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早咲きの青い花を見せたレイベ草は、他に蕾がつく前に四分の三を刈り取り、納屋につるして乾燥させた。ここでは薬草の買取業者に知り合いはいないので、直接薬屋に売り込むしかない。
ルビアは見本用にレイベ草を一束もって街に出かけ、薬屋を探した。
さほど大きくない街だったが活気があり、大通りには多くの人が行き交っている。
大通り沿いに薬屋を見つけたので入ってみた。店は新しくこぎれいにしていたが、薬の入った瓶を日の当たる窓際に並べているのが気になった。サンプルとして置いているのだろうが…。
店主は薬師ではなかった。奥に薬師がいたようだが店頭に出てくることはなく、店主にレイベ草を見せて買取りをしているか聞いてみたが、見知らぬ人が持ってきた薬草と称する草など相手にすることはなく、早々に追い払われた。
薬草の中でもレイベ草は難しい草だ。効き目にばらつきがあり、谷の村では薬草を買い取る商人は買い付ける畑の花を必ず見に来た。花を見せない薬草農家は安く買い叩かれるので、農家も信用する商人には花の咲く時期を伝え、花の色の割合を見てもらってから正式に金額を決める。前年の薬効の評判も金額に影響するので、多くの農家は買い取ってもらう商人を決め、不作の時にもある程度融通をきかせてもらっていた。
谷の村でルビアの家と取引をしていたメイソン商会のジョージは薬草を買い取る際の見極め方や値段の付け方をルビアに教えてくれた。祖父と同じく青い花だけにしないよう注意してくれた人だ。ジョージがいればルビアが持ってきたものならすぐに買い取ってくれるだろうが、こんな北の地まで来ることはないだろう。
別の店にも行ってみたが、同じ系列の店らしく、店の管理も対応も似たようなものだった。どちらも同じ薬の瓶が並べられていて、ラベルをよく見てみるとノートン製薬と書かれていた。あの因縁のあったマーリアの父が経営する薬屋だ。あんな遠方からわざわざ薬を取り寄せているのに驚いたが、それもそのはず、薬屋の名はN&H、小さくノートン&ホーソン商会と書いてあった。
自分がここに連れて来られたのもノートン家と縁のある薬業者が絡んでいた。ルパートが薬を買い、借金をしているのはこのN&H社なのだろう。
置いてある薬の値段はずいぶん高めだ。数年前の流行病を思えば薬があるだけ安心料にはなっているかもしれないが…。
裏通りにも薬屋があった。こちらは昔ながらの薬屋のようだが、あまり繁盛しているようには見えなかった。
入口は北に面し、窓はそう大きくなく、日の当たるところに薬はない。店に入ると薬草の混ざった香りがした。ルビアの知っている薬屋らしい店構えだ。
「薬草の買取はしてますか?」
初見で薬草を売り込んできたルビアに、店主は薬草以上にルビアを品定めするような目線を向けてきた。
「どんな薬草だ? 見せてみろ」
乾かした葉を一枚ちぎって見せると、店主は手に取り、指先で軽くもんで匂いを嗅いだ。
「これは…?」
「レイベ草です。私の地元では咳や肺炎や気管支炎といった呼吸器の病に使われていて、ラスール風邪にもよく処方されているのですが、この辺りではあまり使われないでしょうか」
「…確かに、ラスール風邪が流行った時に出回った薬の匂いだな。…これをどこで?」
家の裏の丘に生えていたとも言いにくいし、万が一似ているだけでレイベ草じゃなかったら…。
ふと湧いてきた不安から、売る前に薬効を試してもらおうと考え直した。
「これが薬になるならまた持ってきますので、一度試してもらえないでしょうか」
ルビアがレイベ草の束を出すと、店主は興味を示した。この店主は薬師だ。
「どんな風に薬にしてるか知ってるか?」
「家では乾かした葉を他の薬草と一緒に煎じて飲んでました。薬師さんが作ると琥珀色の液体の飲み薬になるのですが、詳しい作り方までは…」
ルビアを信用したのか、店主は口元に笑みを見せていた。
「寒くなれば、またあの風邪が流行るかもしれん。ラスール風邪でなくても風邪で肺や気管支をやられる奴は多いからな。…よし、試してみるか」
店主はレイベ草を引き取ると、銅貨を三枚ルビアに渡した。しかしルビアはそれを店主に返した。
「まずは効果を聞かせてください。効果があれば、次は売りに来ます」
しかし店主は銅貨をルビアに握らせた。
「きちんと乾燥させて葉も痛んでいない。おまえは薬草の扱いを知っている人間だ。…期待を込めて、な」
本物のレイベ草、しかも青レイベ草と確定している薬草なら、銅貨三枚ではずいぶん安い金額だった。しかしこれはこの土地で取れた薬草を庭に植えて育てたもの。このレイベ草はこの土地の人に役立てるべきだ。
ルビアは銅貨を受け取り帰ろうとしたが、ふとこれが青レイベ草だけ、赤レイベ草が混ざっていないことが気になった。七割でいいと言っていた祖父やジョージの言葉が蘇り、念のため
「故郷で取れるものより濃いように見えるんです。薄めて少しづつ処方してください。他の薬と混ぜても大丈夫だと思います」
と声をかけた。
「初めての薬だ。加減して使うよ」
薬師には言うまでもないことだったかもしれないが、うるさがることなく聞き入れられて、安心して店を去った。




