マゼンダの世界 -2
私は2階から1階に走った。
玄関をあける。
「来るな」
マオの声がした。その瞬間、剣戟が玄関を襲う。白く空間が光った。
「間に合ったか」
聞いた事のない低い声がする。扉の向こうに白い法衣を着た男性が居る。黒く短い髪。黒い目。そしてあごひげ。どことなく野性的な風貌がする。いや、危険な匂いがする感じだ。目が鋭い男性。法衣なんかを着ているのに似合わない風貌。かなり筋肉質なのが解る。
鍛え上げられた体、まるで戦士のようだ。でも、その服装から彼が白のビショップだということがわかる。その男性がこっちを見てきた。
「嬢ちゃん。そこから一歩も出るんじゃないぞ。
なんたって、俺らはあんたを守らないといけないんだからな」
そう言って、その男性はウインクをしてきた。マオが叫んでいる。
「おい、おっさん。結界は大丈夫なのか」
その男性はマオに向かって話す。
「おっさんではない、ライだ。すでに結界は完了している。
じゃあ、お嬢ちゃん、そこにいるんだよ。われわれの使命は『アリス』を守ることと、出来るだけ多くの敵を倒すことだからね」
そう言ってライは走っていく。私は2階の窓に向かった。窓を開ける。けれど、薄い壁に覆われている。アニマートの剣戟が繰り出されているが、びくともしていない。
アニマートが話す。
「あら~白の女王もまた思い切ったことしますね~
なら、仕方ないですかね~アリスは最後ってことにしますか」
私は意味が解らなかった。横でウーシャがずっと祈っている。ウーシャが言う。
「どうかアリスと誰か一人だけでも無事でいますように」
私は祈るよりこの目の前で起こることを見ていたいって思った。風がものすごい勢いで館に吹いている。アレグロの能力だ。ライが窓の下辺りまできた。そこに、ラキシスも、マオも居る。ライが地面に手を置いた。その瞬間、地面がもりあがり走り出した。
何?
ウーシャが言う。
「ライの能力は土。土で風を防ぐの」
ウーシャの言うとおり、土が盛り上がり壁のようになる。そして、一つの場所のドーム状につつんだ。風が止まった。瞬間ラキシスが叫ぶ。
「召雷」
風が止んで場所がわかったアニマートとヴィーデに向かって雷が落ちていく。だが、二人とも走って雷をよける。マオが走り出している。逃げる先のアニマートに向かって攻撃しているアニマートが空に逃げていく。だが、ライが土を盛り上げてマオが走る場所を作る。ラキシスが叫ぶ。
「召雷」
ヴィーデが助けに入ろうとしたのを防ぐために雷をヴィーデの周りに落とし続ける。
『ごぉぉぉ』
ドーム状の土にひびが入る。すかさずライが土を上にかぶせてひびをふさぐ。
マオが剣を振りかざした。アニマートが空間に消えそうになる。マオが短剣を投げつけた。
アニマートの動きが止まる。
「召雷」
ラキシスが叫んだ。アニマートに直撃した。落ちていくアニマートにマオが剣を突き刺した。アニマートが言う。
「こんな無茶な攻撃するなんて。何を考えてるんでしょうね~」
そう言って、アニマートの体がどんどん透明になっていく。マオが言う。
「俺らは生き残るとかそういうのはないんだ。
アリスを守ることと、命をかけてお前らを倒すことしか命令受けてないんだよ」
一体どういうこと。私は不安になった。ウーシャが言う。
「赤の女王が今白の女王と直接戦っています。
けれど、白の女王は戦うことは出来ない。だから、白の女王を守るためにハオ様が呼ばれた。こっちはギリギリの戦力だけ。アリスを守ることを目的。そして、敵を一人でも倒すことが次。生き残ることはその最後。
私も白の女王から言われています」
ウーシャは震えながら言った。そんなのイヤだ。なんでそこまでして私をみんな守るの。
