「善意の恋人たち~何でもあげちゃう子と恋人になる~」
告白を振られた僕はその帰りに轢かれかけた子供をかばいトラックに轢かれてしまった。
目が覚めた僕は地面が雲でできた場所にいた。
あの子は大丈夫だっただろうか?と心配していると、空の明るさが増し、羽の生えた女性が空から降りてきた。
「こんばんわ。善良な魂のあなたは私の管轄する世界に転生させることにしました」
「どういうことですか……?」
「私は善良な魂を探していた女神です。あなたの魂の善良さに目をつけたので、私の世界に転生をしてもらいます。しかし、自分の都合で転生させるので1つだけスキルを与えてあげましょう」
「スキルとは何ですか?」
「特殊能力です。本来はランダムで決まるところを任意で1つ決めましょう」
「あの、それよりも僕は素敵な女の子との縁が欲しいです」
「といいますと?」
「実は生前、様々な女の子に告白したんですけど全員に振られまして……。2度目の人生があるなら、自分が好きになる子を幸せにしてあげたいんです」
「すばらしい……! では、私があなたに縁がある女の子を見てあげましょう」
女神さまはにっこりとほほ笑んだあと、視線をあげ、遠くを見つめるように目を細めまして。
それから、ぎょっとしたような顔つきになった後、青ざめていった。
「あなたは100人もの恋人の縁があるでしょう……」
「えっ」
なんてことだ。
うれしい!
そんなに素敵な出会いがあるなんて!
「でも、あなたと恋人になれなかった人物は悲惨な死を遂げます」
「そんな……!」
「なのですが、さすがに100人を全員、幸せにすることは無理でしょう……!」
「いいえ、皆を幸せにして見せます! いますぐ行かせてください。ここから落ちればいいんですか!」
「どうしても行きますか?」
「当り前じゃないですか」
「わかりました。あなたの幸運を祈ります……あと、私から応援として一つプレゼントを与えます」
そうして僕は光に包まれる。
女神さまの姿がどんどん薄くなり、ついに見えなくなった。
†
そうして、僕は目覚めた。
鳥の声が聞こえる。周囲は薄暗い……どうやら森の中のようだ。
「ここはどこだろう……?」
しまった、行く先の世界について聞けばよかった。
女の子たちとの縁がうれしすぎて、そちらに気を取られすぎた……!
森の中に一人だけいってもどうすればいいのか……」
「ん、スキル『恋愛日記』を開きますか?」
スキル……たしか女神様が言ってた特殊能力だったかな。
で、透明な板のようなが浮いてて『恋愛日記を開きますか』と書かれている。
よくわからないから「はい」を押すと、日記が現れるが……なにも書かれていない、真っ白な日記だ。
白いページだけがあって自由に書ける形式みたい。
ただ、書くためのものがないな……。
「これ、何に使えるんだろう……?」
うん、いまのところただの日記だ。
僕が首をひねっていると、
――げっきょきょきょきょ!!
甲高い音が響いた。何かの鳴き声だろうか。
恐る恐る草の根から見ると、怪物たちが争っていた。
緑色の体躯で目が黄ばんでいる。
歯並びは悪く、よだれを垂らしながら、こん棒のようなものを持っている。
2つの群れがそれぞれ威嚇しあっており、巨大な個体とそれに付き従う個体が無数にいた。
巨大な個体のうち一人が少女を持っていた。
金色の髪をつかみ、引きずるように運んでいた。
「なんてことだ! 助けないと」
僕はいてもたってもいられなくなり草の影から飛び出した。
互いににらみ合っているから周囲の警戒なんてしてなかったのだろう。
僕は決死の想いで巨大な個体に体当たりをする。
本来なら弾かれるレベルの体格差。しかし、不意打ちでの攻撃だったからよろけさせることに成功した。
ゴブリンたちから饐えた匂いがする。
そこで急いで少女を抱えた。
「あなたは誰?」
少女の顔はひどく腫れており、見るも無残な状態だった。
しかも手足が折れており、体中に青あざがある。
「いまはいいから!」
僕は少女を抱えて、必死に走った。
人を抱えて逃げるなんて初めてだ。
しかし、なぜか力が湧いてくるようで、緑肌の怪物たちから逃げられている。
「あなたがゴブリンから逃げられなくなる、ステラは放置していいよ」
「よくないよ! 君をひどい目に合わせたやつらだろう!」
「ううん、だって、ステラのことを食べたたり犯したりしたいみたいだったから、食べてもらおうかなって」
「なんで!?」
「なんでって……」
少女はにっこりと笑った。
そこには一片の後悔もなかった。
無邪気な、それこそ童女のような笑みだった。
「ほしいなら、満たしてあげないと。それに喜んでくれるじゃない」
「うん、わかった――絶対に助ける。僕が決めた」
緑色の怪物に対して全身をこっぴどく殴られながらも、ステラには一片の後悔もなさそうだった。
怪物に襲われてる状況でも、怪物に対する申し訳なさすらにじませている。
異様すぎる。
だからこそ僕は思った。
なんて、なんて――良い子なんだ!
