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魔術師狩りのエルアリア ~魔術が使えない少女は剣で憧れを目指す~  作者: 雪柳ケイ
1章

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14.夢うつつ

  夢を見た。

  とても、長い夢を——。




  ——そこは、見覚えのあるどこかの城。

  気づけば私は、玉座の前で丸くなって寝ている真っ黒なドラゴンに寄りかかり、その頬を撫でている。


  崩れた天井から、真っ赤な淡い月明かりが差し込んで、穏やかな時間が過ぎてゆく。


  なぜここにいるのか、私は誰なのか。


  それを思い出そうとした瞬間、真横にあったドラゴンの顔が、徐ろに持ち上がった。


「ラグナス、奴らが来たぞ」


  ドラゴンは玉座の間の入口を睨んでから、私に鼻先を擦り付けながらそう告げた。


  ザラザラとした鱗が、頬を撫でる。


  ——すると私の意志とは関係なく、勝手に口が動いて喉から声が出た。


「ええ、分かってるわ。 貴方は外で待ってなさい」


  ——まるで自分が自分じゃないかのような感覚。 自分の声なのに、どこか違和感がする。


「......勝てるのか?」


  ドラゴンは、私の顔の何倍も大きいその黄金の瞳を、悲しげに向けてそう言った。


「さぁね。 でも戦わないと。 それが私たちの運命ですもの」


  私がそう微笑んで言うと、ドラゴンは不満そうに鼻息を漏らして動き出した。

  背もたれを失った私も、仕方ないので同時に立ち上がる。


「なら、俺は外の小鳥と遊んでくる」


  ドラゴンはそう言うと、天井の崩れた部分から外へ羽ばたいて行った。


「程々にね」


  小さくなってゆくドラゴンの背にそう告げて、私は玉座の前の階段に座り込む。


  そうして、先程まであった温もりがだんだんと冷めていくのを肌で感じながら、目を瞑って静寂と寂しさに浸っていると......。


  バンッと音を立てて扉が勢いよく開け放たれ、五人の英雄がそれぞれの武器を手になだれ込んできた。


  ——英雄王レイド・ヴァーミリオン。

  ——賢王ニクス・ヘカーティア。

  ——神霊の器メア・ドレイヴン。

  ——百鬼戦乱の天下人リリ・クラベル。

  ——不死不滅の勇者ノエル・ヴァンシーカー。



  彼らは皆、私に鋭い視線を向けている。


「随分な登場の仕方ね。 扉はもう少し優しく開けたらどうかしら?」


  心地の良い静けさを無遠慮に破られた事に、私は腹を立てて英雄達を睨みつけた。


  英雄達は私の言葉になんの返事もせず、次の瞬間には襲いかかってくる。



  しかしそれと同時に、まるで時が止まったように目の前の全てがその動きを止めた。


  宙を舞うホコリも、空を流れる雲も、襲いかかる英雄達ですら......。


  私はこの後、何が起こるか知っている。

  英雄達は()を殺し、()が英雄に魔障の呪いを刻むのだ。

  つまり私は......。


  ——魔王?


  その事実が頭に思い浮かんだ瞬間、まるで身体から弾き出されるような感覚に襲われた。

  そして、私は前のめりに倒れ込む。



「——当たらずとも遠からず」


  四つん這いで床にへたり込む私の背中から、自分によく似た声が聞こえてきた。


  驚いて振り返ると、(エルアリア)そっくりの少女が、階段に座ってニコニコ笑って私を見下ろしている。


  そんなおかしな状況に......。


「えっ?!」


  と驚いて目を見開いた次の瞬間——。




  ——そこには、見慣れた天井が広がっていた。


  そして、それまで聞こえなかったのが不思議なほどの雨音が次第にその主張を強めて、ヒンヤリとした空気が肌を包んだ。


「今のは......夢?」


  私は体を起こしながらそう呟いて、手にほんの少し残ったドラゴンの鱗の感触を確かめるように右手を握った。


  しかし、その感触も夢の中の景色も、まるで霞のように全てが雲散霧消していく。


「なんで私ベッドで寝て......」


  覚えているのはお母様の部屋で魔障について調べてたということだけ。


  気絶する直前の記憶がかなり曖昧になっている。

  どのくらい寝てたんだろうか。



  窓の外は雨のせいで薄暗いながらも、十分に明るい。

  お母様の部屋を訪ねたのは、お昼を食べたあとだから、寝てたのはせいぜい二、三時間と言ったところか。

 

  何が起こったのか詳しい話をお母様か師匠に聞きたいけど......。


  流石に師匠は帰ってるだろう。

  お母様は確実に居るだろうし、呼びに行こう。


 そう考え、ベッドを降りようとした時......。

  ガチャと音を立てて部屋の扉が開いた。



「——エル様。 よかった目が覚めたんですね」


  そう言って入ってきたのは、コゼットだった。


「おはよう、コゼット。 今起きたところだよ。 それより、お母様知らない?」


「奥様はエル様をここに運んだあと、調べることがあるとか言って書庫に向かいました」


  書庫か。 お母様のことだから、私が気絶した理由を調べてるんだろう。


「なるほど、書庫ね。ありがとう」

 

