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第一章[紅き月下の元、黒猫は歩く]―――〈6〉―2

めっちゃ間隔あいた……


見てくれている人はいるのかな(笑)

「ああ……、」

 頭が―――痛い。

「あああ……、」

 身体が―――熱い。

「ああああ……、」

 視界が―――霞む。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 私が―――叫ぶ。

 頭がグチャグチャにかき混ぜられるような感覚に襲われて私は思わず膝を地面についた。

 頭を手で押さえ、あまりの痛みに目を閉じようとするが、私の両の眼はまるで私のものではないようにビクともせずに極限にまで見開き空を見つめた。

 広がるのは、赤く紅く緋く染まる星空。

 苦しいよ。痛いよ。辛いよ。そんな負の感情が私の中で渦巻き、せめぎ合う。

 ギギギギギギ、と何かが軋む音が聞こえた。

 頭の中で断続的に響くそれは、ゆっくりとゆっくりと奥へ奥へと侵入していく。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ………、」

 カチリ、と何かの歯車が―――かみ合った。



 私の視界に物質の構成がすべて視覚化し、何もかもを理解できるようになった。



「あああああああああああああははははっはははははははははははははははははははははっははははははははははははははははッ!!!!!!!!!!」

 いつの間にか私の叫びは笑い声へと変わっていた。しかし、そんなことは今の私には微塵の興味もない。

 世界の真理が見えたのだ。

 世界の真実が見えたのだ。

 世界の構成が見えたのだ。

 なんだこれ、気持ち悪い。

 こんなもの、私は知りたくない!!

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!!!!

 ―――人の死が、視界に広がった。

 ―――過去の出来事が頭に広がった。

 ―――何もかもが私に広がった。

 受け入れられない。受け入れたくない。

 それらすべてが到底受け入れ難いものだった。

 人が死ぬ。

 しかし、私にはそれを理解することしかできない。

 人が死ぬ。

 しかし、私にはそれを見ることしかできない。

 人が死ぬ。

 しかし、私にはそれを受け入れることができない。

 信じられるものか、受け入れることができるものか。

 人の死をパラメーターで感じる私の現実を、受け入れられるはずがない!

「はははははははははははははははははははははははっははははははっはあはあ!!!!」

 消えてくれ!!

