ローズ〜情熱
ここは冬の国ノーザリス。
年中ほとんどが晴れることはなく雪が降る国である。
寒冷な国から取れる穀物からは上質で透き通ったウォッカが取れる。
この国の人々は寒さを踊りとウォッカであたため、美味しい乳製品を食べる国である。
私は先日ハーフデビルの踊り子であるティナとの演習試合に負け、何日かは療養をしていた。
そして、私は今日全快して再度ティナとの攻略の対策を練っていた。
「大丈夫〜?僕あの子ほどの動きは出来ないよ〜?」
練習相手はネヴァロスである。
異端賢者で魔力で体を強化していてスピードはかなり近いから練習相手にはもってこいの相手である。
「大丈夫!ちょっと色々試してみたいから全力でお願いします!」
「わかったよ……、加速とはいかないけど風魔法をつかって速く動くね。」
ネヴァロスは突如魔法を詠唱すると風をまとい動きが早くなる。
「いくよ。気をつけてね……。」
ネヴァロスは戦闘態勢になりこちらに突っ込んでくる。
私は時飛ばしを発動する。
ちなみに上からはヴァルトハルトが光の弾幕を撃ってくれている。
そう、彼女は私が1度攻撃をする前に2度手を打つことが出来る。速さと効率が良い動きをしてるのだ。
だからこそ、私はひとつの閃きにたどり着いた。
私を中心に広範囲に爆発魔法をしかける。
時は動き出す。
するとネヴァロスと弾幕を同時に無効化が出来た。
「うおっ!?びっくりした。」
そして私は弾幕を繰り出す。
ネヴァロスはそれを躱しながら回り込む。
ティナほどでは無いけど速い動きで再現をしている。
でも、これも予想の範囲内だ。
ティナの弱点は早く動いて動体視力に頼って躱しながら戦うスタイル。
でも、それが故に小さなことには気づかない。
後ろに回り込んだネヴァロスの足元が爆発をした。
そう、罠である。
ネヴァロスは傷を着いたが回復魔法を自動で発動しているため傷口はみるみる治っていった。
「まさか地雷とは考えたね……。でもダメージはチャチだけどこれでティナと戦えるのかい?」
「もちろん、彼女は速いし強いけど恐らく攻撃に当たると加速は止まるはずなのよ。すると次の動きまでは少しゆっくりになる……。でもまあこれでしょうさんが見えてきた。」
ネヴァロスはにっこりと笑っていた。
まるで私をゆっくりと見守るのような笑顔だった。
「それなら、明日もう一度戦うことが出来そうだね。
良い目だ。」
「いいのか?アイツは4人で戦ってもいいって言ってたんだ。俺たちの力を借りてもいいんだぞ。」
「なんというか……あの子は口ではああ言ってるけど一対一でやりたそうな感じがするの。踊ってる時もそうだった、何となくね。」
エレノアたちは心配するがここはみんなで戦うよりもわたしが戦うべきだ。
だって相手は本当は普通の女の子なんですもの。
ちなみに根拠はもう一個あったりする。
「それに……実はエレノアだけでティナを倒す事ができるでしょう?」
「……気づいてたのか。」
実はエレノアとティナは一見分が悪そうだが、エレノアはカウンターのスペシャリストだ。
相手の動きを見切って攻撃を仕掛けるのでタイミングさえあればティナを一刀両断出来たりする。
そんなのはフェアじゃない。
「じゃあ行くわよ、エイダの酒場に。」
私たちは決闘はと足を赴いた。
☆☆
舞台では相変わらず歓声が飛び交っている。
そう、エレノアは今日も踊っている。
時に激しく、時に艶めかしく、まるで1つの舞の中にたくさんの世界があるようであった。
「相変わらず美しい動きですね。ですが私には予測不能な動きでもあります。」
「まあね……あ、こっちみたわ。」
エレノアはスポットライトに当たりながら私たちの方向に歩いてくる。
「アイリス、待ってたわ!あなたなら来てくれるとは思っていたの!」
彼女はとても嬉しそうだった。まるで古来の友人と再会するような喜びようでこのあと決闘するとは思えないような純粋な表情だった。
