『私達の愉快な冒険譚』
アスター達と別れたあと、私はアイリスとローレルと一緒にサカリウムへ向かったの。
ローレルは、一見するとやる気がなさそうで、ちょっとだらしない女の子に見える。
でも、実際は全然違ったよ。
物事の要点を掴むのが上手で、やる時はちゃんとやる。
休む時は思いっきり休む。
メリハリがはっきりしている子なんだと思う。
アイリスは、ローレルとは正反対。
真面目で、いつも気を張っている女の子。
頑張り屋さんなのは良いことだけど…
たまに、疲れちゃわないかな?って心配になっちゃうんだよね。
そんな二人と一緒に旅をした、サカリウムまでの思い出。
忘れないように、日記に書いておこうと思う。
三人で初めて戦った魔物は、いきなり奇襲を受けるところから始まっちゃった。
原因は、私が枯れ木だと思い込んで、不用意に近づいちゃったんだよね…
今思い返しても、あの時は本当にびっくりしたなぁ。
「リリちゃん、危ない!」
ローレルが叫ぶと同時に、アイリスが私の前へ飛び出した。
私は何が起きたのか分からないまま、アイリスの背中を見つめる。
すると
枯れ木だと思っていた魔物が、アイリスへ向かってツタを鞭のように振り下ろしてきた。
「リリーは、下がって!」
アイリスは迫り来るツタを剣で次々と切り裂きながら、ちらりと私を見る。
私は頷いて後ろへ下がった。
そして、御業で一気に片を付けようとした。
その時だった。
ちょん、ちょん。
肩を突かれる。
振り返ると、ローレルが笑っていた。
「りりちゃんさ、御業は使わないほうがいいって、グラちゃんが言ってたの忘れた?」
「…!」
「今、使おうとしたっしょ?」
私は、ローレルの勘の良さに驚いた。
どうして分かったんだろう。
すぐに弁明しようとメモ帳を取り出したけど、文字を書こうとした私の手に、ローレルがそっと手を添えた。
「ここは、あーしに任せてよ」
そう言って、ローレルは笑った。
「友達っしょ?」
でも、私は、その言葉に少しだけ不安を感じてしまった。
もし何かあった時は、私が何とかしよう。
そう決意して、二人を見守ることにした。
「アイちゃん、合わせるよ」
ローレルはアイリスに一声かけると、魔物へ向かって駆け出した。
予想外の行動に私は思わず目を見開いた。
てっきり、後方から支援するものだと思っていたから。
ローレルは魔物の攻撃を軽々とかわしながら、アイリスへ近づいていく。
そして、何かを取り出すと、アイリスへ向かって放った。
「あとさ、これ、剣と一緒に握ってよ」
アイリスが受け取ったものは、ネイルのような形をした小さな魔力石だった。
それを剣の柄と一緒に握りしめる。
すると
剣が一瞬で炎を纏った。
「魔力石か!」
アイリスが驚いたようにローレルを見る。
「そそ。低品質だから、長くは持たないけどね」
ローレルは、魔物の攻撃を踊るようにかわしながら答えた。
「かたじけない」
アイリスは短く礼を言うと、炎を纏った剣を強く握りしめ、魔物へ向かって飛び出した。
その動きに合わせるように、ローレルも駆け出す。
ローレルのネイルが怪しく光った。
次の瞬間
両手に炎の爪が現れた。
左から迫る根やツタを、アイリスの真っ直ぐな炎の刃が次々と切り裂いていく。
その隙を縫うように、右から襲いかかる攻撃をローレルがひらひらと身を翻してかわし、そのまま炎の爪で焼き切っていった。
「…」
すごい。
まだ一度しか一緒に戦ってないはずなのに。
まるで、ずっと一緒に戦ってきたみたい。
私は、そんな二人の動きを呆然と見つめていた。
そして
アイリスの炎を纏った剣と、ローレルの炎の爪が、同時に魔物を切り裂いた。
魔物の身体から、パチパチと音を立てて炎が燃え上がる。
やがてアイリスの剣から炎が消え、ローレルの手からも炎の爪が消えていった。
戦いは、あっという間に終わってしまった。
私は、しばらく二人のことを見つめていた。
これが、ローレルとアイリス。
二人と一緒に旅をするのが、頼もしく楽しみになった瞬間だった。
三人で初めての野営。
魔物と戦ったり、おしゃべりをしたりしながら歩いていると、あっという間に時間が過ぎていった。
やがて日が傾き始めたので、私たちは急いで野営の準備を始めることにした。
