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魔術師狩りのエルアリア ~魔術が使えない少女は剣で憧れを目指す~  作者: 雪柳ケイ
1章

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20.剣術の授業と模擬戦

  学院生活が始まって一週間。

  読み書きや算術などの授業に慣れ始めた頃、ようやく楽しみにしていた剣術の授業の日がやってきた。



  カーンという鐘の音が四度響いて、二時限目の終わりを告げる。

  次の三時限目がお待ちかねの剣術の授業だ。


  私はノートと筆記用具を片付けると、更衣室へと走り、制服から運動用の服に着替え剣術場へと一目散に向かう。

 


  そうして、鐘の音が四度響くと剣術の授業が始まった。


 「——諸君! 私の名前はグリオン・マーディスだ! 君たち学院生徒の剣術指導として雇われている!」


  青空の下、学院内の剣術場。

  その中心で、運動用の服に着替えたクラスメイト達に囲まれ、仁王立ちをする筋骨隆々の男の人が大声を出す。


 「四年生からは受ける授業を自分で選択するようになるが、それまでは剣術の授業は必修科目になっている! 王都にもゴロツキは居るからな! 自分の身くらい自分で守れないと!」


  熱量のすごいグリオン先生に、両隣のセラとフィスが渋い顔をしている。

  二人とも、こういうタイプの人が苦手なんだろうな。

 


 「さて、そういう事で早速。基礎中の基礎から解説していこうか。 隣の人に剣がぶつからない程度にお互い距離をとって!」


  先生に言われ、私達は等間隔に剣術場に広がる。


 「持ち方は大体みんな見てわかるだろう? 柄の部分をこうしっかりと握って、そして振る! さぁやってごらん」

 

  その先生の言葉に、皆は見よう見まねで木剣を振った。


  振り抜く際に漏らす掛け声や、隣のクラスメイトと会話し出す子でたちまち剣術場は騒がしくなる。


 「そう! そう! みんなできてる! それを何回か続けてみよう!」


  そう言って皆の様子を見て回る先生。

  剣が苦手だと言うフィスとセラも、一生懸命に拙い素振りを続けている。


  しかし、なぜだかフィスの手から木剣がすっぽ抜けて地面に落ちた。

  そして、その様子を横目で見ていたセラがクスクスと笑う。


 「笑うなよ! お前も同じようなもんだろ!」


  頬を赤く染めてセラに噛み付くフィス。


 「貴方よりはマシだと思いますけど?」


  そう言ってセラはシタリ顔で笑みを浮かべた。


 「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」


  私は今にも喧嘩を始めそうな二人の間にたって落ち着かせる。

  するとフィスは不機嫌そうに鼻を鳴らして飛んでった木剣を拾いに向かう。


  そんな様子に苦笑いを浮かべつつ、私も素振りに意識を切り替える。


  いつも通り木剣を正面に構え、呼吸を整える。

  そして次の瞬間には......。


 「ふっ!」


  と肺の空気を軽く吐きだして、師匠との稽古前に素振りをする時の感覚で、木剣を振り抜く。


  すると、ビュンッ! という風切り音が鳴り、土煙と共にそよ風が髪の毛を揺らした。


 「お! 君、剣術の心得があると見た!」


  たまたま前を通った先生は私の剣の腕を見るとそう言って足を止めた。

  そしてその声を聞いた周りの何人かが手を止めて私を見てくる。


 「放課後、家で稽古をつけてもらってるので」


  私は構えを解いて、若干自慢の気持ちを混じらせながら先生に言葉を返した。

  すると、先生は顎に手を当てて少し考え込んだあと、ニコッと笑った。


 「ちょうどいい。 みんな注目! 今から模擬戦をやる! 剣術は見て学べる部分も多い。今からする試合をしっかり見て学びぶこと!」


  そう大声で語り出す先生。

  いきなりの事に、私も理解が追いつかない。

  まさかその模擬戦、私にやらせてくれるとか......。


 「君、名前は?」


 「え? あ、エルアリアです。 エルアリア・アドニス」


 「よし、エルアリア。 君には一番最初に模擬戦をやってもらうけど、いいかな?」


  予想は的中。

  先生の提案に私はテンションが上がる。


  師匠からは経験を積めと言われている。

  だったらこれは絶好の機会、逃す選択肢は無い。


 「やります!」


 「いい返事をありがとう! さて、相手はそうだな......そこの君!」


  そう言って先生はクラスメイト達の中から、少し離れた所にいた黒髪の男の子を指さした。


 「はっ? 俺ですか?」


  男の子は、まさか自分が選ばれるとは思っていなかったのか、驚きの表情を浮かべていた。

 