「ははははっはははははあひはははっはははははははあはははひうははははははは!!!!」

 頼むから……

「っははははっあははははははひははっはははははははあひひひははははははははははははははははは!!!!!!」

 誰か………

「はははははひああひっははははははっははははははひひはははははははははははははははははぁ―――――――――」

 誰かッ――――――



「泣かないで、秋川。綺麗な顔が台無しだよ」



 ズバチィ!! という炸裂音が辺りに鳴り響いた。

 まばゆい光を放っていた魔方陣はその働きを止め、私を囲うように配置された白銀の腕が全て吹き飛ぶ。

 全身から力が抜け、地面へと身体を落とそうとして、不意に誰かに抱きとめられた。

 温かい。

 人の体温がこれほどまでに安心できるなんてことを、私はこの時、初めて知った。

「もう大丈夫だから。泣かないで」

 いつの間にか、私は涙を流していたらしい。

 温かく、細い指が私の頬を撫でて涙を拭った。

 なぜだろう。

 涙と一緒に不安まで拭われていく気がした。

「………、」

 目を向けるとそこには大嫌いな男の顔があった。

 変態ストーカーで変態宇宙人。優しげな微笑をこちらに向けてソイツは私の髪にそっと触れた。

「まったく心配かけて……泣き顔が似合わないとは言わないけど、やっぱり秋川には笑顔が良いと思うよ」

 珍しいなぁ。

 コイツが冷や汗をかいてるところなんて……初めて見た。

「これで俺に貸し一つだね。いつか何でも一つだけお願いを聞いてくれたら、ちゃらにしてあげるよ。そうだな、一日だけメイド服着て俺のメイドになってよ」

 ムカつくなぁ。

 そんなこと誰がするかよ、この変態野郎め。

 やっぱり、私はお前のことが―――

「……………大っ嫌いだ」

「ハハッ、手痛いなぁ。ホント、秋川には敵わないや」

 大丈夫、とソイツは私の頭を撫でながら、小さくつぶやいた。

「明日の朝には、いつも通りだから。安心して眠って」

 私の意識はそこで途切れた。

 最後に見たのは、私に顔を近づけてくるソイツの悲しそうな、泣きそうな表情だった。







 少年は、秋川桜の髪に触れるだけのキスをしてからゆっくりと彼女を地面に寝かせた。

 髪の毛に砂がついたらどうとか少し思ったりしたが、こんなときに気にするようなことじゃない。

 今この瞬間、少年―――神谷拓海は非常にムシの居所が悪かった。

「………、」

 髪を撫でてから神谷はゆっくりと立ち上がり、



 ガゴン!! と死角から突っ込んできた赤ちゃん人形を回し蹴りで迎撃した。



《ご、オァ……》

 神谷の蹴りを受けて人形が巨体をあらんばかりに回転させながら地面を転がった。

 ゴッギィ、という鈍い音はいくつかのネジが外れた音かもしれない。

 数回バウンドする人形は、校舎の端にある樹木に激突してからようやくその勢いを止める。

 神谷はそれを冷めた表情で見つめて、小さく目を細めた。

「悪いけど今、すっごいムカついてるから。ウサ晴らし、させてもらうよ」

《こ、の……魔術師風情がぁ……私の邪魔をするなんて百年早いでししししししし!!》

 ギリギリギリ、と糸を無理やり引くような音を響かせながら人形は起き上がった。

 瞳に灯る淡い赤の光が、異様な明滅を繰り返す。

《貴様が邪魔することがどれほどの意味を持つと思っているでし。『教会』にすら所属していない貴様が私たちの邪魔をして、そう簡単に生き延びられると思ったら大間違いでし》

「知らなし、興味もないよ。正直な話、俺はアンタらの計画なんてどうでもいいんだよね」

《どうでもいい? でしししし、どうでもいいとはまた…………ひひひひひ―――殺す》

 ぐにゃり、と神谷の周りの空間が歪んだ。

 地面と空がくっつくような異常な感覚を覚えるような光景の中で、赤ちゃん人形の瞳に淡く赤い光が灯る。

 魔術ではない。

 『堕天人形エンジェル・ブローカー』がそう呼ばれたるゆえんである、神からの贈り物(能力)

 個体の一つ一つが別々の能力を持つ人形は、常識を超える。

《でしししししししししししししししししししししし!!!! 回避不可能に、防御不可。私の精神汚染能力は、貴様の脳を完全に破壊する!》

 笑う口の中に、サメのような牙が覗く。

 ぐちゃぐちゃに絵具を混ぜたような背景は、強制的に吐き気を感じさせるものだった。

 平衡感覚を保てる環境ではない。通常の思考を保てる状況ではない。人が生きていける場所でもない。

 そこらへんの人間なら、三秒も生きてられないだろう。あまりにも強力な幻覚は、人間の頭を簡単に腐敗させる。

 魔術師であれ、なんであろうとも関係ない。この能力は無敵である、と人形は思っていた。

 しかし、神谷拓海はほんの少しだけ眉をひそめながらこう言ったのだ。

「鬱陶しい」

 ドス、と鈍い音がした。

《?》

 最初、人形はその音が何だかわからなかった。

 奇妙な音だった。何かが硬い何かを貫いたかのような、不思議な音だった。

 音源を見る。音が聞こえた自分の下の方に目を向けて―――驚愕した。

 なぜなら。

《……え?》



 自分の身体に漆黒の槍が突き刺さっていた。



《バカな………いつの間に》

 ゴフッ、と人形の口から血が漏れた。赤く光った瞳の色は輝きをなくし、血走った眼が不規則に揺れる。

 パキン、と金属音が鳴った。

 それは、漆黒の槍が『堕天人形エンジェル・ブローカー』の力の核である『結晶』を粉砕した音だった。

 直後。

 ボッガァァァァァァァン!!!! と轟音を炸裂させ、赤ちゃん人形が大破、炎上した。

 校舎に勢いのよい風が吹き、人形から五十メートルほど離れていた場所に立つ神谷の髪を撫でる。 

 彼は色素の薄い瞳を後ろに居る最後の『堕天人形エンジェル・ブローカー』の方へと向け、呟く。

「あと一体」

 その感情を押し殺したような低い声は運動場へと静かに鳴り響いた。

ちょっと納得できない今回の出来


すごく不満です(苦笑)

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