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赤い花、青い花  作者: 河辺 螢
第一章 谷の村
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1-9

 居間の音が静かになった。

 ルビアの祖母は深く息を吐いた。

 学校にも行けなくなり、友達もいなくなったあの子は、母親のようにいつかこの村を飛び出してしまうかもしれない。

 「見える」以外取り柄がなく、それもいつかはなくなる力。だがこの村に残ればその力を役立てられる。「見える者」を生み育てるなら、自分が生きている間は助けてやれる。家族なのだから、ここで力を合わせて生きていけばいいのだ。


 様子を見に恐る恐る居間に向かうと、ダドリーはうつ伏せて寝ていた。近くにルビアの姿はなく、ルビアの部屋に行ったが返事はない。そっと覘きこむと布団を頭からかぶって寝ているようだ。

 今は寝かせてやり、明日話をしよう。悪い選択ではなかったのだと思う時が来る。「見える」力がどれだけ貴重か。貴重でありながら、ここ以外では評価されることはないことを伝えれば納得するだろう。

 いつか言い聞かせようと思っていたのに、急にこんなことになってしまったのは仕方ない。ダドリーも若いのだ。

 ずっと共に暮らしてきたのだ。これからだって…。



 翌朝になってもダドリーは居間で寝ころんだままで、よく見ると嘔吐し、手を震わせ、目や唇が腫れていた。かすれた声でルビアに変なものを口に入れられたと訴えたが、それが何かは本人もわかっていない。

 ルビアを呼んだが降りてこなかった。

 仕方なく祖母は自分で医者を呼びに行った。医者は入口のドアの手前で唸るダドリーを見て、変なものを拾って食べたのではないかと言った。


 何を食べさせたのか聞くためルビアの部屋に行ったが、ノックをしても返事はなく、ベッドに寝たまま身動きしない。布団をめくると、その下には人型に見えるよう丸められた毛布があるだけで、ルビアはいなかった。


 何一つ持ち出していない。服も、下着も、髪を結ぶ紐も、櫛も、誕生日に祖父母が渡した小さなペンダントもそのままだ。

 どこにも行く宛てなどない子だ。そのうち帰ってくるだろう。そう思うのにざわざわと嫌な予感がした。

 昼食の準備をしていると、塩を入れた(かめ)の奥に別の瓶があった。見覚えのない瓶の蓋を開けると乾燥させたハーブが入っていたが、ハーブだけとは思えない重さだ。その下に何かが見え、取り出した布袋はずっしりと重く、中には金が入っていた。

 いつからここに置いてあったのか。思えば食事を作るのも久しぶりだ。


  ダドリーに見つからないようにうまく隠して

  今までありがとう


 布袋の中に入れられたメモから、ルビアが自分ために置いて行ったのだとわかった。母親の取り分としてルビアに渡したあの金だ。

 昨日のことがなくても、あの子はこの家を出るつもりだったのだ。


 夫の導くままルビアは元気に育ち、その成長を一緒に見守ってきたのに、いつしか子供や孫に合わせてルビアに無理を強い、家に縛り付けていた。ルビアは家を出ていく決意をしながらもここに残す自分を憂い、こうして金まで残してくれていたというのに。


 いつも力のある者に従って生きてきた。

 力を持つ者が正しい者であればそれでもよかった。しかし正しくないことをしていると思っても、非難する力も逆らう気力もなく、従う事を選んだ。

 ルビアの将来のために夫の遺産を取り返すことができた自分をよくやったと思っていたが、結局それさえもルビアのためにならないまま、娘と同じく孫娘もまたこの地を去ってしまった…。


 村人の中には夜逃げした恩知らずな娘だと祖母に同情する者もいたが、祖母は苦しげに頷くだけだった。



 ルビアの最後の反撃は、一月も経たないうちに目の前に広がった。

 祖母やダドリーだけではない。村の誰もが驚いた。

 ルビアの家のレイベ草の畑は、赤い花で満ちていた。半分どころか、圧倒的に赤の方が多い。

 真っ赤な花畑。

 その光景を見た商人達は、誰一人ダドリーから薬草を買い取らなかった。レイベ草も、それ以外の薬草も。



 ルビアから事前に話を聞いていたジョージは、赤い紐のついたレイベ草は人手に渡らないよう全て処分していた。薬効のない草を売れば自分の信用問題になるからだ。


 先に受け取っていた「間引いた」レイベ草で儲けは充分過ぎるほどあった。

 「間引かれた」草は成長途中で葉は小さかったが、効き目に問題なかった。むしろ良すぎたくらいだ。どこで育てたものか薬師達に問い詰められたが、ジョージが答えることはなかった。


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