黒いパズルと煉獄の牢
寂とした静けさに満たされた白い部屋。
これまで、どれくらいの時間が経ったのだろう。
これから、どれくらいの時間を往くのだろう。
わたしは、この部屋でピースを繋ぐ。
いや――正しくは、わたしも、かな。きっと、誰もがみんな、そうなのだろう。
一つ、一つ。ゆっくりと、丁寧に。
指先でつまんでは、その真っ白なピースを当てはめてゆく。
やがて、何の色もまだ知らない純白のミルクパズルが完成する。
わたしは次に、その上に色と形を乗せていく。
温かな色。寒い色。
そうして、何枚も、何枚も。
ピースを繋いで。ミルクパズルを彩って。
できあがった景色は、どれも大切にしまっておく。
この部屋のどこか、奥だとか隅の方に。
いままでは、そうだった。
これからも、そうなると良いと思った。
幸せだな、と。
――しかし、ふいに。
わたしのそんな想いは、打ち砕かれた。
彩られていたパズルは真っ黒く塗りつぶされ、バラバラにされていた。
醜く汚れてしまっていた。
いままでのも、これからのも。
全てが、黒く。
どうしよう、とわたしは悩んだ。
胸が、苦しい。
どこか心細くなり、いつのまにか赤黒く染められてしまっている部屋を彷徨う。
バラバラに散らばって、わたしに絡みついてくる、黒片の海をかき分けて。
少しゆくと、きらきらと光を投げかえしてくるドアを見つけた。
鏡のようだ。もう少し、近づいてみようか。
わたしは、鏡のドアの前へとやってきた。
そこで――言葉を失った。
わたしが、わたしを、見つめているはずなのに……。
わたしの視軸のとらえた先には――
歪んだ『誰か』が佇んでいた。
「あなたは、誰なの?」
『誰か』も、わたしと同時に、「あなたは、誰なの?」と口を動かす。
口角をつり上げて、三日月のように細く嗤いながら。
わたしはしばらく放心した後、鏡の上部に小さく文字が刻まれていることに気がついた。
【Do you think about me?】
(アナタはわたしをどう想う?)
ああ、これは壊さねばならぬ――そう思った。
文字を目にしたとたん、反射的に。
わたしは、ドアを何度も殴りつけていた。
その勢いで黒いピースの海では波がたち、わたしの両手は生暖かく濡れていた。
流れているのは、血だろうか。
どちらの血? わたしか、鏡の中の『誰か』か。
赤い血は、黒い世界では目立たない。認識できない。
それでも構わず、わたしは鏡のドアを殴り続けた。
そして、なんてことはなく。
いとも容易く鏡は欠片になって散り、消えた。
もうそこには何も無く。
誰もいない。
際限のない闇だけが延々と広がっていた。
そうか。
わたしは、殺してしまったんだね。
もう、わたしは、死んでしまったんだね。
停止しつつある思考をどうにか働かせ、最期に想った。
それでいい。
そうして私は白く、光あふれる真の世界に生まれかえったのだ。
かつての少女を――決して開くことのない、この煉獄の牢へと閉じ込めて。




