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白の世界

~白の世界~


右も左も前も後ろも上も下も真っ白の世界。自分が地面に立っているのか、宙に浮いているのかすら解らなかった。けれど、やさしいその真っ白な世界は私を拒絶していないことだけがわかった。私は足を動かしてみる。前に進めている。

どうやら世界が真っ白に見えているだけで地面はあるみたいだ。


「誰か?誰かいませんか?」


その時、白い世界の一部が動き出した。そこにいたのは小学校の時の私だった。まだランドセルを背負ってすぐくらいの私。ものすごく楽しそうにはしゃいでいた。走った先は学校だった。手に原稿用紙を持っている。そこに書かれている表題は「将来の夢」だった。

私はあの頃どういう夢を持っていたのだろう。

思い出せない。いや、覚えているけれど、今と違いすぎるからイヤになる。

私はどこから間違えたのだろう。


「間違ってなんていないよ」


どこからか声がした。振り向いたところに居たのは白の女王だった。あの女の子ではない。真っ白で長い髪。白い肌。綺麗な青い瞳。そして、白い服を着ていた。

白の女王が手を差し出してくる。白の女王が言う。


「夢は見るものじゃないの。かなえるものなの。でも、気がつくと夢の見方すら忘れてしまうのかもね。そして、ふいに落ちた夢から醒める方法すらもわからない。そう、私は夢から醒める方法を忘れてしまったの」


白の女王は不思議なことを言って来た。私が言う。


「夢って見てしまったら自分でどれだけ頑張っても醒められないものなのかも。だって、悪夢を見ているときに目覚めたいって思っていても起きることが出来ない。それと同じなのかも。一旦見た夢は最後まで自分で責任を負わないといけないのかも」


私はそう白の女王に伝えた。白の女王が言う。


「では、アリスはどういう夢を思い描いているの?」


私はそういわれて悩んでしまった。この鏡の中に入るまで。私は仕事を辞めて、自分のしたいことをしようって思っていた。

けれど、その思いは空回り色んなものを見つけられなくなっていた。

誰かに言われた。


「一度リセットしたらどう?」


私はその言葉をすんなり受け入れて田舎にやってきた。けれど、足をどう動かして良いのかわからない。深く悩んでいたら、子供の時の私が歩み寄ってきて話して来た。


「お姉ちゃん。どうして立ち止まっているの?」


私はかつての私の頭を撫でながらこう言った。


「お姉ちゃんは立ち止まっているんじゃないの。待っているのよ」


私はそう言った。言いながら思った。私は何を待っているんだろう。かつての私が話しかけてくる。


「お姉ちゃんの信号は赤信号なんだね。じゃあ、青信号を待たなきゃだ。青になったら進まなきゃだものね。でもそこに押しボタンがあるんだよ。いつでも青信号に出来るのに、まってるんだね。不思議なお姉ちゃん」


そう言ってかつての私は走っていった。青信号を待っている。

そうなのかも知れない。私は何かきっかけを待っているのかも知れない。

白の女王が言う。


「アリスは悩んでいるだけだわ」


そう白の女王が言って首を横に振っていた。悩んでいるだけなのだろうか。

私は自分を思い出していた。鏡の世界に来て私は守られていた。

いや、実際の世界でもそれは同じなのかも知れない。何かで自分を守ろうとしていた。

不遇な立場、環境、わかってくれない周囲。私は理由を探していた。でも、本当はわかっていた。

また、かつての私が私に向かって走ってきた。今度は少し大きくなっていた。

そろそろ中学に行こうとしているころの私かも知れない。

少しだけ大きくなったかつての私が話す。


「お姉ちゃん、まだそこにいるの?この先に楽しいところあったよ。進まないのは勝手だけれど、誰かに迷惑かけちゃダメだからね。世界って意外と自分で変えられるんだからさ」