そこで私は、ローレルが意外と気の利く子だということを知った。
「ん? ローレルが火を起こしてくれたのか?」
いつの間にか用意されていた焚き火を見て、アイリスが首を傾げる。
しかも、焚き火を囲むように木でできた椅子まで用意されていた。
「まぁね」
ローレルは、少し得意げな顔で答える。
『ローレル、すごいね。ありがとう。とっても助かるよ』
私はペンを走らせ、ローレルへお礼を伝えた。
「あーしら友達っしょ? 気にしなくていいよ」
ローレルは、照れくさそうに笑った。
「ローレル、ついでに料理も手伝ってくれないか?」
アイリスが夕食の支度をしながら声をかける。
「えー、今日だけだよ」
ローレルは一度嫌そうな顔をしたものの、渋々といった様子でアイリスのところへ向かった。
…これは、あとになって気づいたことなんだけど。
ローレルって、頼られるのが好きなんだと思う。
嫌そうな顔をしたり、面倒くさそうにしたりはする。
でも、ローレルが頼みごとを断ったところを、私は一度も見たことがないんだよね。
本人に「頼られるのが好きなの?」って聞いたら、きっと否定されちゃうと思う。
だから、このことは私だけの秘密にしておこうかな。
夕食を食べ終わり、三人で焚き火を囲んでくつろいでいた時のこと。
「なあ、ローレル。五行を使い分けるって、どんな感じなんだ?」
アイリスが、ふとローレルに尋ねた。
「どうって言われても…」
ローレルは困ったような表情を浮かべると、私に助けを求めるような視線を送ってきた。
私もアイリスの質問に答えようと考えてみる。
でも、ペンがなかなか進まない。
『火行を使おうと思えば火行が出るし、木行を使おうと思えば木行が出るし…難しいよ』
結局、頭の中に浮かんだ、とりとめのないことを書き留めることしかできなかった。
「ふむ…」
私の書いた文章を読んだアイリスは、どこか納得していないような顔で頷いた。
そして、少し考えたあと、別の質問を口にする。
「だったら、二行同時発動はできるのか?」
二行同時発動…?
私は今まで試したことがなかった。
どう答えればいいのか分からず、ローレルへSOSの視線を送る。
「二行ならできるよ。見ててみ」
私の視線を受け取ったローレルは、立ち上がると焚き火から少し離れていった。
「じゃあ、火行と金行の同時発動、いくよー!」
ローレルはかなり遠くまで歩いていくと、私たちに聞こえるように大声で叫んだ。
…ローレルって、あんな大きな声も出せるんだ。
私は、そんなことに驚いてしまった。
そして、これから何が起こるんだろう?
アイリスと二人でワクワクしながら待っていると
ヒュ~
一つの火球が夜空へ向かって打ち上がった。
そして、
バンッ!
大空で炸裂し、七色の火花を散らしながら大きく広がった。
「わぁ…」
アイリスが、声を上げた。
ヒュ~
ヒュ~
ヒュ~
続けざまに、次々と火球が夜空へ打ち上げられていく。
そして
バンッ!
一つは、魚が夜空を泳いでいるかのような火花を散らした。
バンッ!
一つは、爆発した直後にさらに小さな爆発を繰り広げ、無数の花を夜空に咲かせた。
そして最後の一つは、柳の枝のように細長い火花を垂れ下げた。
どれも、この世のものとは思えないほど綺麗だった。
しばらくすると、ローレルが得意げな表情を浮かべながら戻ってきた。
「どう? 二行同時って凄いっしょ?」
どうやら、褒めてほしいみたい。
「凄い、凄いぞ! ローレル!」
アイリスが目を輝かせながら、ローレルを褒める。
『凄いね、ローレル。とても綺麗だったよ』
私も負けじとペンを走らせた。
「いやぁ、それほどでもないよ」
ローレルはそう言いながら、頬を赤く染めていた。
…嬉しそう。
「じゃあ、三行や五行を同時に使ったら、もっと凄いことになるのか?」
アイリスが子どものように無邪気な笑顔を浮かべながら尋ねる。
「うーん…」
ローレルは少し悩むように腕を組んだ。
「三行なら、いけるかもしんない。でも、五行は相剋の関係が邪魔しちゃうから、厳しいって感じかな」
「じゃあ、他の二行同時発動も見せてくれ!」
アイリスが食い気味にお願いする。
「見てみたい感じ?」
ローレルが嬉しそうに尋ねた。
「見てみたい感じ!」
