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赤い花、青い花  作者: 河辺 螢
第四章 薬草研究所
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4-2

 研究所を訪ね、北邱の領の薬師ドーンからの紹介状を渡すとすぐに所長室に通され、所長オーウェンから簡単な面接を受けた後すぐに採用が決まった。

 仕事は三年契約。研究所にいる研究員達を補助するのが主な仕事で、薬草の育成のほか、薬の素材や備品の手配、薬草に関する文献収集、提出書類の作成、掃除や来客へのお茶出しもルビアの仕事だった。


 所長はダレンが通う王立学校で薬草学の講義を担当していて、その助手として資料や標本を学校まで運ぶのもルビアの仕事だった。王立学校は研究所から思いのほか近く、荷物がなければ馬車も必要ないくらいだ。


 王立学校は学生数が多く、仕事の合間にダレンを見つけるのは難しいだろうと思っていたが、ダレンは所長の講義を受講していた。領でレイベ草が取れるようになったのだから薬草学に興味を持つのは当然だ。世間は狭いものだと感心していると、ダレンが所長の元に質問に来た。

 質問を終えたダレンが、

「お仕事ご苦労様」

と声をかけてきたので小さく会釈すると、所長が

「彼は一年の頃から優秀でね」

と教えてくれた。同じ北邱の領から来た知り合いだと気付いたのだろう。ダレンが所長に顔を知られているうえに「優秀」と言われ、さすがダレン坊ちゃん、と父兄のように誇らしく思った。

 別れ際に小さく手を振ると、ダレンも手を振り返した。知り合いがいると言うだけでずいぶん安心できるものだ。



 休みの日には街に出かけ、まずは北邱の領で作っているクリームを取り扱うアボット商会の王都本店を訪ねた。領で何度か会った商会の従業員ジェフリーはすぐにルビアに気がつき、店の案内をしてくれた。店で扱う商品のサンプルをいくつかもらい、新しい香料のテストペーパーを出され、聞かれるままに感想を言うと細かくメモを取っていた。相変わらず商売熱心だ。


「こんにちは。学校でも北邱の領でもお世話になってます」

 所長の講義の時に見かけた学生が声をかけてきた。

「ダレンのクラスメートで、マーティン・アボットと言います」

「ルビアです。今は薬草研究所にいます。研究員ではありませんが…」

 マーティンはアボット商会の商会主の長男だ。もしかしたらダレンが友人を通じてクリームを商会に売り込んだのだろうか。それならタイミングよく商会が現れたのも納得がいった。気取ったところがないマーティンならダレンとも気が合うだろう。今後もアボット商会と仲良くやっていけそうだ。



 ダレンは時々研究所にもやってきた。研究所と提携して領に生える北部の薬草を提供していて、中には鉢植えのものもあった。どれも研究所で実験に使うものだ。

 研究員達とも顔見知りで、

「このまま研究所員になって植物学者にならないか?」

と誘われていたが、

「僕は卒業後は領に戻らなければいけないので」

と答える姿は少し残念そうに見えた。

「でも、薬草の知識はしっかり持って帰りますから」

 優等生の模範的な回答に、研究員は笑って肩を叩いていた。


 所長がいるとダレンをお茶に誘い、所長室で長居することもあった。ルビアはお茶を出したらすぐに仕事に戻ったが、楽しそうに話す姿は領でクリフォードと語らう姿を思い出させた。



 ダレンから街の流行を見に行こうと声をかけられて、一緒に街に行くこともあった。流行りを取り入れた新しい商品開発を狙い、領の特産品を売り込めないか考えている。学生でありながら休日も仕事熱心だ。


 領で定番になったお菓子を出す店に行った。北邱の領ではまだ王都に店を出すほどの余力はないが、レシピを売って儲けの5%を還元してもらっているらしい。ジャムは北邱の領の山イチゴを使っている。こういう商売のやり方もあるのだと、ちょっと感心した。

 味見と称してカフェで休憩を取り、別れ際にお土産にとダレンからお菓子を手渡された。いつの間に買ったのか気付かなかったが、礼を言って受け取った。


 二人でカフェに行きスイーツを食べている。そこだけ見ればデートのように思われたのだろう。学校でもダレンと気安く話しているせいか、女子学生からやっかまれてねちっこい嫌がらせを受けるようになった。


「婚期を逃して焦る気持ちもわかりますけど、学生に手を出そうなんてもってのほかですわ。不釣り合いだと自覚がないのかしら」

 数人で嫌味を含んだ会話を聞こえるように向けてくるくらいなら知らんぷりをしていればよかったのだが、

「私にだけ課題を教えてくれなかった」「プリントを渡されていないから宿題ができない」など、仕事に関することに意地悪をしたかのように声高に非難されるのには困ってしまった。ダレンは今にも怒り出しそうだったが、ここでダレンがルビアをかばえば火に油を注ぐようなものだ。我慢してもらったが、なだめるのも大変だった。


 ルビアは所長に迷惑にならないことを第一に考え、配布物は全員が受け取りを確認するまで教室に残し、クラスの全員を証人にした。

 変わらぬ自分個人への嫌がらせはさらりと流していたのだが、それが気に入らなかったのだろう。嫌がらせはエスカレートし、研究所の植物標本が隠され、その後見つかりはしたものの扱いが悪くて標本が破損するトラブルが起きた。


 学生数人が標本を持ち出すところを目撃した者がいて、研究所の物品を傷つけたとあっては学校側も放置できなかった。数人の学生が呼び出しを受けて事情を聞かれ、女子学生二人が厳重注意を受けた。しかし標本を教室から持ち出すよう命令したベリンダは罰を受けなかった。伯爵家の令嬢であるベリンダは二人の家に圧をかけ、二人は罪を背負うしかなかった。

 納得いかない結末だったが、いつも行動を共にしていた二人はベリンダと距離を置くようになり、三人がルビアに近づくことはなくなった。


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