そう言って、少しだけ大きくなった私は歩いていった。

白の女王が言う。


「悩んでいたって世界は変わらない。世界を変えるには自分が変わっていくしかないから」


解っていることだった。ずっと目をそむけていただけだった。ホントは私は変われたはずなんだ。強くなれたはずなんだ。

ふと、ラキシスの顔が、ライの顔が浮かんだ。

私がもっと強かったら二人を守れた。ハオの顔が、マオの顔が浮かんだ。

私がもっと強かったらあんなに二人を傷つけずに済んだんだ。もっと強くなりたい。誰も傷つけずに、誰も失わずにいられる強さを。

その時、世界が少しだけ変わった。いや、どこかでかすかだけれど音が聞こえたんだ。

白の女王の声が話してくる。


「もう気づいているんじゃないの?あなたが望んだ未来を」


私はその白の女王の言葉を聞いてわかった。私は深く深呼吸をしてこう話した。


「私はもう誰も傷つかない、失わない世界を作りたい。そのため私が強くなる。そして、もう恐れない。踏み出すことを。だって世界は無限の可能性を秘めているのだから。私もそして、あなたも」


私はそう言って白の女王の手を取った。その時、大きく何かが割れる音が聞こえた。

白の世界にひびが入っていく。うっすらと奥の世界が見える。そこはチェス盤が見えていた。

チェス盤の上で赤の女王とマオがグリードがレイが戦っている。

けれど、私は走り寄ったけれど壁がそこにあった。赤の女王の剣戟が3人を襲っている。

レイは木で白の女王を庇い続けていた。

マオもグリードも傷だらけだ。けれど、どこにもハオはいなかった。

白の女王が言う。


「ハオは最後の戦いには出られないの。だってあそこは誰かの記憶の中じゃないから」


その時の、白の女王の顔はすごく悲しく見えた。私は白の女王に聞いた。


「どうしてハオ様は出られないの?」


白の女王は寂しくこう答えた。


「ハオはだって『ここ』ではないところにいるから。壊れ行く世界を維持するため、そして僕らの『アリス』がこの世界に再び来たとき世界を伝えたいために」


私は意味が解らなかった。白の女王が言う。


「私は先に戦いの場に戻りますね。アリスは自分を、なりたい自分を見据えて戦って下さい。白の世界は純粋な時を思い出させてくれる世界ですから」


そう言って白の女王は私が通り抜けられなかった壁をすり抜けていった。

壁越しに見える白の女王に重なり合った時、チェス盤の上にいた白の女王は目を醒ました。

その白の女王の横には私が横たわっていた。私に当たる剣戟をマオが必死に防いでくれている。

マオ、早く私もそっちに行くからね。私はそう決意した。

白い世界はどんどん圧縮して何かをかたどっている。

私はその形を見て気がついた。今の私だ。ただ、まるで石膏で出来たかのようなその白い塊の私。表情もないその石膏のような私は腰にある剣を抜いてきた。

私も腰にある剣を抜いた。倒さなきゃ。

私は深呼吸をした。どこからか声がした。ただ、言葉にすることは出来なかった。

私は記憶のどこかで同じようにかすかに聞こえる声に耳を傾けたのを思い出した。

石膏のような私は剣を振り下ろしてきた。

私は剣でその攻撃を受け止める。鈍い音がした。そして体に走る衝撃。

いつも、こうやってハオやマオは剣で攻撃を受けてくれていたんだね。

私は意識を集中した。なんだか優しくラキシスが笑ってくれているような気がした。

私は少し離れて叫んだ。


「召雷!」


ラキシスの思い、力。私の中にいるのね。忘れないよ。だが、石膏のような私も後ろに身を引いて雷をよけていた。脳裏に笑顔が浮かんできた。ライだった。まるで、いつものように「嬢ちゃん」って言っているみたいだった。


そうだね。


私はひとりじゃないんだから大丈夫だよね。

私は地面をさわり脈打っている思いを受け止めて、叫んだ。


「土を」


地面が盛り上がり、石膏のような私を取り囲んだ。四方から。動けない状態。

私はもう一度叫んだ。


「召雷!」


逃げ場のなくなった石膏のような私は雷が直撃した。盛り上げた地面を元に戻す。

そこには黒く焦げ付いた石膏のような私がいた。

勝てたんだね。私はハオのマオの、いやみんなの思いがある。


「ありがとう」


私は空に向かってそう言った。黒く焦げ付いた私から黒い渦が生まれ始めた。

世界がどんどんと変わっていく、色んな色があふれ出し、飲み込まれていく。

世界はそう、いつの間にか大量の色から生まれた黒になっていた。

私は黒い世界に取り込まれていった。



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