私は窓をたたいた。けれど、びくともしなかった。マオが言う。
「アリス、別にお前を守るために頑張ってるんじゃないからな。
これは白の女王からの命令だからな。そこんとこ間違えるんじゃねぇぞ」
マオは空を見た。アニマートが空を赤くして、赤の時間にしている。だからアニマートを倒せば赤の時間は終わる。そう思っていた。私もマオも、他のみんなも。
だが、空は赤いままだった。
ヴィーデが言う。
「あら、予想が外れたって顔してるわね。
別にアニマートが居なくたって空は赤いままなのよ。
まあ、まだ私たちのほうが戦力は上だからね。それにもうそこの二人は魔力もあんまりないんじゃないのかしら」
そう言ってヴィーデはラキシスとライを見た。確かに二人とも肩で息をしている。アニマートを倒すためにかなり無茶していたのがわかる。ラキシスもあんなに召雷を連発することなんてなかった。ラキシスが言う。
「アリス。心配するな。まだ大丈夫だ。ライ行けるか」
ライは頷いた。だが、その時、ドーム状の土がいっきに破裂した。風と共に岩が飛んでくる。少し遅れてライが壁を作りブロックをした。ヴィーデが剣を構えてマオに走りよる。
マオが剣を構えた瞬間にヴィーデが言う。
「こんなかわいい私に剣を向けるなんて男としてサイテーね」
一瞬マオの動きが止まる。その時アレグロの剣戟がマオに向かって飛ぶ。
瞬間、マオの前に岩が現れる。ライが助けている。だが、どう見てもライもラキシスもかなり限界のように見える。ウーシャが言う。
「ライはこの館の結界も張っています。
そして、ラキシスも同じく。二人ともかなり疲弊している。このままではもたないかも」
私はその声を聞いて決めた。深呼吸をする。大きな声でこう言った。
「逃げましょう。
今は体勢を整えるのよ。そして、また戦いましょう」
私の声に全員がこっちを見た。マオがゆっくり頷き、目線を下に向けた。
私はその動きを見て、ウーシャとともに1階に走った。扉の前の壁が薄くなっている。
「閃光弾」
ラキシスが叫ぶ。その時、ものすごく光に包まれた。ライが走ってきてこういう。
「お嬢ちゃん、つかまりな」
そう言って私とウーシャは小脇に抱えられた。横にマオもラキシスも居る。
「ふん」
ライが力を込めた瞬間、地面が盛り上がり、ものすごい速度でその場を離れて移動をしていくラキシスがさらに叫ぶ。
「召雷」
追いかけてくるヴィーデに向けて放たれた。徐々に空の色が変わっていく。赤の時間が終わったのがわかる。ラキシスが言う。
「これで私の魔力はからっぽだ。もう何も出来ない。後はこの命くらいなものだ。
次、何かあったら私を切り捨てていけ」
そう言ってラキシスは横になって動かなくなった。動いていた地面がゆっくり着地する。
変な気分だった。動く土の塊に乗って移動するなんて。
「これで追いかけてこないね」
私はほっと一息ついた。だが、突風が吹いた。目の前にアレグロとヴィーデが現れる。
ヴィーデが言う。
「逃がさないんだからね」
そう言ってヴィーデが剣を振りかざしてくる。剣戟がアレグロの風に乗ってものすごいスピードで私に向かってくるのが解った。避けきれない。その時私の前にラキシスが。
何が起こったのかわからなかった。ラキシスは目の前で両手をクロスして剣戟を受け止めた。目の前でラキシスの背中がどんどん透明になっていくのがわかる。
私は叫んだ。
「なんで、なんで、ラキシスさんが、、、」
だが、ラキシスは私を見て笑顔になった。そしてこう言ってきた。
「アリス、幸せになるんだ。私の分まで。そして泣くな」
私は倒れ行くラキシスを抱えようとした。けれど手からすり抜けていく。消え行くラキシスが目を開いて叫んだ。