「私もあなたに会いたかったわ、ティナ。」
「どうするの?このまま私と戦う?4人がかりでもいいわよ?」
「ううん、お気遣いありがと!でも前と同じで一対一で行こうと思うの。」
すると、彼女の眼光が一段と鋭くなる。
「いいの?言っとくけど時飛ばし程度じゃ私には勝てないわよ?」
「いいの、今夜はあなたと踊りたいわ。」
「アイリス……好きよ。あなたのその無謀さ!」
ティナは剣を構える。
これでも五大魔の1人なのだから油断はしては行けない。
「アイリス……好きな花はあるかしら?」
「うーん……、思いつかないかも。」
「私はバラが好きよ。真紅のバラがとっても好き、赤いバラの花言葉は情熱よ。まるで私みたいじゃない?」
「ええ、私もそう思うわ。あなたの踊りは情熱そのものですもの。」
私は彼女が敵ながら大好きなのだ。
それは彼女の美学や踊りに惚れてるところもあるのかもしれない。
私たちは距離を取り構える。
「おお!先日の舞の姉ちゃんか!」
「いいぞー!決闘の舞をまたみせてくれ!」
観客のボルテージが上がり出す。
火蓋は切って落とされた。
私は水弾を幾つもティナを目掛けて撃つ。
しかし、これを紙一重で避けて彼女は加速を始める。
「これまでよりも水弾の威力と数が増してるわね……、アイリスはどんどん成長をするからこそ面白いわ!」
彼女は突っ込んでくる。
ここで私は時飛ばしを発動する。
よし!ここまでは予想通りだ!彼女は早いけど動きに関してはパターンが決まった動きをしているんだ。
もちろん、前よりも全力なのでキスができちゃいそうな距離になっており、周りにはナイフの弾幕が上と後ろから狙っている。
でもここまでは想定内。
私は爆発魔法と周りに地雷になる魔力源を分からないように設置する。
そして時は動き出す。
私の周りは爆発し、ティナの攻撃を無効化した。
「な、範囲攻撃!?」
彼女はもう1つのユニークスキル、ワイルドセンスを発動する。
範囲攻撃に巻き込まれても、瞬間移動を何度も行い後ろにバックをしてダメージはなかった。
「考えたわね、手数では太刀打ちが出来ないから一度に片付けるとは……。」
「まだ!あなたには幾つも対策を練っているわ!」
また水弾を何度も撃ち込む。
当たらなくてもいい、牽制である。
彼女は避ける度に加速を始める。
彼女は加速をすると動体視力は落ちてくるので判断力も低下する。
そこが狙いである。
彼女はまた私の後ろに回り込んで剣の舞を仕掛ける……その時だった。
ボンッ!と回り込んだティナの足元を無情なほど地雷が爆発して彼女は初めて傷を負った。
「な、嘘でしょ!?加速が無効になるなんて??」
「いまだーーーーーーー!」
私は水魔法を最大放出し水のビームを打ち出してティナを目掛けたが、ここでもティナは予想外の動きをした。
「ぬ、こんなもの……当たらないわよ!」
ティナは剣で水のビームを突き刺しながらコマのように回転し、一気に距離を詰めて私を何度か切りつけた。
「きゃあああ!」
体にいくつも切り傷をつけられ、お互いに体はボロボロになっていく。
まさか、まだ奥の手をを隠してるなんて驚きだったな。
「よく頑張ったと褒めてやりたいわ。ここまで私が傷を負ったのはあなたが初めてよ。」
「……。」
「だんまり?アイリス……あなたのことは好きだったけど五大魔の役割を果たさなきゃ行けないの。悲しいわ、もっと私を楽しませて欲しかった。」
「ティナはもう、打つ手はないのかしら?」
彼女は少し拍子抜けな顔をする。
「ええ、もう打つ手なしよ。武士の情けとして一思いに終わらせてあげるわ。」
ティナは刀を十字に構えると、周りを包み込むオーラを構えた。
「それにしてもティナ……あなたはよく動いたわ。」
「それは私が舞いながら戦うんですもの。よく分かってるでしょう?」