アイリスが即答する。
「まぁ、そこまで言うなら…今日だけ特別だよ」
ローレルは、やれやれといった様子で肩をすくめた。
でも、その足取りは妙に軽かった。
…やっぱり。
ローレルは、頼られたりお願いされたりするのが好きみたい。
それに…
褒められると、ちょっと調子に乗っちゃうところもあるっぽい。
翌日。
私たちは海沿いにある、小さな漁村へたどり着いたよ。
白い砂浜がどこまでも続く、静かで穏やかな村だった。
海から吹き込む潮風に乗って、魚や貝を焼く香ばしい匂いが漂ってくる。
浜辺には小さな漁船が何艘も並び、漁を終えた漁師さんたちが網や漁具の手入れをしていた。
家々は海風に耐えるように低く造られていて、黒い瓦屋根と白壁の組み合わせが多い。
軒先には干物が吊るされ、玄関先には漁具や木箱が置かれている。
村の背後へ目を向けると、そこには不思議なくらい広い草原が広がっていた。
風が吹くたびに、背の低い草が一斉に揺れる。
そして、海とは反対側には湖があるらしい。
海では漁師さんたちが魚を追い、湖では湖の魚を獲る人たちがいる。
海と湖。
二つの水に挟まれた、小さな村だった。
そんな村へ足を踏み入れた直後。
「あーし、もう疲れた…」
ローレルが、疲れ切った様子で弱音を吐いた。
昨日、アイリスが褒めに褒めまくった結果、調子に乗ったローレルが魔法を連発したせいだ。
「その…すまない…」
アイリスが、申し訳なさそうに謝る。
「アイちゃんが悪いわけじゃないよ」
「しかしだな…」
私は、そんな二人のやり取りを微笑ましく見守った。
なんだか、妹が二人できたみたい。
やがて二人のやり取りが落ち着いたところで、私は紙に文字を書いて二人に見せた。
『初めて来た村だし、今日はゆっくり泊まっていかない?』
「おお! リリちゃん助かる!」
ローレルが、食いつくように反応した。
「そうだな。スピレア達はパウロに寄ってから来るのだし、時間にも余裕があるだろう」
アイリスも賛成してくれた。
『じゃあ、宿を探して、お昼ご飯と晩ご飯をどこで食べるか決めようよ』
私は、そう書いた紙を二人に見せる。
すると
「あーしは、新鮮なお魚が食べたい!」
「私は、貝を焼いて食べたい」
二人がそれぞれ食べたいものを口にする。
私は、その様子が微笑ましくて笑ってしまった。
「リリちゃんどったん?」
『なんでもないよ』
こうして私たちは、何を食べようか話しながら、村の中を歩いて宿を探し始めた。
初めて訪れた村を、三人でのんびり歩いた。
温かく楽しい旅が出来そうで良かった。
お昼は、あれやこれやと話しながら村を歩き回っていたら、すっかり時間を忘れちゃってた
気がついた時には、村のお店が全部閉まっていた…
私たちは空腹を紛らわせるためにも、宿を見つけたあとも村の中を歩き回ることになった。
すると
くぅ~…
ローレルのお腹が、小さく音を立てた。
「お腹すいたー…」
ローレルが、切なそうに呟く。
「だな…」
アイリスもしょんぼりと頷いた。
三人で途方に暮れながら浜辺を歩いていると、
「そこのお嬢さんたち! 暇だったら、釣りでもしていかないかい?」
貸し釣具屋のおじさんに声をかけられた。
「釣り…?」
ローレルが反応して、声のした方を振り返る。
そして
「おお! リリちゃん! アイちゃん! これだよ! これ!」
妙にテンションを上げながら、店先の看板を指差した。
どうしたんだろう?
そう思いながら、ローレルが指差す看板を見る。
そこには、
『釣った魚の調理も行いますので、初心者でもお気軽に』
と書かれていた。
「リリー! 釣ろう!」
アイリスも目を輝かせながら私を見る。
『そうだね。頑張って釣ろうか』
こうして私たちの、初めての釣りが始まった。
おじさんに釣りのやり方を教えてもらい、防波堤から三人で釣りを始めたよ。
でも
「釣れないな…」
「釣れないねぇ…」
全然ダメだった。
魚がかかるどころか、竿先すら揺れない。
ただ海を眺めながら、時間だけが過ぎていく。
結構、絶望的な時間だったと思う。
「こうなったら…」
ローレルが、突然立ち上がった。
何をするんだろう?
そう思って見ていると
ローレルのネイルが怪しく光り始めた。
そして、
バチッ!
バチッ!