「雷光線」
指から一閃光が伸びた。その光はヴィーデの胸を貫いた。ヴィーデがびっくりした顔をしている。ヴィーデの体も徐々に透明になっていく。ラキシスが言う。
「これで心置きなくいける」
そう言ってラキシスは消えていった。
「いや~行かないで」
私の叫びはただただ、響くだけだった。どこまでも。涙が止まらない。
気がついたらマオに抱きしめられていた。優しく、力強く。
なんだかよくわからない感覚になった。ラキシスがいなくなって悲しくて泣いていた。
でも、気がついたらマオの胸で泣いていた。いつも悪口いったりしていて、意識なんてしたことなかった。いや、意識をしないようにしていたのかも知れない。
私の中にハオがいたから。でも、守ってくれている、マオが、いつも。辛い時、傍にいてくれている。どこかで声がする。聞きたくない。このまま時が止まればいいのに。
なんかそんなことを思っていた。マオが私の肩に触れる。マオが言う。
「アリス、少しだけ待っていて欲しい」
そう言って、私は後ろを見た。後ろにはライが岩でアレグロを押さえ込んでいた。
『ごぉぉ』
岩が吹き飛んだ。アレグロが話す。
「また、違う世界で会う」
そう言って風にのって消えていった。その姿を見てか、ライもマオもその場に倒れこんだ。二人とも限界まで戦っていたのが良くわかる。ライなんてもう魔力が残っていないと思っていた。ライがいう。
「嬢ちゃんたち。とりあえず戻るとするか」
もうフラフラなはずなのに、ライはそう言った。でも、私はやはりその時に思う。もうラキシスはいないんだって。ふと気がつくと涙が零れ落ちてきてしまう。もっと話したかったよ。泣いているのに気がついたのかマオが横に来て頭に手をまわしてきた。
マオの胸私の顔が吸い寄せられた。マオは何も言わなかった。
館に着いたらライが言って来た。
「とりあえず、メシでも食うか。何か作ってやるぞ~」
けれど、食欲なんてなかった。首を振ったらライが言って来た。
「食べなきゃダメだ。こういう時こそ食べることを意識しなきゃいけなんだぞ」
けれど、私は2階にあがった。ベッドに寝転がる。まだそこにラキシスがいるのではと思ってしまう。部屋にウーシャが入ってきた。ウーシャが言う。
「アリス、つらいのはみんな同じ。マオもライも目の前で助けられなかったんだから。
それにライはラキシスのことが好きだったから。だから、この世界に来たって聞いた。
死ぬかも知れないこの世界にね」
私はそれを聞いて考えていた。相手の方が戦力は上。死ぬかもしれないのにこの世界に来る。そんなの感じさせなかった。誰も。ウーシャが続けて言う。
「実は、みんなもしものことを考えて手紙を書いていたの。ここにラキシスの手紙置いていくね」
そう言ってウーシャは棚から取り出した手紙を置いていった。私は手紙を読んだ。
「アリスへ。
これをアリスが読んでいるということは助かったということだ。
それは嬉しいことだ。だから泣くことなんてない。
いつだって私はアリスの傍にいるからな。
ラキシス」
短い手紙だった。けれど私には十分だった。私は手紙を大事にしまった。
ウーシャが取り出した棚を見る。そこには二つ手紙があった。私は一つを手に取った。
ライのだった。ライのはもっと短かった。
「嬢ちゃん。泣くなよ」
それだけだった。
なんだか見て笑ってしまった。もう一つに手を伸ばす。なんだかドキドキしてしまった。
手紙に触れた瞬間声がした。
「おい、それ見んなよ」
マオだった。私はマオの手紙を手に取った。マオがやってくる。
「見んなって言ってんだろう」
私は言う。
「いいじゃん。別に減るものじゃないんだし。それに私宛に書いてくれたんでしょ。