「あなたはこの戦いに負けたわ。」
周りがざわつき出す。
この戦いはどうみても私の劣勢に違いないからだ。
私は傷だらけ……そしてティナはこれから強力な一撃をぶち込もうとしてる。
「な……なにをいってるの?私の斬撃を喰らいすぎて判断力が落ちてるわよ。」
「そう、その位置でその角度が良い。あなたがそこに行くのをずっと待っていた。」
すると、突如として魔法の縄が発動し、彼女の足元を縛り付けられてまるで罠にハマった鹿のようになっていた。
「な、罠!?いつの間にこんなに攻撃を!?」
「ティナ……あなたは集中力にかんしてはこれまであった誰よりも優れていたわ。でもそれが故に……私がこっそりバインド魔法を仕掛けたことに気づかなかったみたいね。」
「くっ!動けない……。」
「情熱的なリベンジ……さしてもらうわよ。」
「え、ちょっ……ちょっと……待ちなさい!」
私は腕にめいっぱいの力と魔法を込めて拳を握った。
ヴァルドリウスでさえも吹っ飛ばせそうなほどのオーラをまとい、周りをぐらつかせていた。
「終わりよ。」
私はティナの腹に拳を入れると凄まじい速度で後ろへと飛んでいき吹き飛んで行った。
彼女は壁に勢いよくぶつかると、白目を向いていた。
「……勝った。」
周りは驚愕し音楽は止まった。
「や……やったー!お前なら出来ると思ってたぜ!アイリス!」
「勝った!すごいですよ!」
「まあ、僕は勝てると思ってたけどね。」
私たち一行は1箇所に固まり喜びを分かちあっていた。
「……どうして、私の弱点に気づいたのよ。」
ティナはまだ辛うじて意識は残っていた。
戦意はなさそうだった。
「それは……ゴキブリのおかげかな?」
「ご……ゴキブリ!?」
「そう、彼らは動きがとても早くってねえ、でも足元に罠の粘着をつけたら簡単にやっつけることが出来るのよ。今回はそれを応用しただけ!」
「少し腑に落ちないけど……でも負けたわ。あなた本当にユニークね!わたしが見込んだだけはあるわ。」
私とティナは握手をする。
これじゃあ宿敵と言うよりも……ライバルだ。
「凄かったぞ!姉ちゃん!」
「まさか踊り子に勝つなんて想像だにしなかった!」
周りからも歓声が響き渡る。
この戦いをとても楽しんでくれてたみたいだ。
アイリスとの舞台はとても好きである。
こんなにも気持ちが高揚してるのだから。
しかし、そんな暖かい歓声が突如として青ざめた。
「はっはっは……素晴らしいショーだった。」
突如として舞台が禍々しい霧に包まれる。
その中から重々しく低い声が聞こえた。
「まさか……嘘でしょ。なんであなたが。」
ティナの顔は戦慄していた。
「悪魔の踊り子ティナを倒すとは……こいつは私の言うことと反する行動ばかり取るので手を焼いていた。
それに、まさか五大魔を倒す敵がまさかここに来てるとは誤算だった。」
影からは背丈が180cmほどの一般的な男性の身長を持つ肌の青い不気味な男がたっていた。
おでこには目がもうひとつあり、禍々しい武具に身を包んでいた。しかし、顔には見覚えがあった。
魔物には違いはないのだが、わたしはこの人物のことを嫌という程知っていた。
「え……まさかゴールドって……。」
「久しぶりだな、あーちゃん。まさかまたお前と会えて嬉しいよ。」
ゴールドの正体とは、私の異世界転生前に同居していたDV男である金澤が異世界転生をして魔物として生まれ変わった姿だったのだ。
相変わらずその目は不気味なほど真っ直ぐを見つめており笑顔には恐ろしささえあった。
「金澤〜!!!!!!!!」
私は血が登り時飛ばしをするとたくさんの魔法で先制攻撃を仕掛けた。
そのまま吹き飛ぶやつを浮遊して腹に何度も拳をぶつける。
殺す……絶対殺す。
私はやつに大切なものを奪われたんだ!時間も……金も、家族との信頼もだ!全て奪われたんだ!許さない……許さない。絶対に今殺さなければならない!