 「そうだ。 君も結構な腕前に見えたからね」


  私の立ってる位置からでは、他の生徒が邪魔で素振りの様子は目に入らなかったけど、どうやら彼も剣の使い方に心得があるらしい。


 「さぁほら、こっち来て。 他の子は端の方へ寄って!」


  先生の言葉に従って他のみんなは、そそくさと移動を開始する。


  そうして、剣術場の中心には私と相手の男の子だけが残った。



 「ルールは簡単。 戦いを続けられなくなるか、どちらかが負けを認めたらその時点で終了だ。 一応模擬戦だからね、危ないと判断したら私が止めに入るから、熱くなりすぎないように」


  クラスメイトと一緒に端の方に立った先生の話を聞きながら、私はストレッチをして全身を伸ばす。


 「はぁ......お手柔らかに、頼むよ」


  相手の男の子は気だるそうに、手を首に添えてそういうと、同じように準備運動をし始める。


  そう言えば、師匠以外と剣を交えるのは去年のジーク殿下以来だったかな。

  あの時はドレスのせいで思いっきり戦えなかったけど、今回は自由に動き回れる。


  相手の実力がどれくらいか、分からないけれど。

  ひとまずこの戦い......。


 「本気で行きますね」


  そう言って私は笑みを浮かべた。


  それから、お互いに準備が出来たと判断した辺りで木剣を構える。


 「二人とも準備はいいかい?」


  先生の確認に、お互い無言で頷く。

  クラスメイト達も全員口を閉じて、剣術場は静寂に包まれる。

  そして......。


  「始め!!」


 

  ——開始の声が聞こえたのと同時に、お互い地面を蹴って真っ直ぐ間合いを詰めた。


 「せあっ!」


  先手必勝、まずは一撃入れて様子を見る。

  私は相手が間合いに入った所で、片手で右からの大振りを繰り出す。


  しかし相手はそれに、同じ大振りで返してきた。



  ——カァンッ!!!!



  と、けたたましい木剣同士がぶつかる音が剣術場に響き、私の木剣は弾き返され重心が後ろへと持っていかれた。

  それと同時に、右手には強烈な痺れが広がる。

 

  それを見た相手はすかさず大上段に木剣を構え、それを勢いよく振り下ろしてきた。


  私は未だに体勢を立て直せず、今無理に避けると転んでしまいかねないと判断し、まだ痺れの残る右手の木剣を必死に目の前へ構えて、左手を添える。


  そうして、ギリギリで振り下ろしを受け止めたはいいものの、その体重の乗った重たい斬撃に右手の痺れが酷くなって片膝までついてしまった。


  もはや右手は剣を握るので精一杯。

  渾身の一撃を放つには力が入らなさすぎる。

 

  しかし、相手はそんなのお構い無しに次の攻撃を構え始めている。

  今度も同じ大上段の大振りな真向斬り。


  ——この常に全身全霊で攻め続ける感じ、もしや千戦流? 珍しい。


  なんて冷静に分析して感想を述べてる余裕は全くない。

  しかし、幸いな事に振り下ろされるまでの溜めにはかなり余裕がある。

  加えて振り下ろされる速度は私にも捉えられる程度。


  ——だったらッ......!


  次の瞬間、私は振り下ろされた斬撃を身を逸らしてギリギリで回避すると、すかさず地面を蹴って転がりつつも距離をとった。


  相手の大振りを回避しつつ、タイミングを見てカウンターを決める。

  まだ右手がマトモに動かない今、勝つにはそれしかない。


  私はそう頭の片隅で作戦を考えながら、木剣を支えにすぐさま立ち上がって相手を捉えた。


 「はぁッ!」


  相手は間髪いれずに近間まで踏み込んでくると、先程と同じく大上段に木剣を構える。


  そして次の瞬間、私に振り下ろされたその太刀筋に、必死で目を凝らしてその軌道を予測し、最小限の動きでそれを回避した。



  ——いまッ!



  相手の攻撃が空振った一瞬の隙に背を低くして踏み込むと、その鳩尾目掛けて左手で木剣を振り抜く。


 「ぐっ......はぁ!」

 

  私の木剣は横薙ぎに相手の鳩尾に深く食い込み、相手の男の子は痛みで顔を歪ませる。

  そうして、私は剣に乗った重みを振り払うように斜めに斬り上げると、相手をほんの少し浮かせて後ろに吹き飛ばした。



 「——そこまで!」


  直後、静かになった剣術場に先生の声が響く。


  こうして私は、学院生活初めての模擬戦に勝利した。

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