ホワイトローズ〜尊敬
ここは雪国ノーザリス、私たちは五大魔であるティナ……そして急遽その権利を承継された伝説の魔物ファルムベルグを討伐し、ここには久しぶりの晴れの天気が訪れた。
ちなみに私たちは今は出航を控えているのだが、私たちは今はここに別れていた。
何故かと言うとエレノアから好意の接吻を受け、私たちは気まずい空気が流れていたのだ。
なんというか、頭がぐちゃぐちゃしたような感じがする。先日は私の同棲相手だった男が実はこの世界を牛耳る魔王であることが判明して、エレノアが死にかけて、再上級職である天地雷鳴士に覚醒して、頭がハイになっていて困難を乗り越えて……頭の整理が追いつかないで私は1人で雪国を黄昏ていた。
あーあ……男と接するのは造作もないはずなのにどうして私はこんなに意識をしてしまうのだろう。
そして私は1度悩むと頭の中が堂々巡りをしてしまう。
それを紛らわすように身体を刺すような冷たさが寧ろ心地よかった。
すると、後ろから静かに足音が聞こえる。
「やあ、ひとり?」
「ティナ……。」
そう、先日私たちと対峙をしたあとにファルムベルグと共闘をした踊り子ティナだ。
踊り子という2つ名に似合わず加速や舞の剣技の達人で私よりも2歳ほど年下のハーフデビルである。
「わたし、エレノアにどんな顔すればいいんだろ。」
「あはは、たしかに急だったよね。飲む?ホットワインだけど。」
エレノアは魔法で温まったホットワインを差し出す。
「……ありがとう。」
私はワインを口に入れる。
とてもまろやかな舌触りとワインとは思えないほど極上の旨みのある赤ワインだった。
「ワインってこんなに美味いのね。」
「ええ、じつはこれ10年もののピノ・ノワールという葡萄をつかったワインなのよ。」
私の世界でも高いワインはピノ・ノワールを使っている。どうやら価値の高いものというものは共通らしい。本当は15度くらいがいちばん美味いのだが雪国のホットワインは驚愕のうまさだった。
「エレノア……だっけ、剣士さんよね?あの人も困らせたいからあんな行動をとったわけじゃないのは分かるわよね。」
「まあ……そうね。」
「私もよく色んな男に言い寄られるから気持ちわかるの。」
エレノアは優雅にワインを回す。
ティナは動きが洗練されていて気持ちに余裕があるので一目でこの人は私以上にもて続けてきて、沢山のことを知っているのだろう。
「でもね、あなたはエレノアのことは好きか嫌いかならどっちなの?」
「それなら好きに決まってるじゃない。」
私はハッと口を抑えた。
「悩むより答えはある程度出てるじゃない。あなたなら現状を受け入れられるわ。あなたは向き合うことができるから、行きなさい。」
ティナは丘の上を指をさして私は誘われるように駆けた。
先にはエレノアが気まずそうにした。
「エレノア……。」
「よ、よお……。なんか一緒にはいたけど久しぶりみたいだな。」
「ううん、ごめんね……なんか私も避けてたみたいで。」
「いや、いいんだ。」
2人の間に沈黙が流れる。
あれ、わたしって昔はどんな感じで話題振れてたっけ?