ビビっと来た、僕はこの子のことが好きになった。
だから、まずはこの状況から助けないと!
「あなたもほしいの?」
「うん、僕も君のすべてが欲しい!」
「うんいいよ。ならあげるね」
『――スキル「恋愛日記」が更新されました』
透明な板が出現し、ノートが開いた。
そこには「ステラ=アガートラム」の名前と彼女の顔――すごい美少女!?――と共に対のページに『スキル:善意の祈り』が載っていた。
「どういう効果だろう?」
スキル:善意の祈りを発動する。するとステラが白い光に包まれたかと思うと、みるみるうちに傷が治っていく。
なるほど、これは回復スキルってやつだ!
「これは……? あなたがやったの?」
「うん!」
――ゲギャギャギャギャ!
後ろから怪物たちが追いかけてくる。
このままだと奴らに追いつかれてしまう。
……こうなったら!
「ここに隠れてて!」
僕は彼女に茂みに隠れてもらった。
彼女は何か言いたそうだったが、聞いてる暇はない。
「うぉおおおおお!!!」
そして、僕はゴブリンの群れに向かって突撃した。
†
「――か、勝った」
日がすっかりくれて、さらに朝日が昇ってきていた。
無数のゴブリンに囲まれた僕は何度も彼らに殴られた。
歯が折れ。
皮膚が裂け。
目が飛び出て。
骨が突き出て。
何度も地面に倒れた。
けれど、僕にはスキル『善意の祈り』がある。
そのたびに回復し、一体一体と殴り、ついには全員を倒すことに成功した。
これもきっとステラのおかげに違いない。
……しかし、時間がかかりすぎた。ステラは大丈夫だろうか?
「大丈夫、あなた?」
「君のおかげで勝てたよ、ありがとう!」
ふらふらの僕のもとにステラがやってきてくれた。
ふんわりとした金色の髪。
白い肌に、丸い目。
薄く赤い唇の美少女だ。
「ううん。それよりもあなたの名前は?」
「僕の名前は葉麗 等撫、君のことが好きだ」
「ステラでいいの?」
「うん、ステラがいい! 幸せにしますからすべてをください」
「じゃあ、ステラをすべてもらってね」
「はい! あ、でも、ステラのことだけじゃなくて……」
僕はステラにこれまでのいきさつを話した。
ステラは話の途中で相槌をうってくれながら、静かに聞いてくれた。
なんていい子なんだ。
こくりと首をかしげる動作が小鳥みたいで可愛い。
「つまり、これから天啓を感じた相手を全員、幸せにしたいの?」
「そうなんだ。……ムシのいい話だけど、いいかな?」
「もちろん。ラブちゃんがそうしたいならそれでいいよ」
天使みたいな子だ……!
絶対に幸せにしないと……!
「ところでお腹すいてない?」
「一晩中戦ってたからお腹ペコペコだし、喉もカラカラだよ」
「食べる?」
ステラが僕に指をさしだしてくる。
可愛いけど、彼女をかじるのは傷つけちゃうから嫌かな……!






