのかも知れない。でも、本当にずっと許さずに怒りを妬みをもちながら生き続ける事のほうが辛いって思ってしまう。

私は高校時代の私に伝えた。


「許さないってことは一つの選択かもね。でも、ずっとこれから許さずに怒り続けるの?それの方が大変そうだよ」


高校時代の私が空を見ながらこう言った。


「そうだな。じゃあ許してあげるかな」


私はその言葉を聞いて素直じゃないけれど私らしいって思った。器用じゃないけれど、うまく優しさを表現できないけれど、でもこうやって誰かに手を差し出して欲しかったのかも。

私はかつての私に手を差し出した。かつての私が今の私の手を取ったとき消えていった。


私の中に。


世界はまた黒に染まっていく。そしてまた何かが現れてきた。

仕事をしていた時の私が写っていた。忙しい時の風景だ。

忙しい時期なのに、他の人は平気で休みを取る。誰もそれをとがめない。私だけが仕事を被っていたときだった。

私だけが忙しくて、私だけが泣いていた。誰も気づいてくれない。いつしか私は泣き方も忘れて機械のように働いていたのだ。私はいつのまにかかつての私の近くに立っていた。

まるで私とかつての私以外は時が止まっているような感じだった。かつての私が言ってくる。


「いつも私だけ。いつも私が最後の処理をしている。誰も何もわかってくれない。あなたもどうせわかってくれないんでしょ」


私はこう言った。


「わからないわよ。だって、解ってもらいたいって思っていない人を、心を閉ざしている人の心を誰もわかれないもの。身構えている人にはなかなか心を開けないもの。逆に心を開いている人に対して身構えていたら、その人は少し悲しい人なのかもね。赤ちゃんの笑顔に笑顔を向けられないくらいに。あなたはホントはわかっているんじゃないのかな」


かつての私はゆっくり頷きながら、こう言って来た。


「でも、どうしていいのかなんてもうわからない。私はそんなに器用じゃないから」


私はこう言った。


「変わるには自分が変わるか環境を変えるか。再出発をするのも勇気が入ること。でも、もう気がついているでしょ。自分のしたいことに。あなたがあなたでいるために一番大事なことをする。それは誰も否定をしないよ。ただ、勇気がいること。だって可能性は無限に広がっているのよ」


私は自分でいいながら自分はどうなのだろうって不安になってきた。どこからか声が聞こえた。いや、私の中にあるかすかな記憶なのかも知れない。


「アリスが不安になったら世界は不安になるよ」


優しい声だった。ものすごく忘れちゃいけない人だったはずなのに、どうしてか思い出せない。でも、私は不安になんてなっていられないんだ。もう誰も失いたくないから。

私は大きく深呼吸をしてかつての私に手を差し出した。かつての私が私の手を取る。

そっと優しさが広がった気がした。大丈夫、世界は変えられるもの。

その時、黒い世界が揺れた。大きな渦が何かを生み出そうとしている。

渦から現れたのは褐色の肌をした私だった。手には大きな丸い盾、見たこともない剣の柄だけを持っていて、胸だけを覆う鎧を着ていた。どこかでこの風景に見覚えがある。

いつしか世界はどこかの塔の上になっていた。

この塔に見覚えがある。

褐色の私が言って来た。


「あら、はじめましてとでもいいましょうか。『アリス』もし、あなたが本当に『アリス』なのだったら私はそう『黒いアリス』とでも言うのかしらね」


どこかで聞いたことのあるセリフ。でも思い出せない。私はどこかの記憶で同じようなことを経験している。何かが頭を叩き続けていた。

黒いアリスが柄だけの剣を構える。その瞬間柄から黒い光が噴出して剣になった。

私は自分の剣を構える。この普通のボーンの剣では受け止められそうにない。

風がおそってきた。どこからか声がした。


「可能性は無限だから」


私は風を防ぐため地面を盛り上げた。手に力を集中させた。雷の塊で剣を覆った。

これなら黒いアリスのあの剣に対応できそう。

私は黒いアリスが攻撃してきた剣戟をこの雷の剣で受け止めた。

ずしりと重かった。手を助けてくれている思いがわかる。

ラキシスだ。

雷の力がどんどん強くなっていった。黒いアリスが身を引いてこう言って来た。


「これで終わりではないからな」


そう言って黒いアリスは消えて言った。

消えた後、目の前に世界が広がった。薄い膜に覆われているけれどそこはチェス盤が見えていた。

マオが、グリードが、レイがそして白い女王が戦っている。見る限り劣勢だった。

私は膜に近づいていった。


瞬間。


赤の女王がこっちを向いて攻撃をしてきた。強い衝撃とともに私はどこかに吹き飛ばされていった。ただ、解ることは周りの世界がどんどん赤に染まっていくことだけだった。

そう、赤く、赤く。


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