私は自慢では無いのだがずっと喋っていられる自信があるのだ。
こんなに言葉が出ないのは以前一緒に同棲していた金澤と会話してる時以来だと初めてである。
「あのさ。」
「う……うん。」
「俺、アイリスが好きなんだ。」
はっきりと言われた。不思議と嫌な感じはしないのだがどうにも落ち着く感じがしなかった。
エレノアは良くも悪くもとてもストレートなのだ。
変に色々言われるよりも、心地は良い。
「私もエレノアは大事だけど……どう結論を出せばいいかわからないわ。」
「だー!まあ、そんなに固くならなくていいよ。
俺はお前が好き。でも気にはすんな!俺はお前の相棒だからよ、旅やら目的を終わらしてアイリス自身のタイミングで結論を出してくれればいいよ。それまではこの話は一旦保留!それでいいか?」
エレノアは私の肩を強くおさえ、真剣な眼差しでこちらをみていた。
目は炎のように赤く煌めいていた。
少し乱れた真紅の髪をなびかせて。
「……うん。私もあなたを大事にしてるわ。これで仲直りね!」
「おうよ!……それにしても踊り子さんよぉ、あんたはこれからどうするんだ?これからは魔王に追われる身になるわけだろ?」
エレノアが私の後ろに話しかけると足音が聞こえてくる。
私も振り向くと踊り子のティナがそこにはいた。
「あら、隠れてたのによく気がついたわね。」
「よくもまあ見物をしているもんだ。でも今回ばかりはお礼をいうぜ。」
ティナとエレノアはお互いに頷いた。
この2人も感覚で生きるタイプだから相性がいいのかもしれない。
「話を戻すわ、エレノア…そしてアイリス、私を一緒に連れて行ってよ。悪魔の身ではあるけどゴールドと戦う目的は一生よ。」
「だってさ、どうするよ。」
「もちろん…大歓迎よ!」
☆☆
「どうやら、仲直りしたそうだね。」
「ビーツ野郎が帰ってこないから心配したんだぞ。」
私たちは酒場に戻ると、ヴァルトハルトとネヴァロスはお互いにテーブルに腰をかけていた。
テーブルにはチェスが置いてあった。
「何とかね…、それにしても2人とも呑気にチェスしてるのね。」
「そうだね、こうなることは想定内だったからねえ。それにしてもヴァルトハルトと話すのはとても面白くてね。気がついたらお互いずっとチェスをしてしまっていたよ。」
ネヴァロスはどこまでもドライだった。
それは経験ゆえか…それとも性格なのかは定かではなかった。
まあでも140歳だから仕方ないのかもしれない。
「それはそうと…、これ着てみて。」
すると、ネヴァロスは突如袋を差し出した。
私は袋を取り出すと、中から青いドレスが出てきた。
胸には装飾の施されていた鎧もありアーマードレスという表現が1番近い感じだった。
不思議と表面がひんやりとしている。
「綺麗なドレスね…どうしたの?」
「これね、ファルムベルグの亡骸とこの国に伝わる青い薔薇を合わせて使った青薔薇のドレスだよ。」
確かに表面にはファルムベルグの毛皮や鱗と同じものがある。私は実際に来てみることにした。
実際に体に身につけると、表面は冷たいのだが着心地はそんなに悪くは無い。
むしろ着心地は良く体温も暖かく快適である。
そして、全身に杖の魔石を散りばめているので魔力が溢れるようである。
「うん、どうやらピッタリみたいだね。着るだけでも魔力が溢れるのも感じる。ぼくらも職人に掛け合ってアイリスへの装備を作って貰ってたんだ。」
なんだ、全然ドライじゃないじゃない。
私はとても良い仲間を持ったな。
「よし、今日は飲みますか!今日はティナの歓迎会よ!」
「そうだな!ティナよぉ、踊ってくれよ。」
「ええ、任せて!今日も激しく踊るわよ!」
「よし!じゃあ僕はウイスキーをお願いするよ。」
「申し訳ございません、未成年の方はお酒の提供は出来ないものでございまして…。」
「ええ〜…。」
結局ネヴァロスだけがこの街のお酒を飲むことが出来なかった。
☆☆
ここは極寒の国ノーザリス、しかし今は天気は晴れて澄み渡る空であった。
私たちは錨を下ろし、帆をあげる。
旅立ちの日だ。
見送りの者はいなかった。
なんせファルムベルグはそこまで知名度は無いし、ティナが五大魔だったのも知りもさえしていない。
この件はギルドとの内密におわった。
知らない間に伝説の魔物が復活していただなんて知られたら大騒ぎになるだろうからね。
「寒いのにお酒や料理が美味しい国だったな…。
踊りで厳しい環境を乗り越えてて…私はこの国好きだわ。」
