3-11
街には医者にかかることができない人達の診療をうけつける病院があった。費用は寄付や領主家の補助で賄われていたが、病の流行時には他の病院以上に患者が多く、普段から栄養の足りていない者ほど重症になる率は高かった。
無料診療は本来は週に一度なのだが、患者が増えるとそうは言ってられず、流行が収まらない間はほぼ毎日対応に追われていた。
やつれている医者を見て、ルビアは診療の隙間でも食べられそうなものを作って差し入れた。すべてを一口サイズにしてフォークで刺して食べられるようにし、スープは具は細かく刻んで流し込めるようにし、カップで出した。
出した食事は患者がいなくなってもまだ手付かずだった。椅子に座り、首を後ろに倒して目を手で覆い大きく溜息をついている。疲れがたまっているのだろう。
「口を開けてー、はい」
ルビアの声に振り返った医者の口に、すかさずフォークに刺した肉団子を突っ込んだ。
「食べないともちませんよ」
「ふぉぅ…」
返事とも取れない言葉を無視して、ルビアは次の仕事に向かった。
医者と話す機会はなかったが、あの後残っていた人によると皿の上の食べ物もスープもきれいになくなっていたようだ。
街のボランティアが待合室や診療室の掃除をしていたが、薬を置く倉庫は雑然としていた。納品に行き適当に置いておくよう言われたルビアは、自分の好きなように「適当」な名前順に並び替え、古い薬を手前に出し、空き箱を倉庫の外に出した。
次に行った時には長椅子以外足の踏み場もなかった仮眠室を片付けた。何が必要で何が必要でないのかわからない部屋を片付けるのは難しく、明らかに不要なもの以外は箱に入れるくらいの事しかできなかったが、物置棚と化していた簡易ベットは本来の役目通り人が横になれるようになり、シーツを替え、くたびれた毛布を交換した。
働く人こそしっかり休養を取れなければ。頑張る人ばかりが追い込まれるのはルビアには許せなかった。
二ヶ月が過ぎ、病が収束する頃にはレイベ草はなくなっていたが、その年の流行は何とか凌ぐことができた。しかしそれは既にあった薬にレイベ草の薬を数滴足しただけで済んだからだ。
この領で自分達で薬を作るなら、丘で摘み、あの庭で育てただけでは足りない。ここを離れるまでに薬草の畑を作れる人を探す必要がある。
ルビアがドーンにレイベ草がこの領に自生することを明かすと、さすがのドーンも驚いていた。
「実は去年収穫した種があるんですけど、誰か…」
「それならいい畑を持っている奴を紹介しよう」
ドーンはすぐに街の外れの農家を紹介してくれた。野菜を主に作っている農家だったが、薬草も育てていて、ドーンはそこで薬草を調達し、時には希望する薬草をリクエストして育ててもらうこともあった。
ルビアがドーンに売った薬草の中にはその農家で育てているものもあり、信用ある農家と同じ金額で買い取ってくれていたことを知り、ルビアは恐縮したが、
「それ以上の価値はあったさ。レイベ草を手に入れられたんだからよ」
そう言われて、ドーンの薬屋を訪ねてよかったと改めて思い、この巡り合わせに感謝した。
薬草の育成に慣れた人にとって、レイベ草を育てるのはそれほど難しくはない。しかもこの地域なら一番面倒でかつ重要な仕事が不要だ。
ルビアの予想では、この土地では赤レイベ草は育たない。
それはレイベ草を薬草として育てる理想的な環境であるとともに、ルビアの見える力を必要としないということでもある。
自分がいなくなった後でもきっとうまくいく。
そこにルビアを引き留める理由はなく、約束の期限は近づいていた。