私は、血液が沸騰するんじゃないかと言うくらい頭に血が上って行った。
落ちてるナイフをひろって魔力をこめやつの心臓目掛ける。やつがどんな顔をしてるのかも分からないくらいに突っ込んで行った。
「やめとけ。」
しかし、剣が誰かの手を突き刺し、誰かに抱きしめられた。
恐る恐る顔を上げると、とても悲しそうな顔をしたエレノアだった。
剣は手を貫通し、エレノアの腹も刺していた。
「え……エレノア……、なんで?」
「お前さんのその憎しみに満ちた顔なんて見たくねえよ。それに……今突っ込んだら命を落とすのはお前だったぜ。」
すると、エレノアの背中から血が吹き出てしまった。
「エレノア!エレノアー!!いや、死んじゃダメ!」
私はエレノアを抱き抱えて騒いだ。
どうしよう……血が……血が止まらないよ!
私の攻撃とやつの攻撃を同時に受けたんだ……。
確かに私が受けたら縦に真っ二つになるところだった。
「相変わらず品のない女だ……虫唾が走る。」
やつはまるでさっきまでハエが飛び回っていたかのように鬱陶しそうに手を仰いだ。
「俺はお前が居なくなったあとにお前のお客さんのヤクザに詰められ、抗争をして命を落とした。
気がついたらこの世界にいたのだ。お前がいなければ私も時間を無駄にしなかし、死ぬ事もなかったのだ。
まあいい、お前の大切な仲間を殺すことが出来たのだ。ほら、土下座すれば許してやろう。」
金澤……もといゴールドはまた不気味ににやりと笑った。
私の顔は青ざめていた。
もう、戦う武器なんて残ってなかった。
そして、過去にやつに受けた暴力を体が覚えていて……震えが止まらない。
なんで……なんで。
「まあいい、ティナも貴様も終わらせてやろう。
ティナは元々別の魔物で暗殺する予定だったのだ。
この島が何故冬なのか……それは古に天候そのものを変える奴がいたからだ……。目覚めよ、伝説の魔物ファルムベルグ……貴様は新たな五大魔の1人となるのだ。」
ゴールドは力を込めると、ティナの誓いのタトゥーが消失し、自身の権能を魔物に与える。
「あーちゃん……もとい魔道士アイリスよ。私が手を下さずともフォルムベルグの手で海の藻屑にしてやる。」
「あ……ああ。」
「ははは、怯えた貴様など殺す価値もない。もう会うこともないだろう、さらばだ。」
ゴールドは霧と共に消えると大きな地震が島中を震撼させていた。
「ねえ、エレノア……エレノア。」
「大丈夫……。」
焦る私をネヴァロスとヴァルトハルトが制止した。
「ねえ、エレノアが死んじゃう……助けてよ。」
「彼はまだ行きはある。僕とヴァルトハルトで治療をする。」
2人はエレノアに回復魔法をかけると少しづつだが出血が治まっていく。
「だめだ……闇の魔力が邪魔をして回復を吸い上げてしまってる。僕らはしばらくここを動けない。」
「私は……どうすればいいの?」
「先程から近くに恐ろしい魔力が発現した。アイリスはその敵と戦って欲しい。」
ネヴァロスは冷静にそう告げた。
いつになく焦っている。
ヴァルトハルトも真剣に自体を受け止めていた。
「古の魔物なんて……みんななしでどうやって……。」
「私もやるわ。」
すると、後からまた別の声が聞こえてきた。
後ろには辛うじて立ち上がるティナがいた。
「ティナ……あんた大丈夫なの?五大魔なのに。」
「五大魔の契約が剥奪された。私は役割を果たす必要が無くなったの。それに街の人達に攻撃をするのなら話は別よ。アイリス……あなたに力を貸します。」
ネヴァロスもティナを信頼してるのか顔をにっこりとさせた。
「君なら、この件は片付けられそうだ。僕らのリーダーを頼みましたよ。」
「行きましょ、アイリス。」
ティナは真剣な表情で私を見つめた。
それはいつもの含みのある笑顔が今は真剣そのものだった。私は彼女を疑う理由がなかったので彼女と頷いてから外を出た。
☆☆
「ねえ……ティナ!どこに向かってるの!」
私は20分ほどティナと走った。
雪の中を3歩ほどティナは先に走って、私はついていった。
「ゴールドはファルムベルグと言っていた。」
「知ってるの!?」
「この地に伝わる伝説の魔狼よ!」
魔狼ってことは……狼?