「やっぱり分かる?私もさまよって放浪してからこの国に出会ったんだ。音楽と踊りが何より好きだったわ…。」
「未練はないの?ティナ。」
「ええ、今はあなたと一緒にいたいもの!もっと私をワクワクさせてちょうだい!」
ティナは私の両手を繋いではしゃいでいた。
大人びているのだけれど、こうして見ると一人の少女のようだった。
いや、普段が歳不相応なだけでこれが本来の姿なのかもしれない。
「なあ、踊り子さんよ。次はどこに行くんだ?俺たちの旅はこの先どうするべきか…ここより東の国は開拓が進んでいないとされてるから検討もつかないんだよな。」
確かにエレノアの言う通りだ。
私たちはこの先の海図ももっていないので航路が分からないまま出航をしている。
行先が分からないのであれば話にはならないのだ。
すると、ティナは笑顔から一変してシリアスな表情に戻った。
「そうね、説明するわ。私たちはアストラルの天空城を目指すといいわ。」
「アストラルの天空城?あれって神の土地じゃないんですか!?しかも神話上の場所ですよ!」
ヴァルトハルトは立ち上がった。
教会に精通してるのでそういった話は詳しそうだ。
話から察するに私たちはこれから伝説の土地に行くみたいなのである。
「続けるわ、アストラルの天空城は実在がする。
場所は東の果の先にあるわ。そこに行くには手順があるの。」
「手順?」
「そう…、神の使いとされる白鯨のオルフェリウスを東の果ての海域に召喚して、時空を超えて行く必要があるのよ。」
「そうか!だからゴールドは東からとしか情報が無かったのか!」
「じゃあ、このまま東へ面舵いっぱいね!」
私たちは東へと何日もかけて進むことにした。
絶対にやつを倒して、この旅に決着をつけないといけない。
☆☆
それから、何日もかけて私たちは東へと進んだ。
途中に港町を超えるがこれといった滞在はせず食料を買っては東へと進んで2週間がたった。
私たちは前人未踏の海域へと辿り着くことが出来た。
「長かったわね、ここが…東の果て。」
東の果ての海域は、天気が荒れておりとても船で行くのは難しい海域だった。
そして、さらに先に行くと、そこには無数の渦巻きがあり…この世の終わりという表現が相応しい魔の海域となっていた。
「ずっと…疑問だったの。なんで東の果てにあるなら西から行かないかって…行かないんじゃない、行けないんだ。」
「そういうこった。俺もここは見た事がない…。」
「僕も書籍でしか見たこと無かったけど、ここに辿り着く前に藻屑になってしまうね…。オルフェリウスはここにいるのかい?」
「そのはずだけど…でもこれは生き物いるのかしら?」
どうにもオルフェリウスとやらを見つかる手段が私たちにはなかった。
きっとこの辺りなのだけれど…。
すると、海から地響きがしてきた。
とても巨大な気配である。
船がどんどん揺れ出して、今に転覆しそうだった。
「やばい…なんかやばい…。」
すると海の底から40メートルほどの白い化け物が浮かび上がってくると渦巻きは徐々に収まり、海は凪いだ海へとかわっていった。
「これが…白鯨?」
鯨からは神々しく眩い光を放っていた。
確かにこれは神の使いと言われていても誰も疑うことは無いだろう。
しかし、次の瞬間だった。
「ぐおおおおおおお!」
オルフェリウスは大きく吠えると、こちらを目掛けて襲いかかってきた。
「な!ティナ、あれは神の使いじゃないんですか!殺意を感じますよ。」
「まさか…いやまさかよ。」
白鯨は大きく口を開くと、閃光を放ちこちらを襲ってきた。
「おい!きたぞ!やべえ!!」
ヴァルトハルトが盾をかまえ、閃光の起動を変えるとレーザーを魔力で無効化した。
これはユニークすぎるかしら?とにかく助かった!
「なんて…火力だ。」
「僕に任して。」
ネヴァロスは水面を浮かび相手に向かって飛び込んで拳をぶつける。
白鯨は一瞬仰け反ったが、直ぐにネヴァロスを弾き返してしまった。
まずい…海戦だとみんなの実力を発揮できやしない!
ここは遠距離戦で応戦しないと!
私はドレスから魔力を貰うと白鯨の下から竜巻をあげると、白鯨は大きく空へと吹き飛ばされてしまった。
白鯨は平衡感覚が一瞬分からなくなり、戸惑いを見せる。
私は次に魔力を最大限高めて白鯨の落下地点を氷の島を形成し、鯨を氷に叩き込む。
氷は鯨の自重に大きく壊れ、鯨に大きなダメージを与えることが出来た!
