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赤い花、青い花  作者: 河辺 螢
第四章 薬草研究所
33/53

4-5

 懇親会ではおいしいものを食べながら薬草の話に盛り上がる者、薬草のことなど忘れて飲み食いを楽しむ者、酒一筋の者など、それぞれが気ままに過ごしていた。


 ルビアは農園で働いていた時に年に数回開かれた慰労会に出席したことがあった。しかしジェラルドに話しかけられると周りから嫉妬の目を向けられ、気まずくていつもこっそり部屋に戻っていた。

 自分から話しかければ仲良くしてくれた人はいただろうか。

 目立たないように生きることだけを考えていたあの頃よりは少しは前向きに生きていると思ったけれど、今でも同席する人達を見ているだけで、声をかけることもできない。あの頃と何も変わっていない。

 

「ルビアは飲まないの?」

 昔を思い出してうつむくルビアに声をかけてきたのはダレンだった。学生なのに「麦のジュース」と称してビールを手にしている。

 北邱の領の薬師達もルビアの周りにやってきた。みんな飲むペースが速く、すっかり出来上がっている。


「ここの生活は馴染んだか?」

 ドーンに聞かれて、ドーンの紹介で得た職だったことを思い出し、

「おかげさまで。いいところを紹介してもらえて感謝してます。ありがとうございます」

と礼を言うと、目を逸らして頭を掻いた。

「あー、いやいや」

 周りはドーンが紹介したと知らなかったようだ。もしかしたら知られたくなかったのかもしれない。

「ルビアちゃんを追い出したのはドーンさんっすか?」

「追い出したんじゃねえよ。仕事を紹介しただけだ」

「よくこんなとこ知ってましたねぇ。ここなら働く場所としては悪くないけど、また戻ってくるでしょ?」

 その質問には答えようがなく、苦笑いでごまかした。ここの仕事もあと二年。二年後の自分がどうなっているかなんてわからない。

「戻って来いよ。歓迎するぜ」

 戻ると言う言葉が自分のために使われるとは思ってもみなかった。そんな場所があるのも悪い気はしないが、元夫に出くわすのは遠慮したい。会ったところで、向こうもこっちもお互い気付くことはないだろうが…。


「君があの地でレイベ草を見つけて育てたんだよね」

 後ろから声をかけてきたのは、右手にジョッキ、左手に串焼きの肉を持ったご機嫌な所長だった。

「研究所でもレイベ草で何か面白いことできるんじゃないかな」

 レイベ草がらみで呼ばれていながら、研究所では今のところ鉢植えを育てるくらいしかしていない。赤と青のレイベ草を見分ける力があることを知られてしまったが、どうやって見分けているかは秘密のままだ。


「青レイベ草が手に入るようになったのは実にありがたい。三世代青一色が続いているなら、青系統でほぼ確実だ。いろいろ試したいなあ」

 所長は北邱の領でルビアのしてきたことを知っているのだ。

「…所長は、青レイベ草が欲しかったんですか?」

「青レイベ草が欲しいと言うか、学者の性ってやつかなあ。知りたいんだよね。どうして青レイベ草だけが薬になるのか。何故花が咲くと効果が落ちるのか。青い花から生まれた種が赤い花をつけるのは何故か。あれほど赤い花になりやすいのに、産地ではどう見分けて青い花を増やしているのか…」

 どう見分けているか、その答えは知っている。しかし興味本位に論文にされ、村の秘密が公になるのは避けたい。


 谷の村は故郷だと思っている。母と暮らしていた場所はどこなのかもわからないし、知っていても故郷とは思えなかっただろう。ダドリーがいなければ今でもあの村で暮らしていたかもしれない。二度と戻ることはないだろうが、村のためにならないことをする気にはなれなかった。



 ドーン達は数日滞在して王都の薬屋や例のクリームを取り扱うアボット商会を回り、王都の流行(はや)りものを堪能して領に戻っていった。丁度夏休みになったので、ダレンもドーン達と一緒に領に戻ることにしたようだ。


「一緒に帰らない?」

 ダレンの軽い誘いを首を振って断った。ダレンは無理強いしなかった。

 お土産もたくさん積み込んで、帰りは賑やかな旅になるだろう。

 ルビアは笑顔で見送りながら、一人取り残されたような気持になった。

 自分から断ったのに…。

 淋しい、という言葉が心をよぎった。






※ 日本じゃお酒は二十歳になってから。

(海外はアルコール度数で合法のところもあるそうな…)

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