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年末年始の休暇になると学校の休みに合わせて閉まる店も多く、教育機関が集まる研究所の周辺は人がいなくなった。
領に帰省するダレンから
「一緒に戻る?」
と誘われたが、遠慮した。ルビアにとって北邱の領は懐かしい場所だが、戻るべき場所ではなかった。
研究所で年を越すのはルビアの他に三人、ルビア以外は研究のための居残りだった。寮母もいなくなり、食事は自分たちで作らなければいけなかったが、ルビアの仕事とはならず、各自で好きに作り、作り過ぎたものは「ご自由に」というメモが残され、腹をすかした者が好きに食べていた。
食べたことのない不思議な味のスープは、後で作り方を聞いた。
春になり、所長から鉢植えのレイベ草の世話を頼まれ、ラベルの付いた鉢二つを預かった。
一つにはレイベ草(赤)、もう一つにはレイベ草(青)と書かれていた。
ルビアの席に近い窓辺に置かれ、芽を出したレイベ草はラベルと逆だった。
間違ってしまったのだろうと思い、ルビアはラベルを入れ替えた。
本葉が数枚広がった頃、またラベルが入れ替わっていた。外れたラベルを誤って指し直したのか、それとも誰かのいたずらなのか。
ルビアがラベルを入れ替えていると、所長が
「そのラベル、違うのかい?」
と声をかけてきた。
「はい。こっちが赤レイベ草、……だと思います」
確信をもってラベルを付け直したが、その理由を問われたらどう答えようか。急に動悸が激しくなった。
「そうか。…やっぱり見えるんだねえ」
所長の口調は穏やかだったが、既に答えを知っていた。
「この前もラベルを入れ替えておいたら、君は必ずこっちを青レイベ草、こっちを赤だと入れ替えた。谷の村の人は葉を見れば見分けがつくと聞いているが、形じゃないよね」
ルビアは頷くこともなく立ちすくみ、自然と震えてきた手をぎゅっと握りしめた。
「谷の村で若い女性が迷うことなく間引きするのを見て、何を見てるのか不思議だったんだよ。ただの興味だけど、聞かせてもらえると嬉しいなぁ」
握りしめる手が震えた。ただの興味で終わるのだろうか。知られてしまえば、村の「見える者」みんなに迷惑をかけてしまうかもしれない。そう思うと、声が出なくなった。
その様子を見ていた所長は、
「まだ信頼されるには時間がかかるね。…またそのうち、話す気になったら聞かせてほしい」
そう言ってそれ以上問い詰めることはなかった。
しかしその後もルビアを試すように時折ラベルが入れ替わっていて、放っておこうと思うのに、つい正しいラベルに直してしまう。
鉢に小さく印がつけてあるのを見つけ、ルビアはそれを消してみた。数日後、違う場所に印がついていた。相手はこの印で鉢を見分けているらしい。簡単なトリックはその後は消さずに置いておいた。