  と何食わぬ顔でその場を立ち去ろうとした瞬間、コゼットがその行く手に立ち塞がる。


「ありがとう、じゃありませんよ! エル様、血を吐いて倒れたんですよ? 心配なのでまだ寝ててください」

 

  コゼットは半分呆れた様子でそう言うと、私をベッドへ押し戻す。


  血を吐いた? 全然覚えてない。

  それに......。


「私、全然元気だよ? 痛いところも全くないし」


  目が覚めてから特に体に不調は見られない。


「元気な人は普通、血なんか吐きませんよ!」


  そう言って、微妙に抵抗する私をベッドに寝かせ、毛布を上に被せてくれる。


「お母様と話したかったんだけど......」


「奥様なら私が今から呼んできますから。 エル様はベッドで大人しくしててください!」


  昔から、コゼットは私が風邪をひくたびにこんな風に過保護になる。


「絶対に大人しくしててくださいね?」


  廊下に出たコゼットは扉を閉める前に顔だけを覗かせてそう言った。


「はいはい、わかりました~」


  私、そこまで信用ないのかと頬をふくらませつつ大人しくコゼットの言うことに従った......。



  それからしばらく、窓の外で弾ける雨粒を眺めて待っていると、コゼットがお母様と一緒に戻ってきた。


「——あぁエル。 よかった、目が覚めて」


  お母様は私の部屋に入ってくるなり、慌ててベッドに駆け寄って、私の頬に手を伸ばした。


  目元は涙で潤んで、指先が震えている。

  きっと、すごく心配してくれてたんだろう。


「おはよう、お母様」


  そんなお母様を安心させるために、私は頬に添えられた手に自分の手を重ねて優しく握る。

 

「どこか苦しいとことかある? 痛いとこは?」


「なんともないよ、大丈夫」


  強いていえば変な夢を見たような気がするけど......。 その内容はもう欠片ほども覚えてない。


「本当? 我慢とかしなくていいからね?」


  お母様もコゼットと同じで、お兄様や私の事となると心配性になりすぎる節がある。


「本当に大丈夫だって。 それより何があったのか教えて。 私はなんで気絶したの?」


  私がそう言うと、お母様は心配そうな表情から、いつもの穏やかな顔へと戻る。


「たぶん、魔力に触れたせいじゃないかな」


  思い出した。 気絶する直前、私はお母様の作り出した水の玉に手を突っ込んでたんだった。



  ——水玉の中のあの妙な感覚。

  あれが魔力だったとして、あのとき魔力が私の腕を伝って身体に入って来るような感覚がした。

  つまり、私が魔力を感じることが出来るのは確定なのだろう。


「魔力に慣れてなかったせいで身体がびっくりした......んだと思う」


  お母様は歯切れ悪くそう言うと、眉をひそめて腕を組み始めた。


「うーん、でも普通は魔力に触れただけで血を吐くまではならないはずなんだよねぇ。 あってせいぜい吐き気とか目眩程度のはず......」


  そう、独り言のように呟いて唸るお母様。

  こうなると、しばらく戻ってこない。


「水玉に手を入れてた時、手首から腕になんか這い上がってくる感覚があったんだけど、それって普通?」


  私は取り敢えず、自分が原因なんじゃないかと思う情報をお母様に伝えてみた。


「うーん......あっ、それだ」


  私の言葉を聞いて少し唸った後、お母様は答えを語り出す。


「多分、エリーは魔力を感じることは出来るけど操作が出来ないんだと思う。 だから魔術を詠唱しても発動しない。 それに魔力が身体を流れるのに慣れてないせいで、魔力の塊に触れた時の逆流に対処できず、体が過敏に反応したんだと思う」


「なるほど」


  魔力の操作が出来ない、か......。

  でもまぁ、感じ取れるだけでもマシだ。


  元より魔術が使えないのはわかりきっていたこと。 一度受け入れたことで今更落ち込む訳が無い。


  むしろ、魔力を感じ取れると言うことがわかって嬉しいくらいだ。


「最終的に気絶はしちゃったけど、当初の目的だった私の魔障について知るって事はできたね」


「そうね、私も魔障の呪いに興味が湧いてきた。 父から魔障はどうにもならないって言われて諦めてたけど、なにか出来ることがないか調べてみるわ」


  お母様はそう言うと、最後に私を強く抱きしめてベッドのそばを離れた。


「エルは一応大事を取って今日一日は休んでなさいね」


  部屋を出ていく直前、お母様はそう釘を刺して行った。


  ——私ってそんなに信用ないのかな。


  なんて思いつつ、私はいいつけを守って残りの半日をベッドの上で過ごしたのだった......。

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