「今よ!エレノアーーーー!」
「最高だぜ、これなら戦えるぜ。息を合わせろ、踊り子さん!」
「ティナよ、ビーツさん。」
2人は息を合わせると、ティナは白鯨を切りつけながら回転して白鯨の全身を切り刻む。
「ぐおおおおおおお!」
「おっと…騒いでるところ恐縮だが…俺もいることを忘れないでいてくれると助かるぜ…。」
エレノアは大きく振りかざすと、重量のある動きをして鯨をたたっ切ると、下に大きく波を立てて落ちていった。
「あら、やっぱりあなた強いのね。」
「まあ、これでも右腕やらしてもらってるんでね。あんたの剣技も最高だ。」
2人はガッツポーズをとると、パンっとハイタッチをした。
やっぱりふたりは相性がいいのね。
「でも…これどうしようか。状況がどうなってるか…わからないわ。」
白鯨は導く聖獣のはずなのに私たちに攻撃を仕掛けてきた。全く意図が分からないのだ。
「もしかしたら、試したとかそういうことはないかな。」
「試す?」
「例えば…白鯨は行くための手段ではあるけど誰これ構わず案内してたら伝説の地なんて大層な名前がつかないんじゃないか?」
ネヴァロスの話にも憶測は多いけど筋は通っている。
じゃあもしかして…?
すると、また白鯨は海から上がってくるとこちらを見つめてきた。
先程の敵意は感じ取れなかった。
目が明らかに違う。
「勇気ある冒険者よ。良くぞ試練を乗り越えた。」
重々しい声が耳ではなく頭に直接聞こえてくるようだ。
いわゆるテレパシーってやつかな?
良くアニメとかドラマとかでしか見たことないけどイメージがつく。
「試練というには手荒い歓迎だな。ビーム打ちやがって!」
「攻撃を仕掛けたことは詫びる…私は神にそう命じられているのでな。」
エレノアが噛み付くと、オルフェリウスはやんわりと会話をいなす。
きっと知能は普通の人間以上に高いのだろう。
「ねえ、オルフェリウス…私たちをアストラルに連れて行って!」
「承知した。アストラルに案内しよう。」
オルフェリウスが大きく吠えると、光の鎖が現れて、私たちの船と鯨を繋ぐと、私たちは鯨に引かれながら船は前に進んだ。
波を乗り越えると、船はどんどん前に進んでいった。
体感だが高速道路くらいの速さになり…新幹線くらいの速さを水平線を進んでいく。
「見ろ!オルフェリウスの行く先の夕日の光が不自然に揺らいでるぞ!」
エレノアが海を指さすと、そこだけ光が炎のように揺らいでいた。
「ここからは、時空の入口になる。」
すると、夕日に沿った船はさらに加速をすると宙に浮き出した。
「え!飛んでる!」
「これが神話に伝わる御神渡り…長生きはするものだね。」
「御神渡り?諏訪大社のやつ?」
「そのスワタイシャとやらは分からないけど、神とともに時空を超える現象をここでは昔より、御神渡りと読んでいるんだ。」
ここでも私の世界の言葉があるのは不思議だったが、徐々に景色は海から空へとかわっていった。
「なあ、白鯨よ。聞かせてくれ。」
突如ヴァルトハルトが白鯨に向かって話しかけた。
どうしたのかしら。
「なんだ、騎士よ。」
「お前は…アストラルの現状は知ってるのか?」
確かに、アストラルは今や金澤…もといゴールドの居城へと化していた。
白鯨が役割を果たすのは不自然である。
「アストラルの現状は重々承知はしている。
しかし、私の役目はあくまで案内人…義理は無くても義務を果たすのが神より作られし神獣なのだ。
だからこそ、私は試練を与え乗り越えたものを案内するのだ。」
オルフェリウスの回答はどこまでもドライだった。
そう、それがオルフェリウスという白鯨なのだ。
「関心だな…役目ほっぽって放浪してるどこぞやの騎士様よりかは立派だな。」
「よし、表に出ろビーツ野郎。」
なにやら後ろで喧嘩してる気配がするが一先ず置いておこう。
「そういえば、ティナはここに来たことはあるの?」
「いえ、基本的には五大魔にもアストラルの場所は教えられてないの。私も来たのは初めてよ。」
どうやらやつは身内にも住む場所を教えてはいないみたいだった。
変わってないな…そういう人を信用しないで身を隠すところは異世界に行っても変わらないのね。
「あれ?五大魔でしょ?ティナの後任がファルムベルグだったけど…そしたら私は4人しか倒してないわよ。」
疑問である。
普通は五大魔を倒したら魔王という流れだったのに一切その気配はなかった。
オルフェリウスは五大魔じゃないし…。
「もうひとりいるのよ。」
「もう1人!?」
「そう、アストラルを守る門番と将軍を担う魔剣士ザルヴァードってやつが。」
突如強風が吹き荒れると、雲は晴れてラピュタのような天空の城が現れた。
所々コケがあり、大地からそのまま宙に浮いて地面を抉ったような形をしていた。
だが、中央の城は白を基調とした一流の建築だった。
あれが…天空城アストラル!
