異世界バスツアー101「話を聞こう!」
✩*: . ✩これまでのあらすじ✩. :*✩
世界樹の下で、緑色のローブを着た人が倒れて運ばれていってから数日後、また緑系の人たちが来た。
今度は豪華そうな緑と白のローブを着た人が倒れている。
倒れている人は聖樹教会の教主を名乗った。
教主は話があると魔王にいうので、緊急の幹部会議が開かれる。
臨時本部内で教主は工事の中止を要請、設計担当が理由を聞くと、かなり言いよどんだ末に話すことを決心する。
そして椅子に座ったらボロ椅子の足が折れて後ろにひっくり返るのであった。
✩*: . ✩これからのあらすじ✩. :*✩
とりあえず椅子を新経営陣が持ち込んでいるパイプ椅子に交換した。
教主のリリアナは、なんだか居心地が悪そうに座りなおすのであった。
✩。:•.¸.;".✩• 本編 •✩.";.¸.•˚。✩
「それで、何故工事を止めたいんだ?」
魔王は普段のゆるさを感じさせない真剣な目でリリアナを見ている。
その視線の先で、リリアナは深呼吸をしたあとゆっくりと口を開いた。
「そうじゃな……まずは大元の話になるが、異邦の神、というのを知っておるか?」
魔王は「知らないな」と言う。
設計担当のクランツは「……聞いたことは、あるねえ」と言いにくそうに答えた。
「そっちは黒翼の一族か……おぬしの先祖たちは異邦の神相手に勇敢に戦っておったぞ」
魔王はクランツをちらりと見る。
「おまえん家そうだったの?」
「いやあ、ほら。俺、あそこ追い出されちゃったし」
「おまえはいたずらが過ぎるんだよ」
決まりの悪そうなクランツを見て、魔王はため息をついている。
その様子を見て少しあっけにとられていたリリアナが再び話し出す。
「キデン山がまだ平地だった頃、空の向こうからやって来たのが異邦の神じゃ。その姿は幾万もの蛇がとぐろを巻いたように見え、その大きさはミズハ湖を覆うほどじゃった」
リリアナの言葉に、魔王が少し眉をひそめた。
「キデン山がまだ平地だった頃? あんたいくつだ」
「言わない」
リリアナはそっぽを向いた後、咳ばらいをひとつする。
「……そして、異邦の神は魔界に降り立つと、毒の空気を振りまき、大地を腐らせ始めたのじゃ。その範囲は日々広がっていき、多くのものが死んでいった」
「なんだそいつは。戦争しに来たのか?」
「自分が住みやすいように周りを変えている、とわしの先輩は言っておったな」
新経営陣が「こっちでいうテラフォーミングですね」と言っている。
魔王は新経営陣に一瞬視線を向けたあと、リリアナの方を見た。
「それで、どうなった」
「わしの先輩が魔界の生き残りを集めて戦いを挑んで……どうにか大地の奥深くに封印することができた」
「めでたし、めでたし、か?」
「一旦はな」
リリアナは目を閉じ、一度深呼吸をする。
「それで、ここからが本題なのじゃが……世界樹というのはのう、異邦の神に対抗するための兵器として作られたのじゃ」
クランツが指で自分のこめかみを叩いている。
「魔力の変換効率が異常に高いとは思ってたけど、兵器とはねえ」
「そうじゃ。異邦の神の周囲に設置して、防壁と同時に侵攻のための魔力供給を担う……先輩が巨人族を材料に作り上げた兵器じゃ」
クランツが口を開けたままにしている。
魔王が目を見開いた。
「巨人族……大昔に滅んだと聞いてはいたが」
「巨人族は皆、世界樹になった……当時のわしらは敗北寸前でのう、もはや手段を選んではおれんかった」
クランツはあごに手を当てている。
「世界樹を作る、ねえ。その先輩ってどんな人だったのかな」
「“自分の名は遺すな”。それが先輩の最後の言葉じゃった」
クランツは「ふうん」とだけ言って口を閉ざした。
リリアナは前を見据えている。
「そして、世界樹なのじゃが。損傷をうけると回復のために魔素を大量に吸収しようとして根を地下に深く伸ばす性質があるのじゃ」
リリアナの手に力が入る。
「今、異邦の神は眠ったような状態で魔素の流れに乗って、大地の奥深くを巡っておる。世界樹の根がそこに触れてしまったら、その性質上異邦の神に攻撃を始めてしまう。そうなれば覚醒してしまうやもしれぬ。まだじゃ、今はまだその時ではない」
必死に訴えるようなリリアナを見ていた魔王は、ひとつ尋ねてみた。
「今は、ということはそのうちやるのか」
「そうじゃ。最初は200本あった世界樹も封印時には50本になってしまった。そして今は150本まで回復しておる。これが400本になったら今度こそ魔界から消してやるつもりじゃ。だから」
リリアナは頭を下げる。
「今おぬしらがやっている、世界樹に傷をつけることをやめてくれ。やめてください。お願いします」
その様子を見ていた魔王とクランツが、顔を見合わせた。
「……おい」
「……うん」
「根が深くまで行くとまずいって……ことだよな」
「そう……だねえ」
「もともと……深い……よな?」
「そう……だねえ」
魔王はそっと側近に呟く。
「えーと、サーザ、工事中止。急いで」
「……はっ」
魔王のそばにいた黒い蛇のようなものは、溶けるように影に消えた。
魔王はリリアナに向き直る。
「とりあえず工事は中止にする。あとはその、根の進行を止める手段はあるのか」
「ありがたい! ありがとう! 根のことなら周囲から魔力を供給すれば止まるから大丈夫じゃ! それはわしらに任せろ!」
リリアナの顔がぱあっと明るくなった。
両側にいた側近が臨時本部を出て世界樹の方に向かう。
魔王はもうひとつ聞いてみる。
「参考までに、その、異邦の神が復活する時の予兆とかあれば聞いておきたい」
「ああ、そういうことならおぬしらも知っておいた方がいいじゃろう。先輩が予測しておいたものがある」
リリアナはローブの中から羊皮紙を取り出した。
「まずは音がするらしいのう。不気味な声に聞こえるだろうと書いてある」
臨時本部の外から耳障りな音が聞こえはじめた。
「それから臭いがするそうじゃ。不快な臭いがするだろうと書いてある」
魔王のご両親が「誰かオナラした?」とか言っている。
「最終的に地面が揺れるらしいのう。ここまで来たらほぼ確実ということじゃ」
地震が始まって臨時本部がゆらんゆらんしだした。
とりあえず魔王は叫んだ。
「総員退避ィ!!」
次回、異邦の神顕現、の巻。
お楽しみに。




