異世界バスツアー103「飛ばしましょう!」
✩*: . ✩これまでのあらすじ✩. :*✩
復活した異邦の神が周辺を攻撃し始めた。
エルダードラゴンが立ち向かうが、損傷を与えただけで戦闘不能に。
世界樹が起動したが、1本だけではまるで足りない。
八方ふさがりの状況で、旧経営陣が異邦の神に向かって歩き出す。
襲い来る触手を一蹴、またはプレイに利用する旧経営陣。
驚く魔王たちに、自分たちは異世界を渡り歩く渡界神だと名乗るであった。
✩*: . ✩これからのあらすじ✩. :*✩
渡り歩いてたどり着いた世界で、バスツアー会社を作った旧経営陣こと渡界神。
リーダーの大剣使い、ゼオン。
拳ひとつが己の武器、シルヴァー。
大槌を振り回すデブ、ララベル。
肉体ひとつで頑張る、トルメン。
4柱の反撃が始まる。
✩。:•.¸.;".✩• 本編 •✩.";.¸.•˚。✩
「お前ら……」
魔王は呆然と前にいる旧経営陣を見た。
大剣を担いだゼオンが白い歯を見せて笑っている。
「黙っててすまないね。まあいろいろ言いたいだろうけど」
紺色のスーツを着崩しているゼオンは前方に視線を向けた。
「まずはドラゴン君を助けよう」
「……ああ。だが、異邦の神をどうする」
「とりあえずトルメンが攻撃を引き付けてくれている」
魔王が前の方を見ると、いつの間にかブーメランパンツ一丁になっていたトルメンが、見えない棒を胸の前に持ち上げているような形の両腕のまま、やや内股の足でゆっくり前に歩いている。
もんのすごい勢いで触手にぶっ叩かれていた。
「……何してるんだ?」
「彼は漫画を研究して、どんな攻撃にも耐えるポーズを習得したんだ」
「無効化じゃなくて耐えるのか……」
変な人はびくともせずにポーズを維持したままじりじり前に進んでいる。
魔王はそっちの方を見ないようにゼオンに話しかけた。
「しかし、おまえらは異邦の神に近づいても大丈夫なのか?」
「君たちよりは耐えられるが、ダメージは受けるだろうね」
「じゃあ……」
「安心したまえ」
落ち着いた声の方を魔王が見ると、ピシッと黒のスーツを着こなしたシルヴァーがいた。
「我々にも遠距離攻撃手段はある……飛ぶ拳撃というのを知っているかね?」
「……飛ぶ斬撃なら漫画で見たことはあるが」
「ならば本物を見せてあげよう。これが飛ぶ拳撃だ!」
シルヴァーは右手を腰の位置まで引いて動きを止める。
「はあっ!」
気合一閃、目にもとまらぬ速度で拳が前方に突き出される。
ちぎれとんだ手首から先は、音を置き去りにしてまっすぐ進み、異邦の神にぶつかった。
のけぞる異邦の神を貫通して、右拳は空の向こうに飛んでいく。
唖然とする魔王が見つめるのは、右手首を掴んで止血しているシルヴァー。
「これが……飛ぶ拳撃だ……!」
「思ってたのと違う!」
思わず叫ぶ魔王。
「いやあんたどうするんだ手!」
「ふっ、我々は一応、神だよ君。再生の奇跡程度は使えるさ」
シルヴァーの右手首からボコボコと泡立つように右手が再生した。
「ふう、次弾装填完了……」
「次弾装填完了!?」
驚く魔王のそばに大剣を片手で軽々と持っているゼオンが近づいてきた。
「飛ぶ斬撃というのを知ってるかい?」
「……いや知ってるけど、絶対我の知ってるのとは違うやつだろ」
「果たしてそうかな? 確かめてもらおう!」
ゼオンは大剣をぶん投げた。
大気を引き裂きながら突き進むそれは、異邦の神を切り裂きながら貫通して空の向こうに旅立っていく。