だったらもう私のものじゃん。この手紙」
その時、力任せにマオが私から手紙を奪った。
「ふぅ~危なかった」
マオがそう言う。そして、その後にマオが続けて言って来た。
「って、これライの手紙じゃねえかよ」
私はマオが安心した隙に手紙を読んだ。マオが話してくる。
「あのな、それ、勢いで書いたというか、なんというか。
気にすんなよ」
そう言ってマオは部屋を出て行った。手紙にはこう書かれていた。
「アリスへ。
いつもふざけあっていたけれど、お前は特別なんだ。
お前の中のどう俺が残っているのか解らないけど、俺はお前だけは忘れない。
だから、たまにで良いから俺のことを思って笑ってくれ」
私は手紙をそっとしまった。なんだかちょっとマオの手紙嬉しかった。なんだか、マオといると笑顔になれた。ありがとうね、マオ。私は下に降りていった。おいしい匂いがする。
「お、降りてきたか」
ライが言う。疲れているはずなのに、ライはタフだって思った。もう魔力なんてほとんどないはずなのに。私は不思議そうにライを見ていた。ライが言う。
「嬢ちゃん、そんなに見つめてどうしたんだい。さては腹が減ったんだろう。
こういう時はカレーだよな」
そう言って、ライは鍋いっぱいに作ったカレーを出してくれた。マオもウーシャも笑っている。本当は辛いのは解る。でも、暗くなったらラキシスに悪いものね。ラキシスはそんなの望んでいない。前に向かって歩く私を望んでいる。私は笑顔でカレーを食べた。少しだけ目が熱くなったけれど泣かないよ、もう。
そのまま疲れて少し眠ろうって話になった。私はウーシャと二人で2階にあがった。2階の窓から外を見る。そこにトランプ兵がいるのが見えた。どうして?
私は剣を取り出した。下に降りる。ライは泥のように眠っていた。マオも同じだった。
疲れていたんだよね。トランプ兵1体なら私が倒す。ずっと、守られているだけなんてイヤだもの。扉を開けると後ろのウーシャも居た。ウーシャが言う。
「私も戦う」
そう言ってウーシャが少し光った。手に剣を持っている。私とウーシャは外に出た。
どうやらトランプ兵は窓をを監視しているようだった。見張りなのだろう。1体しかいない。私は右側から、ウーシャには館をぐるっとまわってもらって反対側からトランプ兵との間合いを詰めていった。
逃がさない。
それに、応援を呼ばれても困る。私はトランプ兵に突進していった。一瞬動きが止まったトランプ兵。槍で私の振り下ろす剣を防ぐ。
「今よ、ウーシャ」
ウーシャが剣を構えて走ってきた。トランプ兵がウーシャを見る。力が抜けた。
私は一旦離れて、それからトランプ兵に切りつけた。ウーシャも切りつける。
徐々にトランプ兵の体が透明になっていった。
「やったね」
ウーシャが私に抱きついてきた。私は空に向かっていった。
「ラキシス、私強くなるからね」
そう言って館に戻った。ベッドに入ったら眠ってしまった。ウーシャに起こされる。
「アリス、もうそろそろ起きようよ。みんな起きているよ」
私は目をこすりながら起きた。下に降りるとやっぱりカレーが待っていた。
「カレーは元気になるからいいんだよ」
ライがそう言ってカレーをよそってくれる。多分作りすぎたんだろうな。私は何も言わずにカレーを食べた。マオが言う。
「この世界ももう大丈夫だな。そろそろ次の世界に行こうか」
私はコクリと頷いた。カレーを食べ終わって私たちは外に出た。皆、目の前の空間を歪ませる。マゼンダの世界、忘れないよ。私は空を見て思った。歪んだ空間に足を踏み出す。
降り立った世界。そこは「イエロー」だった。この「イエロー」の世界で私は再び出会ったんだ。