「どこにいるの?」
「中央に……魔狼の石碑がある。この地の寒冷はファルムベルグがもたらしたって言われてるの!」
「え……やばいじゃない。」
想像するだけで恐ろしい能力の持ち主なのがわかる。
天候そのものを変えてしまうんですもの。
「それより……あんたゴールドと知り合いだったの?」
「昔ね……、もう会わないと思ったのに会ってしまった。」
「じゃあ、私とあなたはひとつ共通点ができたわね?」
「え?」
「ゴールドが……大っ嫌いだってこと!」
ティナはいつも通りの笑顔だった。
やっぱり私はティナのことが大好きだ。
この子と一緒だと……どんなことも乗越えて行けそうだった。
私は、異世界で初めて女の子の友達を持つことが出来た。
それも何よりも嬉しかった。
「絶対、倒してやるんだから!」
☆☆
私たちは石碑にたどり着くことが出来た。
石碑は少しずつ崩れていて青い腕が生えていた。
「あれが……ファルムベルグ。」
「私も初めて見たわ。」
地響きがすると……中からは20メートルほどの狼がいた。だめだ、先日ヴァルドリウスみたいな規格外なやつと戦ったから想定よりもこじんまりとしている。
迫力という面では拍子抜けそのものだったが、明らかに違うものがあった。
「目が……明らかに違う。」
そう、殺意の目ではあるものの強さが目に出ていた。
迫力がオーラとして私の肌をピリピリとさせていた。
こいつ……強い。
私は炎の魔法を撃つと、ファルムベルグは遠吠えをすると、私の炎ごと凍ってしまった。
「うそ、炎よ!?」
「どうやら天候そのものを帰るって言うのもホント見たいね。」
狼は飛びかかり、私に襲いかかった。
やばい……時飛ばしが咄嗟で発動できない。
「全く……困った子ね。」
ティナは突如敵を横切り、私を抱き抱えて助けてくれた。
嘘……この子イケメンだわ。
なんだろう、敵だとあんなに厄介だったのに今は頼もしい。
「ねえ、敵に集中しすぎよ。もう少し肩の力を抜きなさい。」
「ティナ……ありがとう。」
ティナも双剣を構えた。
私は深く深呼吸をして、ネヴァロスから教わった魔力の拳を構える。
「ねえ……どうするの?」
「作戦なんてないわ、踊りましょう。」
「え?踊る?」
何を言ってるのかちょっと分からないかも。
すると、狼が後ろから噛み付いてきた。
ティナはそれを受け流して、ファルムベルグを切りながら後ろに回り込んだ。
「こうやってリズムに乗るのよ。敵の動きも波のように流してこの時間を楽しむのよ。」
すごい、一気にこの空気を自分のものにしている。
これが天性の踊り子の力。
「あなたもやって見なさい。」
ファルムベルグは長く逞しいしっぽをなぎ払い、私にぶつけてくる。
私は先程のティナを真似してバレエの回転をして、敵の攻撃を流した。
すると……不思議と体は光出して体に力が入る。
私は流されるまま手に魔力を込めてファルムベルグの胸に撃ち込む。
「ぐおおおおおー!!」
「すごい、効いている!」
ファルムベルグは少しのけぞっていた。
炎の魔法を無力化するはずだったのに。
横を見るとティナが満足気な顔をしていた。
「最高ね、あなた。」
そう、無意識に魔力を高められた。
いつもは意識して時飛ばしをして交してたのに。
私は気がついたら便利な能力に頼りきっていた。
この能力すごいわ。
ティナはそこから目に止まらない速さでファルムベルグを何度も刻んだ。
あいては氷を放出をするが私は無意識に魔法を放出して無効化する。
