異世界バスツアー2「俺Tueee世界」
「本日は当社のバスツアーにご参加いただき誠にありがとうございます」
所々空席のあるバスの前方で、笑顔のバスガイドがマイクに喋っている。
うっかり倒産した先代ツアー会社の遺志をついで、名前とかを変えて再出発した次代ツアー会社の新企画が始動していた。
「これより当バスは多種多様な異世界に向かいまして、様々な体験を皆様に経験していただきたいと思っております」
時々ガタゴトと振動するバス。
乗客は楽しそうにおしゃべりしたり、窓の外を眺めている。
「それでは、これより俺Tueee異世界に参ります。皆様にはあらかじめスキルを配布してますので、お手元のパンフレットでどうかご確認ください」
乗客がゴソゴソと動いた後、炎や雷がバスの中を飛び交う。
天井や壁にヒビや小さい穴が開いた。
「あっ、スキルの試し撃ちはご遠慮ください。それではパンフレットをよくお読みになって、これから向かう俺Tueee異世界に備えてください」
乗客は上気した顔でシートベルトを締めて、来るべき瞬間を待った。
バスはトンネルに入り、周囲から光が消える。
そしてトンネルを抜けた。
「皆様、俺Tueee異世界に到着いたしました。少し進んだ先にラストダンジョン近くの村がありますので、そこで少し休憩をとります」
バスガイドの言葉に、乗客が窓の外を見ると真っ暗だった。
夜かなと思ったらどこまでも真っ黒。
地面が無くて真っ黒。
乗客がどよめく中、バスガイドは無線機に話しかけている。
「すみません、なんか真っ暗なんですけど……はい……はい……えっ?」
バスガイドの最後の言葉に何か不穏なものを感じた乗客が、固唾を飲んで無線機の方を見ていた。
「はい……はい……わかりました」
通信を終えたバスガイドが乗客に向き直る。
「この世界は主人公のすごいスキルで全部吹っ飛んだそうです」
呆然とする乗客たち。
どういうことだと説明を要求する。
「俺Tueee異世界は失くなって、現在何もない状態だそうです」
唖然とする乗客たち。
そんな中、どこかから空気が漏れる音がしている。
乗客が気づいて音の出るところを探すと、天井や壁に小さな穴が開いていた。
「皆様がスキルの試し撃ちした時に空いた穴ですね」
乗客たちは泡を食ったように帰宅を強く主張する。
「わかりました。それでは帰るとしましょう……え?」
バスガイドの最後の言葉に、乗客たちの顔に不安の文字が浮かんだ。
「地面がないので動けないそうです」
大パニック。
いろいろあったが最終的に、実は有線だった無線機のコードを引っ張ってもらって帰還に成功。
案の定、ツアー会社は監督官庁からツッコミくらって潰れた。