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赤い花、青い花  作者: 河辺 螢
第二章 キンバリー農園
11/53

2-2

 ジェラルドの父モーガンは二人の仲を良く思っていなかったが、ルビアが来てから薬草部門の評価が上がっている事実を無視できなかった。

 この農園の格を上げるためにジェラルドに貴族の娘を娶らせたいと願っていたが、一方で薬草の育成に長けた者を囲い込みたい気持ちもある。しかしルビアは知り合いの薬草商人の口利きで雇った出自もよくわからない女だ。後ろ盾もなく、ジェラルドと結婚したところで得られる利益は薬草以外には見込めない。


 二人の仲をどうしようか迷っていた時に、新たな縁談が舞い込んできた。

 その家は貴族ではなかったが、西都では製薬業で名が知れていて、この農園の薬草も買ってくれるお得意様だ。そのノートン氏の次女でマーリアという娘がジェラルドを気に入ったらしく、縁談の申し込みがあったのだ。

 貴族でないのは残念だが、農園に出資してくれるという。しかもマーリアの祖母はあのレイベ草で有名な谷の村出身で、マーリアの母親もマーリア自身もレイベ草を育てる事に長けているというのだ。


 モーガンはこの話に乗り気だったが、ジェラルドはルビアの薬草を育てる才能に確信を持っていた。

「どちらがこの農園を運営するにふさわしい力を持っているか、見比べてみてはいかがでしょう。私は農園を継ぐ者として、優秀な妻をそばに置きたいのです」


 あの「谷の村」の血筋ならレイベ草の扱いに長けているだろうが、モーガンはマーリアにその才があるのか確証が欲しかった。ルビアと同等なら充分、マーリアの方が長けていれば薬草の売り上げアップに資金援助も得られ、言うことなしだ。

 明らかな結果を得れば、ジェラルドも恋心などという中途半端な気持ちを盾につまらない平民との結婚を推し進めることはないだろう。

「…いいだろう」

 モーガンはジェラルドの提案を受け入れた。



 ジェラルドは早速ルビアにこのことを伝えた。

「父に認めさせることができれば、君と結婚できる。だから何としてもいいレイベ草を育ててほしいんだ」

 いいレイベ草。その言葉にルビアは不安を覚えたが、恋人との将来がかかっていると言われると引き受けない訳にはいかなかった。



 数日後、それぞれに区画が与えられ、種植えから花が咲くまで世話をすることになった。

 手伝う者を一人つけてもいいが、公平性を保つためジェラルドはどちらの畑にも力を貸さないよう命じられた。


 世の中に平等というものなど存在しないかのように、初めからルビアの条件は悪かった。

 ルビアの与えられた区画は長い間畑として使われておらず、施肥から始めなければいけなかった。半分は建物の影になり日当たりもあまりよくない。さらに自分が収穫した種は使ってはいけないと言われた。公平を期するためだとそれぞれに種が渡されたが、種が公平かどうかなど育ててみなければわからない。

 頼れる人もなく、ジェラルドの力を借りてはいけないと言われれば、全て自分一人でするしかない。


 普段の仕事に加えてこの新たな区画の世話をすることになり、ルビアの仕事量は増えた。

 マーリアが谷の村の血を引くなら「見える者」かもしれない。だとしたら、勝てる確証はない。それでもできる限りのことはしよう。そう思っていた。



 マーリアは農園の近くにあるホテルで暮らし、毎日農園に通っていた。畑を耕す者を雇い、自分は種を蒔いただけ。水やりも気が向いた時だけ行い、土が服につくことを好まず、ジェラルドがいる時は働く自分をアピールしていたが、ジェラルドがいなくなると早々に着替えて長い休憩を取った。

 都会の令嬢らしく振る舞いは上品で、普段は流行のドレスを身にまとい、作業用の服でさえ庶民の一張羅よりも上等だ。化粧を施し、時に優雅にお茶を楽しみ、農園で作るお菓子の試食でも次々と新しいアイデアを出した。そんなマーリアにジェラルドは興味を引かれていった。

 

 ジェラルドとマーリアが共に過ごす時間は増え、農園に足を向ける回数は減っていった。

 ルビアとは会わない日の方が多くなっていたが、それはルビアの忙しさも関係していた。勝負のための畑の仕事が増えただけでなく、薬草畑を担当していた人が急に辞めることになり、人手が足りず、水やりだけでも大変だった。


 休日に出かけることも減り、疲れた体をベッドに横たえ、ふと外を見ると中庭でマーリアとジェラルドが見つめ合っていた。ジェラルドは仕立ての良い服を着るようになっていた。それはマーリアが差し入れたマーリア好みのものだった。

 微笑み合う姿は恋人同士にしか見えない。自分とジェラルドがいる時もあんな風に見えているのだろうか。


 いいえ。


 ルビアは自らの問いの答えに迷わなかった。

 雇い人にすぎない自分はジェラルドの隣にいても対等ではない。会う時は作業着で、草の汁や土がつき、手や顔だって汚れている。

 学校も途中で行けなくなり、友人も少なく、誰かと話をする機会も多くなかった。誰かを楽しませることに長けていない自分に、あんな朗らかな笑顔を作り出すことはできない。


 身の程を知らなければいけない。


 チクリと痛むその言葉を飲み込もうとした時、マーリアとジェラルドが口づけをした。マーリアから唇を寄せていたのは見えていたが、それを拒むことなく、目があって微笑みを交わした二人を見て、ルビアの中でジェラルドを慕う心は砂の城のようにさらさらと風に吹かれ、一筋の涙と共に跡形もなく消えていった。


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