乗れば乗るほど2人の息は合わさっていき、相手を圧倒していった。
すると、私は突如体が光り出した。
「これは……?」
「魔法と踊りの力を極めると……さらに上位の職業に就くといわれているわ。踊りを舞い天と地を操る巫女……天地雷鳴士とでも言うべきかしら。最上級職の能力よ。」
私はこれまでにないほどの魔力が込み上げてくる。
体もこんなに軽やかである。
もっと舞いたいわ。舞ったまま炎の呪文をやったらどうなんだろう。
私は、思いつきの行動をとって炎をイメージして舞った……すると、ボンッと激しい炎がファルムベルグの胸を貫通し炎柱が立ち込めた。
「普通の魔法じゃないみたいね……どうしてこんな力が。」
「舞いって、すごいのよ。力を与えて攻撃をするだけでなく、魔力を精霊から直接得るから破壊力も段違いにパワーアップさせるのよ。初めて見た時から才能はあると思ったけど……開花してよかったわ。」
そっか……ティナは私の力を目ざめる手伝いをしてくれてたのか。だから敵でありながら目覚めて欲しかった。
どこまでも素敵な子ね。
「ぐるうあああああ!」
おっと……ファルムベルグのことも忘れてたわ。
怒り狂っているようで氷をまとっている。
天気も荒れ始め、海も凍り出していた。
いよいよ本気か。
「そろそろ……終わらせるわよ。」
「ええ!息を合わせましょ!」
ティナは双剣を十字に構え、私はありったけの魔力を構えてファルムベルグに向けた。
2人で息を合わせる。
2人の集中がひとつになるのを感じる。
ファルムベルグは氷の矢を無数に撃つ。
こちらに直撃しそうである。
刹那、私は小さな太陽を相手の氷の無数の矢にぶつけると、氷はどんどんと溶けていきファルムベルグにぶつかった。
相手は立ち上がり太陽を押さえつける。
太陽と魔狼の激突が始まった。
ぐ……すごい力だ。
油断をすると押し返されそうだった。
さすが伝説の魔物……私たちの魔力は多少私は優勢でも体力では相手に分があるので長期戦に持ち込むと負けそうだった。
でも、今はひとりじゃない。
それが大きな勝因だった。
「アイリス……ありがとう。」
ティナが私に撃とうとした十字架が魔狼を切り裂いた。
ティナの斬撃と私の太陽が見事に魔狼を打ち破り、空の彼方へと消えてしまった。
☆☆
私たちは急いでエイダの酒場に戻ると
仲間たちはエレノアの治療をしていた。
「お待たせ。」
「アイリス……終わったみたいだね。」
「エレノアは?」
「まだ治療が終わってないよ。闇の魔力が邪魔してるみたい。」
私は目を閉じて舞を踊ると、眩い光がエレノアを包み込み、エレノアの傷口はみるみる消えていった。
「ん……あ。」
エレノアの目が覚める。
とても具合の悪そうな声だった。
「エレノア!良かった……。」
「アイリス……よかったよ。憎しみに染まるあんたを見るのは辛かった。でも、今の光で目が覚めたみたいだな。」
私は思いっきり彼を抱きしめた。
赤い髪が示すように彼の暖かく感じる
「バカ……ほんとバカ……。」
すると、エレノアは私の肩を掴んだ。
「え……エレノア……!?」
エレノアは真剣に私の顔を見つめていた。
どうしたんだろう、こんなに真剣な顔をして。
「アイリス……好きだ。俺がたとえどんな事があっても守ってやる。」
エレノアは私をとても愛おしそうに見つめて、私に接吻を交わした。
「「「「ええええええーーーーー!」」」」
わたしたちの周りの仲間のヴァルトハルトやネヴァロス、ティナは突然の出来事に気が動転し、驚愕の声を上げることになった。