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赤い花、青い花  作者: 河辺 螢
第一章 谷の村
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1-5

 村でもラスール風邪が流行することがあったが、自分達の薬草は確保しており、重症化する者は少なかった。しかし年をとった者や幼い子供、持病を持つ者は病をこじらせ、命を落とすこともあった。


 祖父が咳をしはじめ、ラスール風邪にかかったと診断された時、この村なら薬もあるから大丈夫だと思っていた。しかし風邪をきっかけに腎臓の病が悪化し、二週間後祖父は帰らぬ人となった。


 祖父は自分の死を村以外には伝えるなと言い残していた。しかし祖母とルビアが二人で葬儀の準備をしていると、伯父達が家族を連れてやってきた。

「お葬式には家族に集まってもらいたいでしょ」

 祖母はそう言って、久々に会う息子達を笑顔で迎えた。

 ルビアには祖母が祖父の遺言を守るよりも、祖父がいなくなった不安を消すことを選んだように見えた。

 母は来なかった。祖母が声をかけたのかはわからなかったが、恐らく呼んでいたとしても来ることはなかっただろう。


 ここに来てから一度も会ったことのない母の兄弟達は、葬儀を仕切り、一段落つくと残った家と畑について相談を始めた。その話の中にルビアの存在はなかった。

「せっかく親父がここまで育ててきた畑だ。俺の息子に面倒を見させよう」

「何だと、この畑を独り占めするつもりか」

「じゃ、おまえかおまえの子供がここに住むのか?」

 伯父はひるんだ叔父を見てそれ見たことかと鼻で笑った。ここに住むことが何かの罰であるかのような扱いだ。

「畑の世話をすればそれなりの収入はある。こんな面白みのない村でもな。親父がこうやって畑を続けてくれただけでも感謝だ。金は半分は渡すが、継ぐ気がないなら畑のことは口を出すな」


 祖父の残した金を兄と弟で折半する話がまとまりそうになり、祖母はあわてて

「それはルビアの学費もあるのよ」

と言ったが、

「ミラルダが捨てた子供だろ。食わせてもらってるだけありがたいと思えってもんだ」

 村が薬草で財を成し、「見える者」が労働を強いられることが当たり前だった時代に村を離れた兄弟達は、村の現状など知る由もなかった。伯父はまるで自分がルビアの世話をしてきたかのように語り、祖父が残した金にルビアの割り当てを認めなかった。しかし自分達の母親の取り分を失念していたことに気が付くと、

「おっと、母さんの分を忘れていたな、すまないすまない」

 あわてて伯父は三等分を提案したが、祖母は

「ミラルダの分もあるでしょ? 私が預かるわ」

と言って四等分するように言った。

「あんな奴の分なんか残す必要はないさ。葬式にも来なかったくせに」

「そうだよ、俺達で分けてしまえばいいじゃないか」

「いいえ。あなたたちがこの村の外の学校に行くことができたのはミラルダの『見える』力があったからよ」

「あいつは男と逃げて、この村を捨てたじゃないか」

「それでも、あなたたちが恩恵を受けていたことに変わりはないわ。あなたたちだって、葬儀でもなければここに戻ってくることはなかったでしょ?」


 祖母の言葉に、二人はしぶしぶ遺産を四分割する事に応じた。

 祖母は夫がルビアのためにと貯めていたお金を一部でも取り返すことができたことに満足し、兄弟間の遺恨を残さずに事を収めるにはこれが一番良い方法だったと、自分の働きに満足した。



 分けた金のうちミラルダの分は祖母がこっそりとルビアに渡した。

「これはあなたの分だから」

 ルビアは頷き、誰にもわからない場所に隠した。


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