「…どうやら到着のようね。」
「しかし、なんと言えばいいんでしょう。魔王の城というくらいですから闇夜に紛れて不気味なイメージだったのですが、これじゃあ巨大な大聖堂ですね。」
こんな大層で綺麗なところに住んでいたのね。
昔は3階のそこまで綺麗でないアパートで部屋を散らかし放題にして、私に毎日掃除を押し付けてたのに…いい気味だと感じた。
この建築にも嫌悪感さえ感じてしまう。
見ている間に、私たちは空の港へと到着をする。
宙に浮いてるので不思議に感じるが、ここは時空の海なので波にのって停泊をしているようだった。
私たちは見上げると…階段があった。
城の作りは至ってシンプルであった。
真ん中から本丸に向かって階段が真っ直ぐに伸びていた。
普通は堀とか塀があり、登るのは難しいのが城なのだがこの城はまるで私たちを迎え入れてるようだった。
それにしてもこの作りは…なんか既視感に近いものを感じる。
そう…これは天皇を迎えるように作った階段だった。
山の上に本丸があるのも見覚えがある。
「安土城みたいね。」
そう、昔あいつに連れていかれた安土城の安土山と酷似をしていた。
つまりこの城は英華を見せるための城であるのだ。
「安土城?きいたことないけど、あんたの故郷の城なのかい?」
「うん、昔の魔王を名乗った男がつくった城なの。」
「へえ…じゃあこれを作ったやつは相当余裕があったんだろうな。」
私たちは階段を昇った。
不気味に真ん中は空いてるけど、左右からは不気味に門があった。
あれ、でもこれって…確かこの通路を攻められた時にわざともんを設けてたような。
私の嫌な予感は直ぐに的中した。
「かかれー!」
門から無数のガーゴイルや魔道士、アークデーモンなどの上位モンスターが襲いかかってきた。
奇襲なのでわたしの時飛ばしの発動は難しかった。
一瞬…しくじったかと思ったが過ぎた心配だった。
「予想通りだな…おらよ!」
「好きだらけね〜相手してあげるわ!」
エレノアが敵を見切り刀を一閃すると右の魔物は一掃され、ティナが加速をするとまるで蛇のような軌道で敵を一網打尽にする。
空中からコボルトが刀を持って一斉に切ってきたが、こちらも大丈夫だった。
ヴァルトハルトが一体の攻撃を縦で防ぐと光を放ち、敵を一掃する。
あれ、もしかして私いらない?
敵の大人数の奇襲はほとんど被害がなく突破することが出来た。
そのあとも奇襲はあり、ファンタジー独特の戦いがあるのかと思ったのだけれど…。
「もっと…もっと楽しませなさい!」
「どうしたの?まだ竜化もしてないのに、もう終わりなの?」
やはりどの敵にも私たちのパーティーは攻撃は受けず、私も雷鳴を一度撃ったくらいだった。
それよりも…この登山行為の方が体力は奪われるのだけれど。
しかし、石垣をまわると門の前に2メートルほどの肌の青い男が立っていた。
端正な顔立ちをしており腰には黒い日本刀を提げていた。
「あなたがザルヴァードとやらね。」
「そうだ、私が五大魔の1人の魔剣士ザルヴァードだ。」
「もう、五大魔さんとやらもお前で最後だから最早これまでだな!」
「くっくっく…五大魔というのは結界の維持をするためのユニークモンスターに過ぎない。本来は私ひとりで事足りるのだ。」
確かにザルヴァードは今までの巨大なモンスターに比べたら、ただの背の高いだけのインパクトしかないのだが…圧倒的に覇気がちがった。
刀の持ち方に一切油断がなかった。
刹那、私は時飛ばしをして氷の刃を向ける…。
先手必勝!みんなでなら勝てる。
しかし、何故か時が止まってるのにザルヴァードは突如こちらへ向かって動き出した。
「え…。」
私は反応ができなかった。
私だけの能力だと思ったのに。
無理やりときを動かすと私はギリギリでかわして小さな切り傷ができていた。
「みんな!気をつけて…こいつやばいよ!」
それを察知していたのか、ティナは既に加速を発動し、ザルヴァードの後ろに切りかかっていた。
「踊り子よ、初めて剣を交えたがこの程度か、笑止。」
加速からの剣の舞を一太刀で捌く、そしてキラージャグリングをまとめて一太刀で吹き飛ばしながらティナに切りかかった。それをティナはワイルドセンスでかわすが、瞬間移動でティナの後ろに回り込んだ。そして、ティナは後ろに吹き飛んでいった。
「ティナーーーーーー!」
「いたた…体は痛むけど大丈夫よアイリス。ちょっと私より強いみたい。」
「同じ五大魔でありながら…よわい、弱すぎるぞ。」
まさかつい数日まで私を圧倒したティナを圧倒してしまうなんて…速く動いてるわけじゃないのに見切ってから重い一撃を加えるせいでティナの攻撃もほとんど当たっていない。
なんでやつなの…!