あとシルヴァーの拳撃も命中して異邦の神が大きくよろけた。
「どうだい? 予想は当たったかな?」
「……いやあんた武器はどうするんだ?」
「ふふ、飛ぶ拳撃がシルヴァーの専売特許だと思ったら大間違いだよ」
「そこは間違いのままにしておいてほしい」
自分のアイデンティティを投げ捨てた男と魔王のところに、もうひとりが近づいてくる。
赤いジャージ姿の肥満体。ふっくらした口の周りには青い剃り跡。
「あらあ、これはアタシも参加した方がいいかしら?」
「いや、控えてくれララベル。これ以上武器を失うのは避けたい」
「わかってるなら投げるなよ」
「大・丈・夫❤、いいこと考えたのよ! 任せて!」
ララベルはそう言ってでっかい大槌の柄を掴むと、ぐにいという感じでへの字に曲げた。
「ほらこれでブーメランよ!」
「なるほど」
魔王は諦めた。
冷たい目をした魔王が見つめる先で、ララベルは「オラァ!」と野太い声を上げてぶん投げた。
目標にぶつかったブーメラン(?)は、ひしゃげた異邦の神を大きく後退させながら貫通して、シルヴァーの拳撃と一緒にやっぱり空の向こうに消えていった。
しばらく空を眺めていたララベルは、にっこりと笑いながら振り返る。
「飛ぶ拳撃って知ってるかしら?」
「やかましいわ!」
思わず住んでない所の方言で叫んでしまう魔王。
無剣使いのゼオンが前方を指さした。
「よし、だいぶ距離を離したぞ。今ならドラゴン君を回収できるはずだ」
「……あ、ああ。恩に着る」
魔王は側近に命じて再びゴーレムとスケルトンを向かわせる。
向かう先のドラゴンの近くにトルメンが近づいていた。
「なるほど、トルメンがドラゴン君を少し回復させるようだ」
「回復魔法も使えるのか?」
「魔法ではないな。我々が使うのは奇跡だよ」
魔王と無職が見つめる先で、ドラゴンの近くでトルメンが色々なポーズをしながら周囲をまわっている。
「あれは……?」
「トルメンは様々なポーズをとることで奇跡を行使するんだ」
「……ボディビルダーの人みたいなポーズなんだが」
「それはトルメンの趣味だね」
「なるほど」
魔王は諦めた。
薄く白い光に包まれているドラゴンの傷がふさがっていく。
ゴーレムとスケルトンが到着し、ドラゴンの巨体を抱えて移動を開始する。
ゼオンはゆっくりと歩き出す。
「私は行く。君はどうする」
「……行くに決まってんだろ」
向かう先では、シルヴァーとララベルが異邦の神に飛ぶ拳撃を放っている。
異邦の神の輪郭が霞むように曖昧になりはじめた。
「まさか……逃げる気か?」
「急ごう、魔王君」
ふたりが走り出すと同時に、空に5つの光る軌跡が走ってくる。
5つの光は急降下すると、異邦の神を囲むように地面に衝突した。
そこから天に向けて伸びるのは世界樹。
「わしらの大陸から世界樹の種を飛ばした!」
走ってくるのは聖樹教会の教主リリアナ。
「すまん、****たちよ! 無理をさせてすまん! だが、だが、ここで、今度こそ奴を倒すんじゃ!」
すでにある世界樹とあわせて6本の世界樹は、6角形を形作る。
「防ぐものよ! そこにあれ!」
リリアナの言葉と共に、蒼い壁が異邦の神を囲む。
「これで奴の環境改変を食い止める! じゃが風が山と谷を越える程度が限界じゃ! 急いでくれ!」
ゼオンが魔王に尋ねる。
「よくわからない表現だが、どのくらいだい?」
「向こうで言う1時間くらいだな」
「そうか。間に合わせてみせるとも」
ふたりは前に向かって走るのであった。




