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魔術師狩りのエルアリア ~魔術が使えない少女は剣で憧れを目指す~  作者: 雪柳ケイ
1章

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09.厄介なご令嬢

 兄様にお礼を言って窓際を離れた後、私は騎士団長の所へ向かっていた。



  大人達の間を縫って、出来るだけ騎士団長を視界から外さないように会場を移動する。


  しかし、騎士団長の所まであと少しというタイミングで横の人集りから突然、私と同い年くらいの少年が飛び出してきた。


 「——なっ!」

 「——あうっ......!」


  まるで壁にぶつかったかのような衝撃がおでこに加わって、私は驚きの声を漏らして尻餅をついてしまう。


 「すまない、大丈夫か?」


  ほんの少し仰け反った少年は、座り込んだ私にすぐさま手を差し伸べてくれる。


 「大丈夫です。前が見えてませんでした、ごめんなさい......」


  私がそう言って差し出された手を取り立ち上がると、少年の金色の瞳と目が合った。



  鮮やかで濃い赤の髪色と、胸元に金の刺繍が入っているシンプルな正装。


  しかし少年はそれを着崩しており、胸元のボタンは全て留められておらず、白いシャツが丸見えだ。

  更に差し出された手の袖口からは包帯が巻かれているのが見える。


  かなりヤンチャなのかな?

  そんな印象が頭に浮かんだ。


 「——怪我とかはしてないか?」


  少年は心配の言葉を掛けてくれるが、表情一つ変えてないところから察するに、ただの社交辞令のようなものだろう。


 「はい!そちらこそ大丈夫でしたか?」


 「俺は平気だ。 そっちが無事なら、俺はこれで失礼するよ」


  少年はどうやら急いでるらしく私の無事を確認したあと、そそくさとその場を離れていってしまう。


 「え、あの。せめて......」

 「ちょっとそこの貴方!どこ見て歩いてるのよ」


  せめて名前くらい、とその去りゆく背中に言いかけたところで真っ赤なドレスが私の前に立ちはだかった。


  私と同い年に見える、赤ドレスに身を包んだ金髪の令嬢が私の前を塞ぐと、続いて四人の女子が横から出てきて私を取り囲む。


 「誰にぶつかったかわかってるの?ちゃんと前見て歩きなさいよ鈍臭いわね!」


  そう言う赤ドレスの令嬢の高圧的な態度に私は驚いて目を丸くしてしまう。


  なんなんだこの人、いきなり出てきてキャンキャンと。

  私がぶつかったのはあの男の子のはずでは?