「すごいね…君ほとんどスキルを使っていないんだね!打撃ならどうだい?」
「…なるほど、拳で戦う賢者なのだな。魔力を打撃に転化する面白い戦い方だ。」
「驚いたよ、君のおっしゃる通りだよ。果たして着いてこれるかな?」
ネヴァロスは魔法を纏うと、ザルヴァードに向かって突進をしかけて攻撃を仕掛ける。
しかし、ほとんど刀を使わず足さばきだけで見切っていた。
「…お前は魔法を使うエルフなんだな…非常におもしろいが隙だらけだ。」
ザルヴァードは左膝で拳を止めると回し蹴りでネヴァロスを吹き飛ばした。
そのあとも格闘を続けるが体術でも一撃一撃が重いので徐々にネヴァロスの動きが弱まっていった。
「困った…ちょっと勝てない。」
ネヴァロスはいつも無機質に笑うが珍しく分が悪そうな苦笑いだった。
なんでこんなに強いのよ…!
「ティナ!援護するよ!」
「わかったわ!」
ティナはキラージャグリングをしかけ、私は大気を爆発させてビックバンを起こした。
キラージャグリングを何発か捌いたがビックバンが直撃したので残りのナイフが身体を貫いた。
「はっはっは…おもしろい。連携の取れたいいチームだ。」
吹き飛んだ腕の1部を見て笑うザルヴァードに対してネヴァロスは拳を叩き込む。
何度も…何度も叩き込んで地面がえぐれるほどの衝撃波だった。
「しかし…致命傷にはならん。私の回復魔法は完全回復を実現できるのだ。」
みるみる敵の傷は埋まっていった。
やばい…反撃が来る!
私は閃光呪文をはなってネヴァロスを吹き飛ばすと、ネヴァロスのいた位置に刀が一閃振られていた。
「危ない…真っ二つになるところだった。ありがとう…アイリス。」
「困難ではゴールド様に謁見することなど不可能だ。」
確かに言う通りである。
私たちではやつに勝つことなど決してできない。
一体…どうすれば。
私の魔力で戦うことも出来るが…やはり近接をメインに使う相手だと分が悪すぎる。
しかし、突如後ろから予測不能な自体が起きた。
突然誰かが居合で突進し、ザルヴァードを切り裂いたのだ。
「どうかな?お前の相手は俺だぜ。」
「ほう。貴様も剣士か。」
そう、エレノアが前に立っていた。
しかし、エレノアもこれまで強くはなったけれど…戦っていけるのだろうか?