と、紫電が走る。
「…!」
私は慌てて竿を置き、ローレルのところへ駆け寄った。
『ローレル。ダメだよ』
そう書いた紙を見せながら、私はローレルの背中を優しく撫でる。
「えー、でもさー…」
ローレルが不満そうに何かを言いかけた、その時だった。
「リリー! 掛かっている!」
アイリスが突然、大声を上げた。
何事かと思って振り返る。
すると、アイリスは片手で私の竿を、もう片方の手で自分の竿を持っていた。
そして
私の竿は、大きく弧を描いている。
「おお!」
今度はローレルが声を上げた。
振り返ると、ローレルの竿も大きく曲がっていた。
どうやら、私たち三人とも魚が掛かったみたい。
二人が一生懸命に魚と戦っている姿がなんだか微笑ましくて、私は思わずその様子を眺めていた。
すると
「リリー! 助けてくれ!」
アイリスから声が飛んできた。
慌てて振り返る。
すると、アイリスは両手に一本ずつ、曲がった竿を持っていた。
アイリスの竿にも魚がかかったらしい。
私は慌てて、そのうちの一本を受け取った。
海の中の魚が、海底へ引きずり込もうとするかのように竿を強く引っ張っている。
私は魚に負けないよう、竿を必死に立てた。
「見えてきた!」
その時、ローレルが叫んだ。
「こっちもだ!」
アイリスも少し遅れて声を上げる。
ローレルの方には、茶色くて平べったい魚。
アイリスの方には、オレンジ色っぽい魚が見えていた。
私も二人に負けないように、魚を必死に引き上げる。
すると
私の方にも、黒っぽい魚が見えてきた。
「あとは任せて!」
魚が水面まで上がってきたところで、ローレルが叫んだ。
何をするんだろう?
そう思ってちらりとローレルを見る。
すると、ローレルの左手から三本のツタが魚に向かって伸びていった。
ツタは網のように絡み合い、そのまま魚を包み込む。
「ほいさ!」
ローレルがツタを引っ張ると、魚が一気に水面から引き上げられた。
…これって、釣りなのかな?
少し不安になりながら魚のところへ歩いていく。
そこには、茶色くて平べったい魚と、オレンジ色の魚、そして黒っぽい魚。
三匹の魚が並んでいた。
どれもあまり可愛い顔をしていない…
『これって…食べられるのかな?』
美味しくなさそうな魚たちを見ながら、私は不安になって二人に尋ねた。
「どうだろうな?」
「さあね?」
二人とも首を傾げる。
「とりま、持っていこ」
ローレルはそう言うと、魚をずるずると引きずりながら、おじさんのところへ歩き始めた。
「待って、ローレル!」
私とアイリスも慌てて、その後を追いかけた。
…ちゃんと食べられる魚だといいな。
「ただいまー!」
ローレルが、まるで実家に帰ってきたかのようなテンションで貸し釣具屋さんへ入っていく。
「おう、おかえり! どうだった?」
ローレルの声を聞くと、おじさんが笑顔で出迎えてくれた。
「これって、食べられるわけ?」
ローレルが、ずるずると引きずってきた魚を指差して尋ねる。
「おう? どれどれ?」
おじさんが魚へ近づいていく。
そして
「って、お前ら! 高級魚じゃねぇか!」
魚を見た瞬間、おじさんが大声を上げた。
高級魚…?
ということは、美味しいのかな?
そう思うと、私は一気に期待が膨らんだ。
すると
くぅ~…
くぅ~…
くぅ~…
三人のお腹が、ほとんど同時に鳴った。
「!」
ものすごく恥ずかしくなって、私たちは慌ててお腹を押さえる。
「はっはっはっは! そんなに腹が減ってるのか!」
おじさんは豪快に笑った。
「だったら、こいつらを刺身にしてやるぞ?」
「頼む…」
アイリスが恥ずかしそうにお腹を押さえながらお願いする。
「おうよ! 椅子に腰掛けて、ちょっと待ってな!」
そう言うと、おじさんは魚を持って店の奥へ消えていった。
私たちは店の外に置かれていたベンチに腰掛け、おじさんが戻ってくるのを待つ。
高級魚か…
一体、どんな味がするんだろう?