  あの子の友達とかなのだろうか。


 「ご、ごめんなさい?」


  ひとまず、謝っておこう。

  なにかトラブルになるのだけはごめんだし。


 「......というか、なに?そのダッサいドレス!それにその髪色。そんなのでこのパーティーに顔を出すなんて、恥ずかしいとか思わないのかしら?」


  謝罪に対してなぜかヒートアップする赤ドレスのご令嬢。


  これ以上この場に居ても私が不愉快になるだけだ。

  という訳で、どうやって離れようか考えようとしたところ......。


 「きっと、両親がロクでもないのね」


  赤ドレスの令嬢がそう言い放った。



  ——胸の奥で、ドロリとした感情が吹き出た。


  頬が熱くなって、冷静さが掻き消えて行くのがわかる。


 「ちょっと、今なんて言った?」


  頭に浮かんだ言葉がそのまま口に出てしまう。

  そして、無意識に右手が拳を作った。


 「ロクな親じゃないって言ったんですのよ。 鈍臭い上に言葉が理解できないお馬鹿さんなのかしら?」


  その言葉が耳に入った瞬間、私は一歩前踏み出す。


  そして——。




 「——だめだよ、エル」


  その兄様の声で冷静さがスっと戻ってきた。


  気がつくと、右手首を後ろからガッチリと兄様に掴まれていた。

  それに驚いて振り返ると、いつものように眠そうな兄様と目が合う。


  兄様はその視線を私から赤ドレスの令嬢へ移すと、すかさず私をグイッと抱き寄せた。


 「僕の妹になにか?」


 「い、いえ。 その......」


  いつも通りの真顔でそう問いかけた兄様の顔に、赤ドレスの令嬢は少し頬を赤らめながら言葉を詰まらせた。

  その様子を、私は兄様の胸に顔をうずめながら横目で眺める。



 「用がないなら僕達は失礼させてもらうよ」


 「え? ああっ! ちょっと!」


  兄様は背後でもたつく赤ドレスの令嬢を無視し、私の手を引いてその場を離れた......。




 「——全く、厄介なご令嬢が居たものだね。エルの綺麗な髪を貶した挙句、父上と母上まで馬鹿にするなんて」


  私を連れて騎士団長の元へ歩く兄様は、これまた珍しく怒りを顕にしている。

  私の髪が綺麗かどうかはさて置き、お父様とお母様が馬鹿にされて許せないのは激しく同意できる。


  それにしても、いつも眠そうに本を読んでいる兄様も、家族を馬鹿にされると流石に怒るらしい。

  それに普段より声の雰囲気が鋭いようにも感じた。


 「ごめん、アル兄様。ありがと」


  私はそんな兄様に感謝を伝える。


  もう少し兄様が止めに入るのが遅かったら、私はあの赤ドレスの令嬢の顔面に渾身の右ストレートをかましていたところだった。

  そうなれば色々と面倒なことになっていたはず。


 「まぁ、気にしない。 ほら、もうすぐアルス団長のとこだよ? 元気だして」


  兄様はそう言って、若干落ち込み気味で居る私の頭を軽く撫でて背中を押してくれた。


  私が魔術が使えないと分かって書庫に行かなくなってから、言葉を交わすことは減ったけど、兄様は相変わらず私に優しい。


 「うん。ほんとに、ありがと」


  私は再度心を込めた感謝を伝えて、兄様から離れる。


  そうして、ようやく騎士団長とお父様の前へ到着した。



  騎士団の儀礼服に身を包んだ二人は、なにやら真剣な表情で会話している。


 「——それじゃあ西の森への補給は少し早めにするか?」


 「そうですねその方向で進めましょう。 それじゃ、そろそろ......」


  と、会話を止めて移動しようとした二人に私は声を掛ける。


 「お父様、少しよろしいですか?」


 「ん? エルか、どうした?」


 「あの、アルス騎士団長様に挨拶したくて......」


 「あぁ、そうか。 団長、これが前に話した娘のエルアリアです」


  そう言って私を紹介したお父様の隣で、礼儀正しくお辞儀をする。


 「初めまして、アルス騎士団長様。エルアリア・アドニスです」


 「おぉ!こいつぁ、可愛らしい!俺も礼儀正しくしねぇとなぁ」


  アルス団長はそう言うと、姿勢をビシッと整えて礼を返してくれる。


 「アルス・ウィルテュール・グレイディウス。この国の騎士団長をやってる。よろしくな、エルアリア嬢」


  あ、あの! 騎士団長様が!

  私に! 頭を! 下げてくれた?!


  憧れの騎士団長を前に興奮が止まらない。


 「こ、こちらこそ!よろしくお願いします!!!」


  十三英雄ほどでは無いが、アルス騎士団長も十分私の憧れの対象なのだ。


  たった一人で五千の魔獣を全て屠ったとか、森の木々を一振で全て切り倒したとか、複数のオーガ相手に素手で殴り勝ったとか。

  巷では十三英雄にも匹敵するほどだとも言われている。


 「ははは!まぁ堅っ苦しいのはここまでにしようや。エルアリア嬢もそう緊張せず、楽にしてくれ」


 「は、はい。 それじゃあ、お言葉に甘えます」


  噂通り、豪快で気持ちのいい性格の人だ。

  正直、私も堅苦しいのは好みじゃないのですごく助かる。


 「聞くところによると、エルアリア嬢は剣士を目指してるんだってなぁ? 剣の稽古は楽しいか?」

 

 「はい!」


  師匠が師匠になってからもう一週間ちょっと。

  本当に充実した日々を送れている。

 

 「確か......剣を教えてるのはルビスなんだって?」


 「はい!師匠のおかげで前より稽古が楽しくなりました!」


  毎日、師匠にボコボコにされて痣だらけ土だらけになる日々だけど、自分がほんの少しずつ強くなってるのを感じられて、憧れへ一歩一歩確実に進んでいるのを実感できている。


 「そうか......。ルビスのおかげか。 あいつは元気にやってるんだな」


  アルス団長はそう呟いて、どこか遠い瞳を見せる。


  やはり、師匠が騎士団を辞めたのにはそれなりの事情があるらしい。


  あれ程の強さを持つ師匠を、国や騎士団がそう簡単に手放すはずも無い。

  今度、稽古の休憩中に理由を聞いてみようかな。


  などと思ってると、横で私達の会話を聞いていたお父様が口を開く。


 「......団長、そろそろ会議の時間です」


 「あ? あぁ、そうだな」


  どうやら、パーティーの最中だと言うのに会議があるらしい。


 「そういう訳だ、エル。 すまないが団長とのお話はここまでだ」


 「は~い」


  仕事ならばしょうがないと、私は残念な気持ちを表に出しながら返事をかえした。

 

 「すまんなぁ、エルアリア嬢。 お詫びに今度暇な時にでも騎士団庁舎に来るといい、一日だけ剣の稽古をつけてやるよ」


 「本当ですか?!」


  騎士団長に稽古をつけてもらえるなんて、これ以上に嬉しいことは無い。


  しかし、仕事が理由なのだから詫びる必要なんてないと思うけど......。

  やはり騎士団長ともなると、それなりに器もデカいのだろうか。


 「それじゃエル、パーティーを楽しんでおいで」


 「じゃエルアリア嬢、またな」


 「はい!」


  二人はそう言って踵を返し、パーティー会場から出ていった。


  そうして、それを見送った私も窓際で本を読む兄様の元へ戻ることにした。

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