全く勝算が見えない。
「正確には…俺らだけどな、ビーツ野郎。」
すると、後ろからヴァルトハルトも歩いてきた。
そういえばこの2人ほとんどこの戦いに参加していない。いつもは積極的な2人なのに珍しいこともあるものだ。
「この城…神々の残した呪文の書物が沢山あるんだな。」
「エレノア…一体何を。」
「見ろ、この石をよォ!」
すると、エレノアとヴァルトハルトは同じ輝石をもっていた。
「ほう…まさかあの禁術を使うのか。」
「ああ、これだけは使いたくなかったんだが、貴様を倒すにはこれしかないと思ってな。」
2人は輝石を首につけて、魔導書を開いた。
詠唱を唱えると…徐々に2人の距離が近くなり、2人が重なると眩い光が彼らを包むと…1人の男になっていた。
左目はエレノアのように赤く、右目はヴァルトハルトのように青かった。
そして、赤い髪と青い髪を合わせた様な藍色の髪をしていて、鎧と服があわさった服装になっていた。
顔立ちは…エレノアの余裕のある目付きと、ヴァルトハルトの油断のない気品のある顔立ちへと変わっていった。
端的に言うと…2人は合体して1人になったようだった。
「…これが禁術魔法ってやつか。」
「ネヴァロス!知ってるの?」
「神話上の技なんだけどね…、お互いが同じくらいのちからをもっていて、輝石と魔導書があって初めて融合できるんだよ。」
「なにそれ!めちゃくちゃすごいじゃないの!」
戦士は拳を何度かシャドウをすると、その衝撃で後ろの壁が大きくえぐれた。
「貴様…一体何を。」
「エレノアとヴァルトハルトが合体したから…そうだな、俺の名前はヴァルノアとでも呼んでくれ。」
「ふざけるなぁー!」
ザルヴァードは刀で袈裟斬りをすると…ヴァルノアは左手で刀を白刃取りをすると、右手の拳でザルヴァードの腹を殴った。
「が…がはっ!」
「どうした?そんな剣さばきだと隙だらけだぞ。」
まさか犬猿の仲の2人が1つになるとこんなにも強くなるなんて…想像だにしなかった。
私も動きたいけど傷が…あれ、傷がない。
周りを見ると、みんな傷がすごい速さで治って言った。
「剣士と騎士が合わさってできた職業こそ…最上級職の剣聖。回復と武術と剣士が極まってるからこそなる攻撃のスペシャリストだ。」
「ほう…本来神のみの職業を合体することで再現をしてるのか…恐れ入った。」
「お褒めに預かり…光栄だよ。それじゃあ今度はこちらから行こう。」
ヴァルノアは突進をすると姿は消えて敵の背後から袈裟斬りをする。敵は地面に叩きつけられて、口から血を吐いた。
急いで体制を整えて、上を見るが既にヴァルノアは敵の後ろに回りこみ…何度も刀を切りつけていた。
これは…攻防もクソもない一方的な蹂躙だった。
「はあ…はあ…。」
「息が上がってるぞ…どうやらここまでのようだな。」
「なぜだ…なぜこんなに強い。私は最強なのだ、こんなにやられるわけが無い。」
たとえ敵が攻撃しても、それをいなして必殺の一太刀を浴びせるので相手は再生能力があっても雀の涙だった。
「何故かって?それは俺にもわからん。この戦い方は本来俺らにとっては最悪の選択だと思うよ、でもな…俺にとっては仲間を守る方が優先順位が上だったんだよ。俺はこの戦いでプライドやら色んなものを捨ててるんだよ。
お前はどうだ、慢心が故に覚悟が感じられなかった。」
敵はハッとした。
なにか納得したような笑顔だった。
「はは…ははは…!見事だ一流の武人よ。貴様らは自分の力に奢らず常に鍛錬を積み続けたんだな。
合体しても、信念が合ってるからこそ動きが洗練されてるというわけだったんだな。」
相手は鎧を複数外すと、身体から禍々しいオーラを放った。
「ならば…私もこの戦いに全てをかける。
回復魔法など要らぬ、貴様に集中をするよ。」
「後悔するなよ。」
「…おもしろい。」
2人の動きはティナの加速のように速くなり、動いた軌跡と時折攻防の残像が現れた。
速い…速すぎる…!周りもオーラとオーラのぶつかり合いになり温度が急上昇する。
「…すごい戦いだね、2人のエネルギーが周囲の環境を変える程に拮抗しているよ。」
「この戦い、次で決着ね。」
ネヴァロスとティナも入る事さえ許されないバトルフィールドとなっていたので、私たちはただ見ているだけだった。まさか嫌い合う2人が1つになるとこんなにも凄まじい力を発揮するとは思わなかったわ。