そう考えると、ますますお腹が空いてきた。
くぅ~…
今度は、私のお腹だけが切なそうに鳴った。
…期待するんじゃなかったなぁ。
「お待たせ! ちょっと待ってくれよ」
おじさんが、どこからか机を運んできた。
私たちの前に机を置くと、再びお店の中へ戻っていく。
「手伝わせてくれ!」
アイリスが立ち上がり、おじさんを追いかけようとした。
「お客さんに手伝わせられるかい! いいから座ってな!」
ところが、おじさんに一喝されてしまった。
「そうか…」
アイリスは少ししょんぼりした様子で、再び私の隣へ腰掛ける。
『どんまい』
私はアイリスの頭を撫でながら、紙にそう書いて見せた。
すると
「お待たせ!」
おじさんが、大皿を三つ抱えて戻ってきた。
「こっちがヒラメで、アコウに、マゴチだ!」
魚の名前を紹介しながら、一枚ずつ大皿を机の上に並べていく。
「おお!」
「おお!」
アイリスとローレルが、目を輝かせる。
どの魚も綺麗に捌かれていて、とっても美味しそうだった。
「醤油は、これを使ってくれ」
おじさんは醤油皿や箸まで用意して、私たちの前に並べてくれた。
「そんじゃ、ごゆっくり!」
おじさんは、にっこり笑うと店へ戻ろうとする。
その時だった。
「せっかくだし、おじさんも一緒にどうよ?」
ローレルがおじさんに声をかけた。
そして私の方を見て、目で「いいよね?」と確認してくる。
魚を捌いてもらったお礼もしたかったし、三人で食べるには少し多そうな量だった。
私は、喜んで頷いた。
「そうだな。これも何かの縁だ」
アイリスも頷く。
「いいのかい?」
おじさんが、少し遠慮がちに尋ねてくる。
「いいってよ」
ローレルが、私たちを代表するように答えた。
「じゃあ、ちょっと待っててくれ」
そう言い残すと、おじさんは店の中へ消えていった。
何をするんだろう?
そう思いながら待っていると、すぐにおじさんが戻ってきた。
「お嬢さんたちは、お酒は飲めるかい?」
おじさんは、グラスを四つと一升瓶を抱えていた。
「あーしは、飲めるよ」
ローレルが、すぐさま手を挙げる。
「少しなら…」
アイリスも恐る恐る手を挙げた。
『私は、お酒をいっぱい飲んじゃうと文字が書けなくなっちゃうから、少しだけ』
私はそう書いた紙を見せる。
「なあに。強要はしないさ! 少しだけでも付き合ってくれる。それだけで嬉しいさ!」
おじさんは笑いながらグラスを配り、全員のグラスになみなみとお酒を注いでいく。
…少しだけ?
私は、目の前のグラスを見つめながら首を傾げた。
これ、本当に少しだけなのかな?
そんな疑問を抱きながら、私はグラスを手に取る。
「じゃあ、かんぱーい!」
ローレルが上機嫌に乾杯の音頭を取った。
「かんぱーい!」
「乾杯!」
私たちもグラスを掲げる。
こうして
私たち三人とおじさんによる、愉快な宴会が幕を開けることになった。
「村の近くに草原があっただろ? あれ、全部昔は砂漠だったんだぜ?」
「えー、嘘だー」
宴会は、おじさんの面白い話を中心に進んでいった。
村の昔話や、この辺りで獲れる魚の話。
時々、本当なのか疑いたくなるような話まで飛び出してきて、私たちは何度も笑った。
「クカー…」
そんな楽しい時間も、夜が更けるにつれて終わりへ近づいていく。
いつの間にか、ローレルは疲れとお酒が重なったのか、机に突っ伏して眠ってしまっていた。
「今日は、この辺でお開きにしようか!」
そんなローレルの様子を見て、おじさんが笑いながら言った。
「そうだな。今日は本当に世話になった」
アイリスが立ち上がり、深々と頭を下げる。
私は、寝ているローレルの肩を揺すったが起きる気配はなかった。
「いいってことよ。気をつけて帰んなよ」
おじさんは笑いながらそう言うと、いそいそと宴会の後片付けを始めてしまった。
『今日はありがとう』
私は紙にそう書いて、おじさんに見せる。
「こちらこそ、ありがとな!」
おじさんは笑顔で答えてくれた。
「それでは、またどこかで!」
アイリスと一緒にローレルの肩を担ぎ、私たちはおじさんに頭を下げる。
「おうよ! また来な!」
おじさんは嬉しそうに手を振りながら、私たちを見送ってくれた。
サカリウムまでは、まだまだ距離がある。
これから先、どんなことが待っているんだろう?
こんな毎日を、これからも三人で過ごせたらいいな。
私は、そんなことを思いながら夜道を歩いた。
この物語の続きが気になった方は、ぜひ本編『精霊術師の終着点』も読んでみてください。
リリー、アイリス、ローレルたちが歩んできた旅の先には、まだまだたくさんの物語が待っています。
三人の旅の続きも、本編で見届けていただけたら嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