「やるじゃねえか…ザルヴァード。まさかこの俺に一気に実力を追い上げるとは思わなかったよ。」
「…ふん、これでも500年は剣技に捧げているのでね。負けたくても負けられないのだよ。」
2人はボロボロだった…いや、ヴァルノアのほうが若干優勢かもしれない。
「本当に…楽しかった。貴様と剣を交したことは忘れない、尊敬すべき親友よ。」
「俺もお前と剣を交わす度にお前のことが好きになってくるよ…最後まで気を抜くなよ。」
2人は構えて最大限の力を放出する。
まるで火山の噴火する前のような、そんなパワーに溢れた気合いが2人を包み込む。
「はああああ!」
ブラックホールのような黒ずんだ剣はヴァルノアに一気に切りかかる。
相手は切り方は袈裟斬りだった…まずい、相手の方が一歩早い。
しかし、半歩遅れて虹色に輝くとヴァルノアは飛び上がり…剣と剣がぶつかり合うと、一気にザルヴァードの刀は砕け散って、剣の切っ先は敵に切りかかり凄まじい衝撃波が、円状に爆発をした。
「見事…なり、稀代の戦士よ。」
相手はそう話すとその場で崩れた 。
しかし、そんな相手をヴァルノアは抱きとめていた。
「なんの…真似だ。」
「あんたはとてつもない武人だった、しかしあんな力を発揮してからにはもう長くは無い…。その覚悟におれは見とれてしまったんだ。」
「…そうか。もう私に未練は無い、城へと進め。私の役目は終わった。」
「そうさせてもらうよ…ありがとうな。」
すると、そのときだった。
門の柱の先からヴァルノアに紫の雷のようなエネルギーが包み込み、体を縛り付けてしまった。
「ぎゃあああ!…なんだこれ、力が抜けていく…。」
ヴァルノア後からでも振りほどくことは出来ず、もがいていった。
「え、なにあれ…。」
「あれは罠だね、相手を死ぬまで吸い尽くす禁術の罠だ。ゴールドはここで倒されるのも想定内で戦力をここで削る予定だった…てことかな。」
すると、ヴァルノアは力が大きく吸われたのか、元のヴァルトハルトとエレノアに分かれてしまった。
私達も柱にむかって攻撃するも…ほとんど効果は無かったのだ。
「なんてこと…どうすれば助けられるの。」
柱は攻撃呪文は吸い込むし、剣技も弾いてしまう。
とても無力さを残酷に演じる柱とかしていた。
2人は、大きく騒ぎもがいていて今にも砕け散りそうな感じだった。
どうしよう…こんなところで大事な仲間を失うなんて…嫌だ…嫌だ!
「まさか、私にもこの事を告げなかったとは…。誠に不服。」
すると、もうボロボロのザルヴァードが立ち上がっていた。え、どういう事?何する気なの?
「勝者には正当な勝利を収めるべきである。
私は剣は捧げた身だがこの行為は私に対する侮辱そのもの…。それならば、私の信念を貫かせていただく。」
すると、ザルヴァードは剣を握りしめると、柱のひとつを破壊し、もうひとつの柱に刀を入れると大爆発が起きて…ザルヴァードは木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
すると、ヴァルトハルトとエレノアのふたりは宙から地面に降ろされそのまま倒れた。
「2人とも!大丈夫…!?」
「あはは、まさかこんなものが隠されていたとは…誤算でしたね。」
「ああ…でもザルヴァード…あいつは最後まで凄いやつだった。」
確かにとてつもない敵だった、こんなに追い詰められたのも初めてだったかもしれない。
でも、ふたりが生きてて…それだけでも良かった。
「2人とも…立てる?」
「おうよ、それに鎧野郎と一生合体したままだと癪だから良い誤算だったな。」
「なんだと!私だって願い下げだ!ビーツ野郎!」
「んだと〜鎧やろう!」
2人が確かに1人のままだとそれぞれはでいやだったかもしれない。
だって2人ともかけがえのない2人だったから。
私はあははと笑いだした。
「さて、そろそろ最後ね…長かったわ。」
「そうだな、短いようで果てしなく長い旅だった。」
みんなでそれぞれの思い出に浸る。
なんて素敵な夢のような旅だったのだろう。
自殺を図ったときは…こんなに生きるなんて実感することはなかった。
それも、もう少しで終わってしまうのはどこか嬉しいようで、寂しいようだった。
でも…進まなきゃ行かない。
「いくわよ!みんな!」
「「「「おう!」」」」
私たちは門を勢いよく吹き飛ばし、最後の城へと進んだ。